1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

休職している同僚に連絡をしてもいいか…毎年数百人の休職者と面談する産業医の最終結論

プレジデントオンライン / 2023年9月19日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monkeybusinessimages

休職中の社員に上司や同僚が連絡を取っても良いのか。年間のべ300~400人の休職者と面談をしている産業医の武神健之さんは「上司であれ、同僚であれ、他部署の人であれ、本人から連絡があるまでそっとしておいてほしい」という――。

■順調にキャリアの階段を上っていたAさん

こんにちは。産業医の武神です。私は毎年のべ300~400人の休職者と産業医面談をしています。その中で必ずあるのが、周囲の人々による「休職中のAさんに、励まし/お見舞いの連絡をしてもいいですか?」という質問です。

質問主が、上司であれ、同僚であれ、他部署の人や上司の上司であれ、産業医の答えは「本人から連絡があるまでそっとしておいてあげてください」で、いつも同じです。

なかなか納得を得られないこの答えに、今日はしっかりと解説を加えて、産業医の真意をお伝えさせていただきたいと思います。

私のクライエントの外資系企業でのお話です。

Aさんは30代半ばの独身女性社員でした。入社6年目の彼女は、誰とでも裏表なく接し、自分の意見をしっかり言える方で、部下からの人望も厚く、いい意味で社内で顔が広い方でした。昨年部署内で昇進も果たし、順調にキャリアの階段を上っていくと思われていましたが、今年になり、Aさんを昇進させてくれた上司が急に自己都合で退職してしまいました。

数カ月後、新たに上司として日本の同業他社からBさんが入社しました。新しい上司ともいろいろと建設的な意見交換を行い、部署のため、チームのため頑張ろうと張り切ったAさんでした。が、Bさんとは相性が合わなかったらしく、次第にAさんは元気がなくなりました。心療内科にも通いはじめたものの症状は改善せず、最終的に休職になってしまいました。

■上司「人事が連絡先を教えてくれない」

①直属の上司から休職者に連絡を取っていいか?

Aさんの休職開始後、私は産業医として毎月Aさんと面談をすることとなりました。すると人事を通じてAさんの上司(Bさん)が産業医に質問があるとのことで、Bさんとの面談が設けられました。

【B】休職中のAさんに、連絡を取りたいんだけれども、人事が連絡先を教えてくれない。どうにかしてほしい(どうしてだ!)。

【私】連絡して、何を伝えたいんですか?

【B】部署の仕事は気にせずに治療に専念してほしいこと。みんなAさんの回復を願っていること。私は入社して日が浅くわからないことがまだまだあるので、Aさんに片腕となってサポートしてほしいこと。などを伝えて、頑張って良くなってほしいと思っている。

【私】お気持ちどうもありがとうございます。しかしながら、産業医としては、Aさんは今治療に専念すべき時期なので、ビジネスサイドからの連絡はその妨げになる可能性があり、ご遠慮いただければと思います。Aさんの回復を願うのであれば、そう伝えたいその気持ちを我慢してください。

■どんな言葉もマイナスに感じやすい状態にある

このような時に、私がYesと言うことはほとんどありません。その理由は、上記以外に3つあります。

1つめは、今回のケースでは、Aさんのストレス原因の大きい部分が上司Bさんであったからです。

メンタル休職者のストレス原因には、いろいろなものがあります。職場の人間関係はどの調査でもトップ3に入ります。そして、往々にして、それは上司との関係です。休職の目的の1つは、ストレス原因から距離を取ることです。それなのに、上司から連絡があったら、休職者は自宅で安心して休養に専念できなくなってしまいます。

2つめの理由は、多くの休職者は、自分が休んでいることを恥に思い、同僚達に対して申し訳ないという気持ちでいっぱいです。これは、病気のせいで自己肯定感が低くなっているせいでもあります。このような時、人は、どのような優しい言葉も素直に受け取ることはできず、自らをもっと落ち込ませるように感じてしまうものなのです。

ストレス原因が上司でなかったとしても、上司からの「仕事は気にしないで治療に専念してね」「業務は回っているから大丈夫だよ」「チーム全員でAさんの回復を待っています」などの言葉を聞いたAさんはきっと、「私なしでも業務は回っている。私は不要な人間だ。こんなに迷惑をかけてしまって、復職の際はどのような顔をして出社すればいいのだろうか」などと考え、落ち込んでしまうでしょう。

