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処理水を「汚染水」として日本の若者に刷り込む…中国発SNS・TikTokを使い続ける重大リスク

プレジデントオンライン / 2023年9月19日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/5./15 WEST

10~20代に人気のSNS、TikTokは中国IT大手バイトダンスが運営している。成蹊大学客員教授の高橋暁子さんは「ユーザー情報が中国政府に共有されるリスクがあるだけでなく、デマが多く投稿されている。放置していると、中国にとって都合の良い情報や主張が、日本の若者に刷り込まれてしまう恐れがある」という――。

■中国のSNSで相次ぐ「反処理水」動画

8月24日、東京電力は福島第一原発のALPS(アルプス)処理水の海洋放出を開始した。ALPS処理水とは、原子力発電所の建屋内にある放射性物質を含む水について、安全基準を満たすまでトリチウム以外の放射性物質を浄化した水のこと。トリチウムは自然界にも存在し、ALPS処理水を海洋放出しても、われわれが受ける放射線影響は自然界から受ける影響の10万分の1未満とされ、安全なものだ。

しかし、処理水を「核汚染水」と呼んで放出に反対してきた中国政府は強く反発し、日本の水産物輸入を全面停止した。中国のSNSでは、中国人の若者が日本の公的機関などに苦情の迷惑電話をかける動画も拡散されている。

東京都千代田区では、放出翌日の25日から28日までに中国の国際電話の国番号「86」から始まる迷惑電話がコールセンターや夜間窓口に相次ぎ、嫌がらせの件数は1000件を超えたという。

■ニュース映像がフェイクかどうかわからない

中国のネットユーザーにおける日本への誹謗(ひぼう)中傷やフェイクニュースが多く投稿されているのが、TikTokだ。TikTokでは、処理水に関する動画が驚くほど多く表示される。処理水関連の動画は、中国版TikTok抖音(Douyin)や微博(Weibo)などにも多数投稿されているようだ。

TikTokにはニュース映像の切り抜きや、中国語や韓国語の現地メディアの切り抜き動画も投稿されている。しかしこれらも、本当にメディア報道を転載したものか、ユーザーに加工されたフェイクニュースかどうかもほとんどわからない状態となっている。

日本国内のメディア報道ならまだ確認できても、中国などの現地メディアの情報となると一般ユーザーでは確認しきれないのではないだろうか。

■「海鮮品を値引きした理由は処理水」?

たとえば、以下のような有象無象の情報が飛び交っている。

「抖音で『ロシアの専門家が日本に水爆を使用する事により、短期間で核廃水を浄化する事ができる』という動画が流行っていた」
「TikTokで、長崎の赤潮発生で養殖魚が大量死したことも処理水が元凶という動画を見た」
「日本のスーパーで閉店時間近くに貼られる値引きシールが映り、海鮮品の値引きの理由を処理水としている動画を見た」

まったく同じ文面を違うアカウントが投稿しているケースも多い。ただのコピペ投稿かもしれないし、すべてがフェイクニュースの可能性もあるし、真実が混じっている可能性もある。少なくとも、一般ユーザーがすべてを確認することはかなり難しいだろう。

■「#処理水」動画は2640万回も視聴されている

表示される動画の中には、処理水は危険ではないと説明するものもあるが、「処理水の海洋放出」として黒い水が海に流れる動画や、色水を薄めて風呂に入れることを繰り返して風呂の水が染まる様子を実験として流している動画など、フェイクニュースや不安感を煽るような動画も多く混じっている。

TikTokでは、9月13日時点で「#処理水」は2640万回、「#処理水海洋放出」は330万回、「#原発処理水」は250万回、「#福島原発処理水」は85万7700回と、処理水関連の動画は驚くほど視聴されている。「#処理水では汚染水」「#処理水じゃねぇ」など、中国側の主張に沿ったハッシュタグもある。

TikTokで「処理水」と検索した結果
写真提供=筆者
TikTokで「処理水」と検索した結果 - 写真提供=筆者

処理水という政治色の強いテーマの動画がTikTokでこれほど多く視聴されているのはなぜだろうか。そこにはSNSならではのカラクリがある。

■一度検索すると関連動画を次々に“おすすめ”

