1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

「あざとかわいい」はもうイタいだけ…若者のトレンドが「不憫かわいい」に転換している根本理由

プレジデントオンライン / 2023年9月21日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maruco

若者のあいだで、「あざとかわいい」という言葉が聞かれなくなり、そのかわり「不憫かわいい」がトレンドになっている。芝浦工業大学の原田曜平教授は「Z世代は周囲に敵を作らず、自分の心が傷つかないことを重視している。だから周囲に敵を作りやすい『あざとさ』は敬遠されるようになっている」という――。

■Z世代からじわり広がる「おぱんちゅうさぎ」人気

パンツをはいたウサギのキャラクター「おぱんちゅうさぎ」が今、若者に大人気です。

イラストレーター「可哀想に!」氏が手がけ、2022年1月にX(旧Twitter)とインスタグラム上でアカウントが開設されると、漫画やアニメーションが瞬く間にZ世代の間で広まりました。20日現在、Xは77.5万人、インスタは38.3万人がフォローしています。

公式ホームページによると、おぱんちゅうさぎのコンセプトは、「いつもみんなを助けたくって、励ましたくって、日々奔走しているよ。頑張り屋さんだけど、どうにも報われない。毎日泣いちゃいそうだけど、健気に生きているゾ!」。

漫画では、チョコが食べたいという人間の独り言を聞いて遠い異国の地までカカオの木を探しに行ったり、落とした小銭を周りの人が協力して拾ってくれるかと思いきやお金を盗まれてしまったりと、過度に頑張ってしまうシーンや可哀そうな目に遭うシーンが、ひたすら描かれています。

デビューから1年以上経ちますが、いまだ人気は衰えていません。おぱんちゅうさぎを模したケーキを食べる動画をアップすることがSNS上で流行ったり、大手製薬会社の便秘薬のテレビCMに起用されたり、コンビニや百貨店とのコラボ企画が生まれたり、おぱんちゅうさぎの人気は世代の枠を超えて広がっています。

なぜこのキャラクターが、これほどまでに人気を集めるのでしょうか。これを理解するうえで欠かせないのが「不憫かわいい」という言葉だと僕は考えています。

■「がんばっても報われない」姿がかわいい

初めておぱんちゅうさぎの存在を知った時、僕はその良さがいまいち理解できませんでした。しかし、学生たちに話を聞いてみると、おぱんちゅうさぎの人気を支えているのは、ある新しい概念だということが見えてきました。

それが、「不憫かわいい」です。頑張るのに報われない様子が不憫だけれども、その健気で哀愁漂う姿が愛おしいという感情を指します。

みなさんは、赤ちゃんや子犬など可愛いものを目にした時、相手を思わずつねってしまったり、「食べちゃいたい」と感じたり、自分の手を握りしめたりという攻撃的な行動をとってしまうことはありませんか。これは昔から人間に広く認められる行動で、心理学では「キュートアグレッション」と呼ぶそうです。

若者たちがおぱんちゅうさぎを「不憫かわいい」と愛でるのは、かわいいものを傷つけたいというキュートアグレッション的願望を、作中で常に傷つけられているおぱんちゅうさぎが満たしてくれるからかもしれません。

■SNSは「不憫かわいい」であふれている

若者が「不憫かわいい」を感じる対象は、おぱんちゅうさぎだけではありません。実は、最近の若者トレンドは「不憫かわいい」ものばかりなのです。例を見ていきましょう。

まずは、「アグリーベイビーズ」。これは、伸縮性のある素材でできた赤ちゃんの人形で、TikTokから人気に火が付きました。赤ちゃんの頭をつぶしたり体を殴りつけたりして楽しむことが、若者の間で大流行。まさにキュートアグレッション欲を満たすアイテムです。

僕も購入し若者にならってグチャグチャにして遊んでみたものの、子どもを虐待しているようで、胸が痛みました……。でも、学生に言わせれば、「ひどい仕打ちを受けている様子が『不憫かわいい』」なのだそう。

アグリーベイビーズ
若い世代に人気のアグリーベイビーズ(出所=PR TIMES/エルソニック株式会社)

また、フィンランドのヘルシンキ自然史博物館で展示されている古代魚「サカバンバスピス」の復元模型がSNS上で話題となりました。古生代のオルドビス紀(約4億6000万年前)に生息し、すでに絶滅した魚です。両目が体の正面にあり、口は常に開いていて、何とも言えない表情。それでいて泳ぎが下手だったそうです。物悲しくも健気な見た目が大うけしました。

TikTokなどで人気のキャラクター「らぶいーず」にも「不憫かわいい」が見られます。「さみしがりやでちょっぴりメンヘラな『すもっぴ』と、マイペースでわがままな『ぴょんちー』のらぶらぶな毎日」がアニメーションで描かれています。

一緒に寝ているぴょんちーのおならに苦しむけど、離れられないすもっぴを描いたTikTok動画の再生回数は1200万回超。スマホに夢中なぴょんちーに構ってもらえずいじけるすもっぴのアニメなど、カップルの日常のような場面が少し切なくも愛らしく描かれており、若者はその「不憫かわいい」さまにキュンとしているようです。

