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「あなたはどうしてそうなの!」は逆効果。公共の場で癇癪を起こした子がすんなり落ち着く"声かけフレーズ"

プレジデントオンライン / 2023年9月16日 13時15分

新井 洋行(著)、岡田 俊(監修)『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』(パイ インターナショナル)

子どもの癇癪や理不尽な要求にイライラして、怒鳴ってしまい自己嫌悪。子どもは子どもで、怒ってばかりいる自分に自信が持てずに苦しそう。子どものアンガーマネジメントの絵本、『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』を監修した児童精神科医の岡田俊さんは「怒りを爆発させず、自分の心のなかにぽんと浮かべておけるようになるといい」という――。(聞き手=沖本敦子)

■怒りっぽい子にしてあげられること

子どもが怒りっぽく、癇癪(かんしゃく)がひどい場合に、養育者から「夜遅くまで動画ばかり見ていて、やめさせるのに一苦労」というお話を聞くことがあります。近頃の子どもは、ゲームやネット以外の生活のバリエーションが乏しいことが多く、日常生活や学習課題に取り組みにくいと、それがそのままネットの時間につながっていくのです。これさえ何とかできればと養育者が考えるのはもっともですが、無理やりゲームや動画を取り上げるのは、新たな癇癪の原因になるばかりか、有効でない場合が多いものです。反対に日常生活の工夫を行うなかで、結果としてネット以外の時間が増えてきたとしたら、大成功です。

特に一定以上の年齢になると、「あれはダメ、こうしなさい」と生活を細かく管理するのにも無理が生じます。一歩引いて、もっと大枠のところで、「自分が子どもに十分な安心感を与える源になれているか」という視点で考えてみることが大切です。子どもは、まだ独り立ちできない弱い存在であり、自分ひとりでは解決できないことがたくさんある状況で生きています。そのなかで親や先生など、たくさんの人に助けてもらったり、守られたりして、毎日を安心に暮らしているわけです。

養育者が子どもに安心感を与えられていると、子どものなかに怒りの感情が起こったとき、その気持ちを養育者に伝えることができる。養育者はその感情を受けとめて、支えることができます。子どもの怒りや癇癪をなくそう、直そうとするのではなく、怒りの手前に隠された、その子の本当の気持ちを理解しようとする。そうやって子どもの気持ちを尊重してあげる機会を積み重ねることで、子どもは安心感のなかで、自分の怒りを少しずつコントロールできるようになっていきます。

怒りの奥には、伝えたい本当の気持ちが隠れている。
怒りの奥には、伝えたい本当の気持ちが隠れている。出典=『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』(パイ インターナショナル)

■報酬や脅しで子どもの怒りに対応しない

子どもが怒りを爆発させてしまったとき、もっとも大切なのは、それに輪をかけて怒りを爆発させ、火に油を注がないことです。また、子どもの怒りを無理に抑え込んだり、その場を収めるための報酬や脅しを与えないことも大切です。報酬を与え続けると、子どもが怒りを爆発させる場面が増えますし、脅しは子どもが反発するので逆効果になります。さらに言うと、そのような養育者の言動が子どもの行動のモデルになり、その言動によって、養育者がさらに頭を悩ませることにもなるのです。

もうひとつ大事なのは、子どもが公共の場で怒りを爆発させた場合の対応です。周囲の視線が冷たく感じられて追い込まれ、よくないことだと知りながらも、つい子どもに手を上げてしまったり、怒鳴りつけてしまったりしたことのある人もいるでしょう。本当はそんなことをしたくなかったのにやってしまった場合、その後につらく悲しい気持ちになります。罪悪感にさいなまれて、子育ての自信やエネルギーを失ってしまう場合もあります。世間は世間、毎日悩んでいる養育者の努力や苦しみをわかっているわけではありませんから、周囲を気にしすぎないようにしましょう。

