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中途半端に実現しそうな目標は悩みのタネになる…『キングダム』を愛読する学者が設定する驚きの目標

プレジデントオンライン / 2023年9月21日 20時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/c8501089

大きな目標や夢を叶えるにはどうすればいいか。イスラーム学者の中田考さんは「私は漫画を読むとき、自身の夢である『カリフ制再興』に紐づけて読んでいる。実はコーランや法学書にはカリフ制再興に繋がるような具体的なヒントは書かれていないが、世界征服ものの漫画にはそれが描かれている。『キングダム』の主人公・信は『秦王の金剛の剣になる』と言っているが、私もカリフ制再興のための金剛の剣になれればいいと同じ気持ちだ」という――。

※本稿は、中田考『どうせ死ぬ この世は遊び 人は皆 1日1講義1ヶ月で心が軽くなる考えかた』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。

■「実現できなそうな夢を持とう」

先の記事でも書きましたが、読書ができない人は思ったより多いものです。

本書を読んでくれている皆さんはそれなりに読書が好きなのだと思いますが、それでも自分で読んで意味がわかる本しか読まない人がほとんどでしょう。そういう読書が苦手な人は、漫画を読むといいです。

私はいろいろなところで「実現できなそうな夢を持とう」と言っています。目標や夢というのは、「もしかしたら実現するかもしれない」という風に中途半端に思うから不安になるのです。最初から達成不可能だと思っていれば、不安になることもありません。

私はイスラーム教徒ですが、堕落しきった今のイスラーム教徒たちと一緒にされるのが嫌で仕方ありません。私が良いイスラーム教徒だというわけではありません。

私のようないい加減で浅学非才なイスラーム教徒から見ても、今のイスラーム教徒たちは見過ごせないほど明らかな腐敗、堕落、欺瞞(ぎまん)の汚泥の中に沈んでいるということです。

というのは、イスラーム教徒にとって一番大切な義務は、民族や言語に関係なくすべてのイスラーム教徒が預言者ムハンマドの後継者である政治的指導者カリフの下に纏まってイスラーム法に則って暮らすことだからです。そうした政体をカリフ制といいます。

ところが今の自称ムスリムたちはその最も大切な義務から目を逸らせ、西洋帝国主義列強が作った国境ごとに別々の国に分かれ、イスラーム法ではなく、旧宗主国に押し付けられた法律に従って生きています。

この恥ずべき状態を改め、イスラーム教徒の最も大切な義務であるカリフ制を再興することが私の夢です。カリフ制の再興は、人類と大地を分断し人間が人間を支配する西洋の領域国民国家という人道に反する邪悪なシステムからイスラーム世界を解放することです。

私はもう還暦も過ぎているので、カリフ制再興を自らの手で実現することができないことは知っています。最初から自分にはできないとわかっているから不安になることもありません。

■「世界征服」のために漫画を読む

『キングダム』(原泰久、集英社)という漫画を読んだことはあるでしょうか。

紀元前259〜紀元前210年の中国を舞台にした話で、後に始皇帝となる秦国の王・政が中華を統一する過程を描いた戦乱ものの漫画です。山﨑賢人さん主演で映画化もされています。

主人公の信が言います。「境があるから内と外ができ敵ができる。国境があるから国々ができ戦いつづける。だからあいつは国を一つにまとめるんだ。そして俺はその金剛の剣だ」

私の夢は自分がカリフになることではありません。カリフを目指す政を助けるカリフ制再興のための道具、金剛の剣になれればよいのです。

『キングダム』は国境をなくして国々を一つにする「平天下」というまさにカリフ制再興の物語ですが、秦の歴史を見るとわかる通り、その方法はまだ書かれていないものの、法家の説による統治です。

中国の歴史の中で、結局秦は天下を統一しましたが、すぐに滅びてしまい、中国では儒家の思想が支配的になります。

ちょうど、漫画『キングダム』では759話で韓非子が登場したばかりですので、『キングダム』の法家解釈はまだよくわかりませんが、一言で言えば人定法、人間が定めた法です。

結局、秦は、西洋帝国主義列強と同じく人間が定めた不完全で不正な法によって人を治めようとしたので政が死ぬと間もなく瓦解(がかい)します。

人類の解放が国境の廃絶にあること、しかしせっかく国境を排して国々を滅ぼしても、神の法でなく、人間の作った法で人間を支配しようとする限り、成功しない。そこまで含めて、カリフ制再興マンガなんです、『キングダム』は。

実はコーランや法学書にはカリフ制再興に繋がるような具体的なヒントは書かれていないんです。現代の漫画にはそこに通じるヒントが描かれていたりしますから、私はすべての漫画を「カリフ制再興」に紐付けて読んでいます。

