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宝くじは「愚か者に課された税金」である…世界で最も割の悪いギャンブルに行列を作る人が絶えないワケ

プレジデントオンライン / 2023年9月20日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/makisuke

お金を増やせる人と増やせない人の違いは何か。作家・橘玲さんは「お金持ちになるもっとも確実な方法は経済合理的に行動することだ。世界でもっとも割の悪いギャンブルである『宝くじ』を買い続けているような人は、絶対にお金持ちになれない」という──。

※本稿は、橘玲『人生は攻略できる』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

■宝くじ1等に当たる確率は交通事故死の700分の1

君がこれから社会に出てお金を増やそうと思ったとき、これだけは知っておいてほしい3つのことをざっと書いておこう。

①宝くじは買わない
②マイカーもマイホームもいらない
③ウマい話は君のところにはぜったい来ない

1枚300円で買えるジャンボ宝くじの最高当せん金額は1等と前後賞を合わせて10億円だ。わずかのお金で大きな夢が買えるのだから、こんな素晴らしいことはない――。そう考えるひとたちが、宝くじ売り場に行列をつくっている。

でもここでちょっと立ち止まって、当せん確率を計算してみよう。1ユニットが2000万枚で、1等7億円は1ユニットに1枚だから、首尾よく連番で買ったとしても、10億円が当たる確率は最大で2000万分の1だ。宝くじを毎回3万円分、0歳から100年間購入したとしても、99.999%の購入者は生涯当せんすることはない。それに対して、日本で1年間に交通事故で死亡するのはおおよそ3万人に1人だ。

■宝くじは「愚か者に課せられた税金」

宝くじで1等が当たる確率は交通事故死の約700分の1。ということは、宝くじを20万円分買って、ようやく1年以内に交通事故で死ぬ確率と同じになる。宝くじ売り場に並んでいるひとが経済合理的であれば、自分はもうすぐ死ぬと思っているのだ。

一方、日本の宝くじの期待値(還元率)はおよそ50%で、これは宝くじ代金のうち、賞金として払い戻されるのが半分だけということだ。残りの半分は販売経費を差し引いたうえで地方自治体に分配される。

ラスベガスのルーレットの期待値は95%、カジノでもっとも人気のあるバカラの期待値は99%、競馬などの公営競技でも期待値は75%ある。期待値が50%を下回る宝くじやサッカーくじは、世界でもっとも割の悪いギャンブルだ。

宝くじは税金とよく似ているが、消費税や所得税などとちがって国民全員に課税されるわけではない。宝くじを通じて「税金」を納めているのは、確率を正しく計算できないひとだけだ。そのため経済学では、宝くじは「愚か者に課せられた税金」と呼ばれている。

マネキネコ
写真=iStock.com/TkKurikawa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TkKurikawa

お金持ちになるもっとも確実な方法は、経済合理的に行動することだ。なぜなら市場経済とは、経済合理的なひとのところに富が集中するシステムなのだから。そう考えれば、宝くじ売り場に並んでいるひとがお金持ちになれない理由がわかるだろう。

■なぜヒトはモノを所有したいと思うのか

シェアエコノミーというのは、家とか車とか、いろんなものをどんどんシェアする経済のことだ。ウーバーなどのライドシェアは「4人乗りの車を1人で運転するのはもったいない」、エアビーアンドビーの民泊は「使ってない家や部屋があるなら、旅行者を安く泊めてあげればいいのに」という発想から始まった。その背景には、インターネットなどの急速なテクノロジーの進歩がある。

モノを所有する理由を考えてみると、それは「必要なときにすぐに使えるようにする」ためだ。ペンをみんなで共有していて、メモを書こうとするときに誰が何分間使うかをいちいち交渉しなければならないのなら、ものすごく効率が悪い。だったら、それぞれが自分のペンを所有すればいい。

でも、ペンがいつでもどこでも好きなときに借りられるとしたらどうだろう。誰もペンを所有したいと思わなくなるんじゃないだろうか。

■都市部では「クルマ離れ」が進んでいる

高級ブランドや宝飾品、家具や家電までシェアエコノミーの分野はどんどん拡大していて、いまでは結婚式などパーティに出るとき、ドレスやスーツ、アクセサリーなどすべてレンタルするのも当たり前になった。レンタルやシェアが便利になれば、所有しなければならないものは減っていく。

マイホームと並んで、かつてはマイカーが日本人の憧れだった。でもいまは、東京などの都市部では若者はほとんど車を買わない。駐車場代がもったいないし、使うのは月にせいぜい1度か2度だからだ。以前はレンタカーの手続きが面倒だったけど、いまは近くの駐車場に置いてある車をカーシェアでかんたんに使えるようになった。

■レンタルすればいろんな車に乗ることができる

車の所有よりレンタルが好まれるようになったのは、TPOに合わせていろんな車に乗った方が便利だからでもある。

並んでいる車
写真=iStock.com/Tramino
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tramino

家族でキャンプに行くときは大型SUV、1人で湾岸道路を走りたいときはスポーツカー、近所にちょっと買い物に行くなら軽自動車など、最適な車はそのときどきで変わるけど、すべての車種を自宅にそろえておくのは不可能だ。その結果、ベンツでコンビニに行っておにぎりを買う、みたいなことになってしまう。

AIがどんどん賢くなることで、近い将来、車はすべて自動運転になるといわれている。スマホをいじるだけで、どこでも数分以内に自動運転のタクシーがやってくるようになれば、誰も車を所有しようなんて思わないだろう。

