50歳前後のひきこもり10年間に両親他界…弟とも音信不通の孤独な還暦独身女性が頼った"200万円の他人"
プレジデントオンライン / 2023年9月15日 11時15分
■ひきこもり期間中に両親を亡くした61歳独身女性の孤独
首都圏に住む吉田美穂さん(仮名・61歳)は、親が遺してくれた家で、ひとり暮らしをしている。40代半ばから50代半ばにかけて、うつ病に苦しみ、自宅に引きこもりがちの生活を送っていた。
心配しつつも、温かく見守ってくれていた両親は、ひきこもり期間中に立て続けにこの世を去ってしまった。最期まで、吉田さんの「今後の生活」を心配してくれた両親のために、人生の再出発を決意。現在はパートを掛け持ちして働いている。
親が家を遺してくれたおかげで、家賃負担はない。パート収入内で、赤字を出さずにやりくりはできているが、自分は天涯孤独の身であると感じている吉田さんは、入院や介護の不安にどのように対処したら良いのか悩み、著者に相談を持ちかけてきた。
[家族構成]
吉田美穂さん(仮名・61歳)
[収入と資産の状況]
月収:パートの掛け持ちで11万~13万円
年金(63歳から):月4万円程度
年金(65歳から):月10万円程度
資産:約1400万円(900万円は親の遺産、500万円は正社員だった時に貯めた貯金)
[家計の状況]
収入(手取り) 11万~13万円
支出
食費 2万5000円
光熱費 2万円
電話代 3000円
日用雑貨 8000円
趣味費 7000円
交通費 2000円
被服費 3000円
交際費 5000円
国民年金保険料 1万7000円(滞納期間があったため)
国民健康保険料 8000円
医療保険料 8000円
合計 10万6000円
別途、固定資産税が年に10万円弱必要
■30代で結婚するも3年で破局 結婚生活も仕事も失った
吉田さんは大学卒業後、一般企業に勤め、20年ほど働いた。その間、仕事関係で付き合いのあった男性と30代後半の時に結婚をしたが、3年で破局。結婚生活がうまくいかなかったことや、仕事での人間関係に行き詰まり、次第に心の状態が悪くなった。仕事を継続することができなくなり、40代前半で退職をした。
退職してからしばらくは、自宅療養をしていたが、1年後に契約社員として、再び働き始めた。ところが、その仕事でも職場の人間関係に悩み、2年ほどで退職。その時点で吉田さんは40代半ばを迎えていた。
契約社員の仕事を辞めてからの吉田さんは、外出することもままならなくなった。途中、アルバイトをしようと試みるも、数日で行けなくなり、結果的に10年くらい、ひきこもり生活を続けることになってしまった。
■両親を亡くしパートで生計を立てるように
吉田さんがひきこもりを続けているあいだに、両親とも他界。二人とも、吉田さんの今後の生活についてずっと心配をしてくれていた。親が存命中に、再び働くことはできなかったが、50代半ばを迎えた頃から、少しずつ社会復帰ができるようになり、現在は住まいから自転車で通える範囲の飲食店2店でパートとして働いている。
1店目はランチタイムで週に5回、もう1店はディナーの時間帯に週に2~3回の勤務。どちらの店舗も2~5時間程度と、勤務時間は短く、不規則だが、1つの店舗で長く働くと、人間関係などで行き詰る可能性があると考えて、現在の勤務スタイルを選んでいる。
前述の通り、家賃の負担がないことから、月々の生活費は収入内で収まっている。手取り月収は11万~13万円に対して、支出は食費2万5000円、水道光熱費2万円のほか、国民健康保険料などで計10万6000円。
滞納していた期間の国民年金保険料も1万7000円弱支払っているが、63歳からは「特別支給の老齢厚生年金」が受け取れるため、年金を受け取りはじめたら、国民年金保険料の支払いはストップする予定。国民年金保険料の支払いがなくなれば、パート収入内でいくばくかの貯蓄ができる予定で、特別支給の老齢厚生年金を受け取っても仕事はやめず、年金は貯蓄していくつもりだそうだ。
■入院や施設入居の際、保証人がいない問題に直面
親の遺産900万円を含む資産1400万円があり、パートの仕事を手に入れて、この先もしばらくは働けそうな吉田さんだが、現在の心配ごとは、天涯孤独だと感じていること。2歳下に弟はいるが、もう20年くらい会っておらず、正確な住所もわからない。弟にはひとり息子がいるものの、離婚して、元妻が引き取ったとのこと。
吉田さんは甥が幼かった時に2~3回会ったきりで、社会人になっている甥とは、会っても顔がわからないだろうという。弟とも縁が切れているような状況では、自分が大病を患ったとしても、自分の面倒を見てくれる人がいない。そのことを、今の吉田さんはとても不安に感じている。
