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最新型なのになぜか旧型よりも安くなる…「トヨタのサブスク」KINTOで始まったプリウスの驚きの仕掛け

プレジデントオンライン / 2023年9月24日 10時15分

トヨタが展開する車のサブスクリプションサービス、KINTOのホームページ。

■「サブスク」だからこそ導入できた仕掛け

2019年にトヨタが始めた、車のサブスクリプションサービス「KINTO」。このKINTOで、2023年1月から提供が開始された新型プリウスの契約が大きく伸びており、旧型と比較して約13倍もの申込者数となっている。この伸びは、新型プリウスという車の人気だけで生じたのではない。そこには車のサブスクならではの新たな仕掛けが導入されていた。KINTOで社長をつとめる小寺信也氏にお話を伺った。

サブスクリプションとは、製品やサービスの購入者に一括支払いを求めるのではなく、利用に応じて月々の定額料金での支払いなどを求めるという課金モデルである。日本の自動車メーカーのなかではトヨタが先陣を切り、2019年に車のサブスクリプションサービスとしてKINTOを開始する。

世界の自動車産業は現在、大変革期を迎えている。CASE(Connected,Autonomous,Shared,Electric)といわれるように、サブスクやシェアリングなどの新しい車の利用形態が広がっていくだけではなく、電動化、自動運転、ネット常時接続と、複数の変化が同時に進行している。そのなかにあって、KINTOは人と車の新しい関係をつくるというミッションのもとで設立され、着々と布石を重ねている。

■2023年のKINTOの伸びを牽引するプリウス

KINTOがサービス提供を開始した2019年3月から、同年12月末までの累計申込者数は1200件ほどにすぎなかった。しかし、その後の3年を経て、2022年12月末には累計申込者数が5万5000件ほどまで増加する(図表1)。

【図表1】KINTOの累計申込者数

拡大を続けてきたKINTOの申込者数だが、2023年に入っても、その勢いは衰えない。そこでの牽引役となっているのが、1月に発売された新型プリウスである。KINTOでは、新型プリウスの発売にともない開始した新サービスなどが好評で、旧型プリウスと比較して、新型プリウスの申込者数は13倍ほどに増加している(*注 KINTOにおける旧型プリウスのサービス終了前6カ月間と、新型発売後の6カ月間の申込者数の比較)

■利用開始後も車をアップグレードし続けられる新サービス

新型プリウスについては、KINTO Unlimitedという新たなサービスが設けられ、その第一弾としてKINTO専用車両のUグレードが用意されている。このUグレードには市販の新型プリウスとは異なる仕様が採用されており、その最大の特徴の一つが、車のハードとソフトの両方を、利用開始後にもアップグレードできるようになっていることだ。

車の利用を開始した後でも、ハードやソフトのアップグレードで最新機能が追加できる
写真提供=KINTO
車の利用を開始した後でも、ハードやソフトのアップグレードで最新機能が追加できる。 - 写真提供=KINTO

その上、このUグレードを利用すれば、KINTOの料金は車両価格が同水準の旧型プリウスと比べて月額でおよそ6000円、率にして10%ほど割安となる。なお、この比較の前提にあるKINTOの料金には、車両本体の料金に加えて、自動車税、自動車保険(自賠責保険・任意保険)、車検、メンテナンス、オイル交換などの維持費も含まれている。

この条件で新型プリウスUグレードを、KINTOの初期費用フリープラン5年契約で利用すれば、単純計算で新型なのに旧型よりも35万円ほどお得になる。KINTOは、人気の新型プリウスを、発売と同時にリーズナブルに利用できるプランを用意していたのである。なお、車両の残存価値は一律ではないので、車の乗り方しだいでは、5年後に筆者の推定の通りとはならないこともあり得る点には注意が必要である。

それにしてもなぜ、新型にもかかわらず割安というサービスが実現できてしまうのか。サブスクのKINTOでは、契約後も顧客との関係が続く。KINTOの新型プリウスUグレードでは、そこにアップグレードやコネクティッド技術を活用することで、車両の残価が高まることを見越した料金設定を行っている。つまり、アップグレードなどによる二次流通時の価値の上昇を織り込んで、料金を引き下げているのである。仮に利用終了後に中古車としての価値が高まるのであれば、月額料金をその分引き下げることができる。

■ソフトはもちろんハードもアップグレード可能

車がウェブとつながるコネクテッド・カーの時代にあっては、車載ソフトのアップグレードについても、すでにさまざまなところで試みが広がっている。これらについては海外の自動車メーカーなどが先行していることも少なくない。

