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「出社は月火だけ、水木金は視察という名の旅行」社長が与えた、専務である私のたった1つの役割

プレジデントオンライン / 2023年9月15日 11時15分

土屋 哲雄(つちや・てつお)ワークマン専務取締役1952年生まれ。東京大学経済学部卒業後、三井物産に入社。三井物産デジタル社長、三井情報開発(現三井情報)取締役執行役員などを経て、2012年にワークマン入社。同社常務取締役を経て、19年から現職。 - 撮影=鈴木啓介

「ワークマンプラス」「#ワークマン女子」などの新業態を生み出し、いまや「ワークマン」の顔として知られる土屋哲雄さん。メディアにもたびたび登場し脚光を浴びている人物だ。かつては24時間戦う商社マンとして活躍した土屋さんだが、今では業務時間の多くを“ひとり旅”に費やしているという。聞けば、起床時間は朝2時半、出社は週2日だけ。社外の人とはめったにアポを取ることもなく、受け付けることもない。そんな土屋専務の“型破りな働き方”とは――。

■起床は午前2時半、出社は6時

朝は午前2時半に起き、3時には仕事を始めます。やることは仕事でものを書くか、本を読むかのどちらか。仕事で全国の加盟店や出店候補地を視察に行くことが多いので、そのレポートをまとめるのもこの時間です。出張の日は朝5時に家を出ますが、東京近郊の加盟店に行くときは、6時か7時くらいまで自宅で書き物か読書の作業を続けることもあります。

読書といっても、趣味の読書というより、仕事に直結する本をノートに取りながら読むのが通例です。今朝はChatGPTに関する本を読みました。電話もメールも入らないので、一日でもっとも集中できる時間です。

出張のない日は午前6時に出社します。ビルの正面玄関は開いていないので、裏口を開けてもらって入ります。とはいえ、私が出社するのは週のうち月曜日と火曜日の2日だけなのですが。午後1時半くらいには仕事を終えます。そして残りの平日3日間は、だいたい全国どこかのワークマン加盟店か出店候補地の視察に足を運びます。つまり、私の仕事の半分以上は視察という名の「旅行」なのです。

■経営者は現場の邪魔だから会社に来なくていい

こんなふうに仕事の多くの時間を会社の外で過ごすのが私の日常です。経営に携わる者が会社にいなくて大丈夫なのかと心配する人もいるかもしれませんが、社長からは「あまり会社に来るな」と言われています。理由は会社に来ると、現場の仕事につい口を出してしまうから。

そもそも上の人間が現場に口を出すとロクなことになりません。上が言うことはだいたい間違っているからです。現場の社員もそう思っているんです。ですが「違う」とは言えない。だから「わかりました」と返事だけはしておいて、自分たちの考えに合わせて指示内容を“曲げ”ているのです。

それで成果が上がると、「○○部長のおかげです」などと上司を持ち上げます。上司がちょこっと口を出すことで、部下にこのようなつまらない手間と気遣いをさせてしまうことを、皆さんは自覚されているでしょうか。本来、現場の人間の考えで動くから成果が出るのです。現場の人間より上司の考えのほうが上回るなんてことはありません。

それがわかっているから、当社の社長も週に1日しか会社に来ません。会社に来ても、口を出さなければいいじゃないかと思うかもしれませんが、人間なかなかそうはいきませんから、来ないのが一番なのです。そういうわけで私は週3で視察に出かけているのです。

■Googleマップで出張先を予習、路線バスを必ず確認

さて、視察には2種類あります。1つは加盟店の視察、もう1つは出店候補地の視察です。前者の加盟店視察は、たとえば売り上げが振るわなくなってしまったお店の立て直しのために、店主の方とお話したり、対策を考えたりします。急激に売り上げを伸ばしているお店にうかがうこともあります。この場合は売り上げアップの理由を探るのが目的です。どちらにしても店主にお話をうかがうことが仕事。商社マン時代には人の話など聞いたこともなく、ひたすら指示だけ出していたのですが、自分も変わったものだと思います。

一方、出店候補地の視察は少し感覚が異なり、主たる目的は現地リサーチになります。初めての土地に行くときは、必ずGoogleマップで予習をします。私たちが出店する場所はだいたい駅から離れた場所にあります。そういう場合は一番に駅から路線バスがあるかどうかを確認し、バスが通っている場所なら、必ずそれを利用します。

現地でバスに乗ると、客層が見えてきます。バスの乗り降りの多さとか、車窓から見える人の往来や道沿いに立ち並ぶ商店の様子で“生きている”商圏か、それとも“死んでいる”商圏かもわかります。

基本的に、ひとりで行動します。複数の人間が動けば、待ち合わせだの、行動計画の立案だのと、ムダな作業が発生します。そういう無駄が嫌なのです。そもそも現地に行ってみないことには予定も立ちません。

大まかな予定は立てますが、現地の状況によって動き方は変わるものですし、そもそもひとりの方が活動の量も幅も増えます。1日3本しかバスの来ないところで、うっかり1本逃すなんてこともあります。東京で立てた予定など、地方では意味がなくなることは多々あります。部下などとても連れていけないのです。

土屋 哲雄(つちや・てつお)ワークマン専務取締役
撮影=鈴木啓介

■足と目と耳を使って町の空気を感じる

かくして全国各地の路線バスにひとり乗り込み移動しています。バスの中では、人が多く乗り降りしたバス停もチェックします。バス停でバスが止まった隙に、車窓から路地の奥の方にも目を凝らしてみたり、行列ができているラーメン店があったら、降りて行ってみることもあります。とにかく足と目と耳を使って、町の空気を感じることを心掛けています。

