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これを知れば、わが子の感情に振り回されなくなる…児童精神科医が解説「子どもが癇癪を起こす本当の理由」

プレジデントオンライン / 2023年9月15日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

子育てをしていると、子どもの「怒り」に振り回される機会が急増する。怒りを手放すことができたら、どんなに楽だろうか。しかし、子どものアンガーマネジメントをテーマにした絵本『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』を監修した児童精神科医の岡田俊さんは「怒りは人間が生きていくために必要な感情。子どもの心を育むうえでも大切に扱うことが必要だ」という――。(聞き手・沖本敦子)

■怒りは、人間の自然な感情

子どもとの時間が増える夏休みなどの長期休暇は楽しくもありますが、子どもの癇癪(かんしゃく)や要求に疲れ、つい感情的に子どもに怒り返してしまった……ということも少なくないと思います。子育てをしていると、「怒り」という感情に振り回される機会が増えますよね。

新井 洋行(著)、岡田 俊(監修)『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』(パイインターナショナル)
新井 洋行(著)、岡田 俊(監修)『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』(パイ インターナショナル)

「怒り」は、自分の心が傷つけられたときや、自分の立場が脅かされたときなどに生じてくる自然な感情のひとつ。怒りの感情を抱くことは人間にとって自然なことですから、それ自体は何も問題ではありません。動物には闘争・逃走反応(fight-or-flight response)が備わっていますから、恐怖や不安に襲われると、脳が「闘うか、逃げるか」を瞬時に判断して反応が起こります。

ただ、人間は高次なコミュニケーションをする生き物なので、怒りに対処するさまざまな方法を身につけています。自分が感じた怒りをそのまま相手に攻撃としてぶつけてしまうと、相手との関係性が崩れたり、トラブルが発生してしまうことがあるためです。

■子どもが癇癪を起こしやすい理由

そもそも子どもが怒ったり、癇癪を起こしやすいのには理由があります。それは養育者を困らせてやろうとか、悪いことをしてやろうと思っているからではありません。まだ幼いために、自分の感情や欲求を吟味して、言葉で表現することが苦手だからです。子どもは大人と違って、言語化や人間関係を構築するスキルが未発達で、発展途上であるということは、まず理解しておきたい点です。

心身ともに発達の途上にあって、まださまざまなことが思うようにできないというのも理由のひとつでしょう。絵を描く、ものを作る、言葉で伝える、何かを追求する――子どものなかには表現したいものがたくさんあふれています。でも、それが今の自分のスキルでは上手にできない。それがもどかしく、怒りという表現につながることもよくあります。

何よりも、子どもは庇護されるべき存在ですから「わかってほしいのに、わかってもらえない」とフラストレーションを感じたときに、それを怒りで表現することがあります。こわい、つらい、寂しい、甘えたい、あるいは、困難が生じている今の状態を解決するために手助けをしてほしい、信じていたのに裏切られた――子どもが成長する上で、フラストレーションを感じる場面は常にあるわけです。そういった気持ちを大人にわかってもらったり、慰めてもらったりという受容を通じて、心が落ち着いたり、安心したりという経験を、赤ちゃんの頃から数えきれないほど繰り返していく。その積み重ねが、子どもの心の器を広げていきます。

■怒りの対象は信頼している人

実際に癇癪を起こして泣きわめいている子どもをよく観察してみると、一見「怒り」だけが前面に出ているようでありながら、その奥には「悲しい」「不安だ」「怖い」「理解してほしい」などのさまざまな感情が複雑に入り交じっていることがわかります。怒りはネガティブに捉えられがちですが、自分自身を守ると同時に、他人とコミュニケーションを取るために大切な感情でもあるのです。

その証拠に、私たちは見ず知らずの人に怒りを爆発させるということはあまりありません。自分を理解してくれていたり、受けとめてくれる相手に対して、怒りという感情が湧き上がってくる。そのベースには信頼や期待、甘え、親しみが存在しています。自分にとって必要な相手とさらに関係性を構築したい、より深く理解してほしいという思いがあってこそ、怒りという感情が生じるのです。

