東山新社長は自らの性加害を半ば認めたようなもの…話し方のプロが指摘するジャニーズ会見"最大の過ち"
プレジデントオンライン / 2023年9月11日 17時15分
■深遠な企みが逆噴射…ジャーニーズ会見の最大の過ち
世界中から注目を集める故ジャニー喜多川氏の性加害問題で、ジャニーズ事務所の幹部が初めての謝罪会見を開きました。会見としての定石は踏み、事務所としての深謀遠慮がうかがえましたが、世論の理解を得るには程遠い内容でした。結果的には、その深遠な「企み」が逆噴射した側面もあるように感じます。この会見の最大の過ちとは何だったのでしょうか。
4時間以上にわたり、メディアからの質問に答え続けたジャニーズの経営陣である、新社長の東山紀之氏(56)と社長の藤島ジュリー景子氏(57)。若手「ジャニーズJr.」を育成する関連会社ジャニーズアイランド社長の井ノ原快彦氏(47)も同席しました。
いわゆる「謝罪会見」の定番のダークスーツをそろって身にまとい、神妙な面持ちで、一つひとつの質問に丁寧に答え続けました。最後は、司会の制止を振り切って、質問に答え続ける場面もあり、誠心誠意の対応を印象付けようとしていたように感じます。
オハイオ州立大学の研究によると、「完全な謝罪」には以下の6つの要素が必要とされるそうです。
① 後悔の表明
② 「何が問題だったのか」の説明
③ 責任を認める
④ 悔い改めることを宣言する
⑤ 事態収拾の提案
⑥ 許しを請う
このうち、最も大切なのが、③の「責任を認める」、次が⑤の「事態収拾の提案」で、⑥の「許しを請う」はそこまで必要ではない、とされています。今回の会見は表面上、こうした「謝罪の流儀」をなぞったものと言えるでしょう。
ただ、問題はこの2番目に重要とされる「事態収拾の提案」が、なんとも生ぬるいものであったこと。これが、世論のさらなる怒りを買いました。
● 今後もジュリー氏が100%株を持ち続けること
● ジュリー氏が取締役としてとどまり続けること
● 性加害者の名前を冠した社名を変えないこと
● 後継社長として、ジャニー氏と非常に近しい立場にいた内輪の人物を起用したこと
● その東山氏本人に性加害の疑いがあること
■東山新社長の信頼性を毀損された3つの想定外
被害者数が数百人、数千人になる可能性があると言われる中、これでは、誰も納得しようがありません。特に、東山氏本人の疑惑については、多くの海外メディアも取り上げており、批判がさらに高まりそうな様相です。
今回の会見の最大の誤算は、この会見が、今後、信頼回復の牽引役となるべき東山新社長の信頼性が大いに毀損(きそん)されてしまう結果になったことではないでしょうか。本来なら、強いリーダーシップを印象付け、再生への道筋を明確に示すことが期待されていたわけですが、結果的には、それはかないませんでした。
そこには3つの「想定外」がありました。まず一つ目が、「本人の性加害疑惑に対する説明のミス」です。
そもそも、東山氏は現所属タレントの中でもジャニーズ最古参であり、ジャニー、ジュリー氏とは最も近しい関係性にあったわけで、性加害を全く知らなかったというのには無理があります。さらに、本人に、そうしたハラスメントのうわさがあることに対して、上手に説明しきれなかったのは致命的でした。
最初は「(性加害は)したことがない」と2回も断言していたのに、記者のしつこい挑発に、
「覚えてないことの方が、多くてですね、もしかしたらしてる可能性もあるし、もしかしたらしてないかもしれないし、ただやっぱりもちろん若気の至りがあったりそのときの自分の幼稚さであったりとか、そういうものもあったとは思うんですね。ただ記憶をたどっても、ちょっと覚えていないことも本当に多くて、僕もそうだと思うんですけど多分、いろんなことやってるんだと思います」
と、半ば認めるような発言を長々としてしまいました。このあたりについては、もう少しマシな回答ができたはずです。
もう一つの「想定外」が、ポジショニング戦略のミスです。そもそも、半ばおずおずと、申し訳なさそうに話すジュリー社長、堂々と自信ありげな東山紀之新社長、そして、子会社の社長で、人柄の良さそうな井ノ原快彦さんがセットで登場したのは、お互いの役割を補完する意味があったのかもしれません。「お母さん」「お父さん」「お兄さん」の「ファミリーセット」で、好感度を上げようとしたのか、硬い印象の東山氏に対し、柔らかい印象の井ノ原氏で、雰囲気を和らげようとしたのかわかりません。
しかし、逆に、イノッチこと井ノ原氏のコミュ巧者ぶりが際立ってしまい、その対比で、東山氏の印象を下げてしまったように感じます。
