本来つくはずのない臓器に脂肪がつく…心臓に寄生するように付着し命を縮める「エイリアン脂肪」の恐怖
プレジデントオンライン / 2023年9月16日 12時15分
※本稿は、池谷敏郎『完全版 最速で内臓脂肪を落とし、血管年齢が20歳若返る生き方』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■本来つくはずのない臓器に脂肪がつく
人間の「体脂肪」には皮下脂肪、内臓脂肪、異所性(いしょせい)脂肪の3種類があります。皮下脂肪、内臓脂肪はイメージできるとして、「異所性脂肪」はあまり耳馴染みがないかもしれません。これがどういう脂肪かご存じでしょうか。
これは、内臓脂肪や皮下脂肪として収まりきらずに行き場をなくした脂肪が、本来つくはずのない心臓や肝臓などの臓器や骨格筋などの筋肉に蓄積されてしまったものです。
異所性脂肪がまとわりついた臓器や筋肉では、さまざまなトラブルが起こります。
■「脂肪肝」は心筋梗塞の発症率が2倍
肝臓に蓄積された異所性脂肪が「脂肪肝」です。脂肪肝というと、いまだに「お酒の飲みすぎでなる」という印象が強いのですが、最近はアルコールが原因ではない脂肪肝(NAFLD:非アルコール性脂肪性肝疾患)が増えて問題になっています。
脂肪肝(NAFLD)が悪化して肝臓に慢性の炎症を引き起こすことを「NASH(非アルコール性脂肪肝炎)」といいます。
NAFLDの人は、動脈硬化や心筋梗塞などの発症率がそうでない人に比べて2倍以上高くなるというデータがあるほか、肝硬変、肝臓がんに移行するリスクが、アルコール性の脂肪肝以上に高いとも指摘されています。
また、異所性脂肪が肝臓や骨格筋に蓄積すると、インスリンの効きを悪くして2型糖尿病のリスクを高めるともいわれています。
■心臓に寄生する「エイリアン脂肪」
もう1つ怖いのが、心臓に付着した異所性脂肪です。知らず知らずのうちに、心臓の血管に悪影響を及ぼして、やがて心筋梗塞などの重大な病気を引き起こします。
心臓に付着した異所性脂肪は、心臓に血液を送る冠動脈などに細い血管を伸ばし、異所性脂肪を異物と見なした白血球の一種であるマクロファージが出す「毒素」を送り込んで血管に炎症を起こして、ひそかに動脈硬化を進めてしまうと考えられています。
異所性脂肪はひっそりと心臓に寄生するかのように付着し、命を奪っていくことから「エイリアン脂肪」という異名を持ちます。
内臓脂肪を落とすことで、この恐ろしい「エイリアン脂肪」の魔の手からも逃れることができます。
■血管若返りのカギを握る「一酸化窒素」
内臓脂肪を落とすには、食事の管理だけでなく、運動や体を動かすことが重要であることは、誰もがなんとなく実感しているところでしょう。同様に、血管若返りのためにも、体を動かすことが欠かせません。
血管の若返りに働くのが、血管内の「NO(一酸化窒素)」です。NOは血管の若さを保ち、衰えてきた機能を回復するためのさまざまな働きを担う、「血管若返り物質」といえるものです。
NOの具体的な働きは次のとおりです。
・血管をしなやかに保つ
・血圧を下げる
・傷ついた血管を修復する
ここから、NOが血管にとって、いかに重要な役割を果たしているかがおわかりいただけると思います。そして、「体を動かすこと」こそNO、つまりは「血管若返り物質」の分泌スイッチを押すことにつながるのです。
■カンタンな運動がきわめて重要なワケ
体を動かして筋肉が動くと、酸素や栄養がエネルギー源として消費されます。すると、体は不足するエネルギーを筋肉へ送るために心拍数を上げ、より多くの血液を送り出します。
このときに、筋肉から「ブラジキニン」という生理活性物質が放出され、その働きによって血管の内側の内皮細胞からNOが分泌されます。
内臓脂肪を落として血管のダメージを抑え、体を動かすことでNOをしっかりと分泌させることができれば、血管はいくつになっても、何歳からでも必ず若返ります。
体を動かすといっても、ハードな運動やトレーニングは必要ありません。
たとえば短時間正座をして、その後立ち上がるときのことを思い描いてみてください。このとき、いったん圧迫された血液の流れは、立ち上がることで再開しますが、その程度の刺激が、NOの分泌を促進するちょうどいい強度といわれます。
■筋肉を動かすと血流UP
また、筋肉を動かすこと自体が、ポンプのような働きをして体内の血流を高めます。
動いた筋肉に促されて動脈が広がり、手先・足先の末梢(まっしょう)の血液循環が改善され、静脈やリンパへの血流やリンパ液の流れも良くなります。
体を動かすことは、まさに一石二鳥、三鳥にも匹敵する効果が期待できるのです。
「血管若返り物質」を分泌するシステムを、自ら兼ね備えている私たちの体は、本当にすばらしい。それをどう生かすかは私たち次第。大事にしたいものです。
■「ときめき」で血管は若返る
さらにもう1つ、NOの分泌を高め、血管の若返りを助けてくれるものがあります。それは「心のときめき」です。
連載第1回「老け顔の人はなぜ老け顔なのか…自律神経の名医が指摘『老けた人の体内で老化が進んでいる臓器の名前』」で、「見た目」の若返りには心の持ちようが大切、という話をしました。実際に、「ドキドキして心がときめき、その後、ほっと心を落ち着ける」という、この一連の心の動きが、「血管の若返り」にはとても有効です。
