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歴代総理より一流企業の総合職のほうが高学歴…日本の政治家が「海外では考えられない低学歴」になったワケ

プレジデントオンライン / 2023年9月16日 9時15分

初閣議を終え、記念撮影する岸田文雄首相(前列中央)と閣僚ら=2023年9月13日午後、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

政治家にはどんな学歴が求められるのか。評論家の八幡和郎さんは「先進国の指導者の多くが輝かしい学歴の持ち主だが、近年の日本の総理大臣はそうではない。国内トップクラスの学歴と知力と専門知識、そして高度な国際経験を持つ人材が指導者でなければ、あらゆる分野で世界の最先端から遅れてしまうだろう」という――。

■最後の「東大卒・元官僚」は宮澤喜一氏

大統領や首相など国の指導者は、すべての職業の中でも、最高の知力、専門知識、職業経験を必要とする仕事のはずである。実際、米国はハーバード大学、英国はオックスフォード大学、フランスはフランス国立行政学院(ENA)の卒業生が多い。

日本でも、戦前の首相は帝国大学出身の官僚か職業軍人が原則だったし、戦後も昭和が終わるまでは官僚、弁護士、ジャーナリストなどが多かった。

第78代内閣総理大臣 宮澤喜一氏(首相官邸HPより)
第78代内閣総理大臣 宮澤喜一氏(首相官邸HPより)

ところが、平成になると地方政治家が多くなり、やがて世襲政治家の天下になった。最後の東京大学法学部出身で元官僚の宰相は、1991年に就任した宮澤喜一である(93年に退任)。

それ以降、上智大学出身の細川護熙以降の最終学歴は、成城大(羽田孜)、明治大(村山富市)、慶應大(橋本龍太郎)、早稲田大(小渕恵三)、早稲田大(森喜朗)、慶應大(小泉純一郎)、成蹊大(安倍晋三)、早稲田大(福田康夫)、学習院大(麻生太郎)、東京大工学部(鳩山由紀夫)、東京工業大(菅直人)、早稲田大(野田佳彦)、法政大(菅義偉)、早稲田大(岸田文雄)だ。

※大学名は現在の名称に統一

■トップクラスの知力の持ち主とは言いがたい

学歴が一人ひとりの知的水準をそのまま表しているわけではないにしても、全般的に見たとき、諸外国の指導者のほとんどが、自国におけるトップクラスの学歴と知力、一般教養、専門知識を持っているのとは大違いだ。上記の総理大臣の学歴リストは、たとえば、一流企業総合職採用の出身校の分布より低レベルなのではないか。

上記のなかで、知力では東京大学工学部卒の鳩山由紀夫が群を抜いているのだろうが、器用な受験勉強的秀才で、一般教養を深めた風情でない。細川護熙は近衛家の伝統につながる公家的で特殊な教養人だ。安倍晋三は地頭の良さは間違いないが、本当にまじめに本を読んで勉強したのは、第1次政権で大失敗して下野してからという印象がある。

これから詳しく分析するように、戦前から戦後にかけての歴代首相が、旧制高校から帝国大学、陸軍士官学校・海軍兵学校から陸軍大学・海軍大学、さらに、ほとんどが海外留学・勤務の経験を持っていたのと比べ、劣化が激しいのである。

■江戸時代は恐るべき低学歴社会だった

歴史的経緯を振り返ると、江戸時代の日本には高等教育機関は存在しなかったし、科挙もなかったので、恐るべき低学歴社会だった。藩校も低レベルの漢学を教えて中国語の読み書きはできるようになったが、あとは、少しばかりの歴史や論理的思考をつまみ食いしていただけだ。

庶民が学べる中等教育学校はなく、家庭教師か私塾くらいしか学ぶ方法はなかった。ようやく幕末になって学問ブームが起き、適塾(大阪)、咸宜園(豊後日田)、松下村塾(萩)などが現れ、さらに慶應義塾に至って高等教育機関らしくなった。幕府、各藩が競って洋学校も設立した。

明治になると、帝国大学(最初は東京だけ)のほか、外国人教官を呼んで留学準備や初歩的な学問を教える学校、軍の学校が設立されたが、体系的な学校制度となったのは、1890年前後からだ。連続テレビ小説「らんまん」で主人公が帝国大学に出入りし始めたのは1884年で、そのころは、外国人教官が留学帰りの日本人に置き換わりつつある時期だった。