子どもが癇癪を繰り返している場合、「また始まった」と絶望的な気分になると思いますが、その感情を言動に反映させず、ひと呼吸おいて肩の力を抜いてください。子どもの怒りが収まるまでには、ある程度の時間がかかりますから、視線が気にならないところへ移動して、落ち着くのを待ってもいいでしょう。あるいは、他人の目を気にしすぎず、その場で堂々とやってもいい。暴言にはあえて反応せず、子どもが落ち着く瞬間(ほめるタイミング)が来るのを待ち、ご自身の気持ちを整えてみてください。

子どもが落ち着いたら、まず落ち着けたことを評価します。叱るよりもほめるほうがいい行動を引き出せるからです。それから子どもが怒っていた理由を一緒に確認して、共感してあげることが大事です。もちろんうまくいかないことも多いと思いますが、何かひとつでもできたら評価し、スモールステップを積み重ねていくことが大切です。

■コーピング行動で怒りの爆発を防ぐ

私が監修した絵本『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』では、すぐに怒りを爆発させてしまうポポリに、「ゆっくり10かぞえる」「みずをのむ」「あさたべたものをおもいだす」など、いくつかのコーピング行動(ストレスに対処するための行動)を勧めています。

何かあったときにとっさに沸き起こる怒りというのは、自分の「本当の感情」ではなくて、動物に備わった「闘争・逃走反応(fight-or-flight response)」の表出でもあります。怒りの第1波をコーピング行動でやりすごしたあとに、怒りの奥に含まれている「本当の気持ち」に向き合える。怒りは非常にすばしこいですから、爆発する前に「怒りのしっぽをぐっとつかまえ、少しの間やりすごす」ことが大切です。そのためには、強い怒りが発生した瞬間に、気持ちを他に向けることで爆発を防ぐ「コーピング行動」を取れることが、本人にとっても助けになります。

怒りの爆発を防ぐためのコーピング行動の例。
怒りの爆発を防ぐためのコーピング行動の例。出典=『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』(パイ インターナショナル)

絵本で紹介しているのは、あくまで例ですから、この通りでなくてもいいんです。大事なのは、いろいろな工夫について思いをめぐらせ、その子なりのやり方を見つけること。私の診察室でも、怒りが抑えきれなくなると突然歌い始めたり、決まったフレーズを呟く子もいれば、体に洋服をぎゅっと巻きつける子もいる。お母さんの二の腕にさわると落ち着くという子もいます。

「そんなことするのやめなさい」ではなく、それがその子にとってのコーピング行動であることに気づきましょう。あるいは、その子が落ち着くためのコーピング行動を一緒に探してあげましょう。怒りを爆発させないでいられた場合には、その子が自分で落ち着けたことを評価して、ほめてあげてください。

最初はうまくいかないことのほうが多いでしょう。でも、一進一退で練習を重ねていくうちに、少しずつできるようになっていきます。やがて、子どもが自分で怒りのしっぽを捕まえて爆発を回避できるようになると、「自分で対処できた」という自信が安心感につながっていきます。

■怒りを外在化させることの意味

絵本のなかにはさまざまな「怒りの理由」が、かいじゅうたちの姿とともに一覧で出てきます。これは怒りという感情に、本人とは別のキャラクターを与えることで、客観的に見られるようにするためです。

本人の人格とは切り離し、怒り自体を外在化することで「怒ってしまうあなたが悪い」ではなく、「怒りんぼさんが、あなたにくっついちゃったね。取ってあげるために何ができる?」というアプローチが可能になる。保護者の方も、子どもの人格を傷つけたり、おとしめたりすることなく、対処することができるようになります。

怒りの原因カタログ。絵を見ながらだと、対話の糸口も見つけやすい。
怒りの原因カタログ。絵を見ながらだと、対話の糸口も見つけやすい。出典=『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』(パイ インターナショナル)

「今あなたに取りついちゃったのは、どのかいじゅうかな? そのかいじゅうは何に怒っているの?」などと絵を見ながら話せば、会話の糸口も見つけやすくなります。本人の気持ちは話しづらかったとしても、「このかいじゅうは、こんなふうに思っていると思う」などと子どもが少しずつ気持ちを言語化できるようになると、怒りが爆発する頻度が少しずつ減っていきます。

