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「負けた人が払う」ではなく「勝った人が全員分を払える」…人気テレビ企画「男気ジャンケン」が誕生した背景

プレジデントオンライン / 2023年9月17日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tylim

フジテレビのバラエティ番組「とんねるずのみなさんのおかげでした」(1997-2018)の名物企画「男気ジャンケン」はどのようにして生まれたのか。テレビディレクターのマッコイ斉藤さんの著書『非エリートの勝負学』(サンクチュアリ出版)より紹介する――。

■遊びの中から生まれた名物企画

俺が関わる番組の会議は、いつもすぐに終わった。

遊びで面白いことを思いついて、それをそのまま会議で発表して、みんなが笑えば、「じゃあ、やろう」でおしまいだからだ。このスタンスは基本的に「みなさんのおかげでした」でも変えなかった。日常の遊びの中から、いくつも名物企画が生まれた。

たとえば、スギちゃんがロレックスのデイトナレパードを買い、バナナマンの日村勇紀くんがポルシェを買い、狩野英孝がレンジローバーを買い、おぎやはぎの小木が金の延べ棒を買い、出演者の買い物総額が1億円を超えた「買うシリーズ」もそうだ。

あの企画は元々、ある芸人とプライベートで北海道に行ったとき、その人から「おまえ、これ、いいから買ったら?」と80万円するルイ・ヴィトンのバッグをすすめられたことからはじまる。

大先輩の言うことだから……と意を決して買ったら、会計後に「おまえ、なに買っちゃっているの?」と茶化されて、本気で悔しい思いをした。あの悔しい思いをカタチにできたら。

そう思って「買うシリーズ」として会議に企画を出してみた。すると場の反応が「面白い」だったので、1回目の「日村、時計を買う」につながった。

■企画会議はプレゼンの場ではない

企画会議はプレゼンするのではなく、反応を確かめる場だった。なにも考えずにぽんと出してみて、場の全員が「面白い」と言えば、名物コーナーになる可能性がある。

「2億4千万のものまねメドレー選手権」もそう。大先輩の誕生日会で、日村くんが郷ひろみさんの「2億4千万の瞳〜エキゾチックジャパン〜」のカラオケを流しつつ、いろんな有名人のものまねをしながら歌ったのがめちゃくちゃ面白くて、参加者みんなが爆笑した。

するとその場にいた他の芸人も真似して、同じ「2億4千万の瞳」を流して、それぞれがものまねを見せていき、爆笑が連鎖していった。その後「2億4千万の瞳」の1コーラスの中に、最低でも5人の有名人のものまねを組み込むというルールをもとに笑いを競い合う「ものまねメドレー選手権」となり、あのときの爆笑を再現することができた。

■「男気ジャンケン」はこうして生まれた

逆転の発想「男気ジャンケン」も遊びから生まれた企画だ。

「みなさんのおかげでした」では撮影が終わるとよく、演者さんも一緒にスタッフでご飯を食べに行ったものだが、なにしろゴールデンタイムの番組のメンバーだ、高級なステーキ屋、寿司屋、天ぷら屋など、今とは違って「贅沢は普通にするもの」だった。しかし楽しんでばかりもいられない。

食事が終わって一息つくと、タカさんが「ジャンケンするぞ」と言い出す。「負けたヤツが全額払う」ことを目的としたジャンケンだ。

参加人数は日によってまちまちだが、5人だろうが10人だろうが高級店だからお会計はそれなりの金額になる。負けたらショックは大きく、勝った方は負けた人間の反応を見て盛り上がる。

ある日、俺が負けて払うことになった。実際に負けて払う立場になると、これが金額以上に悔しい思いをする。「テレビでやり返してやろう」と思った。この遊びを企画にしたら、企画会議では大いにウケてやろうやろうと盛り上がったが、局側から「イジメに見えるからダメ」という指摘を受けた。

■大人の渾身のジャンケンは面白い

だがどうしてもやりたかった俺は「だったら、ジャンケンに勝った人が『払いたい』と言って払うのはいいでしょう」と粘り、そうなると局側も「払いたいという意思が、勝った人にあるんだったらいい」と答えざるを得ず、話は強引にまとまった。

しかし、ふと思った。ジャンケンに勝ったにもかかわらず「払いたい」気持ちって一体なんだろう? どうしたら不自然に感じないか。

そこで思い浮かんだのが「男気」という言葉だった。

男気ジャンケン。それはいかにも男気がありそうな、かっこよくて頼りがいのあるゲストが集まり、今日の「払わせてもらえる人」を賭けて、渾身のジャンケンをするものだ。その様は見ている者たちに勇気と爆笑を与えてくれた。