スマホを手にじっと画面を見つめている女性
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

■連絡を取りたいのは「自分のため」かもしれない

3つめの理由は、上司に、自分が休職者のストレス原因だと薄々気づいている傾向があることです。そもそも上司が本当にAさんのことを思って、連絡を取りたいと言っているとは限りません。休職者のためにではなく、自分のために、連絡を取りたいという本心が見えてしまっている上司もたまにいます。

ある程度人間関係を構築できる人であれば、部下が休職した場合、自分がその人のストレス源になっていたかは想像がついていることがほとんどです。自分が原因だったかもしれないが、会社にはそう思われたくない上司は、往々にして、“いい上司”のふりをし始めます。周囲に「Aさんには期待していたんだけどね」とか、人事に「Aさんに励ましの連絡を取りたい」と言うのです。

一方、この想像がつかないような上司の場合、休職者にいざ連絡を取ったときに、何か余計なことを無神経に言ってしまう可能性があります。ですので、どちらの場合も休職者への連絡はご遠慮いただいています。

もちろん、上記3つの理由をそのまま上司に伝えるわけにはいきません。ですので、産業医の私は、言葉を選びつつ、上司にはそのような申し出を感謝しつつ、Aさんがもっと回復するまで、待つことをお願いするのです。

■「私で力になれることがあれば言ってくださいね」と伝えたい

②同僚から休職者に連絡を取っていいか?

上司のBさんに連絡をとどまってもらった翌月、今度は、同じ部署の同僚Cさんから、Aさんに連絡を取ってもいいかと質問がありました。どのようなことを伝えたいのか聞いてみると、「心配しています。私で力になれることがあれば言ってくださいね」と簡単に伝えたいとのことでした。

とても優しい方ですね。しかし、産業医としての私の答えは、Noでした。上司Bさんに言ったことと同じような断り方をしましたが、その時の私の判断根拠は3つありました。

1つめは前述の2番目の理由と同じです。Cさんの優しい言葉も、Aさんを楽にはせずに苦しめてしまうことが往々にしてあるからです。

2つめの理由は、そもそも本当の友達(=会社の同僚としてだけではなくプライベートでも仲のいい友達)であれば、人事や産業医にそのような許可を取らずに、連絡しているものです。人事や産業医の許可を得ないと連絡できないのであれば、そんなには親しい間柄ではないのではないかと感じます。

女性同士で笑顔でおしゃべり
写真=iStock.com/itakayuki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/itakayuki

■今大切なのは「Aさんの気持ちが楽になること」

メンタルヘルス不調者と接するとき、“その行為によって、誰の気持ちが最初に満たされるのか? ”を考えることが大切です。

今回の場合、CさんがAさんに連絡を取ることによって最初に気持ちが満たされるのは、実はAさんではなくCさん本人です。Cさんは連絡したという自己満足感を得られます。Aさんが連絡を本当に喜ぶかどうかは誰もわかりません。

しかし、今大切なのは、Aさんの気持ちが楽になること=満たされることです。そのためには、Aさん自らが連絡をしたいという気持ちになり、連絡があるのを待ったほうがいいのです。もちろん、病状がある程度回復して、誰かに連絡を取りたいと思った時、それがCさんかどうかはわかりません。

もし、Cさんに連絡が来たら、その時はCさんの思いも伝えていただければと思います。その時までは、待つようにCさんにはお願いしました。

■連絡をとった同僚が不安定になってしまうリスクもある

3つめの理由は、Aさんが話す内容がCさんには手に負えないもので、Cさん自身が自分の感情をコントロールできなくなるリスクもあるから、です。

産業医は守秘義務がありますから、休職者の病名はもちろん、病状を許可なく他者に伝えることはできません。休職者の中には感情的に不安定な人もいます。そのような人と接していると感情的になった休職者が、自分の不安や怒りをそのまま話し相手にぶつけてしまうこともあります。数は少ないですが、自死をにおわせたり、自傷行為について告白する休職者もいます。その結果、連絡を取った同僚自身が不安定になってしまう場合もあります。

暗くて長いトンネル内で座り込んでいる女性のシルエット
写真=iStock.com/sdominick
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sdominick

このような事態を避けるためにも、休職者が治療に専念すべき時はしっかりと治療に専念してもらうという認識が周囲には必要だと思います。

休職者が連絡を取りたいと思う人であれば、元気になれば連絡を取るものです。それまで待っていただくことが最善だと考えます。

■他部署の上司から連絡するのも問題がある

③他部署の上司や上司の上司から休職者に連絡を取っていいか?