感情の言語化というのは、練習が必要です。繰り返し自分の気持ちを言葉にすることで、自分のなかにいろいろな感情があるということを知り、それを相手に伝えることができるようになります。このスキルは大人になってもずっと有効です。

■怒りは怒りのまま存在していい

コーピング行動で怒りを小さくしても、怒りという感情自体は、完全には消えません。絵本では、怒りを無理になくそうとせず、宙に浮かべて放っておく方法をすすめています。

怒りのまっただなかにいるときは、なぜそういう感情が湧いてくるか、本人にも明確にはわからない。なんとか怒りを消そう、追い出そうとしても、人間の感情はそんなに都合よくできていませんから、すぐには切り替わりません。すると、いつまでも怒っている自分が情けなくなり、無力感によって怒りがさらに増し、傷ついて落ち込んでしまいます。

怒りは怒りのまま存在していいのです。そのまま、ぽんと自分の心のなかに置いておく。怒りを爆発させて誰かを攻撃しない限り、怒りが存在し続けていても問題はないわけです。まずは「怒りを感じている自分はだめだ」と、自分を情けなく感じる気持ちや罪悪感を取り払い、気持ちを楽にすることが大切です。

怒りを完全に解消しようとせず、ただ宙に浮かべて置いておく。
怒りを完全に解消しようとせず、ただ宙に浮かべて置いておく。出典=『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』(パイ インターナショナル)

これは強い不安に襲われているときも同じです。不安をなくそうとしても、どんどん次の不安を探しにいってしまいます。でも、心のバランスが回復すると、その問題は解決する必要がないものだったり、そのままでも気にならないことだったりします。ですから、不安が高まっているときは、その不安ごと宙に浮かべておき、気持ちの消耗を防ぐというアプローチが有効なのです。

■小さな成功体験を積み重ねていく

コーピング行動や、感情の外在化や言語化といった怒りのコントロールを子どもに促すために、養育者にできることがあるとすれば、子どもが怒ったり、癇癪を起こしたりしたときに「どうしてあなたはそうなの!」という形の切り返し方をしないことです。

「あなたがそんなに怒っているのは、きっと何か理由があるに違いない。何があったの?」と、子どもの気持ちに寄り添って聞いてあげてください。「なんで怒るの!」「やめなさい」などと頭ごなしに言うと、責められるように聞こえたり、叱られたように感じてしまいます。怒りの理由をきちんと聞いて、「なるほど。そんな状況だったら悔しいよ。怒ってしまうのも無理ないよね」と、本人の気持ちに共感してあげると、子どもは少しずつ落ち着いてきます。

お互いにイライラして、スムーズにいかないことも多いと思いますが、「このやりとりを通して、子どもとの信頼関係を築いている」と考えて、小さな成功体験を重ねてほしいと思います。子どもが怒らずに、気持ちをコントロールできたときは「自分で上手に落ち着けるようになったね」とほめてあげてください。子どものなかで自信が積み上がっていきます。

■ペアレント・トレーニングを学ぶ

こうした子どものへの対応に役立つのが、「ペアレント・トレーニング」です。ペアレント・トレーニングとは、環境などを調整しながら、保護者が「子どもをほめることをベースにした養育スキル」を学ぶためのプログラムです。ペアレント・トレーニングによって、子どもの問題行動が改善され、養育者のストレスが減ることなどが、さまざまな研究によって明らかになっています。特にADHDの子どもに有効で、推奨プログラムとして治療のガイドラインにも載っています。

