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公務員のiPhone使用を禁止…習近平主席が海外のデジタル製品を締め出す「報復」以外の理由

プレジデントオンライン / 2023年9月19日 9時15分

習近平中国共産党中央委員会総書記・国家主席・中央軍事委員会主席は2023年9月7日午後、黒竜江省ハルビン市で新時代の東北全面振興推進座談会を主宰し、重要演説を行った。 - 写真=中国通信/時事通信フォト

■スマホ、パソコン、スマートウォッチも

中国の習近平政権は、中央政府の職員に米アップルの“iPhone”など海外企業のデバイスの業務での使用を禁止した。それに伴い、地方政府や国営・国有・政府系企業なども、海外企業のスマホ、パソコン、スマートウォッチなどの使用を禁止するという。そうした措置は、あたかも中国政府が海外のIT企業との対立を鮮明化しているようだ。

中国政府の意図は、先端分野で海外勢に負けないような実力を作り上げたいのだろう。今後、世界の産業の中心は“チャットGPT”などの先端分野になるとみられる。当該分野で、中国独自の技術を確立することが目標だろう。

その実現に向け、8月、通信機器大手“華為技術(ファーウェイ)”は、回路線幅7ナノメートルの“キリン”チップを搭載する最新スマホを発表した。メモリ部分などを除き、かなりの部品を半導体受託製造大手、“中芯国際集成電路製造(SMIC)”、などの中国企業が提供したようだ。

■習近平政権の高い意欲を感じる

今後、中国政府は、米国のエヌビディアや英アームなどに匹敵する、AI発展に欠かせない企業の育成を急ぐだろう。それは、不動産バブル崩壊で厳しい状況にある中国経済の回復のためにも不可欠だ。AI利用に向けたIT先端分野の企業育成が、不動産市況の悪化を上回るスピードで進むか否かは、今後の中国、ならびに世界経済の展開にかなりの影響をもたらすことが想定される。

今回の共産党政権の狙いは、自国のIT先端機器の利用を増やすことによって、最先端のロジック半導体などの実力を高めることだろう。米国の対中半導体、製造装置などの輸出規制の強化を跳ね返し、自力で世界トップレベルの製造技術を実現しようとする習政権の意欲は高い。

それは、ファーウェイが発表した最新のスマホ“Mate60Pro”のスペックから確認できる。

詳細は、カナダのIT調査会社、“テックインサイツ(TechInsights)”が報告した。それによると、SMICは回路線幅7ナノメートル第2世代の製造プロセスを用いて、Mate60Proに搭載された“キリン9000s”チップを生産した。なお、米インテルは2016年に回路線幅10ナノメートルの製造ラインを立ち上げることができず、その後は台湾積体電路製造(TSMC)の技術を頼り始めた。

■完全な「国産チップ」を実現していた

キリン9000sはファーウェイ傘下の半導体企業、“ハイシリコン”が開発した。ハイシリコンは2018年にIT先端分野などで米中の対立が先鋭化する以前から、日米欧などの技術を用いて製造したその当時の最先端チップの回路のコピーなどを進めてきたとみられる。

注目されるのは、その製造技術だ。一般的に7ナノメートル以下の回路を製造するには、極端紫外線(EUV)を用いた露光装置と呼ばれる製造装置が不可欠とされてきた。その装置を供給できるのはオランダのASMLのみだ。テックインサイツは、SMICはEUVを用いないチップの製造技術を開発し、中国の半導体産業は先端に近いチップの完全な国産化を実現したと指摘した。

2019年以降、米国政府は自国の半導体製造技術、知的財産が中国に伝わらないよう、規制や制裁を強化した。一時、ファーウェイ、SMICなど中国半導体産業の製造技術向上は鈍化した。しかし、ファーウェイやSMICはあらゆる手段を用いて確保した最先端チップを分解したり、新しい製造技術の研究開発を加速したりしたようだ。それによって5G通信に対応した先端チップを製造し、Mate60Proを投入した。

