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東山社長の手腕でもジュリー取締役残留でも社名でもない…経営のプロが指摘「ジャニーズ事務所喫緊の課題」

プレジデントオンライン / 2023年9月8日 17時15分

記者会見する藤島ジュリー景子前社長(右)と東山紀之新社長(左)=2023年9月7日、東京都港区(藤島ジュリー景子氏は、日本を代表するタレント事務所であるジャニーズ事務所の代表取締役社長を辞任したことを発表した) - 写真=EPA/時事通信フォト

ジャニーズ事務所は9月7日、会見を行いジャニー喜多川氏の性加害を認め、謝罪した。新体制でジャニーズ事務所は変わるのか。経営コンサルタントの鈴木貴博さんは「新社長となる東山氏の経営手腕や、ジュリー氏の代表取締役残留、社名を変えないことなど、ツッコミどころはいくつもあるが、本当に重要な問題はそこではない」という――。

■経営コンサルタントとして驚いた3つのこと

不祥事を起こした大企業というものは、普通は事件が発覚した後でも物事を隠蔽(いんぺい)するものです。謝罪会見でも事件そのものについては謝罪せずに「世間をお騒がせしたことをお詫び申し上げます」と論点をずらして謝るのが時代の本流です。

その意味でジャニー喜多川氏の性加害問題について、経営の専門家として驚いたことが3つありました。ひとつは林前検事総長をリーダーとするチームの報告書が深く踏み込んだ内容だったこと、ふたつめにそれを受けてジュリー社長とジャニーズ事務所どちらもが性加害を認めたこと。これはわたしにもサプライズでした。そして3つめに新たに社長に就く東山紀之氏がタレントを引退して、今後の対処に専念してあたると宣言したことです。

近年の大企業にないほど正面から事態を受け止めたことは評価されるべきです。細かいツッコミどころはいくつもあって、100%株を持っているジュリー氏が代表取締役に残留することなど、同族経営の弊害がなくならないのではないかという意見があるのはわかります。タレントである東山氏に経営ができるのか? という批判も耳にします。社名を変えなくてもいいのかという意見はその通りかもしれません。しかし重要なことはそこではないのです。

ジャニーズ事務所の未来を考えた場合、本当に重要な経営課題は「償い」です。

■不祥事対応が最悪なのは政治家、次いで官僚

重大な不祥事を起こした過去のケースをわたしもたくさん眺めてきたのですが、一番なめた対応をする傾向があるのが日本の政治家です。謝罪はするけれども謝るだけ。離党はするけれども辞任はしない。更迭されても時間がたてばちゃっかり復活する。こんな感じです。

二番目にひどいのが官僚です。問題をなるべく長く引き伸ばし、裁判に持ち込み、訴訟中はコメントを控え、20年ぐらい時間を稼ぎます。そうして被害者が後期高齢者になるぐらいのタイミングで仕方なく少額のお金で補償する。こんな感じでしょうか。

これは日本社会の風土だと思うのですが、まずは責任を認めない。責任を認めなければいけなくなった場合、謝罪をしても償いをしない。そんな人ほど出世できる。これが世の中だとしたら、ジャニーズ事務所はここ数日で、その本流とは違う謝罪の仕方に踏み切りました。

とはいえ、これからどのようにジャニーズ事務所が事件に向き合っていくのかはあくまで未知数です。新体制に期待感を込めて、どのようにしていくことがジャニーズ事務所の未来にとって一番いいのかを考えてみました。

■リクルートの人がこの問題を解決しようとしたら…

さて、実はこれは結構難しいテーマなのですが、思考実験として「もしわたしがよく知っている大企業だったらどう対処するだろうか?」と考えてみました。何社か頭に思い浮かべて考えてみたのですが、ひょっとするとそのうちの一社であるリクルートの人がこの問題を解決しようとしたら、ジャニーズ事務所の未来はいい意味で面白いことになるかもしれません。具体的に考えてみましょう。

ぐるりと高層ビル群に囲まれて
写真=iStock.com/scanrail
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/scanrail

■1 制度よりも人として対処

再発防止にしても被害者への補償にしても、一般的には弁護士が活躍するジャンルの仕事です。弁護士の起用は王道なのですがふたつのよくない副作用があります。ひとつは賠償額を減らすことに注力しすぎること。依頼人の肩を持つのが弁護士の仕事なのでどうしてもそうなりますが、この行動は常に被害者の気持ちを損ねます。

もうひとつは形式合理性を重視しすぎること。調査チームからコンプライアンス体制を構築せよと求められていることで、社内にどんどん堅苦しい制度やルールができていきます。結果、人間としてそうしてやりたいけれども、社内のルールでそれができないなんてことが増えていきます。

もしリクルートだったらこの問題は「人の問題だ」と認識して、逆の取り組みに力を入れると思います。ルールを作る前に人が人として人の話を十分に聞いて、何に対して何を行うのかを徹底的に想定して、議論の俎上(そじょう)に載せていくでしょう。