現地に着いたら、付近の施設や道路の状況をチェックします。「大学通り」とか、「桜通り」など通りの名前も覚えますし、また近くに美術館とか大学があれば見に行きます。

車の交通量も測ります。10分くらい見ていれば1日の交通量がおおむねわかります。1万台以下だと「ワークマン」はいいけど、「ワークマンプラス」はだめとか、1万5000台だと「ワークマンプラス」はいいけど、「#ワークマン女子」はだめ、といったことも経験上、わかっています。

それに加えて大事なのが、道を走る車の速度。車が60キロで走っている道沿いは出店に向いていません。40キロくらいで走行している道ならOK。そんな基準もあります。

■地元の名物を食べ、城にも上る

立地条件や交通事情に加えて重要なのがグルメです。土地の名物は必ず食べますし、名店と言われる店には立ち寄ります。特に重要なのが地元のスーパーやショッピングモールです。必ずのぞいて、客層や品ぞろえをチェックします。

客層はファミリー層がいるかどうかを見ます。高齢者ばかりでは将来の成長が見えづらいですから。スーパーでは「地のもの」を置いてあるかどうかがポイントです。そういうスーパーには人が集まります。その分、来店客が見込めるのです。

じつは「#ワークマン女子」の場合、お客さんのほとんどが、「ついで買い」です。「ワークマン」や「ワークマンプラス」だと、お客さんは男性ですから、お店を目的に来てくれますが、女性は忙しいので“ついで”がないと店に来てくれません。

ですから近くに人気のパスタ屋さんがあるとか、品ぞろえのいいスーパーがあることはとても重要なのです。

地域にお城があれば、お金を払って上ります。お城は眺めのよい場所に建っていますから、上れば町が見渡せます。つまり商圏が一望できるのです。福井では国宝の丸岡城に上りましたし、高知では高知城にも上りました。

お城がないところでは、山に上ることもあります。先日、近くに山があったので、100メートルほど上りました。健康のためにも歩くことは厭いません。1日8キロメートルまでは歩けます。ですから荷物は最小限に留めます。持ち物は下着の替えくらい。それも1泊分です。

予定外に2泊以上になったら、宿で洗濯します。傘も持ちません。私はふだんから雨靴をはいて仕事をしています。ズボンも上着も、合羽の防水素材でできた服です。全部ワークマンの製品です。鞄ごと覆えるタイプのものなので、台風の時以外、雨は気にせずにすみます。

とはいえ気温が30度を超えると、その服では暑くて耐えられないので、着ていく服は慎重に選びます。出発までに5回は現地の気候を調べています。

メモ帳も持ち歩きません。動いている間、メモはとらないからです。視察を終えた後、自分が回った場所をGoogleマップで見返すことで記憶に定着させます。私の視察にはGoogleマップの予習と復習が欠かせないのです。

■経験や知見を超える、プラスの結果が出ることも

こうして自分の行動を振り返ると、極めて遊びに近いですね。しかし現地の空気を感じるとは、こういうことです。こういう動きは、若手には難しいようで、開発担当者が視察に行くと、賑やかなスポットしか見てきません。それで出店の判断を誤ることもあります。

ところが、時には経験や知見を超える結果が出ることがあります。先日、北海道の釧路にある加盟店を訪ねると、裏側に野生の鹿がいるような原野が広がっていました。よくもまあ、こんなところに出店を決めたなと驚きました。私が出店前に視察したとき、難しいだろうというレポートを書いた土地です。

しかしその釧路のお店は、北海道でもダントツの売り上げを誇る店になりました。店舗からそこそこの距離はありますが、北海道でも有数の工業地帯があり、そこから注文が入るようになったようです。

福井で丸岡城の上から町を見たときは、平屋の家ばかりで、2階建てより高い建築物が見当たりませんでした。ここも難しいだろうという弱気のレポートを書いて提出したのですが、結局出店が決まり、今は福井でナンバーワンの店になりました。

■リサーチは、店主の人生を背負っている

このように私の見立てが間違うこともあります。でも嬉しい誤算ならよしとします。ただ、その逆になるのは困ります。私たちの加盟店さんは、家業として営んでくださる方が多いのです。ワークマン全店のうちおよそ半分は、そのお子さんがお店を引き継いでいます。そしていずれその半分がさらにご家族に引き継がれるでしょう。

つまり私たちは、数十年間のお付き合いになることを前提に加盟店を選ぶのです。選んだからには、そのご家庭が長らく暮らしていけるお店にする責務が私たちにはあります。ご家族の人生を背負っているとの思いがあればこその真剣な旅なのです。

こうして毎週出かけていられるのも現場を担当者に任せているからです。私は原則、社外の人には会いません。出店の際も、私が交渉に参加することはありません。すべて現場の担当者に任せています。儀礼の挨拶なども受けませんし、こちらからもお願いしません。

ですから起きている時間の100%が、自分の時間です。朝2時半に起きる生活ができるのも、夜の付き合いがないからです。商社に勤めていた頃には、考えられない生活です。

当社の社長は、「100年の競争優位だけ考えてくれればいい」と言っています。商社マン時代には時計の秒針を見ながら仕事をしていた私ですが、今は年間カレンダーを見ながら、路線バスの旅を続けています。

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土屋 哲雄(つちや・てつお)
ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。著書に『ホワイトフランチャイズ』(KADOKAWA)がある。

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(ワークマン専務取締役 土屋 哲雄 構成=大島七々三)

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