この企画は番組が終わった後も定着しているようだ。ユーチューバーが類似企画を流していたり、街で見知らぬ人から「男気ジャンケンやってください」とお願いされたり、レジに並んでいたら、前のグループが男気ジャンケンをしているのを見かけたりして、ああ浸透してるなと思う。

こういう企画の独り歩きははっきり言ってうれしい。見知らぬ人たちの男気ジャンケンに巻き込まれて、負けて、俺が払っているときはなんとも言えない気持ちにもなるが、それでもやっぱりうれしかった。

■日本で一番芸能人を落とし穴に落とした男

事前になにも知らされていないターゲットが、呼ばれて歩き出し穴に落ちる、その姿やリアクションの美しさを競うドッキリコーナー「全落・水落シリーズ」は、落とし穴を用意して、ただ落とすだけの極シンプルな企画だ。

でも、そこには「人間好事魔多し」という裏のテーマがある。俺の人生がまさに、いいことが続いていると、突然とんでもなく悪いことが起こる、ということをくり返していた。人間いつ地獄に落ちるかわからない、とは誰もが頭のどこかではわかっていることだ。

だがふだんは意識をしていない。だから身をもってわからせる。慣れた仕事だと思って気を抜いていると、いきなり落とし穴に出くわす。そういう人生の縮図を、みんなで観察するという構図になっている。

ちなみに俺はおそらく日本一、芸人さんやタレントさんを穴に落とした男だろう。中でも印象的な「全落ハワイアンオープン」という企画では、ハワイを2度訪れ、予算1億円かけて、20個の落とし穴を作り、豪華芸能人たちを次々と穴に落としていった。あとで局から「金の使いすぎだ」と怒られたが、こんな仕事ができて俺は幸せだった。

著者近影
写真=名越啓介
著者近影 - 写真=名越啓介

■ヒットする企画の特徴

なかなかヒットが出せなかったとき、ある売れっ子の放送作家さんからもこんなヒントをもらったことがある。

「マッコイさん、視聴率が悪い番組10本見て、その後に視聴率のいい番組10本見てください。そしたらなにかわかりますから」

なるほどと思い、おれは素直に試した。そしてある日気づいた。おそらく世の中でヒットを連発する人はみんな気づいているのだろう。視聴率の高い番組はすべて、パッと見ただけでほぼ内容(面白さ)がわかるのだ。

『行列のできる法律相談所』も『世界一受けたい授業』も『世界の果てまでイッテQ!』も『笑点』もそう。その考え方を、俺は「1行理論」と名付けている。『笑点』にいたっては1行どころか、ひと言だ。なにも難しいことはなく、ヒットする企画は、1行の説明で伝わる。

反対に言えば、くどくど補足説明が必要な企画がまずヒットすることはない。「買うシリーズ」も「2億4千万のものまねメドレー選手権」も「男気ジャンケン」もそうだ。どれも1行で内容を説明することができたし、それを聞いた人にも一発で面白さが伝わった。

「見た目は汚いがうまい店」を表彰する「きたなトラン」も、「見た目は汚いがうまい店」というものに、誰もが心当たりがあるから、全国の人たちの興味を引くことができた。

■伝えたいなら、とにかくシンプルに

もちろん1行で説明できる企画を考えるのは簡単じゃない。企画を立てる側からすれば、シンプルすぎる企画は怖い。手堅くウケる要素を、保険としていくつか用意しておきたくなるものだ。

マッコイ斎藤『非エリートの勝負学』(サンクチュアリ出版)
マッコイ斉藤『非エリートの勝負学』(サンクチュアリ出版)

だから会議で話し合うほど、あれもこれもと詰め込みたがり、説明が何行にもわたって必要な企画になってくる。実際、そういう企画は手堅く数字を稼いでいるのかもしれない。

だけど、そういう企画は記憶に残らない。視聴者には響かない。伝えたいなら、とにかくシンプルに。

たとえば人気番組の『BREAKINGDOWN(ブレイキングダウン)』は、「1分間最強を決める。」というコンセプトで、いろんな背景を持った人たちが「1分1ラウンド」でケンカする、という内容だ。誰でもすぐに理解できるし、1分なら見やすそうだと思う。大ヒットするのも当然だろう。

(マッコイ斎藤)

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