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台湾で「日本発のモス」を知らない人はいない…「焼肉ライスバーガー」が台湾人の国民食になったワケ

プレジデントオンライン / 2023年9月9日 12時15分

台湾にあるモスバーガー新生店(第1号店) - 写真提供=モスフードサービス

モスバーガーが台湾の店舗数を増やしている。ファストフード業界としての参入は後発だったが、ケンタッキーを抜き、マクドナルドに次ぐ2位となる305店舗を展開している。なぜモスは台湾で人気になったのか。ライターの三浦愛美さんがリポートする――。

■テリヤキ、とんかつと並んで日本食の代表に

日本にインバウンド客が戻ってきた今年の夏は、どこへ出かけても外国人客でごった返している。数年ぶりの日本食に外国人が歓喜する中、台湾から訪れた人々が帰国後に漏らす感想に、「モスバーガーを全然見かけなかった」というものがあるという。

現在、日本国内で1292店舗あるモスバーガーは、アジアを中心に海外でも458店舗を展開している。その中でダントツ多いのが台湾の305店舗だ(シンガポール・香港はそれぞれ47店舗、タイ28店舗、韓国15店舗、中国6店舗)。台湾では「摩斯漢堡」と呼ばれ、ファストフード業界でマクドナルドに次ぐ2位につけている。

日本の九州より小さな面積に、2300万人程度が暮らす台湾。そこに305店舗のモスバーガーとくれば、日本で暮らしているよりはるかに遭遇率は高い。かつ立地も空港内や駅構内など、高集客立地に出店しているため、必然的に台湾人のモス認知率は高くなる。

「いまや台湾では、〈テリヤキ〉〈とんかつ〉と並び〈モスのライスバーガー〉が日本食の一端として人々に認知されています」「タクシーに乗ってもどこどこのモスへ、と告げれば誰でもわかる」と語るのは、長年台湾でモスバーガーの快進撃を見守り続けてきたモスフードサービス国際本部の福光昭夫氏だ。

■後発ながらどうやって店舗数を伸ばしたのか

台湾でモスバーガー(台湾名:摩斯漢堡)を展開する「安心食品服務(股)」は、1990年に日本のモスフードサービスと、台湾の大手電機メーカーである東元電機グループの合弁会社として設立された。その「安心食品服務(股)」で、福光昭夫氏は、当時、海外事業部長として台湾に赴任していた櫻田厚前会長の指揮の下、長年商品開発や店舗開発に関わってきた。

「実は当初、モス創業者の故・櫻田慧は、アジアでの出店は計画しておらず、ハンバーガーの本場、アメリカでの出店を夢見ていたんです。ところが85年に、若き経営者たちが集う会議『ヤング・エグゼクティブ・オーガニゼーション』が台湾で開催された際、東元電機の社長、黄茂雄氏と出会い、意気投合。黄氏から『ぜひ台湾でモスバーガーを出店したい』と猛アプローチを受けて、91年に第1号を出店した背景があります」

黄氏は日本で慶應義塾大学を卒業している親日家だ。「パートナーは信頼に足る人物を」と意識していた櫻田氏の、信頼も厚かった。

当時、すでに台湾にはマクドナルド(現在約400店舗)やケンタッキーフライドチキン(同約150店舗)など、他のファストフード店も出店を始めていた。後発組としてのモスが、ケンタッキーの2倍の店舗数にまで伸ばしていった秘訣(ひけつ)はどこにあるのだろう。

福光氏は3つのポイントを指摘する。「味覚の現地化」「朝・昼・晩の3食モスバーガー」、そして「物販商品の注力」だ。

■「日本の味」を持ち込んだら、まったく売れなかった

「創業以来、モスバーガーは、『高品質』と『おいしさ』にこだわりを持ってきました。90年代には、日本でマクドナルドをはじめとするファストフード店の低価格競争も起きましたが、モスバーガーは独自路線を貫き、その競争にも加わりませんでした」

