「虫1匹殺さずにトンネルを掘れ」レベルの無理難題…リニア憎しで「残土置き場」を否定する川勝知事の行政音痴
プレジデントオンライン / 2023年9月15日 7時15分
【左】9月5日の定例会見で環境影響評価法を逸脱した発言を繰り返した川勝知事【右】9月6日開催の静岡市リニア環境影響評価協議会で県の主張に反論した難波市長 - 【左】静岡県庁、筆者撮影【右】静岡市役所、筆者撮影
■元側近の静岡市長が真っ向から反論
リニア中央新幹線の妨害を続ける静岡県の川勝平太知事が、リニア南アルプストンネル静岡工区の工事で発生する残土置き場の建設を巡って、予定地の燕沢(つばくろさわ)付近の選定が不適格であり、残土置き場計画を見直せとJR東海に迫っている。
これに対して、元県副知事で県リニア対策本部長だった難波喬司・静岡市長が2023年9月6日、「燕沢付近に問題はなく、現在地のツバクロ残土置き場計画を前提に議論すべき」と真っ向から反論した。
リニア問題の対応で静岡県、静岡市の溝が深まっていることが明らかになった。
燕沢付近の残土置き場について、静岡県は県の環境影響評価条例の手続きを根拠に、JR東海の保全計画に地元の理解が得られないなどとして同意しない姿勢を示してきた。
大井川下流域の島田、焼津など複数の自治体が絡む「水問題」とは違い、残土置き場に関係するのは静岡市のみ。その地元の市長が燕沢付近を認める方針を示したのだ。
そもそも環境影響評価法がJR東海に求めているのは、「調査、予測の結果を踏まえ、個々の事業者にとって実行可能な範囲内で環境への影響をできる限り回避し、低減する」観点で、「リニア事業に伴う環境影響の程度を明らかにすること」だと難波市長は説明した。
■「環境影響評価」を理解できない川勝知事の「行政音痴」ぶり
今回、難波市長が同法を根拠に静岡県の主張が間違っていると反論したことで、川勝知事のリニア妨害のシナリオに大きな穴が空いた。
9月6日に開かれた静岡市リニア環境影響評価協議会で、石川英寛・県リニア対策本部長代理(県政策推進担当部長)は、河川法を根拠に難波市長へ異議を唱えた。
石川本部長代理の異議に対して、難波市長はずさんな法律解釈を厳しく批判した。
今回の論点も、「深層崩壊」(表土層だけでなく、深層の風化した岩盤も崩れ落ちる現象で、自然環境に大きな被害をもたらす)は、JR東海の残土置き場があるなしにかかわらず起きる自然災害であり、もし、「深層崩壊」を問題にするならば、JR東海ではなく、大井川上流部の河川管理者である静岡県が役割と責任を担うことが当然であるというものだ。
それにもかかわらず、「深層崩壊」対策を事業者のJR東海の責任になすりつけしてしまう川勝知事のデタラメぶりについては、8月21日のプレジデントオンライン「静岡県の仕事もJRになすり付け…リニア妨害のためなら「残土置き場」にもケチつける川勝知事の“知事失格”」で詳しく伝えた。
本稿では、難波市長と石川本部長代理とのやり取りなどから、静岡県の主張は単に川勝知事のリニア妨害のシナリオに沿った底の浅いものであること、さらに「環境影響評価」を全く理解できない川勝知事の“行政音痴”ぶりをわかりやすく伝える。
■残土置き場は燕沢を前提に話を進めてきた
難波市長は6日の協議会で、JR東海から市に提出された「環境影響評価準備書」について、標高約2000メートルに予定した「扇沢」付近の残土置き場は山体崩壊の危険性から回避するよう求め、「燕沢」付近は周辺の地形などを適切に把握し、場所の選定および構造に配慮を求める意見書を提出したと説明した。
さらに、ツバクロ残土置き場の安定性、安全性について調査するよう求め、その後もツバクロを含めた残土置き場ごとの管理計画を同市と協議した上で作成し、将来にわたって適切に管理することなどをJR東海に要望している。
つまり、これまで現候補地の燕沢付近を前提に議論を重ねてきたのだ。当然、静岡県も同様の見解を示していた。
■突如として「自然災害リスク」をやり玉に挙げだした
