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ライオン、ワニ、ゾウより多くの人を殺している…年間3000人が犠牲になる「地球最恐の大型動物」の名前

プレジデントオンライン / 2023年9月19日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/zulufriend

■動物園の人気者・カバの知られざる素顔

のんびりとユーモラスに動くカバは、動物園でも人気の動物のひとつだ。だが、自然界で追い詰められると、予想外の攻撃性をむき出しにする。

アフリカの大自然のなかで、人間の半身を呑み込んだり、ボートをかみ砕いて多くの人を死に追いやったりといった事例が報告されている。ライオンを瀕死(ひんし)の状態にした事例もあるようだ。年間推定3000人を殺しており、大型動物としては最も多くの人間を死に追いやっているとする分析すら存在する。

今年5月にも、カバの恐ろしさを強調する事件が発生している。カバの突撃を受けたカヌーが転覆し、23人が行方不明となった。事件が起きたのは東アフリカのマラウイ共和国だ。

AP通信によると、37人を乗せたカヌーが隣国のモザンビークに向かうべく、シャイア川を南下していた。ところがカバの突撃を受けて転覆。1歳児が死亡し、23人が行方不明となった。24時間経っても発見されず、生存は絶望視されている。

英リーズ大学のロクラン・トレイル講師はワシントン・ポスト紙に対し、カバの危険性を強調している。アフリカにいるほかの動物よりも突出して死亡例が多いというわけではないが、「しかし、カバに攻撃され、噛みつかれたり踏みつけられたりすることで、人間が重傷を負う、あるいは死に至ることがあります」。

とくにカバの生息地となっている川や湖において、人間が養殖や釣りを行っている場合、カバの敵対心をあおるおそれがあるようだ。

■カバは「最も攻撃的な動物のひとつ」

カバは草食動物であり捕食のために人間を襲うことはないが、襲われればひとたまりもない。水面から目と鼻を突き出す様子はユーモラスだが、水中には体重4トン、体長は最大4メートル超にもなる巨体が潜む。1日に80キロの草をぺろりと平らげる。

ナショナル・ジオグラフィック誌のイギリス版は、ライオンさえカバに攻撃を受ける場合があると指摘する。「カバはあらゆることを思うがままにする」ため、「地球上で最も攻撃的な動物のひとつ」だという。ワニやライオンなどの肉食動物でさえ、避ける方が賢明なほどだという。

同誌が紹介する動画では、ケニアのマサイ・マラ自然保護区で観察された一幕を知ることができる。4頭の雌ライオンが寄ってたかってカバの尻に噛みつき、爪を立て、必死で仕留めようとする。だが、襲われている側のカバは平然と小走りを続けており、ライオンたちに勝機は見えない。動画は途中で終わっているが、このあとカバは見事に逃げおおせたとナショナル・ジオグラフィックは報じている。

同誌によるとアフリカでは毎年、マラリアを除くどの疫病よりも多くの人間を殺しているという。また、粉砕力は強力で、カヌー本体に噛みつけば真っ二つにへし折ることができるほどだ。

南アフリカ・クルーガー国立公園に生息するカバ(写真=Bernard DUPONT/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons)
南アフリカ・クルーガー国立公園に生息するカバ(写真=Bernard DUPONT/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons)

■年間3000人が犠牲になっている

アフリカの野生動物を解説するウェブサイト「サファリズ・アフリカーナ」は、カバが年間で約3000人の人間を殺していると解説。アフリカにはほかにも危険な動物が多いことから見落とされがちだが、「実のところカバは、アフリカの大型動物のなかで最大の人殺しである」と指摘する。

年間200人が犠牲になっているとみられるライオンや、300人を殺しているワニ、そして500人を死に追いやっているゾウなどを超えて、カバの被害が深刻だという。

■カバはなぜ人を襲うのか

草食動物であるカバが人間を襲うのはなぜだろうか? リーズ大学の博士課程学生であるハンナ・レイシー氏は、ワシントン・ポスト紙に対し、カバの雄は「水中では極めて縄張り意識が強い」と説明している。「(縄張りに入り込んだ)ボートがカバを刺激し、脅威と受け止められることで攻撃を誘発していると考えられます」。