オーダーを受けてから調理する「アフターオーダー式」、朝採れ野菜をふんだんに使ったメニュー開発、肉が苦手な方向けに大豆が主原料のソイパティ開発など、コストや労力はかかっても、一貫して高品質なおいしさにこだわってきた自負がある。

「しかし、台湾に進出した当初はこれが裏目に出ました。『日本の味をそのままで』というコンセプトを掲げて日本と同じ商品、お店づくりをしたのですが、建築費や包装資材、食材ともにコストがかかってしまいました。結果として他社より高い値段になり、まったく売れなかったのです」

また、90年代の日本と台湾では、賃金格差も大きく、衛生上の問題から生野菜を食べる習慣がほとんどなかったことなども影響した。テリヤキバーガーのタレに使う味噌の味も受け入れてもらえず、日本のメニューをそのまま売っていくのは難しいという判断に至ったのだという。

その代わりに投入したのが、日本で1987年から発売しているライスバーガーだった。

■バーガー類の半分以上は「ライスバーガー」に

台湾は1895年から1945年まで約半世紀、日本統治を経験しており、高齢者には日本語を話す人もいる。日本と同じ米食文化の土台の上に、醤油など日本の味付けにも親しんでいる。

ただ、同じ「焼肉ライスバーガー」でも、今度は味を台湾人に合うように工夫した。

「日本のモス関係者が台湾店で焼肉ライスバーガーを試食すると、いつも『タレを忘れているよ』と指摘してくるんです。台湾人は濃すぎる味を嫌い、薄味を好みます。そこは、『日本のモスのほうがおいしいよ』と押し付けることはできないんです」

ライスバーガーは口コミを通してたちまち人気を呼んだ。それも「ハンバーガー店」としてではなく、「焼肉バーガーを出す店」という触れ込みで噂が広まったのだ。

ライスバーガーは、今やバーガー類の売り上げの半分以上を占めるようになった。「台湾の人々の間では、『モスと言えばライスバーガー』という認識が定着していったのです」(福光氏)。

日本のモスバーガーでも、常時2、3種類のライスバーガーメニューを展開しているが、台湾ではさらに多く、常に6~10種類は用意されている。

モスバーガー(台湾名:摩斯漢堡)のメニュー。ライスバーガーのラインナップは日本よりも豊富だ(摩斯漢堡公式サイトより)
モスバーガー(台湾名:摩斯漢堡)のメニュー。ライスバーガーのラインナップは日本よりも豊富だ(摩斯漢堡公式サイトより)

「海鮮かき揚げ」や「きんぴら」「生姜焼き」「焼肉」「エビ」などは塩味や酸味を日本のものより減らし、子どもから高齢者まで食べられるように作っているという。よそ行きの味ではなく、あくまで日常食として、台湾人の味覚に“刺さった”というべきか。

■日本にはない「朝食」需要を掴んだ

モス快進撃の2番目の理由が「日常食としてのモス」の立場確立だ。日本のモスバーガーは、ここ20年間ほど店舗数は微減傾向にある(2000年1543店舗→2023年1292店舗)が、台湾モスバーガーは右肩上がり。2000年は40店舗だったのが、23年には305店舗と7.5倍に増えている。

その要因は、日本にはない「3食モス」を実現する食環境にある。

台湾(をはじめとする東南アジア圏)は、基本的に「朝・昼・晩、すべて外食」である。働く女性も多く、一家の専業主婦が弁当を含め3食自炊する日本のような文化は、かの地にはない。街にはファストフード以外にも、多種多様な飲食店やフードコート、屋台店が充実している。台湾人はそれらをフル活用して、3食を充実させているのだ。

「台湾モスでは、朝食が最初の売り上げピークです。自分の行動を振り返ってみても、朝食のルーティンってだいたい決まってきますよね。家で食べるメニューも、出勤途中で調達するモーニングも、だいたいパターンが決まってくる。ということは、『朝食はモスで食べる』人を増やせれば、日販もかなり変わってくるということです」