ところが、8月3日の県リニア専門部会で、塩坂邦雄委員(株式会社サイエンス技師長)が「地震や豪雨により大規模な土石流等が発生し、ツバクロ残土置き場の周辺で天然ダム(河道閉塞)ができるおそれがあり、この天然ダムが崩壊した場合、ツバクロ残土置き場の盛り土が侵食され、下流側に影響を及ぼすリスクがある」などと、燕沢の位置自体に問題があると指摘した。
さらに「広域的な複合リスク」として、同時多発的な土石流等が発生するリスク、対岸の河岸侵食による斜面崩壊の発生リスクまで課題として、JR東海に対策等を検討する必要があるとも述べた。
塩坂氏の「下流側に影響を及ぼすリスク」の「下流側」とは、約5キロ離れた椹島(さわらじま)周辺を指している。南アルプス登山基地の椹島周辺は集落などから遠く離れた山間にあり、人家などは全くない。そこからさらに約10キロ離れた下流には中部電力の畑薙第一ダムがある。
万が一、残土置き場が崩壊するような事態になったとしても、土石流等は最悪でも畑薙第一ダムでせき止められるから、2021年の熱海土石流災害とは違い、人的被害などは考えられない。
このため、JR東海は県専門部会で、ツバクロ残土置き場について、後背地の「深層崩壊」が起きるかどうかの調査を行い、安全性、安定性を確認した上で、降雨による崩壊防止策や耐震能力に優れた残土置き場の構造などを説明している。ただ、難波氏のように法律、条例に基づいた反論は事業者の立場ではできなかった。
県専門部会を受けた8月8日の会見で、川勝知事は、塩坂氏らの意見のみをうのみにし、燕沢付近に「深層崩壊」が起きる可能性があることを理由にツバクロ残土置き場が不適格だと主張した。
■静岡市長「県は河川管理者の責任を放棄している」
このような状況の中で、9月6日に開かれた静岡市の協議会は、県の想定する「深層崩壊」に起因する「広域的な複合リスク」が焦点となった。
難波市長は「河川管理者である県が、現時点で、ツバクロ残土置き場なしの大井川最上流部の安全性がどのような状態であるかを示すことが必要である」とした上で、「それを行うことなく、『広域的な複合リスク』への環境保全措置をJR東海に求めるのは、その妥当性には疑問がある」と述べた。
つまり、難波市長は、広域的な複合リスクを問題にするならば、ツバクロ残土置き場がない状況で、静岡県が責任をもって土砂災害対応などの河川管理の役割を果たすべきだと主張したのだ。
これに対して、石川本部長代理は「河川法のたて付けでは、河川管理の主眼は流水に置かれていて、土石流や斜面崩壊を考えるようになっていない」と反論した。
難波市長は「(21年に県管理の逢初川流域で)熱海土石流が起きていてよくそんなことが言えますね。河川管理者の責任を放棄している」と厳しく批判。「河川管理者の責任を認めないならば、世間的に評価されない。あまりにもひどい回答だ」と叱責(しっせき)した。
難波市長の強い口調に、石川本部長代理は「もう一度、国交省に聞いて河川法を確認してみる」と逃げた。
■県にもできないことをJRに求める川勝知事
大井川の場合、河口部から島田市神座付近までの約24キロが国の直轄管理区間で、神座付近から最上流部にある東俣ダム(本流)、西俣ダム(西俣川)までの約140キロが静岡県の管理区間である。
ただ、人家等のある神座付近から長島ダムまでが治水、利水、環境を保全する管理区間であり、それより上流部は災害時対応などを取ることになっている。
今回問題になっている最上流部にある燕沢付近で県は通常、何らの河川管理を行っていない。「深層崩壊」の危険性があろうがなかろうが、人家等への影響のない区域では河川管理を行わないのだ。
もし「広域的な複合リスク」を唱え、自然環境への影響を懸念して万全な対策を求めるのであれば、これらの処置は当然県が行うべきであるが、これには莫大(ばくだい)な費用が掛かる。
そのような県でさえ行うことのできない対策を川勝知事は事業者のJR東海に求めたのだ。