ペアレント・トレーニングでは、子どもの行動を「好ましい行動」「好ましくない行動」「許しがたい行動」の3つに分けます。「許しがたい行動」とは、例えば他人に暴力を振るう、道路に飛び出すなど危険なもので、これは即座に制止するのがルールです。でも、宿題をしない、食事に文句をつける、ゲームをやめないなどといった「好ましくない行動」については、その行動を強化しないようあえて取り合わずに、ほめるタイミングが訪れるのを待ちます。反応しないのはその行動に対してのみで、子どもに話しかけられたら返答しましょう。その後、宿題などのやるべきことを始めたり、逆にやってはいけないことをやめられたら、すかさずほめます。ほめることで、よい行動を増やすことができるからです。

また、子どもに「いいかげんにして!」などと、遠くから否定的な感情とともに抽象的な声がけをするのではなく、CCQ(Calm, Close, Quiet)で、子どものすぐそばに行き、落ち着いた静かな声で、具体的な指示を出すなど、効果的な声がけについても学びます。

息子の頭をなでる父親と手を叩いてほめる母親
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■医療機関での実施が望まれるが

ADHDの治療では、まずペアレント・トレーニングなどの心理社会的な治療を行い、それでも効果が見込めない場合に薬物療法を行うというように、治療ガイドラインにも書かれています。しかし現在は、ほとんどの医療機関でペアレント・トレーニングは実施されていないのが現状です。

その理由のひとつに、診療報酬の問題があります。ペアレント・トレーニングを実施するためには、それを行う部屋や、実施者としてトレーニングを受けた専門家が必要です。しかし、診療報酬が認められていなければ、環境の問題も含め、どうしても普及しにくいのです。私が所属している国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所では、医療従事者を対象とした「医師におけるペアレント・トレーニング実施者養成研究」を行っており、現在もペアレント・トレーニングの普及に努めています。今後は、できれば医療機関で治療の一環としてペアレント・トレーニングが受けられるようになるのが理想です。現段階では、自治体などの講座を受けるか、または本などを読んで行うしかありません。

■子育てチームの仲間を増やす

子育てをするうえで、養育者自身がメンタルヘルスを保ち、心に余裕を持てるようにすることは大切なことです。子育てに困難を感じることがあれば、「あきれられるかも」「叱られるかも」などと心配しないで、保育所や幼稚園、学校、子育て支援センター、児童相談所、児童精神科などの第三者機関に相談してください。特に子どもを過剰に怒ってしまう、虐待的な対応をしてしまうというのは、ご自身がかなり追いつめられている状態ですから、ぜひ専門家にアドバイスを求めましょう。

子育てをしていると、子どものことを思うあまり、自分からは見えなくなってしまう景色があります。ひとつのエピソードでも、角度を変えると違って見えてくるものがある。信頼できる第三者とつながることは、子どもを養育者とは違った角度から見て、新しい解釈を与えてくれる育児のチームメートを増やすことでもあります。そうすることで、家族間の誤解が解けたり、子どものよい面が見えてくるでしょう。

これまでお話してきたように、怒りの感情には意味があります。怒りという感情を深く知ることで、その裏にある自分の本当の気持ちに気づいたり、何らかの行動を起こし、状況を変えるきっかけにもなります。怒ってばかりのご自身やお子さんを情けなく思うのではなく、その奥に隠されたメッセージに耳を傾け、ご自身やご家族にとって必要な支援に出合っていただきたく思います。

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岡田 俊(おかだ・たかし)
児童精神科医、博士(医学)
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部部長。国立精神・神経医療研究センター病院にて児童精神科外来を担当。京都大学医学部を卒業。同大学院医学研究科博士課程(精神医学)を経て、京都大学医学部附属病院精神科神経科、同デイケア診療部、名古屋大学医学部附属病院親と子どもの心療科での勤務を経て、2020年より現職。特別支援学校、児童相談所、知的障害者福祉施設などでも勤務している。著作に『子どものこころの薬ガイド』(日本評論社)、『発達障害のある子と家族によりそう 安心サポートBOOK』(ナツメ社)他。絵本『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』(新井洋行 パイ インターナショナル)では監修を務める。

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(児童精神科医、博士(医学) 岡田 俊 聞き手=沖本敦子)

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