■海外事情に精通していた明治時代の首相たち

明治時代の首相はいずれも維新の功労者であり、近代学校制度ができる前の人たちだが、伊藤博文をはじめ、海外留学や数カ月以上の長期視察で海外の事情をしっかり勉強した国際人ばかりだった。例外は、海外渡航経験ゼロの大隈重信だが、もともと長崎の英語学校出身だし、耳学問で世界に通じていた。

大正から終戦までは、首相は帝国大学出身の官僚か職業軍人ばかりとなり、私学出身者は慶應大学出身の犬養毅(ジャーナリスト。少し公務員経験もある)だけ、官僚経験がないのは、旧制一高から京都大学で学び、25歳で貴族院議員となった近衛文麿だけだ。そして、ほとんどが海外留学・勤務の経験者だった。

戦後は旧軍人が排除され、官僚出身者(幣原喜重郎、吉田茂、芦田均、岸信介、池田勇人、佐藤栄作、福田赳夫、大平正芳、中曽根康弘)が主体になった。そのほか、東京大学出身の弁護士(片山哲、鳩山一郎)、早稲田大学出身のジャーナリストだった石橋湛山、高等小学校卒で工務店経営者だった田中角栄、それに、明治大学在学中から長期の洋行を繰り返し卒業直後の選挙で代議士となった三木武夫がいた。

■総理候補になるだけでも高いハードルがあった

このころ総理大臣候補になるには、たとえ学歴や官僚経験がなくとも、官僚出身者が多い政界で、十分に政策論で対抗する能力が必須であり、外務大臣、大蔵大臣、通産大臣のうちふたつを経験することが総理の条件と言われたこともあった。

だが、大平正芳が現職のまま死去して、妥協の産物として水産講習所(現東京海洋大学)出身で重要閣僚経験がない鈴木善幸が総理になってから、学歴も重要ポストの経験も問われず、政治的な駆け引きと大衆人気だけで総理が決まるようになった。

古典的な官僚出身者である中曽根康弘の後は、はじめての県議出身だった竹下登、同じく宇野宗佑、議員秘書出身の海部俊樹が続き、宮沢喜一以降は先述の通りだ。親が政治と関わりがなかったのは、村山、菅直人、野田だけである(菅義偉の父は町会議員)。

■英国・フランスの指導者の「華麗なる学歴」

一方、海外ではどうだろうか。もっともエリート主義的なのは、英国とフランスだ。英国では、サッチャー以降の9人の首相のうち、7人が「THE世界大学ランキング」7年連続1位のオックスフォード大学卒で、例外は高校中退のメージャーとエディンバラ大学歴史学科のブラウンだけ。

オックスフォード大学の記章
写真=iStock.com/georgeclerk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/georgeclerk

フランスは、エリート官僚養成校であるENA(国立行政学院、現在は改組されてINSP)出身者が、ジスカールデスタンからマクロンまで6人の大統領のうち4人を占めている。例外はいずれも弁護士出身のミッテラン(ENA設立以前の世代)とサルコジ(ENAの登竜門であるパリ政治学院を終了できなかった)だけだ。

米国では、大学より大学院が問題だが、平成以降に就任した6人の大統領のうち4人(ブッシュ父子、クリントン、オバマ)が、エリート校であるハーバード大学、イェール大学や大学院に何らかの形で在籍していた。例外は、トップクラスのビジネス・スクールであるペンシルベニア大学ウォートン・スクール出身者のトランプと、中の下クラス(小室圭氏のフォーダム大学より下位に位置づけられる)であるシラキュース大学ロースクール出身のバイデンだ。

ドイツの場合、すべての大学が同じ基準で単位を与える仕組みなので、大学名からは学力・知力を判断できないが、コールとメルケルは博士、シュレーダーとショルツは弁護士である。

■指導者の低学歴は日本の悪しき伝統

ゴルバチョフ以降のソ連・ロシアの指導者を見ると、ゴルバチョフは最難関であるモスクワ大学、プーチンとメドベージェフは名門レニングラード大学(現サンクトペテルブルク大学)の法学部。エリツィンはウラル工科大学の建築科、ミシュスチン首相もエンジニアだ。

中国の国家主席では、江沢民は上海交通大学、胡錦濤と習近平はいずれも清華大学出身のエンジニアである。首相も李鵬、朱鎔基、温家宝がエンジニアで、李克強は北京大学法学部、李強は農業エンジニアである。社会主義国ではエンジニアが経済運営の中心にあることの伝統を引き継いでいるといえる。

