なぜ「ポケットに手を入れたまま話を聞く」は感じが悪いのか…「手のひらを相手に見せる」が重要であるワケ
プレジデントオンライン / 2023年9月11日 10時15分
※本稿は、山本衣奈子『「気がきく人」と「気がきかない人」の習慣』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■「ポケットに手を入れたまま」が失礼になる心理学的理由
「握れば拳、開けば掌(てのひら)」
これは、“同じものでも、気持ちや心の持ちようによって変化する”という意味のことわざです。「手」であることは同じなのですが、それを握れば相手を傷つける拳にもなり、開けば優しく包む掌にもなります。
顔に表情があるように、手にも表情があります。
手話に代表されるように、手で言葉そのものを紡ぐこともできますし、ボディーランゲージの多くが手を使って行われています。私たちは多くのことを相手の表情から読み取っているため、顔が見えないと不安になります。
それと同じで、手も見えないと不安になるのです。ポケットに手を入れたままの人と話すと落ち着かないのも、これが原因です。
■オープンな印象を与えるには手のひらを相手に見せること
手そのものは見えていたとしても、それが強く握りしめられていると同じ感覚になります。握った手は攻撃を連想させることもあり、そんなつもりはなくても拒絶感や敵意として相手に伝わっていくことがあるのです。
気がきく人は、積極的に手を、もっと言えば手のひらを相手に見せるようにしています。広げた手から、嘘偽りのないオープンな印象を伝えることを大事にしています。
とはいえ、わざとらしく手のひらを向けて机の上に置いたり、顔の横に広げたりするのはかえって不自然で、見ている方も落ち着きません。
では、どうしたらいいのでしょうか。
何かを「する」ことは、逆のことを「やめる」ということでもあります。つまり、自然に手のひらを見せるには、まず手のひらが隠れる行動をやめればいいのです。
・腕組みをする
・手を組んで置く
・頬杖をつく
・口を手で覆う
・ものを指すときに、指でさす
こういった行為は、失礼な印象を与えるというだけではなく、すべて手のひらが隠れる避けた方がいい行動です。これらをしないだけでも、相手を不安にさせることが少なくなります。
■指で数えるときは、折りたたむのではなく広げる
その上で、手のひらをもっとうまく使うために、気がきく人がしているのは次のようなことです。
・相手に話を振るときや、相手のことを話すときには、手のひらを上に向けて差し出す
・ボディーランゲージには、拍手や手を合わせるポーズ、ハイタッチなど、手を広げて行う動作を多く取り入れる
・手で数字を数える際は、指を一本ずつ折りたたむ方ではなく、一本ずつ広げる方を使う
最後の数字の出し方は、プレゼンテーションや発表などの際にも使えます。
例えば「ポイントが5つあります。1つめは〜、2つめは〜」と言う際に、パーの状態にして親指から順に折っていくのではなく、グーの状態にして人差し指から順番に開いていくのです。話を追うごとに手がだんだん閉じていくより、だんだん開いていく方が、未来の可能性や広がりといった印象、そして手のひらからの安心感を伝えることができます。
「手の内を見せる」という言葉があるように、手には心が見えるものです。
手をうまく活用して、相手との間に信頼と安心の橋をかけていきましょう。
■真正面から向き合うと、相手を緊張させる
コミュニケーションの基本姿勢は「正対」です。つまり、「真正面で向き合う」ということです。
相手に対して正面を向けるということですが、これは顔だけのことを言っているのではありません。おヘソを相手に向けること、つまり、“体ごとしっかり相手に向けること”を指しています。
以前、マナー研修でこの話をしていたときに、受講生の一人がこう言いました。
「私は真正面から向き合われるのが苦手で、怖いと思ってしまいます。私のような人も多いと思います。本当にそれがいい姿勢なのでしょうか」
確かに「真正面」というのは、威圧的な印象を与える、緊張感を生みやすい位置です。これを「スティンザー効果」と呼ぶこともあります。アメリカの心理学者スティンザーが提唱したもので、相手との位置関係が生み出す心理状態を次のように表しています。
横=同感しやすい・味方になりやすい
斜め=リラックスしやすい・意見の衝突が起こりにくい
実際に、カウンセリングの場などでは、相手と真正面から向き合わないように席を配置していることが多いです。真正面から見られることが苦手な人は少なくないのです。
■重要なのは自分の正面を相手に向けること
ただ、コミュニケーションにおける「正対」とは、「真正面から向き合う」ではなく、「真正面で向き合う」ことを指します。
つまり、もっとも意識するのは“相手の正面”ではなく“自分の正面”ということです。
仮に相手がこちらを向いていなかったとしても、自分の心と体をしっかり相手の方に向けるということなのです。ですから、必ずしも正面同士で向き合っているとは限りません。
相手の正面にこだわると、「正対」ではなく「敵対」になることがあります。
映画などで、主人公が街中で敵などに絡まれるシーンで、絡んでくる相手が主人公を睨みながらわざと真正面に立ちはだかって難癖をつける、というのがありますよね。相手の真正面を取ることで、自分の存在感をアピールしているわけです。
■部下から慕われる上司がやっていること
職場に、対照的な2人の上司、AさんとBさんがいたことがあります。同じくらいのキャリアで同年代、仕事能力でもほぼ同じくらいだと評価されていたのですが、部下からの人気度と信頼度には明らかに大きな差がありました。
Aさんの元にはいつもたくさんの人が相談に来ていました。Aさんの机は、連休明けになると、色んな人が持ってくるお土産でいっぱいになっていました。
一方、Bさんの周りはいつも静かで、人が寄ってきているのをあまり見たことがありませんでした。
