自己実現のため、あとで役立てるため、人脈を広げるため…そう考えて行動する人が永遠に幸せになれない理由
プレジデントオンライン / 2023年9月15日 19時15分
※本稿は、中田考『どうせ死ぬ この世は遊び 人は皆 1日1講義1ヶ月で心が軽くなる考えかた』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。
■「仕事が楽しくない」のは、お金に働かされている状態
人生は遊びです。
遊びというのは、真剣にやらないと楽しくありません。
そして、人生自体が一番楽しいゲームであり、その手引書がコーランです。
よく仕事が楽しくないという人がいますが、それはその仕事を自分のためにしていないからです。
有名な哲学者カール・マルクスの疎外論というものがあります。
これはマルクス主義の経済・社会的理論の根幹を成す概念で、労働者が自分自身の労働から疎外(エイリエンテーション)されるという考え方です。
つまり資本主義社会において、労働者は自分が生産する製品やサービスから切り離され、それが自分自身のものではなく、他の人(資本家)のものになってしまうということをマルクスは指摘しているんです。
今の日本のような資本主義の世の中では、お金がないと生きていけないと思い、お金をもらうために働きます。お金を持っている人はお金で人を働かせることができます。お金が主人になって、人間はその奴隷になって働いているのです。
自分のために働いていない。お金に働かされている。これが「仕事が楽しくない」と思う最大の原因です。
■人生なんて全部遊びなんだと捉えて取り組む
だから「遊びこそ人生の目的である」という考えを持って、その遊びを本気で、真剣にやる。
できれば仕事も遊びの1つだと思い込めれば幸せです。
人生全体を遊びだと解釈できれば、いつだって楽しく生きられます。
逆に「仕事だけが生きがい」という人は、引退後にその生きがいがなくなってボケていくという話もよく聞きます。
だから仕事より遊び、できれば人生なんて全部遊びなんだと捉えて取り組んでいる方が、幸せに過ごせるのです。
遊びと聞くと、多くの人は子供の遊びや趣味を思い浮かべるでしょう。
遊びをせんとや生まれけむ 戯れせんとや生まれけん
遊ぶ子どもの声聞けば 我が身さへこそ揺るがるれ
と『梁塵秘抄』にも詠われています。
小さな子供は無職でお金はなくても、何が楽しいのかもよくわかりませんがなんで友達なのかわからない子供たちと夢中でキャッキャウフフと騒いで走り回っています。
「真剣に遊ぼう」とは夢中になって遊ぶことです。子供だけでなく幸せになるには大人も遊ぶことに夢中にならなければなりません。遊びに真剣に取り組むことで、人生の質を向上させることができます。遊びが大人にもたらす意義や価値について、詳しく解説してみましょう。
■遊ぶ目的は遊び
遊びの定義は、楽しむことや自由な時間を過ごすことなど様々ですが、一般的には目的や目標を持たずに楽しむ活動とされています。遊びはストレス解消やリフレッシュに繋がり、また自己成長や人間関係の深化、新たな発見やインスピレーションを得ることができます。
しかし、一番大切なことは、何かの役に立つからとか、別の目的のための手段として遊んではならないということです。それではお金のために働くのと変わりません。
真剣に遊ぶとは、子供が無心にただ楽しいから遊ぶように、他に何の目的もなく、ただ楽しいから遊ぶことで、資本による労働の疎外によって忘れさせられてしまった、お金のために働くのではなく、それ自体が自分にとって楽しいから働く、という本来の労働の悦びを思い出すためです。
仕事の役に立つからとか、自己実現のためとか、人間関係を広げてコネを作るとか、ストレス解消のためとか、何かのために遊んだのでは遊びの悦びは失われてしまいます。
遊びは遊びでしかないことは、子供でも知っています。ままごと遊びをする時、泥団子は食べられないこと、お母さん役をする子供も自分がお母さんでないことを知っています。
鬼ごっこの鬼は本当は鬼でなく、捕まっても殺されて食べられたりしません。サッカーでゴールにボールを蹴り入れたからといって、人生の勝者になるわけでもありません。
遊びは遊び、心の底では本物ではない、だということを知っているから、楽しめるのです。でも、こんなものただの遊びじゃないか、と思ったら白けてしまって遊びは台無しになってしまいます。
遊びは本物の人生でないことを知っているからこそ楽しむことができますが、遊びだからこそ真剣に遊ばないとその悦びは台無しになってしまうのです。
■結局はどう生きても人間は死ぬもの
それをちゃんとわかっていないと遊びは人間を疎外から解放するどころか、より深刻な疎外に陥らせてしまいます。ギャンブルがそうです。ギャンブルは、本物のお金がかかることで、遊びでなくなってしまいます。
純粋な自己目的の悦びを学ぶための遊びが、お金を得るという目的の手段になってしまうのです。しかも楽をして大金を掴もうとの射幸性(しゃこうせい)まで加わるので、資本主義によってお金の奴隷になっていた人間がますます大金に目が眩んだ銭の亡者になってしまうのです。
でも本当に大切なのは、この世の人生自体が遊びであることを知ることです。コロナ禍で、私たちは、それまで大切だと思っていた学校も仕事も、本当は行かなくても誰も困らないものだったことを知りました。
そしてそれよりも大切なことは、結局はどう生きても人間は死ぬものであり、誰が死んでも、それで人類が滅びるわけでもなく、必要な人間など誰もいないことに気付かされたことです。
そうです。遊びが本当はどうでもいいことだったからこそ、気楽に楽しめたように、この人生も本当はどうでもいいこと、死ぬまでの暇つぶしであることに気付けば、気楽に楽しめるはずです。でも遊びは真剣に遊ばなければ楽しめません。
■「それを言っちゃあお終いよ」
この世の生は、束の間、仮初のものであっても、「それを言っちゃあお終いよ」です。遊びにはいろいろあり、好みも人それぞれです。誰もが自分が楽しいと思う遊びを遊べばよいのです。
人に押し付けられた遊びなど遊びではありませんから。この世の遊びなど、上手くできなくても、所詮死ぬだけ、勝っても負けても最後は皆が平等に死んで終わりです。気楽に楽しめばよいのです。
コーランにも以下のように言われています。
それでもし、遊びでしかないこの世の人生の彼方に、本当にそのために生きる価値があるものを見つけることができれば、それに越したことはありません。
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イスラーム学者、イブン・ハルドゥーン大学客員教授
1960年生まれ。イブン・ハルドゥーン大学客員教授。83年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。東京大学文学部宗教学宗教史学科(イスラーム学専攻)卒業。カイロ大学博士(哲学)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得。在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、同志社大学神学部教授などを歴任。著書に『みんなちがって、みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論』(ベストセラーズ)、『宗教地政学から読み解くロシア原論』(イースト・プレス)、『13歳からの世界征服』『70歳からの世界征服』(共に百万年書房)などがある。
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(イスラーム学者、イブン・ハルドゥーン大学客員教授 中田 考)
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