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74歳までは「健康保険」を自分で選べる…お金のプロが「定年後はちょこっとサラリーマンがいい」という理由

プレジデントオンライン / 2023年9月5日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Edwin Tan

定年退職後のお金の不安を解消するにはどうすればいいか。ファイナンシャルプランナーの内藤眞弓さんは「重要なのは社会保険料の負担を減らすこと。その点で、私はギリギリ社会保険の加入対象となる『ちょこっとサラリーマン』という働き方をお勧めしている」という――。

■退職した人の公的医療保険の選択肢は3つ

定年退職を迎えると、「そのまま無職になる」か「働き続ける」かを選択することになります。このとき、考えなければいけないのが社会保険料の負担です。現役世代と比べると収入がガクンと下がるため、保険料の負担をいかに減らすかが家計にとって重要になってきます。

本稿では、定年後の「失敗しない健康保険選びと働き方」を解説したいと思います。まずは、健康保険選びについてです。

サラリーマンが退職して無職になったとき、あるいはパートやアルバイト、自営業者など、社会保険に加入しない働き方をすることになったとき、通常は国民健康保険の被保険者となります。しかし、一定条件を満たしていれば、退職前に加入していた健康保険の被保険者(任意継続被保険者)になるか、家族が加入する健康保険の被扶養者になるという選択肢があります。

つまり、退職後の公的医療保険の選択肢は「①任意継続被保険者になる」「②国民健康保険の被保険者になる」「③家族の健康保険の被扶養者となる」の3種類です。それぞれの加入条件等を見ていきます。

■現役時代とほぼ同じサービスを2年間受けられる

①の任意継続被保険者として加入できるのは最長2年で、加入条件は以下の通りです。

・資格喪失日の前日までに「継続して2カ月以上の被保険者期間」があること。
・資格喪失日から「20日以内」に申請すること。

退職前と同様、家族を被扶養者にすることができますし、在職時とほぼ同じ内容の給付、保健事業サービスが受けられます。たとえば、1カ月あたりの医療費の自己負担上限額が2~3万円程度に抑えられるなど、法定の高額療養費制度より有利になっていたり、健康診断を受けられるなどです。

在職時に労使折半だった保険料は全額自己負担となりますが、「退職時の標準報酬月額」と「当該保険者の全被保険者の平均標準報酬月額」とを比較し、低いほうの標準報酬月額に基づいて計算されるのが一般的です。たとえば、協会けんぽの平均標準報酬月額は30万円(2023年度)ですから、退職時の標準報酬月額が30万円を超えていたとしても30万円として保険料を計算します。

■高収入だった人は任意継続のほうが有利?

ただし、健康保険組合に加入している人は要注意です。2022年1月より、「退職時の標準報酬月額」に基づいて保険料を決めることが可能となりました。これまで「給与の高い人は国民健康保険より任意継続のほうが有利」と言われていましたが、必ずしもそうではなくなっています。すでに規約を変更したところも出てきていますので、健康保険組合に加入している人は必ず確認をしてください。

任意継続は最長2年間ですが、ごく稀に、74歳まで継続できる「特例退職被保険者制度」を持っている健康保険組合があります。特定健康保険組合といって、健康保険組合数1387(2021年度)のうち61組合(※1)程度で、大企業が中心となっています。特例退職被保険者になれるのは、「被保険者期間が20年以上ある」などの要件を満たす人です。健康保険組合に加入している人は、念のため確認をしてみてください。

※1:平成26年11月7日 第84回社会保障審議会医療保険部会資料1より

■扶養家族がいる場合、国民健康保険は負担増かも

②の国民健康保険に加入するには、退職日の翌日から14日以内に、住所がある市区町村の窓口で手続きを行います。保険料の計算方法は自治体により異なりますが、「医療分保険料」「支援金分保険料(※2)」「介護分保険料(40~64歳のみ)」を合算するのが一般的です。そのほか、世帯ごとに定額でかかる平等割や、固定資産の価値に応じて計算される資産割を導入している自治体もあります。

