歩きスマホだけが原因ではない…無敗の勝負師が指摘「街中で通行人にぶつかっていく人が増えた」本当の理由
プレジデントオンライン / 2023年9月18日 12時15分
※本稿は、桜井章一『雀鬼語録 桜井章一名言集』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■「歩きスマホ」だけが原因ではない
街を歩いていると、ぶつかりそうな勢いでやって来る人がやたら増えたように感じる。
歩きスマホをしているせいだけではない。動きそのものが硬いのだ。硬いからロボットのような直線的な動きになって、人混みのなかで咄嗟(とっさ)の柔軟な対応ができないのである。
地球上の生き物で不自然なほど硬いのは、人間だけだろう。最近の人の体がどんどん硬くなっているのは、それだけ自然から離れている証拠ともいえる。
■生まれたときはすべての人が「柔らかい」
街中で平気でぶつかってくるような人でも、生まれたときはこのうえなくふわふわして柔らかかったはずだ。硬い体で生まれてくる赤ん坊などどこにもいない。
人は柔らかい状態で生まれてくるのだが、その柔らかさは徐々に失われていく。年を取るとともに硬くなって、老年期になればこちこちな体になってしまう。そして、最後はすっかり硬くなって死んでいくわけだ。
赤ん坊は生まれてから数年の間に目を見張るような変化を見せる。ハイハイしていたのが、そのうち立ち上がってヨチヨチ歩きを始め、話せなかった言葉を話せるようになっていく。つまり、柔らかさというのは、それだけ変化できる可能性をたくさん孕(はら)んでいるということである。
人は体だけでなく、頭も固定観念をたくさん増やして硬くなっていく。生きることは変化することである。その変化する可能性が小さくならないためには、体も頭も常に柔らかくしておかないとダメなのだ。
■ひたすら「足す」生き方にはゴールがない
人の悩みの多くは、「何かが足りない」という思いから来ている。お金が足りない。仕事が足りない。健康が足りない。評価が足りない。愛が足りない……。
欲望というのは際限がないから、傍(はた)から見て「もう十分じゃないか」と思うような人でも、本人は「まだ足りない」という不満を感じている。
昨今はネット上で、これみよがしに「お金も美しさも名声もこんなに恵まれているんですよ」というアピールをたくさんの人がこぞってしている。だからなおさら、人と比べて足りないものを強く感じたりするのだろう。
だが、足すことを目標にした生き方は、はっきりいって不幸である。足すことにはゴールがないゆえ、常に心が満たされることがないからである。
■もう、足りている
さらに問題なのは、すでに自分の手のなかにあるものに心を向けることもなくなってしまうことである。
たとえば、「6」足りていて「4」足りないとしよう。そのとき「6」の部分の有難さは十分に自覚されないから生かされていない。「6」の部分は、まったくもって「もったいない状態」にあるのだ。だが、「6」の部分の価値に気づき、それをフルに生かすことができれば、今の状態でもすでに十分間に合っていることがわかってくるだろう。
人と比べない。そして今すでにあるものにしっかり目を向け、その価値に気づく。そうすれば、実は「もう足りている」状態にあることが感じられると思う。
そして本当に必要なもの、大切なものが何なのか、改めてはっきりしてくるはずである。
■考えるな、感じろ
ところで、ビギナーズラックという現象はなぜ起こるのか、ご存じだろうか。競馬やポーカーなどの賭け事を初めてやった人が当たったりするのは、余計な情報や知識がない分、的(まと)を射る直観が純粋に働くからである。
人の頭は、情報や知識が多いと選択肢が増え、迷いが生じやすくなる。つまり、考えれば考えるほど、的が見えにくくなってしまう面があるのだ。
しかし、何の情報も知識もなければ直観で当てていくしかない。
実は、直観はかなり高い確率で物事を当てることができるものである。もちろん個人差があるが、普段から感性を磨いている人であれば、7割以上の精度は十分持ちうる。
麻雀は将棋や囲碁と違って、思考よりも、勘や閃(ひらめ)きといった感覚を使う比重が非常に大きい。考える癖の強い人は、麻雀を打つ際にそのことが邪魔になる。
私が麻雀の勝負で負けることがなかったのは、感覚を何よりも大事にして打っていたからだと思う。
![空で羽ばたく鳥の風景イラスト](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/f/1200wm/img_2fcde1aec05f4456cbda5f6bcff2c2d7298266.jpg)
■思考のロックを外せ
現代社会は、知識や情報にとても大きな価値が置かれている。それゆえ、直観などの感覚的なものは見過ごされがちだ。
だが、ふだんさまざまな物事を判断するときは、意外と感覚的な判断が重要な役割を果たしているものだ。そのことにもっと意識的になったほうがいいだろう。