車をシェアするのが当たり前になると、「マイカー」という言葉は死語になる。だとしたら「マイホーム」はどうだろう。

■家もTPOに合わせて借り換える時代に

いまの日本では、むかしのように、ひとつのところにずっと住むことはなくなってきた。

新卒でたまたま入った会社に40年も勤めつづけるひとは、どんどん少なくなっている。20代や30代ならいくらでも転職できるし、国内で移動するだけでなく、海外で働くこともこれから増えていくだろう。そのたびに家を買い換えるわけにはいかないから、会社の近くにアパートやマンションを借りる方がずっとかんたんだ。

結婚して子どもが生まれれば、子ども部屋のある広い家が必要になるだろう。都会では私立学校だけでなく、公立学校も(高校だと)自由に選べるから、第一志望に合格しても家からすごく遠かったりするかもしれない。そんなときも賃貸なら、子どもの学校の近くに引っ越せばいい。

子どもが独立すれば広い家はいらなくなる。年をとって田舎暮らしをしたいひともいれば、便利な都心に住みたいひともいるだろう。人生の最後を高齢者向けの賃貸住宅で過ごすこともふつうになった。

これは社会が流動化し、ひとびとの価値観が多様化してきたからだ。そんな新しい時代には、TPOに合わせて服を着替えるように、ライフステージに合わせていちばんぴったりの家に借り換えていくひとたちが増えてくるだろう。

■それでも不動産を所有したくなる2つの理由

なぜ、これほどまでみんなが不動産を所有したがるのか? いちばんの理由は、農耕社会では土地を所有していないと生き延びられなかったからだろう。「土地を失うことは死ぬことだ」というルールで何千年もやっていると、「土地なんかなくてもなんの不都合もない」という新しい時代に適応できなくて、使い古しの神話にしがみついてしまうのだ。

そしてもうひとつの理由は、「借金すればするほど得になる」という奇怪な理屈を振りかざして、不動産を素人に売りつけることで商売するひとたちがいることだ。

誠実そうな不動産営業マンが君のところにやってきた。彼の話によれば、1000万円のワンルームマンションを買うと年間100万円の賃料を受け取れる。投資利回りは10%で30年間は家賃が保証され、「頭金ゼロ」でも購入資金を銀行が貸してくれる。

ゼロ金利の世の中で、年10%の利回りは夢のような話だ。5000万円借金してこのマンションを5件買えば年500万円の賃料が入るから、それだけで働かなくても暮らしていける。

不動産コンセプト。住宅。建設。
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■本当に儲かる話ならば、独り占めするはず

これを聞いて、「世の中にこんなウマい話があるのか!」と思ったなら、君のはかなり暗い。経済合理的なひとは、ここで次のように考える。

ほんとうにそんな素晴らしい投資機会があるとしたら、不動産会社の社長はなぜそれを自分で独り占めしないのだろうか。銀行からどんどんお金を借りてワンルームマンションを買いまくれば、年10%の利益は保証されているのだから、たちまち大富豪になるだろう。

その答えは次の2つのどちらかだ。

ひとつは、不動産会社は金儲けの振りをしているが、じつはボランティア団体だというもの。彼らはひとびとの幸福のために、自らの利益を犠牲にしてワンルームマンションを売り歩いているのだ。だったらぼくたちは、この慈愛に溢れた人たちに感謝しなければならない。これは「性善説」だ。

もうひとつの解釈は、不動産営業マンが君に勧めるのは、自分ではぜったいに買いたくないクズ物件だからだ。不動産業界にいるプロの投資家たちが見向きもしないから、甘い言葉でド素人の君に売りつけようとしている。こちらは「性悪説」だ。

■不動産の営業マンは「性善説」の例外

ぼくは、はじめてのひとに会ったときは、性善説で信用することにしている。実際にとてもいいひとで、何十年もつき合いがつづくということはいくらでもある。ウソをついていることがわかったり、話がぜんぜんちがっていれば、「そういうひとなのか」と思ってつき合うのをやめればいいだけだ。

でもこの性善説には、ひとつ例外がある。それが不動産や金融関係の営業マンだ。

ほんとうに掘り出し物の物件なら、一人ひとり顧客を訪ねて営業なんてしないだろう。ネットでちょっと告知すれば、「買いたい!」というひとがいくらでも現われるのだから。それをわざわざ、「あなたのためです」なんていうのは、なにか裏があるに決まっている。――事情があって相場よりずっと安い価格で実家の不動産を売りに出した知人がいるけど、不動産業者はそれを懇意にしている顧客にだけ案内し、いちばんいい物件は自分で買った。

■ウマい話はすべて無視すればいい

「ビルから飛び降りろ」「オマエの家族を皆殺しにしてやる」の銀行から多額のお金を借りてシェアハウスに投資したひとたちがいま、自己破産の瀬戸際に立たされている。被害者の多くは30~50代で、一流企業でそれなりの地位にある高収入のサラリーマンや医師が目立つという。でもこれは当たり前で、それなりの社会的な地位がなければ、銀行は大きなお金を貸してくれない。

橘玲『人生は攻略できる』(ポプラ新書)
橘玲『人生は攻略できる』(ポプラ新書)

このことは、「頭が悪いからだまされる」わけではないことを教えてくれる。だまされてヒドい目にあうのは、中途半端に頭のいいひとたちだ。自分に自信があると、「特別な自分には特別なチャンスが来て当たり前」と思ってしまうのだ。投資詐欺の世界では、こういうひとがいちばんのカモだとされている。

悪徳営業マンにだまされて全財産を失うようなことにならないためには、どうすればいいだろうか。その鉄則はとてもシンプルだ。

ウマい話は、君のところにはぜったいこない。ほんとうにウマい話なら、自分で投資するに決まっているから。

だから、ウマい話はすべて無視すればいいのだ。

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橘 玲(たちばな・あきら)
作家
2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎文庫)、『言ってはいけない』(新潮新書)、『バカと無知』(新潮新書)、『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)など著書多数。

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(作家 橘 玲)

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