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証明写真より魅力的、プロ撮影より安くて手軽…10枚を合成「AI顔写真」をプロフィールに使うのはアリなのか

プレジデントオンライン / 2023年9月18日 15時15分

「Remini」HPより

■AIがプロ並みのプロフィール写真をつくる

アメリカで「AI顔写真」が大きな注目を集めている。手持ちの自撮り写真をアプリに読み込ませるだけで、写真館で撮影したようなプロフィール写真をAIが自動生成する。価格・手軽さ・品質のバランスが非常に良いとして支持を集め、就職活動などのビジネスシーンで使われ始めている。

代表的なアプリのひとつであるAI写真編集アプリ「Remini」は7月、米App Storeの総合トップに君臨した。米大手ニュースネットワークのABCニュースが報じた米国App Storeのランキングでは、7月19日時点でiPhone向け無料アプリのダウンロード数で総合トップを獲得した。

米技術ニュースサイトのテック・クランチは、この前週となる7月11日時点でも総合トップだったと報じている。わずか数日前にはMeta社のSNSアプリThreadsがリリースされ大きな注目を集めたが、その状況での快挙だった。同社によると世界で累計2200万回以上ダウンロードされており、7月20日時点で日別アクティブユーザー数は2000万人を超えているという。

Reminiに自撮り写真を10枚程度読み込ませると、写真館で撮影したかのようなプロフェッショナルな仕上がりの新たな写真が生成される。顔は特段加工せず、服装や背景だけをビジネスの場にふさわしいスタイルに変更することも可能だ。

■証明写真に利用されるAI顔写真

米公共放送のNPRは、アメリカの若者たちが、職場でAI顔写真に頼り始めていると報道。企業に入社したばかりの女性が書類にAI顔写真を使い、これまでのところ気づかれていないと言う実例を挙げている。

スタンフォード大学の修士課程で科学技術分野の公共政策を専攻したソフィア・ジョーンズさんは、イーロン・マスクCEO率いるSpaceX社でフルタイムの仕事を獲得した。順風満帆な彼女だが、小さな秘密があるのだという。実は彼女が会社に提出した顔写真は、実際に撮影したものではない。彼女の顔をもとにAIが生成した、AI顔写真だ。

NPRは、実際にジョーンズさんが生成した写真のビフォア・アフターを掲載している。彼女の場合は主に、服装を変更するためにアプリを使ったようだ。加工前の写真では、ブルーにホワイトのピンストライプという、比較的カジュアルなワイシャツ姿で写真に収まっている。

これをベースにAIは、小さな金ボタンのついた黒のドレスシャツ、その上からグレーのジャケットと言うフォーマルな衣装を生成した。

■髪型、服装、カメラとの距離感も変幻自在

ジョーンズさん自身の姿にも、やや手が加わっている。表情は変わらないものの、カメラとの間に適切な距離ができた。いかにも自撮り然とした印象から脱却し、顔が画面に占める割合が小さくなったことで小顔の印象も与える。

また、肩にかかる髪がAIで修正され、セミロングのヘアスタイルになっている。服装、髪型、カメラとの距離感が変更されたが、取り立てて不自然な点は感じられない。強いて言うならば、足された毛髪の流れにややフェイク感はあるが、はじめからAIだと疑って注視しなければ多くの人は気づかないだろう。

ジョーンズさんは、フォーマルなジャケット姿のほかにも、グリーンのシースルードレスの生成も楽しんだようだ。首周りには花びらをモチーフにした複雑で立体的な装飾が加筆されているが、地肌に落ちる陰影も含めてほぼ違和感がない。

AIが生成したフォーマルなジャケット姿を会社に提出したが、NPRによると「今のところ、誰も気づいていない」のだという。

■SNSでも話題に

AI顔写真を活用しているアメリカの人々は、ジョーンズさんだけではない。ハッシュタグ「#remini」はTikTokでも人気のタグのひとつになっており、現在までに18万6000本以上の動画が投稿、合計視聴数は20億回にのぼる。

壁に掛かった異なる人々のポラロイド写真
写真=iStock.com/filadendron
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/filadendron

テック・クランチは、TikTokユーザーのグレイスさんの事例を紹介している。彼女は7月、Reminiを活用してフォーマルなプロフィール画像に変換する方法を投稿。511万回再生される人気コンテンツとなった。

元となった写真は、彼女の車内の運転席で自撮りしたスナップショットなどだ。そこからAIは、フォーマルなグレーのスーツ姿や、全身をアイボリー系でまとめた清楚な印象のショット、そして快活な印象を演出するオレンジ色のジャケット姿など、さまざまなパターンを生み出した。

背景もスタジオ撮影並みの単色でまとまっており、構図やポーズも自在だ。胸から顔にかけて収めたいわゆるバストアップから、はにかんだ上目遣い気味のポーズ、そしてポケットに片手をかけた自身ありげな姿勢まで、幅広いパターンがAIから提示された。

■証明写真機より魅力的、写真館より安くて手軽

作成は手軽だ。すでにスマホにある写真をいくつかアップロードするだけで、バリエーション豊かな写真がいくつも得られる。

Reminiの場合、アプリで最大12枚までの顔写真を送信し、提示されたスタイルの中から好みのものを選択する。すると、AIが指定のスタイルに沿った仕上がりの新たな写真を生成する。

アプリ自体を無料でダウンロードした後、1週間は無料で使える。気に入ればサブスクリプションを購入する形となる。日本のApp Storeを経由する場合、現時点で料金は週あたり720~1500円だ。適切に生成することさえできれば、証明写真機よりも魅力的な写真を、写真館よりも安価かつ手軽に入手できる。