時には、休職者を気にかけている他部署の上司や上司の上司(仮にDさんとします)が、連絡を取りたいと言ってくることもあります。職場での経験も豊富で、休職者や上司ともある程度の距離がある立場の人だからこそ、お役に立てるのではないかという考えです。

しかし、産業医の私の答えは、やはりNoです。そして、その理由も主に3つあります。

1つめは前述と同じで、自己肯定感が落ちてしまっている休職者には、どのような優しい言葉も、休職者を苦しめてしまう結果となってしまいかねません。休職者はまず、治療に専念すべき、つまり会社と距離を置くべきだから、そっとしておいてほしいのです。

2つめも前述(Cさんの3つめの理由)と同じで、声をかけたDさんが、休職者の言動に上手に対応したり、状態を冷静に受け止めることができるとは限らないからです。

3つめの理由ですが、Dさんが傾聴などができる心ある優しい方であった場合のときこそ、ここから新たな問題が生じる可能性もあるためです。

休職者は言葉をかけてくれたDさんに、ストレスの原因(直の上司が原因と伝えることもある)や、周囲が自分に辛くあたったこと(周囲を責める場合もある)を言うこともあります。心優しいDさんは、休職者の言葉を全て傾聴し、受け入れるでしょう。

ここで注意しなければならないのは、Dさんの傾聴と受け入れは、休職者の言うことに賛成したり、ストレス原因の上司のハラスメントがあったことなどを承認しているわけではありません。あくまで辛さなどを訴えている休職者自身を受け入れているのです。

■復職時のトラブルにつながることがある

また、時に休職者は、復職時はDさんの下で働きたいと言うこともあります(異動希望)。優しいDさんはその言葉を否定はせず受け流します。ところが、否定されなかったため休職者はこれを自分の願いが叶ったと受け取ってしまうこともあります。

このような小さな勘違いが、厄介な問題になってしまうことがあります。

休職者によっては、自分の訴えを上長たちが承認してくれたと思い込み、自分は悪くなく悪いのは誰々だとか、自分はDさんの部署に異動して復職になるに違いないと思い込んでしまうのです。

その結果、休職者は貴重な振り返りの機会を有意義に持てなかったり、復職して自分が元の部署に戻ると知った時に会社とのトラブルになったりしてしまうのです。

会社に復帰する日付に書き込み
写真=iStock.com/Ekaterina79
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ekaterina79

もちろん、休職中に自分の部下と他部署の上司が隠れてやり取りをしていたことは、上司のBさんにとっては嬉しいことではありません。休職者が元気になって復職しても、Bさんとの関係性がますます拗れてしまうこともあるのです。

このような事態を避けるためにも、人事や産業医に質問し許可を求めてくる“ビジネス上の”関係性の人には、休職者との連絡を待ってもらうことがほとんどです。

■本当に仲が良い人なら産業医の許可を取らずに連絡している

以上、休職者に連絡していいのかについて、それぞれの立場の人に対するNoの理由を説明させていただきました。

基本的に周囲の人たちの優しさから生じている申し出は喜ばしいものなのかもしれません。しかし、連絡をして満足・納得するのは、誰なのかを考えると、その答えは決して休職者ではありません。連絡をすることで、満足感や納得感を得られるのは、まずは、質問者なのです。休職者にとって満足や納得があるものなのか、嬉しいのか、迷惑なのか、落ち込むだけなのかは、誰にもわかりません。

また、そもそも、本当に仲のいい友達(関係)であれば、わざわざ人事や産業医に連絡の許可などを得ずに連絡しているものです。

ですから、産業医に質問があった場合は基本的に、休職者の速やかな回復を願いしばしの辛抱をいつもお願いしているのです。

以上、ご理解いただけますと幸いです。

----------

武神 健之(たけがみ・けんじ)
医師
医学博士、日本医師会認定産業医。一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。ドイツ銀行グループ、バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ、ムーディーズ、ソシエテジェネラル、フォルクスワーゲングループ、BMWグループ、エリクソンジャパン、テンプル大学日本校、アドビージャパン、テスラ、S&Pといった大手外資系企業を中心に、年間1000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施。働く人の「こころとからだ」の健康管理を手伝う。2014年6月には、一般社団法人日本ストレスチェック協会を設立し、「不安とストレスに上手に対処するための技術」、「落ち込まないための手法」などを説いている。著書に、『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書』や『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣』『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』などがある。公式サイト

----------

(医師 武神 健之)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください