「頭が悪い」と貧乏で不幸になりやすい…人生に成功する人と失敗する人をわける「キャラ格差」とは
プレジデントオンライン / 2023年9月16日 10時15分
※本稿は、橘玲『人生は攻略できる』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。
■子どもが無意識につくりあげる「自分らしさ」
「自分らしさ」とはなんだろう。その特徴は、なにが「自分らしい」か訊かれてもうまくこたえられないけど、「自分らしくない」ことはすぐにわかるし、その判断になんの迷いもないことだ。――ファッションが好きなら「自分らしくない服」は一瞬で判断できるはずだ。
これは、君が「自分」を知らなくても、無意識は君が何者なのかちゃんと知っている、ということだ。この無意識を、ここでは「スピリチュアル」と名づけよう。
スピリチュアルは「霊性」とか「精神世界」のこととされるが、「こころのなかの意識できない部分すべて」の意味で使う。研究者によっても意見は分かれるが、脳科学ではヒトのこころの9割(あるいは99%)は無意識すなわちスピリチュアルだとされる。
キャラとは、子どもの頃に友だち集団のなかで(無意識に)つくりあげたスピリチュアルのことだ。ひとはスピリチュアルを意識できないけど、それは一個の「人格」として、好きなことや嫌いなこと、やりたいことややりたくないことにものすごくこだわっている。
■リーダーキャラは政治家や社長を目指す
どんな子どもも自分のキャラを持っていて、それを使って友だちとつき合う。英才教育として天才児を同世代の子どもたちと切り離して育てることがあるが、こういう子どもはおうおうにして、大人になってから人間関係をうまくつくれなくて困難な人生を歩むことになる。これは、自分のキャラを持っていないからだろう。
ここから、世の中になぜいろんな役割(キャラ)があるのかも説明できる。
ぼくはずっと、政治家を目指したり、出世階段を登って会社の社長になろうとしたり、そういう大変なことをするひとがいるのが不思議で仕方なかった。それよりもっと楽に生きられる方法がいくらでもあるのに。
でもこれは、ぼくがリーダーキャラではないからだ。すべての友だち集団に必ず1人のリーダーがいて、彼ら/彼女たちがそのまま大人になっていくのだから、社会にはものすごい数の潜在的なリーダーがいる。このひとたちが頑張っているお陰で組織が成り立つし、社会は回っていくのだ(たぶん)。
■社会に出て「キャラちがい」に悩む人も
同様に、すべての友だち集団に必ず1人の道化役キャラがいるとすると、日本の社会にはものすごい数の潜在的な道化がいることになる。ぼくはこれが、お笑い芸人がこんなにたくさんいる理由ではないかと思っている。――ちなみにぼくは、小学校の頃に何度か転校したことから、「よそ者キャラ」になったのではないかと自分では思っている。
いったんできあがったキャラが変わらないとすると、リーダーだった子は大人になってもリーダーキャラのままだし、道化役だった子は大人になっても道化キャラだ。
でも社会に出ると、リーダーキャラの子が組織の下っ端になったり、道化キャラの子が管理職をやらされたりすることもしばしばある。こうした「キャラちがい」が起きると、ひとはそれを「自分らしくない」と感じるのだ。
「自分らしい」生き方とは、スピリチュアルが納得する生き方のことだ。「自分に素直」でないと、君のスピリチュアルが、「こんなのぼく(わたし)じゃないよ」と騒ぎはじめる。その声が耐えがたいほど大きくなったとき、ひとはすべてを捨てて「自分探し」の旅に出かけるのだろう。
■人格をつくる性格特性「ビッグファイブ」
誰もが一瞬で初対面の相手のキャラ(性格)を見極めて、自分に「合う」か「合わない」かを判断している。つき合っているうちに「最初の印象とぜんぜんちがう!」ということもあるだろうけど、だいたいにおいてこの第一印象は正確だ。いったい何を基準にして、こんなことをしているのだろうか。
心理学者はさまざまな研究を行なって、ひとには大きく5つの性格特性があり、パーソナリティ(人格)はその組み合わせだと考えるようになった。これが「ビッグファイブ」で、「外向的/内向的」「神経症傾向(楽観的/悲観的)」「協調性」「堅実性」「経験への開放性」で構成されている(ただし協調性は「同調性」と「共感力」に分かれる)。
じつはこれ以外にも他人を判断するときの重要な基準があって、それは「知性」と「外見」だ。
■「頭がいい人」は高収入で幸せになりやすい
