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「なんてことをしてくれたんだ」松川議員の"子連れパリ視察炎上"にシングルマザーの怒りがおさまらないワケ

プレジデントオンライン / 2023年9月4日 13時15分

自民党の松川るい参議院議員がSNSに投稿した、7月下旬のフランス・パリ視察旅行の写真[松川氏のSNSより] - 写真=時事通信フォト

フランス・パリに視察旅行に行った自民党の松川るい参議院議員が、エッフェル塔前で撮影した記念写真をX(旧ツイッター)に投稿、「まるで観光旅行だ」と批判を受けて炎上。のちに、子どもを伴っての旅行だったことがわかり、さらに批判を集めた。武蔵大学社会学部教授の千田有紀さんは「シングルで子どもを育てており、さまざまな配慮をしながら『子連れ出張』をしてきた身からすると、『なんてことをしてくれたんだ』という案件だ」という――。

■相次ぐ自民党女性議員のSNS炎上

自民党の女性議員によるSNS投稿の炎上が、立て続けに起こっている。

8月12日には、自身が会長を務める「自民党少子化対策議連」が取り組んだ「ブライダル補助金」の功績を、X(旧ツイッター)で誇った森まさこ議員の投稿が炎上した。結婚式への憧れを促進することで少子化を解決するという言い訳は、さすがにもっと優先されるべき政策はあるだろうという「ツッコミ」を受けた。

さらにこの補助金は、ブライダル業界支援とインバウンド需要創出促進のためであり、少子化対策とは言えないことも判明。森議員が業界大手企業から献金を受けていたことも明らかになり、補助金と献金との関連を疑う献金問題“疑惑”にまで発展している。SNSでは、フランスのエッフェル塔前の記念写真のSNS投稿が炎上した松川るい参議院議員と並び「『エッフェル松川』『ブライダルまさこ』」とやゆされている。

■「なんてことをしてくれたんだ」案件

個人的に興味深かったのは、松川議員の炎上だ。

7月下旬に、松川議員が局長を務めていた自民党女性局の議員らがフランス・パリ視察旅行に行った際、同議員らがエッフェル塔の前でポーズをとって撮影した記念写真をXに投稿。「研修旅行と銘打っているが、観光旅行なのではないか。しかも松川議員のお子さんも連れて行っているなんて、遊び気分だといわれても仕方がない」と炎上した。

これを受けて松川議員は8月21日、党執行部に辞表を提出し、22日付けで女性局長を辞任した。

「働く母」からすれば、「なんてことをしてくれたんだ」という案件である。子連れの視察旅行を批判する声に対し、松川議員を擁護する声はほとんど聞かれない。

しかし夏休みという子どもの長期休暇に、たとえパートナーがいたとしても、小学生の子どもを家に置いて長期出張するのは、簡単なことではないだろう。

本来なら、1987年のアグネス・チャンの「子連れ出勤論争」が引き合いに出されてもよかった。当時、第1子を出産したアグネス・チャンが、子どもを連れて番組の収録や講演に来たことに対し「迷惑だ」「プロ意識に欠ける」などの批判が起こり大論争になった。当時に比べると子連れ出勤に対する理解はかなり広がってきたのに、浮かれたエッフェル写真が水を差した。

パリのサン・ジャック塔から見たエッフェル塔
パリのサン・ジャック塔から見たエッフェル塔(写真=Yann Caradec/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons)

■「調査旅行+子連れ=遊び気分」に歯ぎしり

シングルで子どもを育てている私は、ありとあらゆる出張に、子どもを連れて行った。こうした研究者の子連れ問題は、やっと理解が広がり始め、制度の整備も進んできたところだというのに、今回の松川議員の一件がきっかけで「調査旅行+子連れ=遊び気分」という定式ができてしまったらと考えると、個人的には歯ぎしりをする思いである。しかも松川議員は、パリでの公務中、同行した小学生の娘を大使館職員に預け、ベビーシッター役を務めさせていたという疑いも伝えられている。

出張など仕事に関係する場に子どもを連れて行ったときは、ほかの人の業務の邪魔にならないようにと大変に気を使う。それでも、特に子どもがごく小さい時には、迷惑をかけてしまうこともあって、申し訳ない思いをすることも多かった。

できるだけ自分の仕事が滞りなく進められるよう、かつ、周りに迷惑をかけないよう準備や工夫をしながら「子連れ出張」や「子連れ出勤」をしてきた身からすると、松川議員がもし本当に大使館員に子どもを預けていたのだとすると、もう少し公私の線引きをしっかり引いてくれていたらと思わずにはいられない。現地でベビーシッターに頼めなかったものなのかと思ってしまう。