カバは陸上でも活動するが、水深の深い水域は彼らにとって、肉食動物の少ない安全地帯だ。本来安心できるはずの水中のテリトリーにボートが侵入することで、攻撃的な捕食者が近づいてきたと誤解することがあるようだ。

ワシントン・ポスト紙は、カバの住処をボートで通過せざるを得ない場合、あらかじめ大きな音を立てて人間の存在をカバに知らせるよう勧めている。パドルで水面を叩くなどが有効だという。

だが、現地の生活上、根本的にカバと距離を置くことは難しい。トレイル講師は、「残念ながらマラウイ共和国などに住む多くの人々は貧しく、自分たちが育てた食べ物や獲った魚に生活を依存しています」と語る。農作物に最適な土壌や漁場が、偶然にもカバの生息地となっていることが多く、人間にとってもカバにとっても不幸な衝突が絶えないのだという。

■身体の半分を飲み込まれた2歳児

カバと生活圏が近い人々にとって、カバとの遭遇は命がけだ。幼児が半身を呑み込まれ、かろうじて生還した事例が発生した。米CNNが報じたところによると、東アフリカのウガンダ共和国で昨年12月、2歳の男の子が南西部ケイトゥ湖の自宅近くで遊んでいたところ、カバに身体の半分を呑み込まれた。

近くにいた人物がカバに石を投げて威嚇し、ひるんだ隙に男の子を救出したという。男の子は一時入院したが、その後現地警察は、完治して退院したと発表した。

警察は声明を通じ、「野生動物は非常に危険であると心得ておくべき」であると近隣住民に呼びかけている。「野生動物は、本能的に人間を脅威とみなすことがあります。どのようなふれあいであっても、常軌を逸した行動や攻撃的な行動を引き起こすおそれがあるのです」。

■強力なアゴで、ライオンを瀕死の状態に追いやる

追い詰められたカバは、百獣の王・ライオンにさえ牙を剥く。ナショナル・ジオグラフィック誌は、ライオンでも「背後に気をつける必要がある」とし、ライオンを瀕死に追い込んだ事例を取り上げている。

ライオンは油断しているカバの背後から近づいて仕留めようとしたが、すんでのところで気取られたようだ。あっという間に立場は逆転し、ライオンは必死になって逃げようとする。しかし、時すでに遅し。カバはライオンに追いつき、強力なアゴでライオンの頭に噛みついた。カバのアゴは、1平方センチあたり最大70キロの圧力を加えることができる。

ライオンは引き倒されたあと、這々の体で走り去ったが、命はそう長くなかったようだ。内臓が破裂し口から血を流した「瀕死の状態」で発見されたと同誌は報じている。

カバの歯(写真=T-34-85/CC-Zero/Wikimedia Commons)
カバの歯(写真=T-34-85/CC-Zero/Wikimedia Commons)

■地元のガイドすら、カバを避けられられない

成人が上半身を呑み込まれた例もある。生還したこの男性は、幸運を噛みしめているようだ。

CNNによると事件は1996年、ジンバブエでのサファリ・ツアー中に発生した。男性ガイドのテンプラー氏は厳しい認定試験に合格し、誇りを持って観光客に野生動物の世界を案内していたという。「のどかなものでした」とCNNに語る。「ある日の勤務中に、本当にひどい経験をするまでは」。

テンプラー氏は6人ほどの観光客と3人のガイド見習いを引き連れ、3艇のカヤック、カヌーに分乗し、ザンベジ川を下っていた。ナイル川などに続く、アフリカで4番目の大河だ。やがて彼らは、12頭ほどのカバの群れと遭遇する。最初は十分な距離があり安全だと思っていたが、だんだんと近づいてくるようだ。テンプラー氏のカヤックが先導し、2艇目までは脇の水路に逃げ込んだ。だが、待てども3艇目がやって来ない。