■アリババ、バイドゥも生成AIを強化

共産党政権は、中華スマホの利用を政府関係者から進め、国産チップの精度向上につなげようとしている。それによって、中央演算処理装置(CPU)や画像処理半導体(GPU)の開発を加速し、高性能の人工知能の活用範囲拡大を狙っているようだ。なお、中国は米オープンAIが開発した“チャットGPT”の利用を禁止している。

人工知能の分野でも、ファーウェイは開発能力を強化した。天津港の港湾施設運営のシステムを支えるAIをファーウェイは開発し、業務の無人化や省人化を実現した。また、9月1日、ファーウェイは映像や音声を加工する技術(ディープフェイク)向けの生成AIの承認を中国国家インターネット情報弁公室(CAC)に申請した。アリババも同様の申請を行った。百度(バイドゥ)は“文心一言(アーニー・ボット)”と呼ばれるAIの開発を強化している。

■狙いは国産チップの実力を把握するため?

習政権は、生成AIの開発は共産党の意向に沿ったものでなければならないとの指針も明確にした。ということは、習政権はMate60Proの発表をきっかけにして、IT先端企業が開発を進めるAI利用を加速させ、経済と社会への統制の強化、工場の省人化(ファクトリーオートメーション)、デジタル行政の加速など経済運営の効率性向上につなげようとしている。

足許の世界経済で、AIが世界の成長を牽引するという期待や夢は大きく膨らんだ。代表的な企業はAIの学習を支えるGPUを開発した米エヌビディアや、高性能な半導体の設計を行う英アームなどだ。AIの高成長という強い期待は、米国を起点に世界に広がった。

中国は米国などの制裁を克服し、高性能なAI開発能力を内製化することによって、そうした夢を自力で実現しようとしている。そのためにMate60Proの利用機会を増やし、演算処理や予測、情報検索などの制度が高いAIを開発しなければならない。共産党政権が国産チップの実力を把握するために中華スマホの利用範囲を拡大し、iPhoneなどの利用禁止範囲を広げることも十分に考えられる。

スマートフォンの組み立てライン
写真=iStock.com/gorodenkoff
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gorodenkoff

■エヌビディア、アームに匹敵する企業は登場するか

今後の注目点は、中国がGPUの利用に欠かせない、高い技術を持つ開発企業エヌビディアやアームに匹敵する企業を限られた時間で育成できるか否かだ。現時点で、ハイシリコン、アリババ傘下の研究開発機関である“達磨院(DAMOアカデミー)”などは、中国のGPU設計、開発を主導する企業になる可能性を持つ。

米半導体大手AMDのGPU設計チーム出身者が主要メンバーを務める、“瀚博半導体”などのスタートアップ企業も資金調達を進め研究開発体制などを強化した。

GPUなど最先端のチップ設計図の開発に関しては、“アーム・チャイナ”がカギを握るだろう。アームの名がついているが、同社株式の48%をソフトバンクグループ、残りは中国系ファンドなどが保有し、英アームから経営は独立している。英アームは株式の公開に関する書類の中でアーム・チャイナの知的財産やデータ保護の適切さなどは保証できないと記述した。

■景気低迷から脱するカギとなる

共産党政権は補助金政策などを強化し、アーム・チャイナなどの設計力向上、ハイシリコンやDAMOアカデミーのGPU開発力、SMICの製造技術向上をより強力にサポートするだろう。それによって、もし中国がチャットGPTなどに匹敵する生成AIの実用化を自力で実現すると、中国経済の持ち直し期待は高まるかもしれない。

問題は、生成AIの利用実現に向けたスピードと、不動産バブル崩壊に伴うバランスシート調整圧力、デフレ圧力など負のインパクトが増大するのとどちらが先行するかだ。現時点では後者の勢いのほうが上回っているように見える。

9月11日、大手不動産デベロッパー、中国恒大集団の発行したドル建て社債(2024年1月に償還)の流通利回りは5300%を上回った。主要投資家は、ファーウェイなど中国IT先端企業の成長力に注意を払いつつも、依然として不動産市況悪化が中国の景気低迷を長引かせる展開を警戒している。

経済環境の厳しさが強い中、習近平政権がどのようにAI利用を進め、景気の本格回復への期待を醸成するか、より多くの注目が集まるだろう。それはIT先端分野での米中対立にも大きな影響を与える。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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