国民健康保険には「扶養」という概念がないので、収入のない専業主婦や子どもなど、無職の人も被保険者として保険料を負担しなくてはなりません。「医療分」「支援金分」「介護分(40~64歳のみ)」それぞれに、所得に応じて負担する所得割額と、被保険者一人ひとりが均等に負担する均等割額とがかかります。

そのため、扶養家族がいると健康保険の任意継続のほうが安くなる可能性が高いです。また、退職前に被扶養者だった配偶者が60歳未満の場合、国民年金保険料を支払わなくてはなりません(後述)。このような条件も加味して比較をしてください。

※2:後期高齢者医療制度を支援する財源の一部となるもの

■働いている家族の扶養に入るのがいちばんお得

3つの中で最もお得なのが、③の保険料負担ゼロで家族の被扶養者になることです。たとえば、協会けんぽでは、被扶養者となるための要件を以下のように定めています。収入には雇用保険から給付される失業給付も含みます。

【被保険者と同一世帯に属している場合】
年間収入が130万円未満(60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)、かつ、被保険者の年間収入の2分の1未満(※3)
【被保険者と同一世帯に属していない場合】
年間収入が130万円未満(60歳以上またはおおむね障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)、かつ、被保険者からの援助による収入額より少ない場合

※3:2分の1未満でなくても、被保険者の年間収入を上回らない場合は、生計状況によって被扶養者となれることがある

■自分で健康保険を選択できるのは74歳まで

退職後の健康保険について、3種類の選択肢をご紹介しましたが、「③家族の健康保険の被扶養者となる」は収入要件が厳しいので、実際には「①任意継続被保険者になる」か「②国民健康保険の被保険者になる」を、給付内容や保険料を比較して選ぶのが一般的です。

退職前の準備として、国民健康保険は自治体の窓口で計算してもらい、健康保険は保険者のHPで計算方法を確認するか、保険者に問い合わせてみてください。国民健康保険料をシミュレーションできるサイトもあります。

税金・社会保険教育『国民健康保険料シミュレーション』

前年の収入が多いとか扶養家族がいるといったケースでは、任意継続の保険料のほうが安くなったとしても、退職後の収入ダウンによって、2年目の保険料は国民健康保険のほうが安くなることもあります。任意継続の保険料は2年間変わりませんから、途中で脱退することも視野に入れ、保険料を再計算したうえで、あらためて比較検討してください。

電卓が付いた木製のブロック
写真=iStock.com/Seiya Tabuchi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Seiya Tabuchi

定年を迎えた人の多くは、健康保険から任意継続被保険者を経て(あるいは経ることなく)国民健康保険に加入し、いずれ後期高齢者医療制度に加入するという道筋を辿ります。働いていようがいまいが、雇用されていようが自営であろうが、家族の被扶養者になっていようが、75歳以降は全員が後期高齢者医療制度に加入しなくてはなりません。

言い換えれば、どの健康保険に加入するかを選択できるのは74歳までです。「選択できる」ことを最大限活かすという発想も大事です。

■「続けるか」「辞めるか」以外の第3の選択肢

ここまで、退職後は働かないことを前提に健康保険の選び方を考えてきました。しかし、もっと柔軟に、どういう働き方なら保険料の負担を減らせるかという視点で考えてみたいと思います。

すでに定年を迎えて再雇用で働いている人の多くは、定年前より収入が激減しますので、今後の生活設計に悩んでいます。たとえば、

「このままモチベーションを保って働き続けられるのか」
「あまり収入にはつながらないけれどボランティア活動に軸足を移したい」
「これまでのスキルを活かして起業をすることも視野に入れている」