くしくも8月25日には、イタリアのメローニ首相が、外国を訪問する際に、6歳の娘を連れて行くようにしていると語ったことが、肯定的に報道されたばかりである。「一方、日本では松川議員の“やらかし”のせいで……」と思うと怒りが湧く。

■「驚きもなく」受け止められた今井議員の炎上

今回のパリ視察旅行をめぐって痛手を負ったのは、今井絵理子議員も同様である。「旅費についても党の活動ですから党からの支出と、参加者の相応の自己負担によって賄われています」「先のベトナム訪問についていえば税金を原資としたお金は1円も支出していません」と強気の投稿をしたが、「政党助成金は、もとは税金なのに、仕組みを理解していないのではないか」と批判された。

2016年の参議院議員当選時、沖縄県出身でありながらテレビ番組で米軍基地問題について聞かれても答えなかったりと、政治や経済に対する関心や知識のなさを指摘されていたこともあり、「相変わらず政治のシステムをまったく理解していないのではないか」というイメージを強く植え付ける結果となってしまった。

しかし、元市議との不倫疑惑などもあり、これまで批判を受けることが何度もあった今井議員については、今回の発言もある意味「驚きもなく」受け止められているようである。過去、選挙中に憲法や政治について問われたのに対し「今は選挙中なのでごめんなさい」と発言した際の画像を貼られ、「まだパリ旅行が終わっていないのでごめんなさい」というフレーズが作られるなど、やゆの対象としてからかわれていた。

こうした今井議員に比べ、今まで大きなミスもなく議員生活を送ってきた元官僚の松川議員の傷は深い。本人も、こんなことでつまずくとは思っていなかっただろう。

バナナの皮を踏みそうになっているハイヒールの女性の足元
写真=iStock.com/YinYang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/YinYang

■「記念写真」から広がった批判

当初、松川議員への批判は、SNSにアップされたエッフェル塔前の記念写真に関するものだけだった。しかし、「真面目な研修なのに誤解を招いた」「費用は党費と各参加者の自腹で捻出した」といった長文の“言い訳”が、火消しどころか、さらなる炎上の“燃料投下”になった。「研修の時間は、実際には多くて6時間で、大半は遊びではないか」「参加費の自腹は30万円だけだが、ファーストクラスに乗れば300万円はかかるのでは?」など、話は記念写真への批判から大きく広がっている。

とはいえ、これが進退問題にまで発展するとは私も思わなかった。カラ出張でも目的外出張でもなく、いちおう研修の時間はとってあったのだから、岸田政権に与えたダメージは大きかったが、引責問題にまで広げる必要はなかっただろう。

たとえ、多少観光の側面が入っていたとしても、人々の生活を見ることは重要だと思う。それは、Zoomやネットの情報ではわからないものである。「急激に移民が増えた」「海外のインフレーションに比べてみると、あらためて日本でデフレが続いていたことがよくわかる」「最低賃金はどれくらい違うのだろうか」「異なる文化や歴史をもつ国の制度を、日本に導入しても大丈夫だろうか」といった感覚は、現地で実際に見聞きしなければ理解できないものでもあるからだ。

■必要だったのは日本でのフィールドワーク

むしろ松川議員たちに欠けていたのは、日本の生活のフィールドワークだったのではないだろうか。もし日本でのフィールドワークをしっかり行っていれば、税金を使って行った視察旅行中にエッフェル塔の前でポーズをとって記念写真を撮る議員に、どんな視線が集まるのか、多少は予想がついたのではないだろうか。

最後のバブル世代の私にとって、海外旅行は大学生が気軽に行けるレジャーだった。むしろ国内旅行のほうが高額だとすら思っていたほどだ。最初の旅行は7万円のアメリカ1週間の旅だった記憶がある。

10年前でも、まだ特に「海外旅行は高い」と思ったことはなかった。ところが今、先進国の物価は日本の2倍、もしくは3倍である。日本ではワンコインでランチが食べられるが、欧州やアメリカの都市では、ランチでも5000円かかるのは当たり前。飛行機のエコノミークラスでも40万円や50万円かかる時代に、海外旅行は大半の日本人にとって高根の花である。その証拠に、日本発の直行便であっても、日本人の姿は少ない。

海外の視察旅行は、日本社会の姿を浮き彫りにすることにこそ、使ってほしい。

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千田 有紀(せんだ・ゆき)
武蔵大学社会学部教授
1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。ヤフー個人

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(武蔵大学社会学部教授 千田 有紀)

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