実際に吉田さんは、2年前、体調を崩して入院したことがある。その際、入院の保証人を求められたが、「誰もいない」というと、入院する際に少しもめたそうだ。ソーシャルワーカーの人があいだに入り、入院に関する手続きを手伝ってくれて、事なきを得たのだという。
その時は3日間ほどの入院ですみ、退院の手続きも自分でおこなえたそうだが、「もし今後、救急車で運ばれたり、長期間の入院が必要になったりしたら、身元保証人のいない自分は、入院することもままならないのではないか」という恐怖に襲われたのだという。
■入院や施設入居の際に身元保証人を担ってくれる会社
おひとりさまの入院や施設入居の際に、身元保証人の代わりを務めてくれる身元保証会社や団体がある。
「身元保証会社と契約を結んでおけば、入院する際も病院に駆けつけて、必要な手続きをしてくれたり、病状の説明を一緒に聞いてくれたりしますよ」と吉田さんに伝えると、「ぜひ、話を聞いてみたい」とのこと。
そこで今回は、数ある身元保証会社の中から、筆者が5社ほど選び、吉田さんに直接話を聞きに行ってもらった。そのうちの3社は吉田さんに同行して、筆者自身も身元保証会社からの説明を受けた。
身元保証会社が提供するサービスには、スタンダードな基準がないので、各社が提供する身元保証などの生前契約は、少しずつカバー範囲が異なっている。吉田さんは入院する場合の身元保証人になってくれるだけではなく、病状説明などを一緒に聞いてくれたり、通院に付き添ってくれたり、治療についての意向を事前に登録できる身元保証会社を選択した。
また、亡くなった後に必要となる手続きに対応してもらうために、葬式のプランを選択し、死後事務についても委任することにした。吉田さんが身元保証と死後事務の契約にかかった費用は、合計で200万円ほど。身元保証会社に費用を支払ったことで貯蓄が減ってしまったが、パートを70歳くらいまでは続けて、減ってしまった分の貯蓄をリカバリーしようと、吉田さんは考えているそうだ。
実際に身元保証会社と契約した吉田さんは、こう話した。
「畠中さんに名前を挙げていただいた5社を実際に回ってみて、各社が提供しているサービスには少しずつ違いがあることがわかりましたし、自分が求めているサービスは何かを整理することができました。200万円という費用は、自分にとって安くない負担ですが、いざというときには病院に駆けつけてくれる人がいる安心感を得られました。今までは天涯孤独ということで、入院やら施設入居にただただ怯えていましたが、自分にできる努力をしたことで、いざというときの不安がかなり軽減しました」
■預託金の管理方法は契約前にきちんと確認を
ひきこもりの高齢化が社会問題となる中で、相談者の中にも、親亡き後を迎えている子供が増えている。兄弟姉妹がいても、仲が悪かったり、疎遠になっているケースが多く、いざというときに助けてもらえるとは限らない点も気がかりだ。
そのようなケースでは、身元保証会社と生前に必要になるさまざまな事務契約を結んだり、任意後見契約を結んだりする方法を検討できる。
身元保証会社の中には、生活保護を受けている人のためのプランを提供している会社もある。生活保護を受けている人の場合、葬儀代(直葬)は自治体が負担してくれるが、生活保護ではカバーできない部分(主に身元保証)に対応してくれる。費用も一括ではなく、積み立て方式で支払えるようになっている。
身元保証会社や団体は、全国に400社以上あると言われているが、数年前に日本最大級の身元保証会社が経営破綻をして、社会問題化したことがあった。
葬儀代を合わせると、まとまった金額を預けることになるので、預けたお金(預託金)はどのように管理されているのかについては、必ず確認すべき事項と言える。
預託金の管理方法については、第三者機関を設立していたり、弁護士法人に預けていたり、信託銀行に預けて分別管理していたりと、会社によってまちまちである。死後の事務まで委任するわけだから、預託金の管理方法については、しつこいくらい尋ねることをお勧めする。
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ファイナンシャルプランナー
「働けない子どものお金を考える会」「高齢期のお金を考える会」主宰。『お金のプロに相談してみた! 息子、娘が中高年ひきこもりでもどうにかなるってほんとうですか? 親亡き後、子どもが「孤独」と「貧困」にならない生活設計』など著書、監修書は70冊を超える。
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(ファイナンシャルプランナー 畠中 雅子)
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