思考が混じると感覚は濁(にご)る。ゆえに物事の核心をつかむには、思考のロックを外して感じる力を磨くことが不可欠になるのである。
■「賢い」「バカ」は人間社会の尺度にすぎない
かく言う私は、無知な男である。だからといって自分の知識のなさを隠そうなどとはつゆほども思わない。心理学や経済の専門家などと雑誌で対談して、相手の喋っていることがよく理解できず、「先生の話していること、よくわかんないよ」と言ったりすることもあるくらいだ。
しかし、「賢い人」と「バカな人」。どちらになりたいかと訊(き)かれたら、私は、世間でいう賢い人になるくらいなら、世間的にはバカなほうがいい。
不思議なことに、みなが賢い人を志向しているのなら、この社会はもっと賢いものになるはずだ。なのに、実際はそうはなっていないではないか。
そもそも、賢いだの、バカだのといっても、それはあくまで人間社会における話だ。動物や昆虫の世界には賢さやバカといった基準は存在しない。彼らは自然の理にかなった生き方を本能的にしているだけである。
自然の法則を無視し、迷惑をかけている人間は、自然から見れば、まったく賢くはないだろう。
■知識は最低限でいい
世間でいう賢さとは、ちょっと人より知識があったり、お金儲けができたりする程度のものにすぎない。
人が知識を求める理由の1つは、それが生きることに確信を与えてくれそうに感じるからである。その証拠に、たくさんの知識で武装した人は、たいてい揺るぎない自信を持って自分の意見を述べ、違う見解を持った人が目の前に現れると途端に攻撃モードになったりする。
私が知識にこだわりを持たないのは、そういう根拠の希薄な、いじましい確信を抱きたくないからでもある。
それよりも、生の実感から生まれる知恵さえあれば、知識は最低限でいいと思っている。知識は定まったものを追求するが、感覚や経験を通して身につけた知恵は、反対に定まらぬものをとらえるのだ。
この世界は絶え間なく変改してやまない。定まらず常に動いているものを感覚でとらえ、素早く的確に対応していく元となるのが知恵である。
知識だけでは、次々とやってくる変化の波に吞み込まれてしまう。だが、知恵はどんな大きな波であろうと、それを巧みに乗りこなすための恰好の道具になりうるのである。
■人の心は揺れるのが常である
道場を訪れる取材者からはじつにさまざまな質問をされる。そのなかで、こんなことを聞かれたことがある。
「何かあっても“揺れない心”でいるにはどうすればいいですか?」
![桜井章一『雀鬼語録 桜井章一名言集』(プレジデント社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/2/1200wm/img_b256f05bf6493e9e6b833a6a94b3ea70156008.jpg)
だが、その質問者はおそらく、“揺れない心”について勘違いしている。なぜなら、生の感情を持って生きている限り、人の心は常に揺れているものだからだ。
感情を押し殺しても、心は見えないところで揺れている。どんなに冷静に見える人でも心は揺れている。だから心を揺らさないようにもっていくことは、不自然であり、そもそも無理のあることなのだ。
問題は、心を揺らさないようにすることではなく、ちょっと揺れすぎたなと思う心をどうやって元のふだんの状態に戻すかである。それが本来の意味での“揺れない心”である。
■心を真ん中に置け
私が思う“揺れない心”とは、感情のバランスが崩れても、それをいい方向へコントロールできる心のことだ。心の傾きを修正し、バランスのとれた状態へとすぐに戻せる心が、“揺れない心”である。
揺れた状態を素早く元に戻すには、心の重心を真ん中に置いておくことである。左右のバランスのとれたシーソーの支点と同じで、心の支点が真ん中にないと、感情のバランスは崩れたままになってしまう。
支点を心の真ん中にピタリと置く。それが、ちょっとした揺れをすぐに元に戻すコツなのである。
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雀鬼会会長
1943年東京・下北沢生まれ。大学時代に麻雀を始め、裏プロとしてデビュー。以後、圧倒的な強さで勝ち続け、20年間無敗の「雀鬼」の異名をとる。現役引退後は、「雀鬼流漢道麻雀道場 牌の音」を開き、麻雀を通して人としての道を後進に指導する「雀鬼会」を始める。モデルになった映画や漫画も多く、講演会などでその雀鬼流哲学を語る機会も多い。著書に『負けない技術』『流れをつかむ技術』『運を支配する』『感情を整える』『群れない生き方』など多数。
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(雀鬼会会長 桜井 章一)
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