Bさんの口癖は「まずこっちを向けよ」でした。相手が資料に目を落としながら話していると、それを下から覗き込むようにして「誰に話してんの?」と言ってきます。その威圧感が怖くて、私も含め少し距離を置いている人がたくさんいました。
Aさんにはまったくそういうところがなく、どんな相手にでも、自分がその人の方を向くことをつねに意識している人でした。作業中でも、話しかけると必ず手を止めてこちらを向いてくれます。どんなときでも体と心で向き合うことを大事にして、“気にかけてくれている”ということが全身から伝わってくる、大きな安心感を持たせてくれる人でした。
「正対」を“真正面からきっちり向き合う”と考えると、窮屈な状態を作り出してしまいます。
どんな状況でも“自分の体と心の意識を相手に向ける”と捉え、相手と話すときはそんな「正対」を心がけるようにしましょう。
■聞いている姿勢を示さない相手には話しづらい
会話は話し手主導で進むと思われがちですが、話のリード権というのは、実は話し手よりも聞き手が持っているものです。
私が行っている研修で、これを体感していただくワークがあります。
二人一組になって、一人が話し手、もう一人が聞き手になります。話し手の人は何を話してもOKです。聞き手の人は余計なことを考えず、話を聞く意識だけ持ってもらいます。ただし、聞き手には石になってもらいます。話し手以外の場所一点を見つめまったく動かず、頷きや相槌も一切せずに話を聞いてもらうのです。
この状態で話し手に話し始めてもらうと、ほとんどのケースで3分もたたずに話し手のトーンがどんどん下がり、話すのを止めてしまう人も出てきます。後で感想を聞くと、「反応がないと話していて楽しくない」「本当に聞いてくれているのか不安になる」などの意見が多く出てきます。
■安心して話すために「頷きパーソン」を見つけておく
聞き手に聞いてみると、内容はしっかり理解しており、相手の話をきちんと聞いているのです。それでも話し手はとても話しづらさを感じているのです。
つまり、話を聞くにあたって、大事なのは「聞く意識を持つ」ことだけではないのです。意識だけをいくら向けてくれていても、それが見た目にわからないと不安になり、話しづらくなってしまいます。
聞く意識が見た目にわかるサインの代表的なものが、「頷き」と「相槌」です。
特に頷きは、それがあるかないかだけで、話し手の状態が大きく変わってきます。
講師業を始めたころ、聴講者の中に「頷きパーソン」を見つけておくことが大事だと教わりました。いい研修・講演をするためには、話しながら自分が不安になるのは大きなマイナスになります。会場をよく見ていれば、一人くらいは頷きながら聞いてくれている人がいるもの。そういう人を早めに見つけ出し、不安になったらその人を見るようにすると、安心し落ち着いて話し続けることができるのです。
■頷きも度が過ぎればマイナスの印象になってしまう
この頷きが話し手に与える影響力の強さを、気がきく人はよく理解しています。
ですから、自分が話を聞くときはいつもしっかり頷きながら聞いています。そこから生まれる安心感によって「あの人には話しやすい」と思われるようになり、相手から近づいてきてくれる関係性が生まれていきます。
ただし、頷きが大事といっても、ただ頷いていればいいというものではありません。
頷きも度が過ぎれば、「軽い」「適当にあしらっている」「聞いていない」といったマイナスの印象につながることがあります。
■「チャラチャラして落ち着きがない」新人がそう評された理由
ある企業で新人教育を担当していたときに、Yさんという方が入ってきました。Yさんは明るくハツラツとした雰囲気で、何かを伝えるといつも元気よく返事をしてくれる人でした。けれども、周囲からの評価は「落ち着きがない」「チャラチャラしている」というものが多く、特に上司からは厳しく言われることが少なくありませんでした。
一番の問題は、Yさんの聞き方にありました。特に気になったのは、こちらが話している間中、細かくずっと頷き続けているのです。
聞いているという姿勢はいいのですが、連続的な細かい頷きは、理解や共感というよりも、形としてとりあえずやっているように見えることもあるのです。Yさんにはまず頷きを必要最小限にする意識を持ってもらうことを伝え、徐々に改善していってもらいました。
■ポイントは頷きの深さの使い分け
いい頷きのポイントは、回数よりも深さです。気がきく人の頷きを見ていると、相槌としての頷きは浅く、理解と共感としての頷きは深く、と変えているのがわかります。
「、」のときには浅く、「。」のときには深く頷くイメージです。
さらに言うと、「あえて頷かない」ことも大事にしています。
例えば、相手が謙遜で言ったことに、深く頷いたら傷つけてしまうこともありますよね。相手の自虐や謙遜には首をそっと横に振ったり、困ったような笑顔を見せたりするといったことが、頷きに変えられる反応の1つです。
「聞くには頷かないと!」ということだけに捉われず、「聞く=相手に寄り添う」ということを大事にしていきましょう。
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産業カウンセラー、E-ComWorks代表
「伝わる伝え方」の研究を重ねながらサービス業、接客、受付、営業、クレーム応対等の業務にて30社以上に勤務。コミュニケーション術の講師として企業や官公庁を中心に、コミュニケーション研修、プレゼンテーション研修、セルフマネジメント研修、マナー研修等を実施。年間180回近い企業研修や講演を行う。
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(産業カウンセラー、E-ComWorks代表 山本 衣奈子)
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