TikTokで「処理水」と検索すると、「あなたにおすすめ」として「処理水」が色付きで強調表示される。同時に、その後は検索マークをタップするだけで「処理水」「処理水 中国」などの過去に検索したワードが一覧表示されるようになる。

「処理水」で検索した後の画面表示
写真提供=筆者
「処理水」で検索した後の画面表示 - 写真提供=筆者

検索結果のページには「他の人はこちらも検索」としてさまざまな検索キーワードも表示される。筆者の場合、「中国 処理水 やばい」「中国 海洋放出」「海洋放出 ひろゆき」「処理水 海洋放出 危険」「原発処理水 海洋放出 危ない」「処理水 海洋放出 魚の異変」などが“おすすめ”された。

TikTokはアルゴリズムでユーザーの好みを分析しており、視聴した動画に類似した新たな動画を提供し続ける。筆者も、この記事の執筆のために関連ワードで検索を繰り返しているうちに、処理水動画が多く表示されるようになって閉口した。

まして子どもたちは、こうした動画を次々と見ているうちに、何が真実なのかわからなくなってしまうことは容易に想像できるだろう。ある10代のユーザーは「TikTok見てると最近結構な頻度で処理水関係の動画が流れてくる。見ていて悲しくなる」と投稿している。

■エコーチェンバー現象が加速化する恐れも

このように、検索時にアルゴリズムでユーザーの見たい情報が優先的に表示され、見たくない情報が遮断されることを「フィルターバブル」というが、さらにこわいのが「エコーチェンバー現象」だ。SNSで自分と似た意見ばかり見聞きすることで、それが真実であり正しいことであると強く信じ込んでしまうことを指す。

実際、「処理水は汚染水なのになぜわからないのか。ここ(筆者注:TikTok)にこそ真実があるのになぜ気づかないのか。自分は魚はもう食べない」などと言い切っているTikTokユーザーを見かけた。このように考えが凝り固まるのは、TikTokを長時間使いすぎたためという可能性がある。

デマを好む人の元にはデマが優先的に表示されるようにできているため、TikTokを長く使えば使うほど、より一層デマに対して狂信的になってしまう恐れがあるのだ。

■個人情報流出のリスクも知っていてほしい

ネット上の情報の信頼性格付け機関であるニューズガードによると、TikTokの検索結果上位に表示された動画の約20%には偽情報が含まれていたという。

Newsweek「上位表示20%が偽情報のTikTok──偽医療情報だけでなく、政治に関するフェイクもいっぱい」(2022年11月2日)

問題は投稿動画の真偽だけではない。ユーザーの個人情報が中国政府に共有される恐れがあるとして、欧米の政府機関を中心にTikTokを制限する動きが広がっている。たとえば、米モンタナ州では「TikTokは国家安全保障上のリスク」として、TikTokの事業運営やアプリのダウンロードを禁止する法律が成立した。

TikTokはトレンドや人気商品などを知ったり、娯楽として動画を楽しんだりするには向いているが、正確な情報を得る場としては決してふさわしいとは言えない。こうした特性と、セキュリティ面でのリスクがあることを知った上で上手に使いこなす必要があるのだ。

屋外で携帯電話を使う少女
写真=iStock.com/Marizza
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Marizza

■親子一緒にニュースを見ると対策になる

もし子どもがTikTokにハマりすぎていたら、エコーチェンバー現象に陥っている可能性がある。SNSでは情報が偏りやすく、特定の情報ばかり表示されたとしても、それが真実とは限らないことを伝えるべきだろう。

そしてそれ以外の情報、たとえばメディア報道や省庁、専門家などの客観性や信頼性が高い情報にも目を向けるよう、言葉をかけてあげてほしい。親子で一緒に新聞やテレビのニュースなどを見るのもいいだろう。

少なくとも情報の信頼性が確認できない時には、それを信じ込みすぎたり、シェアしたりしないことが大切だ。なお、日本ファクトチェックセンターが処理水関連のファクトチェックを公開しているので、こちらも併せて確認することをおすすめしたい。

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高橋 暁子(たかはし・あきこ)
成蹊大学客員教授
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、講演などを手掛ける。SNSや情報リテラシー、ICT教育などに詳しい。著書に『ソーシャルメディア中毒』『できるゼロからはじめるLINE超入門』ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。元小学校教員。

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(成蹊大学客員教授 高橋 暁子)

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