難しい説明を省略すると、ぼくたちは見知らぬひとと会ったとき、無意識のうちに次の8つ(ビッグエイト)を知ろうとする。
②精神的に安定しているか、神経質か(楽観的/悲観的)
③みんなといっしょにやっていけるか、自分勝手か(同調性)
④相手に共感できるか、冷淡か(共感力)
⑤信頼できるか、あてにならないか(堅実性)
⑥おもしろいか、つまらないか(経験への開放性)
⑦賢いか、そうでないか(知性)
⑧魅力的か、そうでないか(外見)
どうだろう。初対面の相手に対して、ほかに興味を持つことがあるだろうか。逆にいうと、これ以外のことは誰もほとんど気にしないのだ。
「頭がいいかどうかなんて、人生になんの関係もない」というひとが(たまに)いるけれど、残念ながらこれはまちがいだ。知能が人生のパフォーマンスにどう影響するかについては膨大な研究があって、知能が高いほど高学歴で収入の高い仕事に就き、よい配偶者とよい子どもを得て、身体的にも精神的にも健康度が高い傾向があることがわかっている。
なぜならぼくたちが生きているのが「知識社会」だからで、それは言語運用能力や数学・論理的能力が高いひとに大きな優位性がある社会のことだ。
■「リベラル」な人はつき合っていて面白い
「経験への開放性」は好奇心が強いかどうかで、開放性が高いと一人旅をしたり、外国人の友だちや恋人をつくったり、新しい音楽・アート、商品などに強い興味を持つ「リベラル」になり、開放性が低いと変化を嫌い、伝統を尊重する「保守」になる。経験への開放性が高い相手は、アブないこともするけれどつき合っていて面白い。
「堅実性」が高いひとは信用できるから、恋人や友だちはもちろん、会社の上司・同僚・部下など仕事仲間としても最適だ。ただし堅実性が極端に高くなると強迫神経症の傾向が出てくる。
「外向性」は、社交的で、活発で、対人的に自信を持っていることを表わす指標で、リーダーにぴったりだ。それに対して内向的だと、人見知りが強く、おとなしく、他人とのつき合いに自信のないタイプになる。
「神経症傾向」は楽観的か悲観的かの指標で、極端に神経症傾向が強いと神経症(恐怖症、パニック障害)や精神疾患(うつ病)と診断されることもある。逆に楽観的なひとは挫折からの立ち直りが早く、人生の満足度や幸福度が高い。
■「同調性」と「共感力」は必ずしも一致しない
知能が高く、好奇心が強く、外向的で誰とでもきさくにつき合い、堅実で約束を守り、おまけに楽観的で精神的に安定しているのはものすごく魅力的なパーソナリティ(人格)で、社会的・経済的に成功するのはだいたいこのタイプだ。でも内向的だとダメなわけではなく、組織を引っ張るリーダーにはなれなくても、研究者やエンジニア、開業医、カウンセラーなど1人でできる専門職に向いている。アメリカの調査では、裕福なのは外向的な営業マンではなく内向的な専門職だ。
人間は社会的な生き物として組織に同調するようにつくられているが、それでも一匹狼のような生き方を好むひとはいる。でもこうした「同調性」の低いタイプが、「共感力」が低いとは限らない。組織に徹底的に服従・同調するが他人への共感力がないひと(男に多いだろう)もいるだろうし、組織に属さずフリーランスとして働きながら家族や友人に深い共感を示すひと(女に多いだろう)もいるだろう。
「EQ(こころの知能指数)」は共感力の指標で、複雑化する社会ではますます重要になっているとされる。とはいえ、スティーブ・ジョブズのような「天才」はたいてい極端にEQが低い。他人の気持ちや常識など気にしないから、誰もが驚くような創造(イノベーション)が可能になるのだ。
■FBの「いいね!」の数で性格がわかる
「君がどんな人間かはビッグファイブでわかる!」といわれても、「そんなの性格占いとどこがちがうの?」と思うかもしれない。というか、つい最近までぼくもそう思っていた。
でも、そんな疑いを覆す事件が起きた。トランプがヒラリー・クリントンに勝った2016年のアメリカ大統領選で、トランプ陣営がSNSのデータを不正に使って選挙活動を行なっていたのではないかと大騒ぎになった。フェイスブックの「いいね!」からユーザーの性格や政治的立場を予測して、もっとも効果がありそうなグループに広告を流していたというのだ。
ジャーナリストたちが調べてみると、どんなニュースやコメントに「いいね!」しているかだけで、年齢や性別などなにひとつ知らなくても、ユーザーの性格が判断できることがわかった。それも、信じられないような正確さで。