アプリの説明によると、「顔写真を高解像度化」するほか、ありふれた自撮りを「魅力的なインフルエンサー級のコンテンツに変える」などの機能が備わる。現在までに2万7000件以上のレビューが寄せられており、評価は星4.5と非常に良好だ。アプリは2019年に登場し、昨年になって生成AI機能が追加された。

■「人工的な印象」まだまだプロには及ばないとの指摘も

問題もある。正しい写真館でプロが撮影した写真と比較すると、完全に対等な品質とはならない。米金融ニュースメディアのベンジンガは、「AIが生成したヘッドショットは人工的な印象を与える」と指摘する。

記事によると、プロの写真家のあいだで失職する危険性について動揺が広がるなか、AIが職を奪うには至らないとの見立てもあるという。プロの写真家は、被写体とコミュニケーションを取りながらシャッターを切る。人間が介在しないAI顔写真では、「写真家が切り取るような、瞬間の本質を捉えることができない」との批判があるという。

描写の正確性も問題だ。AIは日々進化しているものの、苦手分野が残る。手や指など複雑な形状の描画が求められるものや、歯などの数が決まっていて直線的に並ぶべき物体の生成はまだまだ不得手だ。NPRは、場合によっては第3の腕をはやしたり、耳など細部の描写に矛盾が出たりする場合があると指摘する。

■大きな胸に加工される…AIが押し付ける「ゆがんだ美意識」

ほか、AI写真の負の影響は広く指摘されている。より魅力的なスタイルをAIが勝手に追求した結果、望まない性的なアピールが加えられることがある。あるTikTokユーザーの女性は、「LinkedIn用の顔写真が欲しかっただけなのに」と投稿。性的な画像が生成されたと嘆いている。

『tiktok』より
『tiktok』より

この女性は、ルーフトップのバーで撮影したカジュアルなショットをAIに読み込ませ、ビジネス向きの顔写真を生成したかったようだ。

だが、AIの出力は驚くべきものだった。裸にジャケットだけを羽織り、タイトなレザーパンツを着用した画像が自動生成されてしまった。はだけた胸元からは、無理矢理合成された豊満なバストがのぞく。まるでフェイクポルノだ。

職業上の交流を広げようとプロフィール画像を生成したはずが、自分の顔でポルノに近い画像が表示されたこの女性のショックは、想像するに余りある。また、AIから「あなたは胸が足りませんので足しました」と言われたような印象すら受けるだろう。

■「48キロの細身に修正された、最悪」と嘆く女性

こうした状況は、自分のルックスにひどい不満を抱えてしまう「身体醜形障害」を招くとの指摘がある。テック・クランチによると、別の女性ユーザーは、AIに体型を勝手に修正された。出力結果はどれも実際より細身の姿だった。

女性はTikTokへの投稿を通じ、「AIフィルターが本当に(悪い意味で)やってくれた」「バズっているAI顔写真フィルター(Remini)が、105ポンド(約48キロ)にしてくれて…最悪」と憤る。現在の体型への自信を失わせるような修正だ。

人種問題も巻き起こした。米マサチューセッツ工科大学(MIT)とハーバード大学の共同プログラムでコンピューター・サイエンスを専攻する大学院生のロナ・ワンさんは、AI顔写真からショックを受けたユーザーのひとりだ。アジア系のルックスの彼女だが、Playgroundと呼ばれる生成AIを通じてAI顔写真を試したところ、出てきた姿は白人の肌にブルーの瞳に改変されていた。

X(旧Twitter)への投稿を通じ、「AI編集で(ビジネス向けソーシャルメディアの)LinkedInのプロフィール画像を作ろうとしたら、こんなものができた(しかめ面の絵文字)」と不満を露わにしている。白人の姿を「より美しい」と判断してしまうことは、一般にAIが持つバイアスのひとつであり、大きな議論の種となっている。

■利用が広がるAI顔写真、加工はどこまで許されるのか

数々の問題を抱えるAI顔写真は、現時点で完璧ではない。だが、用途は今後広がっていく可能性があるだろう。興味本位で生成したり、個人のソーシャルメディアのプロフィール画像に使ったりという範疇を超え、すでに履歴書や職場への提出にも実際に使われ始めている。AI顔写真で済ませることがいつか標準的になってゆくのかもしれない。

当然、プロの写真家が撮影する本格的な顔写真よりは、完成度で劣る。だが、若い求職者たちが求めているのは、品質と価格のバランスだ。まだ学生で実入りも少ない場合には、就職活動を助ける強力なツールになるだろう。

学生に限らず社会人でも、精神的な利点から気軽に利用しやすい。自撮りや証明写真では、何度もカメラの前で撮り直し、いまひとつ決まらない表情に悩むことも多い。AIにいくつかのパターンを生成してもらい、気に入ったものを選ぶほうが、ずっと気軽に取り組むことができる。

とくに証明写真機と比較すれば、利便性の高さは歴然だ。街角の写真機では、緊張を煽るカウントダウンと共に引きつった笑顔が撮影され、やり直しもせいぜい1回までしか許されない。それならば、自然な笑顔で写った手持ちの写真をもとに、背景と服装だけをビジネスにふさわしいスタイルに変更したいと考えるのは自然なことだ。自宅のソファに掛けながら手軽に生成を済ませたあとは、履歴書の執筆や面接の練習など、より有意義なタスクに時間を回すことができる。

もちろん注意点はある。加工が行き過ぎては、証明写真が用をなさなくなってしまう。また、パスポート写真などに利用してしまうと、法的な問題を生じかねない。AI顔写真はどこまで加工が認められるのか、さらなる議論が必要になるだろう。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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