ドキドキすると、自律神経の交感神経が優位になって血管が収縮し、ほっとすると副交感神経が優位になって血管が拡張します。
つまり、ドキドキは短時間の正座と同じ刺激、ほっとするのは立ち上がるのと同様の緩みとなって、NOの分泌スイッチが「オン」になるというわけです。
■筋肉をつけると健康寿命が延びる
年齢を重ねると筋肉量は徐々に減少していきますが、逆に筋肉量を維持できれば、さまざまなメリットがあります。
適度な筋肉量を維持していると、血管だけでなく、姿勢も保持しやすくなって、見た目の印象がぐっと若返ります。また、筋肉を動かすことで、摂りすぎた糖質や脂質を筋肉がエネルギーとして消費してくれるため、内臓脂肪として溜め込まれることなく、代謝も落ちないので、自然に太りにくい体ができていきます。
「疲れやすくなった」「最近、よくつまずく」「膝(ひざ)や腰が痛い」といった老化現象も、筋肉量が減って体力や運動能力が低下することで引き起こされているケースが少なくありません。首や肩が凝って頭痛が生じたり、胃が圧迫されて胃酸が食道へ逆流して胸やけの原因になることもあります。
ところが筋肉がつくだけで、これらの慢性的な不調も改善されることがあります。
■サルコペニアやフレイルの予防にも
意識して良い姿勢を保つだけでも筋肉は使われるので、緩やかな筋トレにもなります。
筋肉がしっかりつくと、体を動かすことが苦ではなくなるため、自然と早く歩いたり、さっさと階段を上ったりできるようになります。また、そうすることで筋肉がより鍛えられるという好循環が生まれます。
人生100年時代にあって、高齢者にとって大きな課題となるのが、「サルコペニア」と「フレイル」です。いずれも筋肉の衰えが大きく影響を及ぼします。
サルコペニアは「加齢による筋肉量の減少および筋力の低下」を指し、サルコペニアになると、歩く、立ち上がるなどの日常生活の基本的な動作に影響が生じ、介護が必要になったり、転倒しやすくなったりします。
一方のフレイルは「加齢によって心身が疲れやすく弱った状態」を指し、生活の質の低下や、さまざまな合併症を引き起こす危険性があります。そして、多くの方がフレイルを経て要介護状態へと進むと考えられています。また、サルコペニアはフレイルの原因のひとつとしても位置付けられています。
自立した生活が送れる期間を示す「健康寿命」を延ばすためにも、筋肉は重要だということです。
■たんぱく質をしっかり摂ろう
年齢とともに減少する筋肉量を維持するためには、NOの分泌量アップと同様に、体を動かすことと、食事でしっかりとたんぱく質を摂ることが大切です。
たんぱく質をしっかり摂ることで、私たちは姿勢を保って体を動かすことができますし、見た目も若々しい肌や髪を維持することができるのです。
最近、「たんぱく質が××グラム摂れる」などと謳(うた)った商品が増えているのも、たんぱく質の重要性がより明らかとなってきているからでしょう。しかも、たんぱく質は食べ溜めすることができないので、毎食食べること、とくに朝食で摂ることが大切です。
「内臓脂肪」を落としたい場合も、たんぱく質はしっかりと摂るようにしましょう。
たんぱく質が豊富に含まれる食品というと、肉や魚、卵、牛乳やヨーグルトなどの乳製品、大豆や納豆、豆腐などの大豆製品などが挙げられます。大豆の植物性たんぱく質は、動物性たんぱく質と同様に、良質のたんぱく質として知られています。
■「無理をしない」「我慢しない」で最も効果的な方法
肉類については、大量に摂ると同時に脂質の摂取量も増えてしまいがち。摂りすぎに注意することと、動物性に合わせて大豆の植物性のたんぱく質を摂ることで、たんぱく質吸収の持続性が高まるのでおすすめです。
とはいえ、具体的にどのようにたんぱく質を摂るのがよいかは迷うところでしょう。また、近年のコロナ禍(か)で、体を動かす機会が減り、運動不足が気になっている方も少なくないはずです。
『完全版 最速で内臓脂肪を落とし、血管年齢が20歳若返る生き方』では、「池谷式・血管若返り術」の実践編として、そんな新しい日常生活の中で、いかに筋肉を維持するか、そのために効果的な食事や体を動かすコツも紹介しています。
ポイントは、食事も運動も「無理をしない」「我慢しない」。同書を参考に、続けることを第一に考えて、今日から実践していきましょう。
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池谷医院院長、医学博士
1962年、東京都生まれ。東京医科大学医学部卒業後、同大学病院第二内科に入局。97年、医療法人社団池谷医院理事長兼院長に就任。専門は内科、循環器科。現在も臨床現場に立つ。生活習慣病、血管・心臓などの循環器系のエキスパートとしてメディアにも多数出演している。東京医科大学循環器内科客員講師、日本内科学会認定総合内科専門医、日本循環器学会循環器専門医。
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(池谷医院院長、医学博士 池谷 敏郎)
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