つまり、子どもが怒りをぶつける相手というのは「コミュニケーションを取りたい、より自分を理解してほしい」と望む、その子にとって大切な人ということになります。だからこそ、そういう相手に怒りを爆発させてしまうと、本来は自分にとって大切な人を傷つけてしまうわけですから、罪悪感や悔しさにさいなまれ、子どもの心が深く傷つくわけです。

■爆発の手前にある「本当の気持ち」

とはいえ、怒ってばかりの子どもに辟易としたり、火に油で子どもと衝突してしまい、途方に暮れるのが子育ての日常です。でも、少し立ち止まって考えてみましょう。その子の怒りの奥底に「自分を理解してほしい、コミュニケーションを取りたい」という欲求が存在していることを理解するだけでも、対応が少し変わってくるかもしません。

子どもの怒りが爆発する手前のところに、「本当の気持ち」が存在しています。たとえば「妹や弟と同じように甘えたい」という気持ちがあって、それが叶えられないときに怒りが爆発してしまう。その気持ちを理解して受けとめてあげることで、子どもの気持ちは楽になります。

私が監修した絵本『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』のなかにも「いかりはね、きづいてもらえないことが なにより きらいなんだ」という言葉が出てきます。大人でも、自分が怒っている本当の理由や怒りの声にちゃんと耳を傾けられていないことが多い。そこを受け止めないままに、怒りを無理やりに収めたり、自分のなかから追い出そうとすると、怒りが本来伝えようとしている大切な感情に向き合えなくなってしまいます。

大人でも、自分の怒りを正確に把握できないことはある。まして子どもには難しいこと。
大人でも、自分の怒りを正確に把握できないことはある。まして子どもには難しいこと。出典=『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』(パイ インターナショナル)

養育者からしたら理不尽で無理筋な言い分でも、その理由を理解したり、お互いの本当の気持ちを共有したりという経験を何度も重ねることで、子どもは自分の思いを伝え、相手から受け入れられることを学び、他者への信頼を育んでいきます。それもまた心の器を少しずつ大きくしていくことにつながります。そういった意味では、親子の衝突も、学びにつながる第一歩になることがあります。

■過度に心配しなくても大丈夫

それでも「うちの子は他の子に比べて怒りっぽい」と心配になる親御さんもおられるかもしれません。でも、怒りは子どもにとってありふれたものであり、心の成長に必要な感情です。子どもは感情をぶつけ、それを親に受容されることで、他者や社会への信頼感を育んでいくのです。

なかには、自分が子どもの思いに十分に応えていないから、子どもが怒ってばかりなんだと思う養育者もいるかもしれません。しかし、自分の子育てに問題があるとか、適切な対応ができていなかったんじゃないかと思い悩んでも事態は変わらないのです。怒りを心のうちにとどめる力が、まだ子どもには足りないだけかもしれません。むしろ、子どもが親に対して素直に怒りをぶつけられない状況のほうが、信頼関係を育んだり、受容されたりする機会を失っているとさえ考えられます。

たとえ一見ずっと怒ってばかりのように見えても、子どもはそれぞれ着実に成長し、その段階ごとの課題に直面しています。成長とともに、怒りの感情が発生する原因も複雑になっています。それは子どもの属する世界が広がっている結果で、ある意味では喜ばしいことでもあるのです。

子どもは怒りの受容を繰り返してもらいながら、心を成長させていく。出典=『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』(パイインターナショナル)
子どもは怒りの受容を繰り返してもらいながら、心を成長させていく。出典=『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』(パイ インターナショナル)

■年齢とともに形を変える「怒り」

子どもは、年齢ごとに怒りの表現が変わります。幼い頃は「おもちゃ買って」などと癇癪(かんしゃく)を起こしますが、それは怒りというよりコミュニケーションの一手段。小学校の中学年から高学年になると、真正面から怒りを表すことが増えてきます。中学生以降になると、現実への不安や不満、怒りが内在化するようになり、怒りが怒りのまま素直に出るというより、不機嫌や口をきかないという形に表現方法も変わってくることが多いでしょう。

