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「髪が薄くなったから髪を食べよう」とは思わないのに…「膝の痛みにグルコサミン」は信じてしまう人が多いワケ

プレジデントオンライン / 2023年9月10日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dragana991

健康食品は本当に健康にいいのか。食文化研究家の畑中三応子さんは「健康食品の世界には疑似科学がはびこっている。『膝に効く』とされるグルコサミンも経口摂取ではなんの効果もない」という――。

※本稿は、畑中三応子『熱狂と欲望のヘルシーフード 「体にいいもの」にハマる日本人』(WEDGE)の一部を再編集したものです。

■「カラオケと柿の種はガンに効く」疑似科学と食品の結びつき

健康食品は、以前から疑似科学のパラダイスだった。1990年代からの健康ブームでますますエスカレートし、「カラオケと柿の種はガンに効く」(『週刊現代』1999年9月11日号)などという突飛な説まで登場するようになった。カラオケはナチュラルキラー細胞を25%活性化し、柿の種の着色料にはがん抑制効果があることを医学、薬学の専門家が説く特集記事である。

カラオケと柿の種が実はがんの特効薬だったという話は読んで楽しいし、実際にがんを治そうとしてカラオケに通いつめ、柿の種を食べまくる患者もいないだろうから、実害は少なかったろう。

この手の疑似科学を、あまりにもバカバカしいものとして多くの科学者は無視してきた。しかし、2000年代になるとテレビ番組で大きく取り上げられたり、大手メーカーの宣伝材料に使われたり、学校の授業に採用されたりと、社会に大きな影響を与えるようになってきた。インターネットの普及も、いかがわしい疑似科学が広がるのに大きく寄与している。そんな状況に科学者や科学ジャーナリストが、トンデモと笑っているだけではすまされない、もう見過ごせないと声を上げはじめた。

■小学校の道徳授業の教材になった「水からの伝言」の問題

トンデモの一例が「水からの伝言」。水に「ありがとう」などのよい言葉をかけたり音楽を聴かせたりすると、凍らせたとき美しい樹枝状結晶ができるのに対し、「ばかやろう」などの悪い言葉をかけた場合は結晶ができないというものだ。

水は無生物だから言葉や音楽に反応しないのは常識以前の常識で、荒唐無稽な疑似科学なのだが、なんと全国の小学校で道徳授業の教材に使われた。水は言葉の影響を受けることが実験で確かめられた→人体のほとんどは水でできている→言葉は体内の水に影響を与える→友人にはよい言葉を使いましょう、という筋書きだったという。理科の授業でなくても看過できないと、科学者がいっせいに批判した。

疑似科学によるニセ医学になると、被害はもっと深刻だ。もっとも危険なのが、がんは食事療法や放置療法で治るとするケースである。がんのように命に関わる病気ではないが、アトピー性皮膚炎の標準治療であるステロイド外用薬の使用をかたくなに忌避し、奇跡の効能をうたった高額のサプリメントやクリーム、ある種の水や入浴剤で治そうとして、逆にひどく悪化させた例も多い。ステロイドの危険性を煽って代替治療に勧誘する商法は「アトピービジネス」と呼ばれ、ニセ医療の典型のひとつである。

■グルコサミン商品が甲殻アレルギー症状を引き起こす

人気の高い健康食品では、ひざ関節の痛みをやわらげるとうたうグルコサミンとコンドロイチン、お肌が潤うとうたうコラーゲン、ダイエット・美容・健康に万能効果をうたう酵素は、すべて疑似科学とされる。

グルコサミンとコンドロイチンが人の軟骨に含まれているのは事実だが、外から摂取しても体内で分解されて、ひざ関節の成分になることはありえない。それ以前に、口から摂取しただけで体内での合成が変わるのなら、人の体は摂取したものがそのまま組織の一部になってしまう。多くのグルコサミン商品はエビとカニの殻が原料のため、甲殻類アレルギーの人が知らずに摂取し、逆に健康被害を起こすことも少なくない。

コラーゲンも同様だ。加齢とともに肌のコラーゲンが失われていくのは確かだが、コラーゲンをいくら食べても、肌のコラーゲンは増えない。髪の毛が薄くなったからといって、髪の毛を食べても効果がないのと同じ原理である。酵素も口から摂取すると消化されてアミノ酸に分解されて吸収され、体内で活性を保たないことは科学の常識だそうだ。コラーゲンたっぷりの料理を食べたあと、お肌がつるつるになったと感じるのは、錯覚というわけだ。ちょっと残念。

■戦前から存在する古典的なニセ医学も復権

最近はやりのものでは、水素水がある。タレントの藤原紀香が、結婚式の引き出物に水素生成器を配ったことでも有名になった。体を酸化させる活性酸素を除去して老化を防ぐ、ダイエットと美肌効果があるといわれるが、科学的根拠は実証されていない。毒にも薬にもならない、ただの水の可能性もあるが人気は堅調で、日本分子状水素普及促進協会が関連商品の認証も行っている。

水を飲む女性
写真=iStock.com/Yurii Yarema
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yurii Yarema

毒になりそうなのが、ひところ話題になった「血液クレンジング」である。静脈から血液を抜き、オゾンを混ぜて体内に戻すというもので、アトピー性皮膚炎からがんなどの難病まで、万病に効くとうたう。オゾンを混合すると、血液が鮮やかな赤色になって、血液がクレンジングされたように錯覚させるという。オゾンを使った療法は戦前から存在する古典的な疑似科学で、米FDA(アメリカ食品医薬品局)はオゾンの医療用使用を禁止しているそうだが、日本では自由診療として行われている。1回数万円と高額だ。