万里の長城
写真=iStock.com/zhaojiankang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/zhaojiankang

■荒唐無稽に見えるテーマを掲げたエンタメがいい理由

この辺の話は私の『13歳からの世界征服』(百万年書房、2019年)に詳しく書きましたが、『キングダム』のテーマは「世界征服」と言えます。皆さんもつまらない夢や目標などを持つことをやめて、「世界征服」を目標に掲げて生きてみてはどうでしょうか。

漫画とかアニメでもいいですが、多くの人が親しむエンターテインメントは、「世界征服」くらい荒唐無稽に見えるテーマを掲げたものの方がいいんです。

中途半端に実現しそうな、リアリティのあるような夢や目標をテーマにしたものは、読んでいる人間が勘違いしてしまうのでダメです。

そういうテーマの漫画やアニメは、皆が潜在的に持っている肥大化した自我を刺激するような話になっていて、もちろんそれができる人もいるでしょうが、できない人の方が圧倒的に多いので悪影響の方が大きいのです。

私が好きな世界征服ものは『キングダム』の他に『科学忍者隊ガッチャマン』『秘密結社 鷹の爪』『コードギアス(シリーズ)』『暗殺教室』などで、未読・未視聴の方はこの辺から始めてみることをすすめます。

目標や夢というのは、人と違えば違うだけいい。悩みというのは、大抵他人との比較から生まれます。私は昔から人と望み自体が違ったので、あまり人を妬みようがないところがありました。

特に今はカリフ制再興以外に興味がなく、カリフ制に成功している人は誰もいないので、妬む対象がいません。皆さんもすべての行動を世界征服に紐付けて考えると、日々の小さな悩みなんてどうでもよくなります。

■MangaとAnimeに通じた教養人になろう

漫画でもアニメでも韓国ドラマでもなんでもいいのですが、シリーズものの作品を読んだり観たりすることは、それだけで楽しく時間を潰せます。

最近はNetflixをはじめ、動画サービスが乱立して各社生き残りをかけて争っていますから、良い作品がいつでもどこでもお金をかけずに安く観られる時代です。本当に良い時代です。

それに、漫画を読んだりアニメを観たりして豊富な物語や人物に触れることができ、その中から私たちは多くのことを学ぶことができます。彼らの物語は、私たちの心を動かし、視野を広げ、思考を刺激し、時には人生を見直すきっかけになる、なんてことを言う人もいるかもしれませんが、そんなことはどうでもよく、すべては世界征服のために読んだり観たりするのです。

言うまでもありませんが、漫画やアニメは物語を視覚的に伝えてくれます。文字だとどうしたって思考力を要しますが、漫画やアニメ、ドラマにはそれが必要ありません。

文字だけでは表現しきれない、細かな感情や情景、人物の表情や風景の描写、アクションの一部始終など、視覚的な要素を駆使して描いてくれるので、簡単に物語の世界に感情移入することができます。

坂道を転げ落ちるように衰退していく日本が誇れるものとして、もうほとんど漫画やアニメしか残っていません。

中田考『どうせ死ぬ この世は遊び 人は皆 1日1講義1ヶ月で心が軽くなる考えかた』(実業之日本社)
中田考『どうせ死ぬ この世は遊び 人は皆 1日1講義1ヶ月で心が軽くなる考えかた』(実業之日本社)

漫画やアニメを読んだり観たりしまくってオタク道を究めれば、自民党や維新などのバカ政治家どものせいで国家としての日本が滅びて、中国、ロシア、(統一)朝鮮、アメリカ、インドネシアなどによって分割され、マイノリティとして生きることになっても、世界の共通教養となったMangaとAnimeに通じた教養人として尊敬を集めて生きることができます。

そうなれば、「天下を取った」と胸をはることもできる。とかそんな目標を掲げて死ぬまで漫画とアニメを読んだり観たりし続けるのもいいでしょう。

「世界征服」視点で漫画を読んだりアニメを観たりすることで、漫画やアニメは単なる娯楽以上の存在となります。これほど良いことはありません。

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中田 考(なかた・こう)
イスラーム学者、イブン・ハルドゥーン大学客員教授
1960年生まれ。イブン・ハルドゥーン大学客員教授。83年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。東京大学文学部宗教学宗教史学科(イスラーム学専攻)卒業。カイロ大学博士(哲学)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得。在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、同志社大学神学部教授などを歴任。著書に『みんなちがって、みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論』(ベストセラーズ)、『宗教地政学から読み解くロシア原論』(イースト・プレス)、『13歳からの世界征服』『70歳からの世界征服』(共に百万年書房)などがある。

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(イスラーム学者、イブン・ハルドゥーン大学客員教授 中田 考)

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