なぜビッグモーターはあっという間に業界1位になれたのか…同業者が驚いた保険会社との異常な関係
プレジデントオンライン / 2023年9月7日 6時15分
■ガリバーの急成長とはまったく違う
――帝国データバンクによると、ビッグモーターの2022年度の売上高は5800億円(2022年9月期推定)で、国内中古車販売業界でトップでした。なぜ短期間のうちに急成長を遂げられたのでしょうか。
【磯﨑孝会長[以下、磯﨑(孝)]】報道ではM&Aを重ねてきたことが急成長の理由とされていますが、それだけではないでしょう。例えば同社では新規に大型店舗を出店して、一気にその地域のトップに躍り出ることもある。これはどう考えても腑に落ちない。営業努力を重ねても、そう簡単にはいかないはずです。
――何かしらまっとうではないやり方をしていると?
![磯﨑孝『成長の原動力は会社を儲からないようにする』(プレジデント社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/5/1200wm/img_65e887bfd6b89d52607e55d97eddec44214752.jpg)
【磯﨑(孝)】そう勘繰りたくもなります。健全に業績を伸ばしつづけている会社なら、その成長の理由は傍目にもおのずと見えてくるものです。
例えば、中古車販売・買取店ガリバーを全国展開するIDOM。当初は買取専業で業界首位を独走してきた同社が、そのノウハウをうまく生かす形で小売に進出し実績を上げる道筋をつけたことは、とても納得のできることでした。
もっと言えば、躍進を続けている会社であれば、それを支えている経営者の顔、人となりが具体的に見えてくるものですが、ビッグモーターにはそれが感じられないのです。
■不正請求はやろうと思えばできる
――保険の不正請求は自動車販売店と保険会社の間で、構造的に起こりうるものなのでしょうか。
【磯﨑拓紀社長[以下、磯﨑(拓)]】そうですね。やりようによっては不正請求はいくらでもできてしまいますし、実のところ以前の方がもっとひどかったのではないかと感じています。かつては今ほど保険会社側のチェックも厳しくなく、アジャスター(保険鑑定人)がOKを出せば、すんなりと保険金が支払われていましたので。
要は、自動車販売店が損保会社をどのように位置づけるか、ということです。単なる下請けと捉えるのか、それともパートナーとしての関係を築くのか――。
当社もエンドユーザーから板金(修理)の仕事を請け負っていますが、そのうちの2割は損保会社からの紹介によるものです。ご紹介いただいたお客さまに理不尽な修理代金を要求したり、保険で違法な請求をしてそれが発覚したりすれば、損保会社側は大切なお客さまを紹介してくれなくなります。ですから当社としては損保会社をパートナーと見なして、いい関係を築くよう努めてきました。
■悪しきパートナーシップ
――ビッグモーターは、どんなパートナーシップを損保会社との間で築いてきたのでしょうか。
【磯﨑(拓)】報道の通り、損保会社が不正請求と知りながら保険金を支払ってきたのだとすれば、これは大変な問題です。
そもそも最近では、以前は支払われた保険金が下りなくなるなど全般に保険の査定が厳しくなっていますので、それに逆行するような査定がなされていたのなら、まさに悪しきパートナーシップだといえますね。
――損保会社からの出向社員が多くいたことも、不正を助長する要因になっていたのでしょうか。
【磯﨑(拓)】保険会社から社員が出向するのは珍しいことではなく、当社にも1名、出向社員がいます。出向は相手の会社との取引の規模や関係性の深さなどにより決まります。
販売店にとって出向社員を受け入れるメリットは、コンプライアンスが保たれるということです。保険だけでなく販売、修理、アフターフォローなど業務全般に会社として公正に取り組んでいるという証しになるのです。
こうした出向社員が逆に不正に関与している可能性があるとは思いもよりませんでしたし、あってはならないことです。
■あってはならない行為
【磯﨑(拓)】ビッグモーター問題では、本来、修理などする必要のない箇所も修理をして、保険金を騙し取るという手口が報道されていますね。