この方法を開発した研究者によると、相手がどんな人間かを予測する能力は、「いいね!」の数が10で同僚、70で友人、150で両親、(わずか)250で配偶者を超えるという。その方法もものすごくシンプルで、ビッグファイブを使った標準的な性格テストの結果を大量に集めて、それと「いいね!」の関係を統計的に解析しただけだ。
■自分のビッグファイブを知る10の質問
このようにして、「ビッグファイブ」がありきたりの性格占いではなく、ものすごく強力な理論であることが証明された。ぼくたちは5つの性格の組み合わせなのだ。
――と聞くと、じゃあどんな結果になるのか知りたいと思うにちがいない。
そこでここで、ビッグファイブのかんたんなテスト(BFI-10)を紹介しておこう。10項目の質問に答えるだけのかんたんなものだが、その結果はより詳しい性格判定基準とほとんど変わらないことがわかっている。
以下の性格を表わす文①から⑩に、1から5の点数をつけてください。
2点=ややあてはまらない
3点=どちらでもない
4点=ややあてはまる
5点=すごくあてはまる
①能動的な想像力をもちあわせている( )
②芸術への関心はほとんどもちあわせていない( )
③ていねいな仕事をする( )
④なまけがちだ( )
⑤一般的に信頼できる( )
⑥他人の欠点を探しがちだ( )
⑦ゆったりしていて、ストレスにうまく対処できる( )
⑧すぐにくよくよする( )
⑨外に出かけるのが好きで、社交的だ( )
⑩遠慮がちだ( )
質問のうち、①と②は「経験への開放性」、③と④は「堅実性」、⑤と⑥は「協調性」、⑦と⑧は「安定性(楽観的)」、⑨と⑩は「外向性」にかかわる。得点の計算は、それぞれのペアごとに奇数番号のスコアから偶数番号のスコアを引き算するだけだ。
「能動的な想像力をもちあわせている」が5(すごくあてはまる)、「芸術への関心はほとんどもちあわせていない」が1(まったくあてはまらない)なら、奇数(①)の5点から偶数(②)の1点を引いて、「経験への開放性」のスコアは「プラス4」になる。
■人格は「周囲のひとたちからの評価の平均」
それぞれの得点は「プラス4」(とても高い)から「マイナス4」(とても低い)まで幅がある。この例では「経験への開放性」は「とても高い」になって、新しいものや珍しいことに強い興味を持っていることがわかる。
あまりにかんたんで子どもだましだと思うかもしれないが、このテストで君の性格が判定できるのは、他人は君に対してこの程度のことしか気にしていないからだ。人格というのは君の内面にあるのではなく、「まわりのひとたちが君をどう見ているのか」という評価の平均だ。
友だちグループは外見だけでなく、パーソナリティが似ている者同士の集まりでもある。自分と性格が似ている相手といっしょにいると、どのような反応をするか予測しやすく、ストレスがなく楽しい。
■結局、自分に合うひとといるのが心地いい
「経験への開放性」が高い者同士だと、最先端のガジェット、突飛なファッション、前衛的な音楽、芸術系の映画から海外の秘境まで、ふつうのひとでは理解できないディープな会話ができる。「開放性」が低い(保守的な)タイプがそんな場に紛れ込んだら、ものすごく気まずい雰囲気になるだろう。このひとたちは、アメリカンフットボール(日本ならプロ野球)をテレビ観戦しながら家族や友人とだらだらビールを飲むような関係が心地いいのだ。
同様に、外向的なひとは活発なグループに、内向的なひとは図書館で長い時間を過ごすようなグループに入るし、同調性が高いひとは、自分たちのグループに同調性の低い(自分勝手な)人間が入ってくることを嫌うだろう。
スピリチュアルは無意識のうちに相手のビッグファイブを読み取って、「好き=自分に合う」か「好きじゃない=合わない」かを判断しているのだ。
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作家
2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎文庫)、『言ってはいけない』(新潮新書)、『バカと無知』(新潮新書)、『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)など著書多数。
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(作家 橘 玲)
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