■現代のリーダーにふさわしのは「共感力」のイノッチ
3つ目が、東山氏のイメージ戦略のミスです。東山氏は自分を「厳しい人間」と称しましたが、そうした一面がよく表れた会見でした。「厳しさに耐えてこそ、人は成長する」というストイックな考え方が根底にあるのでしょう。特に鼻白まされてしまったのが、半ばナルシスティックで、悦に入ったような強烈な「自意識」でした。
●僕らは命を削るほどの作業が必要だと思うんですね。そこには厳しさもあり、やっぱり耐えなければいけないことも多々あると思います。陰で流す涙の量、そして汗の量というのは、ファンの人たちの思いに応える唯一の作業だなとも思っておりますので、それを怠らないようにしていきたいとは思ってます。
● 私はその度に今後の人生をかけ、そして命をかけ、この問題に取り組んでいきます。
● 多分ハラスメントの問題というのは世界的なもので、それをどこかでやはり表現していかないといけないなと思いますので、僕らは提言にあったように、それにちゃんと正しく向かい、そしてロールモデルを作っていく、これが今後の役割になっていく。
「僕」か「僕ら」といった主語を多用し、まるでスーパーヒーローのように、苦難を乗り越えていく自分を演じているようにも見えてしまいました。大岡越前調の話し方にも若干の自己陶酔感がうかがえたわけですが、その極め付きが、「夢や希望を握り潰された彼らと夢を諦めた僕とで、しっかり対話をするということがいいのかな」という一言です。
師匠であるジャニー氏の行動を「鬼畜の所業」と切って捨て、「愛情はない」と断言しただけに新社長就任にあたり強い責任感を抱いているのでしょう。他に引き受け手がなく仕方なくこの難役を担うと心に決めたため、という側面もあるのかもしれません。ただ、どこか上から目線の発言の数々に違和感を覚えた人は少なくなかったでしょう。
一方のイノッチの発言は一つひとつが気づかいとやさしさにあふれ、心からの本音に聞こえました。
● 僕はジュニアの子たちにいつも「(お客さんが)どんな気持ちでライブに来てくださってるのか。何日も前からチケットを取って、高いお金を払って飛行機を取って。髪をセットしておしゃれして来てくださることを1からちゃんと考え直してステージに立ちましょう」と言っております。手作りのうちわを作ってくれたりとか、精いっぱい力の限り応援してくださっていて。
● 権力を持ってしまうことはあり得る話じゃないですか。ですから、そこは最初からすごく気をつけています。(中略)ですから僕かそれか僕の部下が権力を持たないような仕組みっていうのは、皆で考えていかなきゃいけないなと、常日頃話し合っております。
といったように「謙虚」で、ファンやジュニアの子供たちの視点に立った発言が目立ちました。常に相手の気持ちをくみ取り、寄り添う、という姿勢がにじみ出るエピソードの数々。
相手視点に立ち、高い共感力をにじませたイノッチと、「強い自分」アピールに徹し、ある種の男気、侠気をにじませるヒガシの対比があまりに鮮烈だったわけですが、現代のリーダーシップに最も、欠かせないと言われているのは実は前者の「共感力」です。
「ヒガシ流リーダーシップスタイル」は果たして通用するのか。ジャニーズ事務所への逆風は弱まるどころか、さらに強まっており、その行く手は極めて厳しいものとなるでしょう。
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コミュニケーション戦略研究家・コミュ力伝道師
「伝説の家庭教師」と呼ばれるエグゼクティブ・スピーチコーチ&コミュニケーション・ストラテジスト。株式会社グローコム代表取締役社長。早稲田大学政経学部卒業。英ケンブリッジ大学国際関係学修士。米MIT比較メディア学元客員研究員。日本を代表する大企業や外資系のリーダー、官僚・政治家など、「トップエリートを対象としたプレゼン・スピーチ等のプライベートコーチング」に携わる。その「劇的な話し方の改善ぶり」と実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれる。2022年、次世代リーダーのコミュ力養成を目的とした「世界最高の話し方の学校」を開校。その飛躍的な効果が話題を呼び、早くも「行列のできる学校」となっている。
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(コミュニケーション戦略研究家・コミュ力伝道師 岡本 純子)
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