![メカニックガレージで車のエンジンに取り組む自動車整備士](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/c/1200wm/img_8c73c241945005d7cbbcd597614faa79674264.jpg)
当社では、保険で修理を請け負う際に、保険を適用する箇所以外のキズなどを一緒に直してほしいとお客さまから依頼されることがありますが、その際に追加修理する箇所にも保険を使うといったことはもちろんしません。むしろ、保険金が満額支払われる場合なら、保険適用外のキズ修復をする際には当社の利益を削る形で対応することが多いです。
――修理では、中古の部品を新品と偽って使用していることも問題になりました。
【磯﨑(拓)】あってはならないことですね。ただ、中古の部品でも新品と変わらないものもあり、中古品を使うこと自体が問題というわけではありません。以前と違い、保険を使うことで等級が下がり、保険料が上がってしまうこともあるため、保険で修理をするお客さまは全般に減ってきており、実費で修理するなら中古品を使ってもらいたいというお客さま側のニーズもあるのです。
【磯﨑(孝)】当社でも中古部品を「リサイクル部品」と断ったうえで使用しています。保険を使いたくないお客さまから「リサイクルないの?」に聞かれることもあります。
■離職率が高いのに業績が上がっていった
――ビッグモーターでは社員がなかなか定着せず、離職率は非常に高いといわれています。
【磯﨑(拓)】仕事がきついというのは以前から知られていました。結果として社員の出入りが激しくなりますが、逆に残っている人たちは実績を上げつづけてきた強者揃いだと聞いています。
聞いた話によると、営業社員だけでなくフロント業務に就いている社員も実によく働くそうです。ひたちなか市にある店舗でも、全国トップクラスの営業成績を上げている社員が何人かいるようです。
――どれだけの報酬を得ていたのでしょうか。
【磯﨑(拓)】歩合給を含めると、年収1000万円、2000万円クラスもざらにいるらしいですね。ただ、彼らは企業の従業員というより、「個人事業主」に近いようです。「とにかく働いて数字を上げられればいい」という感覚で、社内のチームワークはなきに等しいと聞いています。
――数字が上がれば、あとはどうでもいい?
【磯﨑(拓)】営業社員は売った後のアフターフォローも一切、行わないそうです。そこで販売後はフロントが対応することになりますが、彼らも車検を受注できれば実績になりますから、社内の連携が取れていなくても一生懸命にやるわけです。
数字を上げれば、それが即給与に反映されるのですから、他店の社員に比べ3倍、4倍の仕事をこなし、残業もいとわない。
当社の社員の多くが定時になるとさっと退社するのとは好対照ですね。しかし、それだけに歯止めが利かなくなり、不正行為にも傾きやすくなるのだと思います。
利益至上主義に陥らないためには、やはり経営者側がきちんとした理念を掲げ、コンプライアンス上問題のある行為に走らないよう、ブレーキをかけることが必要なのではないでしょうか。
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磯﨑自動車工業 会長
昭和22(1947)年11月25日、茨城県那珂郡(現・ひたちなか市)平磯町に生まれる。昭和47年10月、磯﨑自動車工業を創業。昭和49年9月、中古車販売業に進出。昭和50年4月、茨城県中古自動車販売協会(JU茨城)加盟。平成9(1997)年3月、指定自動車整備事業に指定され、民間車検工場の事業を開始。平成14(2002)年2月、スズキと正規ディーラー契約を結び、スズキアリーナひたちなか東店の業務を開始。平成29(2017)年11月、社長を退任し代表取締役会長に就任。茨城県中古自動車販売協会会長、茨城県中古自動車販売商工組合理事長、日本中古自動車販売商工組合 全国流通委員長、ひたちなか商工会議所副会頭などを歴任。令和5(2023)年、春の叙勲で旭日双光章受章。
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(磯﨑自動車工業 会長 磯﨑 孝)
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