■「グルテンフリーが健康によい」と実証したデータはない

アメリカで大ブームになり、日本でも実践者が増えつつある「グルテンフリー」はどうだろう。小麦グルテンは日本では麩の原料になりマクロビオティックではグルテンミートを植物性のたんぱく源として利用する。そのグルテンが、突如として体と頭のあらゆる不調を招く元凶になってしまった。世界のグルテンフリー市場は拡大の一途で、2024年には約100億米ドルに達する見込みだそうだ。

ところが、腸の免疫疾患であるセリアック病患者と小麦アレルギーを持つ人、グルテン過敏症の人以外に、グルテンフリーが健康に好影響があると実証されたデータはない。むしろ、むやみにグルテンフリーを行うと小麦に含まれるビタミンB群や鉄などのミネラル類、食物繊維が不足する恐れがある。

米が主食の日本ではアメリカのような爆発的な流行はないだろうし、このブームに乗って米粉消費を促進しようとする動きがあり、日本の食料自給率向上にとっては好都合だが、あらゆる人に対して「グルテンフリーは体によい」が疑似科学なのは確かなようだ。

■なぜ人はあやしげな理論にたやすくだまされてしまうのか

健康食品や代替医療を試す前に、それが疑似科学かどうかファクトチェックするのには、明治大学科学コミュニケーション研究所が運営する「疑似科学を科学的に考えるサイトGijika.com」が役に立つ。

畑中三応子『熱狂と欲望のヘルシーフード 「体にいいもの」にハマる日本人』(WEDGE)
畑中三応子『熱狂と欲望のヘルシーフード 「体にいいもの」にハマる日本人』(WEDGE)

「疑似科学的と思われる主張」の科学性の度合いの評価を通して、ちまたに溢れるフェイクを的確に見抜く科学リテラシーが身につくように構成されている。記述があまりにも素っ気ない国立健康・栄養研究所の「『健康食品』の安全性・有効性情報」より読み物としてもおもしろい。

それにしても、人はどうして疑似科学に惹きつけられてしまうのか。科学リテラシー、認知科学などを専門に研究する明治大学科学コミュニケーション学部教授の石川幹人は、人々があやしげな理論に簡単にだまされる理由を進化心理学からこう説明している。

まず前提として、人類は進化の過程で同じ共同体の人間がいうことを疑わず、信じたほうが生存戦略として有利だったことから本来、身近な人を信じやすい生き物。だから科学的な根拠よりも「○○さんが使っている」のほうを信用してしまう。健康食品の広告に利用者の声が載せられるのはそのためだ。

■自分の信じていることを裏付ける証拠に目が向く「確証バイアス」

また、人間は自分の信じていることと矛盾する証拠を無視したり、批判的な声や事実に耳を傾けないだけでなく、自分の信じていることを裏付ける事例や証拠にばかり目を向け、認知する傾向がある。逆に、自分にとって都合の悪いことは忘れてしまう。これを「確証バイアス」といい、疑似科学が社会に広がる要因になっている。

理科教育の影響も大きいそうだ。日本の理科の授業は、仮説を立てて実験することより、結果を学ぶことに重点が置かれてきた。そのため多くの人が「科学は正しい」と思い込んでいる。とくに物事を疑うことに慣れていない、いわゆる学歴エリートの人ほど疑似科学をうのみにしがちだという。

■「天然」「抗酸化作用」「免疫力」…要注意のキーワード

『ニセ科学を見抜くセンス』(新日本出版社)、『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)などの著書がある理科教育の専門家、左巻健男によると、ニセ医学はアトピーが治る、がんにならないなど病気の不安心理につけ込み、疑似科学の衣で科学っぽい雰囲気を出し、体験談や仮説的な説明で根拠があるように装う。メディアを通して広まるあやしい健康情報は、シンプルで直観的で分かりやすく、いったんあるニセ医学がよいと思うと、あとは確証バイアスが働いてますますはまっていく。陰謀論にはまるのと同じようなプロセスだ。

疑似科学、ニセ医学でだまそうという商品には、説明にいくつかのキーワードが見られるという。「波動」「共鳴」「抗酸化作用」「クラスター」「エネルギー」「活性」「免疫力」「即効性」「万能」「天然」などだ。これらの言葉があったら、あやしい可能性が高い。

どれもあるあるで、思わず納得してしまった。同じ言葉が科学にあっても、疑似科学では意味が変えられたりしているそうだ。気をつけよう。

■「ダイエットを期待させる商品には注意」食品安全委員会のメッセージ

食品安全委員会は2015年12月に、健康食品について19のメッセージを国民に向けて発表した。

【図表1】健康食品についてのメッセージ
『熱狂と欲望のヘルシーフード 「体にいいもの」にハマる日本人』(WEDGE)より

読み終わったら、健康食品がみな体に悪そうに感じてきた。少なくとも疑似科学をこれ以上はびこらせないためには、機能性と安全性に信頼のおける商品を選ぶようにしたい。人の評判だけで売っている「いわゆる健康食品」は避け、最低でも科学的データのある機能性表示食品を買うのはひとつの手だ。

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畑中 三応子(はたなか・みおこ)
食文化研究家・編集者
編集プロダクション「オフィスSNOW」代表。『シェフ・シリーズ』『暮しの設計』(ともに中央公論社)の元編集長。料理本を幅広く手がけ、流行食関連の研究や執筆を行う。第3回「食生活ジャーナリスト大賞」「ジャーナリズム」部門の大賞を受賞。著書に『ファッションフード、あります。 はやりの食べ物クロニクル』(紀伊國屋書店、ちくま文庫)、『カリスマフード 肉・乳・米と日本人』『〈メイド・イン・ジャパン〉の食文化史』(ともに春秋社)など。

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(食文化研究家・編集者 畑中 三応子)

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