というのもこの問題、被害者は本当に多様なのです。数十人、数百人という数の問題ではなく、それは一人ひとりの被害者であり、一人ひとりの気持ちや思いは違います。何をしてほしいのかの思いも多様でしょう。

なので絶対にやってはいけないことは、弁護士のアドバイスに従って一律の補償ルールを作ること。やったほうがいいことは、人として話を聞くところに経営陣や社員がなるたけ多くの時間を費やせるようにすることです。

■2 対立ではなく対話に持ち込む努力をする

この一番目の話と隣接する話でもあるのですが、一般的には不祥事というものは対立構造を生みます。ジュリー氏と被害者であればそうなる必然性は高いのですが、対立が深まれば補償の論点は賠償金の金額だけの対立軸に収斂します。

さきほど被害者の思いはさまざまだと言いましたが、具体的には心からの謝罪をしてもらうことを通じて傷ついた心を癒やす機会を求めている人もいるでしょう。十代の頃に失ってしまった芸能人としてのデビューについて再挑戦の機会を求める人もいると思います。

リクルートの人は、大概の大きな対立は話をとことんすれば分かり合えると思っています。そして分かり合うために他の会社の人から見れば驚くべき努力をします。営業の風土が強い会社なので、相手から断られるのはあたりまえで、入り口で拒否のサインが強ければ強いほど燃える傾向があります。何年もかけて相手の懐に入り込み、いつのまにか拒否されてきた相手の懐刀のようなポジションを占めてしまうのがリクルート社員です。

ジャニーズ事務所も今は対立から始まっており、歴史的経緯からすればこじれにこじれている相手も多数存在するところがスタート地点なのですが、そこでどれだけ対話の努力ができるのか、もしリクルート社員ならジャニーズ事務所が想像できないほどのエネルギーをここに注ぎ込むだろうとわたしは思います。

深刻な雰囲気の対話
写真=iStock.com/fizkes
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

■3 出入り自由で壁をなくす

ジャニーズ事務所のこれまでの風評を先に挙げさせていただくと、事務所を出ていった人は敵だと認定するのがジャニーズ流だと思われています。事務所内の結束を強めるために、独立した人を敵視するのは、過去のビジネスモデルとしては必要だったのかもしれません。

おなじように組織の結束力が強いにもかかわらず、リクルートの社風では出戻りは歓迎されます。出戻りどころか、独立してベンチャー企業を立ち上げて競合するようなサービスを始めた元リク社員も仲間として認定されています。

もしリクルートがジャニーズ問題を解決しようとするとしたら、わたしはこの出戻り問題や独立問題について、メスを入れたら面白いのではないかと思います。というのは声を上げた被害者はすでに社外に出ているからです。

仮に金銭以外の救済策のひとつとして、事件を理由に退所した被害者を再雇用し、リスキリングしたうえで再デビューさせる施策を考えたとしましょう。この施策、本質的には一定数の被害者にとっての救済になりますし、もともと売れるポテンシャルのある人財ですからジャニーズ事務所にとっても再発掘はビジネスとして意味のある話になります。

■新体制に変わるのであれば戻る人はいるはず

芸能というビジネスの特性上、再デビューについては全員を救済させるのはできない。他事務所で言えば坂上忍さんやヒロミさんのようなワイドショーのポジションから、純烈のようなおじさんアイドル、30代の若手新人俳優まで、これから2年間で10人ぐらいの成功例はジャニーズ事務所の力をもってすれば作り出すことができるのではないでしょうか。

その際に、被害者だけが出戻りの対象なのはいろいろな意味でつらいでしょう。セカンドレイプ的な風評も起きますし、出演のたびに事件が思い出されるのは楽しい芸能人のイメージをキープするための障害にもなります。

そこで考えられるのが被害者にかかわらず出戻り自由という新しい社風に変えるというアイデアです。リクルート流をジャニーズに持ち込む考え方です。過去に独立したタレントの中には当然のようにもう戻る気はないという人も多いかもしれませんが、新体制で本当に変わるのであれば戻ってみたいと考える人も同じくらい多いかもしれません。

握りしめたボールに「改革」のテロップ
写真=iStock.com/masamasa3
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/masamasa3

■経営改革で復活した大企業の共通点

今回、リクルートを例に挙げてジャニーズの改革の未来について考えてみた最大の理由は、今、ジャニーズは過去と決別して新しい社風を作るべきタイミングだからです。そして今回の記事でご理解いただきたいのは、社風を変えられさえすればやれることは想像以上に多様なはずだということです。さらにいえば、過去、経営改革で復活した大企業の場合は、日本航空であれソニーであれりそな銀行であれ、徹底的に社風を変えるところから着手を始めているのです。

ジャニーズ事務所を批判をするのは簡単ですが、本気で事務所を再生させていく仕事にこれから携わることになる新体制を見守りたいと思います。

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』など。

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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

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