■玉子サンドやベーコンエッグ、サンドイッチも

その言葉通り、台湾モスでは「朝食メニューが」が充実している。日本では約1292店舗中、朝食特化メニューを提供しているのは500店舗ほどだが、台湾ではほぼすべての店舗で、朝食メニューを展開しているのだ。

西門成都店の外観
西門成都店の外観(写真提供=モスフードサービス)

「台湾では、『朝に玉子を好んで食べる』という食習慣があり、朝食メニューでは玉子を使用した商品が売れ筋です。玉子サンドやベーコンエッグなど。さすがに「アフターオーダー式」では、忙しい朝に対応できないので、サンドイッチなど作り置きも陳列しています。

正直、朝食は単価としては高くはありません。それでも一日を通した売り上げ全体の約3割を朝食が占めているから、バカにできません」

もう一つ、台湾モスが売り上げを伸ばしている要因に、「物販商品の充実&売り上げ」がある。

「クリスマス以外にも、台湾の人々は旧正月や中秋節、端午節や国慶節など、季節の行事を大切にします。しかも、その都度親しい人や親戚にギフトを贈る習慣があるんです。そこを商機と捉える私たちにとっても、知恵の絞りどころです。

端午の節句には、ちまきのような形状のデザートを考えたり、日持ちする商品を1000円程度のプチギフトとして用意したり。さらに台湾モスでは、現地の特産品のeコマースサービスも行っています。産地特産品のマンゴーやライチなどを、モス店舗で予約していただき、私たちがお届けする仕組みです」

■「イートイン」があるコンビニが新たなライバル

「目指すのは、『地域に根差した、人々に愛される飲食店』です。そのためには、『待ちの営業』ではなく、『売り上げを自ら取りに行く営業』を心掛けています。その意味ではライバルは他のファストフード店ではなく、地元の個人飲食店であり、あるいは1万店を超すコンビニエンスストアだともいえるでしょう」

台湾は日本以上のコンビニ天国ともいえる。現在、台湾セブン‐イレブンは6379店舗(2021年12月時点)、ファミリーマートは4000店舗(2022年2月時点)ある。「全体として1万店を超える規模になってくると、100メートル歩けばコンビニに出会うようになります」(福光氏)。その多くは充実したイートインスぺースを持ち、飲料、菓子、食事などラインナップを充実させている。

「小腹がすいたら『ファストフードに行こう』ではなく、『コンビニで食べよう』という新たな選択肢になってきています。しかも涼しい店内で、その場で温めた食事をとれるとなれば、これは強力なライバルですよね」

■日本流の接客を台湾でも

現状、景気の良い話が続く台湾モスバーガーだが、人件費やエネルギー価格の高騰、人手不足など、ビジネスを取り巻く課題は日本と同じである。特に人材の流動性が日本より高い台湾では、優秀なスタッフは、自らのステップアップを目指し数年で退職することも多い。

「日本のモスバーガーは約8割がフランチャイズ店で、オーナーさんも数十年単位でモスに関わってくださいます。しかし、台湾は基本的にすべて直営店です。だからこそ人材育成には力を入れ、出店攻勢と同時に、大規模な研修センターで、製造・接客・仕込み・サービス・企業理念まで、細かい教育指導を行ってきました。

その甲斐あり、優秀な人材が育ちますが、残念ながら離職率・転職率が非常に高い国です。これはファストフード業界に限った話ではありませんが、意欲ある若者たちは、転職していくことでスキルアップを実現していきます。その分、他からも優秀な人材が転職してきますが、だからこそ常に選ばれ続ける職場である必要も」

日本の飲食・小売業でも、少子高齢化や人口減少で、働き手も消費者も先細りしている。台湾モスの「攻めの営業」「地域に根差した存在」のキーワードは、一つの思考のカギとなるかもしれない。

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三浦 愛美(みうら・まなみ)
フリーランスライター
1977年、埼玉県生まれ。武蔵大学大学院人文科学研究科欧米文化専攻修士課程修了。構成を手がけた本に『まっくらな中での対話』(茂木健一郎ほか著)などがある。

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(フリーランスライター 三浦 愛美)

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