「突然、大きな物音がしました」とテンプラー氏は恐怖の瞬間を振り返る。「カヌー、おそらくはその後部のようなものが、空中を舞っているのが見えました」。3艇目の後部に乗っていた別のガイドの男性がカヌーから飛び出し、残りの客は怯えながらカヌーに留まったという。

カバの群れ
写真=iStock.com/KenCanning
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KenCanning

■まるで魚雷のように突進してきた

ガイドの男性は流されるままになっており、150メートルほど下流には子を連れて気の立った母親のカバが待ち構えている。テンプラー氏は観光客の保護を別のガイドに託すと、自らカヌーを漕いで救助に向かった。カバはまるで「古い映画で観た魚雷のように」近づいてくるが、パドルで水面を叩いて威嚇すると遠ざかる。しめたと思った。

だが、流されていた男性ガイドに手を差し伸べた瞬間、2人のあいだに水が吹き上がった。テンプラー氏の視界は水しぶきで完全に奪われ、何が起きたか理解できなかったという。真っ暗で何も見えず、奇妙なほど静かだ。「気がつくとカバの喉の奥に、(頭から)腰まで呑まれていたんです」。カバのアゴは最大で150度と、ほぼ水平に近いまでに開く。

テンプラー氏はCNNに対し、このように語っている。「腰から下は水を感じました。川に浸かって濡れている感覚です。ですが腰から上は別です。温かく、川のようには濡れていませんが、乾いてもいない。そして腰には、ものすごい圧力がかかっていました。体を動かそうとしても動けないんです」

数分間の死闘を演じるなかでテンプラー氏は、カバの中で何度も体勢を変更。助けに来たカヤックにしがみつき、何とか逃げ延びたという。一部始終を目撃していたガイドツアーのメンバーも、しばらくは全員が恐怖に包まれ混乱状態であった。

■飼い主は噛み殺され、川の中で見つかった

身の毛のよだつ事故は絶えない。米FOXニュースは2020年、南アフリカの40歳男性が、ペットとして飼っていたカバにかみ殺されたと報じている。男性はカバを「私にとっては息子のようなものです」と溺愛していた。歯を磨くなどケアをしたり、水中で背に乗って泳いだりして触れあっていたという。

男性は生前、体重900キロのこのカバが「ちょっとだけ危険」であると認めつつ、「誰にも危害を加えないと心の底から信じている」と信頼を寄せていた。しかしある日、男性は川の中で死んだ状態で発見される。身体には、カバに噛まれた無数の痕が残されていた。

アフリカ南部のジンバブエ共和国では昨夏、2人の漁師がカバに襲われた。英ミラー紙が報じている。漁師たちは入り江へとカヌーを進めていたところ、カバの怒りを買ったようだ。偶然現場付近に居合わせたイギリス人観光客は、「そして突如として水面からカバが現れ、前へと突進し、大きな水しぶきが上がったのです」と語る。

カヌーは噛みつかれ、片側が大破した。カバはなおもカヌーの側を離れず、船体を揺さぶったり押しやったりする。漁師たちは必死でバランスを取り、カヌーへの浸水を食い止めようとするも、みるみるうちに水かさが増して進むことができない。目撃した観光客は、ボートの浸水が始まった瞬間、漁師たちの顔に「恐怖が見えた」と語る。

カバがいる川を通る観光船
写真=iStock.com/Delpixart
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Delpixart

■カバは好んで人を襲っているわけではない

漁師にとって唯一の選択肢は、ボートを棄てて危険な水域を横切り、対岸まで泳ぐことだった。現場の川は幅1キロと広大だ。最終的にはほかのボートが救助に駆けつけ、2人は一命を取り留めたという。ワニとカバの住処になっているこの水域で、助かったのは幸運だった。

カバとしても本来は、危険を冒して人間を襲うことはしたくない。人間の生活がカバの生活圏に近接していると、凶暴さを引き出してしまうことがあるようだ。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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