そのなかにあってKINTOが着目したのは、現在の自動車の衝突安全性などの技術が日進月歩の状態にあることである。たとえば、衝突被害軽減ブレーキは、直前の走行車への対応から、人や自転車の感知、夜間の対応、緩やかなカーブや右左折時の状況への対処と、次々に進化が続く。他にも後側方エリアの急接近してくる車両をレーダーで検知する安全機能もあるが、新たなセンサーの搭載など、ハード面でのアップグレードも必要になってくる。プリウスUグレードは、これらのソフトとハードのアップグレードを見越した仕様となっている。

KINTO Unlimitedで追加できる駐車操作支援「アドバンストパーク(リモート機能付き)」(イメージ図)
写真提供=KINTO
KINTO Unlimitedで追加できる駐車操作支援「アドバンストパーク(リモート機能付)」(イメージ図)。 - 写真提供=KINTO

KINTOは、利用をはじめた後でも、この技術進化を車に取り入れ、その残存価値を高めるという課題に取り組んでいる。この取り組みはSDGsにも貢献するわけで、経済性だけではなく、社会性も高い取り組みだといえる。

■メンテナンスの最適化で残存価値を向上

加えて、KINTOはコネクテッド・カーの特性を活用することでも、コストを削減しながら残存価値を向上させようとしている。たとえば、エンジンオイルなどについては、従前は走行距離や利用月数などを目安に交換を行っていた。しかし、エンジンの稼働状況などを日々モニターすることで、ベストのタイミングでオイルの交換を行うことができるようになる。そしてその結果として、交換の頻度を従前より減らすことができる場合が少なからずある。逆に、必要な場合は前倒しでオイル交換を行うことで、エンジンの劣化を防止できる。

コネクテッド・カーの特性を生かし、オイル交換のタイミング通知など、車のコンディションを最善に保つための支援が受けられる
写真提供=KINTO
コネクテッド・カーの特性を生かし、オイル交換のタイミング通知など、車のコンディションを最善に保つための支援が受けられる(写真はテスト段階のもの)。 - 写真提供=KINTO

自動車を利用する際には、各種のメンテナンスが必要になる。そして車という商品では中古市場が発達している。維持をきっちりと行っていれば、利用を終了する際の車の価値を高めることができる。KINTOは、こうした従前は車のオーナー任せだった問題を引き受けながら、車の残存価値を高めていくことで、車のサブスクの料金引き下げを実現している。

■車ならではのサブスクの価値を探求

近年、ビジネス用アプリやビデオ視聴などの領域でサブスクの導入が広がっている。とはいえ、自動車のサブスクであるトヨタのKINTOはAdobeやNetflixなどのやり方を、そのまま真似ればよいわけではない。サブスクと一口にいっても、そこには、企業がどのような利点を享受しようとしているか、顧客にどのような価値を提供しようとしているか、扱う財の特性はどのようなものかなどによって、さまざまなバリエーションが生じる。

アプリやコンテンツ配信などで活用されてきたサブスクの価値は、月額料金で気楽に契約を申し込み、いつでも解約できることや、一定の月額料金で見放題、読み放題となったりすることなどである。しかしこうした価値を、車のサブスクでそのまま活用することは難しい。途中解約を無条件に認めることは、運営会社のリスクが大きくなりすぎるし、次々と利用する車種を変えていくことは、マイカーへの愛着を育むことで生まれる車に乗る楽しみを損ねることになる。

【図表2】アップグレードとクルマの進化の概念図
「車のサブスク」ならではの価値の一つ、アップグレードとクルマの進化の概念図

そこでKINTOが追求するようになっていったのが、これらとは異なるサブスクの価値である。新型プリウスのUグレードなどでは、二次流通時の車の価値も考慮し、メンテナンスなどの高度化と効率化の両立を進めることによって、より安価な車の利用を実現している。

■車離れに対するKINTOという解

振り返ると、長らく続いたデフレのなかにあって、自動車だけは価格の上昇が続いた。同じモデルの車でも、10年前、20年前と比べるとずいぶんと高価格になっている。

日本人の所得が伸び悩むなかで、車の価格だけが高くなっていけば、その所有をあきらめる人も増えていくのは当然だろう。若年層の車離れの背景のひとつにも、この高額化問題があると考えられる。

だが、環境対策や安全対策の進んだ現在の車は、かつてとはスペックが異なる。その本体価格を引き下げることには限界がある。KINTOは、そのなかにあって、サブスクリプションを活用した車の未来のひとつの新たな解を提示している。

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栗木 契(くりき・けい)
神戸大学大学院経営学研究科教授
1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はマーケティング戦略。著書に『明日は、ビジョンで拓かれる』『マーケティング・リフレーミング』(ともに共編著)、『マーケティング・コンセプトを問い直す』などがある。

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(神戸大学大学院経営学研究科教授 栗木 契)

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