高層階ほど長く大きく揺れる…林立するタワマンが抱える「3.11より大きい南海トラフ地震」のリスク
プレジデントオンライン / 2023年9月14日 13時15分
■タワマンは「長周期地震動」に弱い
大都市には超高層ビルやタワマンが林立し、今や成熟国家の象徴のような存在感を放っている。新築マンションの価格上昇は止まらず、不動産経済研究所が発表した2023年3月の首都圏新築分譲マンション市場動向によれば平均価格は1億4360万円で、統計開始の1973年以来初めて1億円を超え、前年の同じ月の2倍以上に上昇した。ただ、高層の建物は、高い階ほど地震発生時の揺れが大きいという。はたして「高嶺の花」となったタワマンは大丈夫なのか。
超高層ビルやタワマンが最も苦手とするのが「長周期地震動」だ。「周期」とは揺れが1往復するのにかかる時間で、大地震の発生時は長く、ゆっくりとした大きな揺れである「長周期地震動」が発生する。高確率で発生すると予想されるM8~9級の南海トラフ巨大地震が起きれば、その激しい揺れが住民らを襲うことになる。
■3.11ではエレベーター全基停止、設備損傷
長周期地震動は、たとえ震源から離れていても高層の建物を大きく、そして長く揺らす。建物の揺れやすい周期(固有周期)と地震波の周期が一致すると共振して揺れが大きくなるわけだが、高層の建物は共振によって低い建物よりも長い時間にわたって揺れるため注意が必要なのだ。
2011年3月の東日本大震災発生時、東西の大都市のランドマークにもなっていた都庁舎、大阪府庁舎が大きな揺れに見舞われた。震源から約400キロ離れた東京都心部は震度5強を記録。東京・新宿にある地上48階、高さ243メートルの都庁第一本庁舎と第二本庁舎(地上34階、高さ163メートル)は地震動でゆっくりと揺れ、エレベーターは全基停止し、天井材の落下やスプリンクラーの損傷などが見られた。
■大阪府の咲洲庁舎は2.7メートル揺れた
最上階では10分間以上、最大で1.3メートルの揺れが起きた。2012年から二つの本庁舎、都議会議事堂は執務をしながら13年間という長期の大改修プロジェクトが、約762億円(長周期地震動対策の制振装置の設置費用約40億円)をかけて2023年現在も行われている。
都心の複数の高層ビルも設備の転倒や損傷が生じている。約770キロ離れた大阪では震度3の揺れが生じた。湾岸の人工島にある咲洲(さきしま)庁舎(高さ256メートル)では2.7メートルの横揺れが生じ、天井や壁など約360カ所が損傷。耐震性を懸念した当時の橋下徹大阪府知事は咲洲庁舎への府本庁舎の全面移転構想を断念した。
■首都圏が「西で起きる地震」で揺れる理由
この揺れを上回ることになるとみられているのが、南海トラフ巨大地震による長周期地震動だ。内閣府の検討会による推計では、東京、名古屋、大阪の3大都市圏では南海トラフ巨大地震発生時の超高層ビルの揺れ幅は東京23区や名古屋で最大約3メートルと東日本大震災発生時の2倍近くに達し、震源からの距離が近い大阪の一部は最大約6メートルと指摘された。
高層ビルの研究を続ける名古屋大学の福和伸夫名誉教授は「首都圏は、地盤の構造から、西で起きる地震で揺れやすい」として、理由を二つ挙げる。
西日本は「付加体」と呼ばれる海底生物の死骸など海の中のゴミが折り重なるようにへばりついた軟らかい地盤があるため、揺れを通しやすい。さらに首都圏が盆地のようになっていることから、日本海溝沿いの地震より、南海トラフ沿いの「西」の地震の揺れを集める特徴があるという。
■地震、火災、避難…高層階で何が起こるか
超高層ビルの課題は大きく揺れた後、そのまま使用してよいのかどうかの判断が難しい点だ。長周期地震動によって建物にひびが生じたり、外壁や天井が落ちたり、配管に亀裂が入ったりするといった損傷が生じても、専門家でなければ被害の詳細を把握するのが難しい。
タワマンと呼ばれる20階以上の高層マンションは全国に1464棟(2022年末時点)ある。首都圏の1都3県に半数超が建てられ、戸数ベースでは約9割が3大都市圏に集中する(東京カンテイ調べ)。建物の構造自体の強度を高める耐震構造、制振部材を設置して揺れを吸収する制振構造、揺れを伝えにくくする免震構造によって地震対策はなされているが、同じ地震であっても高層階になれば揺れ方は強くなる。
超高層ビルに備えられた高速エレベーターには最寄り階がないため緊急停止し、中に閉じ込められたり、避難階段が狭いため避難経路が制限されたりするリスクはあるだろう。火災発生時にどう対応するのかも含め、事前に考えておくことが重要だ。火災報知器は電池が切れていれば作動せず、揺れで水道管の配管が壊れるとスプリンクラーが使えない。そのとき、火災が起きたらどうなるか。
■ホテルニュージャパン火災では9時間燃え続けた
1982年、地上10階建てのホテルニュージャパン(千代田区永田町)が約9時間燃え、高層階の宿泊客33人が犠牲となった火災の例を思い出してもらいたい。鳴らない火災報知器、閉じない防火戸、スプリンクラーの設置がほとんどないなど防火設備の不備が指摘された。
基本的には耐震基準で想定された揺れに対して耐えられるだけの設計がなされているものの、たとえ震度が小さくても特に高層階は大きな揺れになることがある点は覚えておくべきだろう。また、想定を超えた揺れに対しての安全性についても設計者に確認したいところだ。
日頃から家具はしっかり固定し、丈夫なテーブルなどの下に避難する経路を確認する、2023年2月から発表が始まった気象庁による長周期地震動の緊急地震速報が鳴ったら、エレベーター内にいるときは揺れの到達前にあらゆる階のボタンを押す、といった心構えと準備はしておいた方がよいと言える。
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東京都知事政務担当特別秘書
1976年、千葉県生まれ。成蹊高校、早稲田大学商学部卒。大学入学後に柔道に出合い、柔道部で二段取得。在学中に南カリフォルニア大学(USC)交換留学。全国紙記者を務め、2016年8月から現職。待機児童対策や女性の活躍推進、働き方改革などを担当し、政策立案への助言などを行う。著書に『小池百合子「人を動かす100の言葉」』(プレジデント社)、『首都防衛』(講談社現代新書)がある。
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(東京都知事政務担当特別秘書 宮地 美陽子)
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