など。

共通するのは、たとえ働き続けても収入が減るのは不満。とはいえ、安定収入を手放して、その後の暮らしは回っていくのかという不安です。

そこで提案したいのが、「辞めるか」「続けるか」ではなく、「ちょこっとサラリーマン」を軸にして、「ちょこっとボランティア」「ちょこっと起業」など、個人事業主としての「ちょこっとⅩ」を組み合わせることです。

仕事を続けるか退職するか選ぶビジネスマン
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■「ちょこっとサラリーマン」のススメ

「ちょこっとサラリーマン」とは、ギリギリ社会保険の加入対象となる働き方をすることです。一般的には、週の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が、常時雇用者の4分の3以上である人が対象ですが、短時間勤務のパートやアルバイトであっても、以下の要件に該当すれば、社会保険の加入対象となります。

1.週の所定労働時間が20時間以上
2.2カ月を超える雇用の見込みがある
3.賃金月額が8万8000円以上
4.学生ではない
5.従業員規模が101人以上の事業所に勤めている

5.については、2024年10月以降、「従業員規模51人以上」に拡大します。無理して長く働かなくても、社会保険に加入できる範囲はさらに広がります。

たとえば、60歳以降の給与収入を300万円とした場合、健康保険と厚生年金保険料の負担は合わせて約47万円です。仮に「ちょこっとサラリーマン」になって、給与収入が150万円になると、保険料は約23万円に減ります(※4)。そして、サラリーマン以外の時間を「ちょこっとⅩ」にあて、どんなに高額の事業所得を得られるようになっても、保険料は約23万円のままで増えることはありません。

※4 協会けんぽに加入として計算

■もし所得が増えても社会保険料負担は変わらない

もし、きっぱりと会社を辞めてⅩに専念した場合、事業所得150万円だと国民健康保険料は約19万円です(※5)。扶養配偶者が60歳未満の場合、1カ月あたり1万6520円(2023年度)の国民年金保険料支払いも発生します。年間19万8240円を上乗せすると約39万円となり、「ちょこっとサラリーマン」の約23万円と比べると、16万円も負担が増えてしまいます。

仮に、事業所得が300万円になった場合、国民健康保険料は約36万円(※5)、配偶者の国民年金保険料を合わせると約56万円もの負担になりますが、給与収入150万円の「ちょこっとサラリーマン」を続けていれば、社会保険料負担は約23万円のまま変わりません。

※5 被保険者2人として計算。自治体により異なる

■リスクヘッジの視点からも有効な働き方

このように、「ちょこっとサラリーマン」を続けることにより、半額を会社に負担してもらいながら、健康保険に加入し続けることができます。厚生年金にも加入していますので、将来の年金を増やすことにもつながります。

リスクヘッジという視点からも「ちょこっとサラリーマン」という考え方は有効です。希望に満ちてⅩの世界に踏み出したとしても、必ず思うような成果が上がるとは限りません。数年間の辛抱の時期を「ちょこっとサラリーマン」が下支えしてくれることにより、焦らず継続することができます。

残念ながらⅩが思い描いたものと違ったとき、潔く方向転換を図れるのも「ちょこっとサラリーマン」というポジションがあればこそです。

60歳以降の働き方は、さまざまな責任を背負って駆け抜けてきた現役時代より、もっと自由に柔軟に考える余白が生まれてくるのではないでしょうか。制度をうまく活用して、自分らしい働き方を創り出してください。

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内藤 眞弓(ないとう・まゆみ)
ファイナンシャルプランナー
1956年生まれ。博士(社会デザイン学)。大手生命保険会社勤務後、ファイナンシャルプランナー(FP)として独立。金融機関に属さない独立系FP会社「生活設計塾クルー」の創立メンバーで、現在は取締役として、一人ひとりの暮らしに根差したマネープラン、保障設計などの相談業務に携わる。『医療保険は入ってはいけない![新版]』(ダイヤモンド社)、『お金・仕事・家事の不安がなくなる共働き夫婦最強の教科書』(東洋経済新報社)など著書多数。

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(ファイナンシャルプランナー 内藤 眞弓)

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