■単なる「環境活動家」レベルの主張
難波市長は、リニア議論の根拠となっている環境影響評価手続きを根拠に、事業者のJR東海に「広域的な複合リスク」への対応まで求めることはできない、と説明した。
となると、川勝知事は環境影響評価手続きを全く理解できていないことになる。
直近の9月5日の知事会見でも、リニア工事に関わる環境影響評価手続きを無視した発言を延々と繰り返した。
川勝知事は、国のリニア有識者会議への言及の中で、2014年にユネスコに生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)として登録された南アルプスを引き合いに出し「南アルプスエコパークの生態系を全部保全することが、国際公約ではないか。いわゆる環境影響評価がある。南アルプスの自然を保全することは、環境行政の国家的使命である」などととんでもない発言をした。
ユネスコエコパークは「自然保護と地域の人々の生活(人間の干渉を含む生態系の保全と経済社会活動)とが両立した持続的な発展を目指」すもので、あらゆる開発を禁止するものではない。
この発言に疑問を持った読売新聞記者が「県の立場は、生態系を全部保全することなのか」とただした。
いつものように回答をはぐらかしたため、中日新聞記者が再度、「県の立場は、生態系の全部を保全することがゴールなのか」と追及した。
川勝知事は「生態系を保全するのは、国策であり国際公約です。それをないがしろにするというか、揺るがすようなことを(国の有識者会議)座長が言うべきではない」と行政トップにあるまじきトンデモ発言をしてしまった。
これでは知事は単なる環境活動家と同じである。
■環境に固執しすぎると県の公共工事すらできなくなる
このため、6日の静岡市環境保全協議会で、難波市長はまず、「環境影響評価」とは何かを説明した。
事業者のJR東海に求められるのは「実行可能な範囲で環境への影響をできる限り回避し、低減する」ことであり、「生態系の全部を保全する」(川勝知事)完全な環境保全措置など環境影響評価手続きの範疇(はんちゅう)にはない。
そんなことをJR東海に求めれば、リニア工事そのものができなくなるのは当たり前である。それどころか、県の公共事業すべてができなくなる。
そんな簡単なことを川勝知事は理解できないで、素人受けするきれいごとを繰り返してリニア事業の妨害をしているだけだ。
■すべては「リニア妨害のシナリオ」に沿ったデタラメ
行政分野の知識が著しく欠如する川勝知事は、リニア妨害のシナリオに沿って、デタラメな回答を行うことしかできないのだ。
今回、石川本部長代理は、まさに川勝知事の“代理”役を務め、行政権限を逸脱した川勝発言と同じデタラメでごまかしたから、難波市長に批判され、新聞等で世間的な恥をかく結果となった。
今後も、静岡市環境影響評価協議会で、燕沢付近の妥当性を主張する難波市長に対して、石川本部長代理は、川勝知事と同じデタラメを繰り返すしかないのだろう。
このままでは静岡県政の信頼性は完全に失われ、笑いものになるだけだ。
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ジャーナリスト
ウェブ静岡経済新聞、雑誌静岡人編集長。リニアなど主に静岡県の問題を追っている。著書に『食考 浜名湖の恵み』『静岡県で大往生しよう』『ふじの国の修行僧』(いずれも静岡新聞社)、『世界でいちばん良い医者で出会う「患者学」』(河出書房新社)、『家康、真骨頂 狸おやじのすすめ』(平凡社)、『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)などがある。
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(ジャーナリスト 小林 一哉)
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