卒業式の授与式で着る式服をまとった女性
写真=iStock.com/nirat
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nirat

このようにまとめてみると、いかに日本の歴代総理の学歴が低レベルであるかが理解できるだろう。指導者の低学歴というのはこの国の悪しき伝統であり、政界に限った話ではない。

江戸時代の教育水準が高かったとかいう人がいるが、仮名(かな)というものがあるので低レベルながら読み書きができる人が多かっただけだ。武士は藩校で九九すら教えられなかったから、プロの官僚ないし軍人の役割は果たせず、勘定方とか兵法学者といった世襲の職人集団が担っていた。

■日本人の留学熱、学習意欲はすっかり冷めている

戦前の旧制高校は一般教養を学ぶにはよかったが、帝国大学で初歩的な専門知識を得た後、官僚になってから仕事や海外勤務での見聞を通じて海外事情についての知識を補った。軍人も軍の大学で学部レベルの勉強はするが、その後、海外で武官として最新知識を得た。

戦後の官僚や企業幹部も、国内では大学院に進まず、大学院レベルの学びは海外留学に頼っている。経済産業省作成の資料によると、日米の時価総額上位100社の経営者のうち、日本では84%が学部卒で大学院修了は15%。米国は67%が院卒で、博士課程修了者も1割いる。

しかも、留学組が政界でも経済界でも優遇されているかといえばそうでもない。さらに、日本人の留学熱はすっかり冷めている。

明治初期は留学熱がすさまじかったのに、国内の教育体制が整備され、そこそこの勉強ができるようになると、それで満足してしまった。

■日本が世界の最先端から遅れてしまった理由

そしていま、同じことが起きつつある。私(1951年生まれ)たちの世代から今世紀初頭までは留学熱が高く、競って海外の有名大大学院へ行ったし、留学先は喜んで「新しい超大国」になった日本人を官民問わず受け入れてくれた。

しかし現在、米中対立で少し歯止めがかかってはいるが、欧米の名門大学では日本人が減り、中国人など他のアジア系の学生だらけになっている。こんな状態では、日本はあらゆる分野で世界の最先端から遅れてしまう。

もちろん、日本では本人の能力や職歴より、誰の子どもかのほうが総理大臣の道に進めるかどうかの決め手になるから、政治家の子どもの留学熱が高いのは歓迎したい。だが、これまでは、箔付けと語学を学ぶことが主目的となり、修士や博士になることはオマケ扱いだった。小泉純一郎、麻生太郎、安倍晋三などがそうだ。

■総理大臣の低学歴化が影響しているのではないか

内閣改造後の新閣僚では、河野太郎が日本でなく米ジョージタウン大学卒、上川陽子、西村康稔、伊藤信太郎、加藤鮎子が米国の大学院を修了している。総理候補と言われる茂木敏充、林芳正、小泉進次郎、玉木雄一郎なども同様だ。留学ブームだった世代が閣僚適齢期になった反映である。

「日本はもはや先進国ではない」と言われて久しいが、国の指導者である総理大臣の近年の低学歴化・海外経験の乏しさが影響しているように思えてならない。

「総理大臣はかつてのように東大卒を主にすべき」というわけでないが、激動の国際情勢や金融情勢についていくには、少なくとも国内トップクラスの学歴と知力と専門知識を持ち、さらには高度な国際経験を持つ政治家、あるいは、学歴はなくとも彼らと議論して負けない政治家が総理候補となるのが望ましいだろう。

*本稿の内容の一部は『日本の政治「解体新書」 世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱』(小学館新書)でも指摘している。

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八幡 和郎(やわた・かずお)
徳島文理大学教授、評論家
1951年、滋賀県生まれ。東京大学法学部卒業。通商産業省(現経済産業省)入省。フランスの国立行政学院(ENA)留学。北西アジア課長(中国・韓国・インド担当)、大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを歴任後、現在、徳島文理大学教授、国士舘大学大学院客員教授を務め、作家、評論家としてテレビなどでも活躍中。著著に『令和太閤記 寧々の戦国日記』(ワニブックス、八幡衣代と共著)、『日本史が面白くなる47都道府県県庁所在地誕生の謎』(光文社知恵の森文庫)、『日本の総理大臣大全』(プレジデント社)、『日本の政治「解体新書」 世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱』(小学館新書)など。

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(徳島文理大学教授、評論家 八幡 和郎)

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