子どもが怒ってばかりいることを不安に思うのではなく、その子の怒りの理由を踏まえて寄り添い、それぞれの成長段階で直面している問題に対して、サポートをするという視点で関わってみるのもいいかもしれません。

もちろん、親御さんも仕事や家事に忙しく、ご自身のことでもすでに大変ですから、怒っている子どもに怒り返してしまうことはあるでしょう。そのことで「保護者失格だ」なんて思う必要はありません。多くの子育て中の家庭で、それはありふれた光景です。怒ってしまったからといって、大切な人との関係性は直ちに崩れたりしません。大切なのは、その後のフォローです。お互いに感情を受容しあうことで、関係性は深まっていきます。

■親失格なのではなく助けが必要

ただ、親だけが子どもに対し、一方的で強い怒りを日常的にぶつけていると、子どもはおびえて、次第に自分の感情を親に伝えなくなっていきます。そうすると、自分の不安や緊張を親が支えてくれるというバランスが崩れてしまう。親から受容され、子どもの心が育っていくという機会が失われてしまいます。

気がつけば、養育者自身が怒りの気持ちをコントロールできなくなり、激しく子どもをなじっていたり、手を上げてしまっていたりということもあるかもしれません。自分の子育てが、もはや虐待なのではないかと心配になることもあるでしょう。子育て中は、得てして孤独になりがちなものです。そうして、どんどん悪循環に陥っていくことがあります。そういうときは、養育者自身が心のゆとりを取り戻すこと、子育てについて一緒に考えていける相談者や相談機関を持つことが大切なのです。

第三者機関は、幼稚園や保育所、学校、子育て支援センター、かかりつけの小児科、児童精神科など、親御さんご自身が行きやすいところからスタートすればいいと思います。そこには必ず専門家がいて、状況に応じて、子どもの支援を一緒に考えてくれます。

■子育ての難易度はそれぞれに違う

子育てというのは、みな等しく同じではありません。子育ての大変さは、人によって全然違います。例えば発達障害のある子どもを育てている親御さんは、「どうしてうちの子はこうなの? 自分の育児はどうしてうまくいかないの?」と自問自答しながら、苦しんでおられることが多いものです。

また現代は、昔のように子どもを何人も育てている家庭は少ないので、比較対象がなく客観的な目で見ることができません。でも、じつは人一倍大変な、難易度の高い子育てをしている可能性もあります。子育て失格なのではなく、難しい子育てに取り組んでいる、実はがんばりやさんかもしれません。しかし、ときに「うまくできてあたりまえ」にされてしまう子育て。その大変さを本当に理解して、ほめてくれる人はなかなかいないものです。

さまざまなことがわからないまま、一人きりで右往左往するのは苦しいこと。今の状況を専門家と一緒に確認することで、親御さんの心にも余裕が生まれ、お子さんにとって必要なサポートを前向きに考えられるようになると思いますよ。

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岡田 俊(おかだ・たかし)
児童精神科医、博士(医学)
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部部長。国立精神・神経医療研究センター病院にて児童精神科外来を担当。京都大学医学部を卒業。同大学院医学研究科博士課程(精神医学)を経て、京都大学医学部附属病院精神科神経科、同デイケア診療部、名古屋大学医学部附属病院親と子どもの心療科での勤務を経て、2020年より現職。特別支援学校、児童相談所、知的障害者福祉施設などでも勤務している。著作に『子どものこころの薬ガイド』(日本評論社)、『発達障害のある子と家族によりそう 安心サポートBOOK』(ナツメ社)他。絵本『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』(新井洋行 パイ インターナショナル)では監修を務める。

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(児童精神科医、博士(医学) 岡田 俊 聞き手=沖本敦子)

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