■「ちょっとかわいそう」に共感するZ世代

「不憫かわいい」は、SNSでバズるだけでなく、人々の「真似をしたい」という欲求も刺激しているようです。

例えば、YouTubeで今年3月に公開された「強風オールバック」という曲があります。クリエイターの「ゆこぴ」氏が制作し、すでに6000万回以上再生されている動画です。ランドセルを背負う女の子が、セットした髪型が強風でダメになりながらも前に進もうとする、ミュージックビデオが話題になりました。

インフルエンサーたちがこの再現動画を次々投稿するだけでなく、7月には日清食品がカップヌードルのCMで「強風オールバック」とコラボし、世代を超えた流行になりました。一度聴いたら耳から離れないメロディも人気の理由ですが、やはり登場する女の子の不憫さに共感が集まったのが、ヒットの最大の要因だと感じます。

TikTokで人気となる一般のクリエイター動画にも「不憫かわいい」の要素が見て取れます。

例えば、中国出身の「chenshanfuer」さんの「あなたの家に中国料理を作りに行ってもいいですか」と題する一連の投稿です。勉強中の不慣れな日本語で、街行く人に声をかけ、「家はちょっと……」「用事がある」などと断られ続ける姿がなんとも不憫。それでも諦めずに声をかけ、OKをもらった人の家で本格的な中華料理を振る舞うという動画です。

会社の広報担当となり、「バズるまでコメントに従い続ける」を掲げて動画を投稿する「doshirotokoho」さんも、ちょっと可哀そうだけれど精一杯頑張る人として、TikTokで急速にフォロワーを集めたクリエイターの一人です。

■人を嘲るような悪意はない

僕が驚愕(きょうがく)したことがあります。認知症の祖母を持つ孫による、人気のTikTokアカウント「obaayantomago」の投稿動画です。

僕が教える学生の一人は、「認知症を患うおばあちゃんとその孫のほんわか日常を撮った動画が、おばあちゃんの予想外な発言がとても面白くてバズった」と話していました。でも、僕に言わせれば全然「ほんわか」していないです。

孫が鼻をかきながら「今どこをかいているでしょうか」とクイズを出し、「あ~耳じゃないねこれは……なんだっけここは、鼻!」と答えるおばあちゃんに対して孫が、「ブブ~正解は耳」と意地悪する様子を見て、僕はまたしても胸が痛みました。

今どきの若者はなんて性格が悪いのか、と思うかもしれません。ただ、僕の学生たちを見ていると、彼らに人を嘲るような悪意はないのです。とはいえ、「頑張れ!」と積極的に応援しているわけでもない。「不憫だなあ」と純粋な気持ちで共感したり愛でたりしているだけ、というのが正しい表現のように思います。

■成功物語に共感できなくなった

なぜ今、「不憫かわいい」がこれほどまでにZ世代の共感を集めているのでしょうか。学生たちと議論するなかで見えてきた理由は、若者たちが抱く閉塞(へいそく)感です。

40代の僕にとって、人生のバイブルとなる漫画は、1975年連載開始の『キャンディ・キャンディ』でした。孤児院で育てられた主人公が、お金持ちからの意地悪や戦争などの様々な逆境にもめげず、明るく前向きに生きていくさまが描かれています。

1983年に放送開始し国民的ブームを巻き起こしたNHKの連続テレビ小説『おしん』も、これでもかと降りかかる困難に持ち前の明るさで立ち向かいながら人生を向上させていく話です。このように、高度成長期からバブル期にヒットしたコンテンツは、困難をはねつけるサクセスストーリーが大半でした。

■「努力は報われない」という潜在意識

しかし、今のZ世代は、もはや『キャンディ・キャンディ』や『おしん』に共感することはできません。1990年代後半から2010年頃に生まれたZ世代が生きてきたのは、給料が上がらず、格差も固定化された日本社会でした。サクセスストーリーを見せられても、「でも本当はそんなに頑張っても上手くいかないじゃん」と若者が思うのも仕方ありません。

もちろん昔も全員が成功できたわけではないですが、少なくとも「頑張れば上手くいく」という夢を見ることはできました。しかし今の若者は、もはやその夢すらも見られなくなっています。彼らにとっては、「努力は報われない」という意識がどこかにあるのかもしれません。

だからこそ若者たちは、おぱんちゅうさぎのような、何をしても報われない「不憫かわいい」コンテンツに共感するのだと思います。自分の姿を無意識に重ね合わせているのかもしれません。

■Z世代の閉塞感は、日本だけの問題ではない

こうした傾向は日本の若者にとどまりません。

僕は先日アメリカで、Z世代を対象とした大規模なインタビュー調査を行いました。西海岸はロサンゼルス、南部はテキサス州ヒューストン、東海岸はニューヨークの若者たちに話を聞いてまわりました。その際、皆が口を揃えて「自分たちの世代をよく表している」と答えたドラマがありました。『ユーフォリア』です。

これは、ドラッグ中毒で入退院を繰り返す主人公をはじめとして、もがき苦しむ高校生たちの姿を淡々と描く2019年放送開始のドラマです。

アメリカドラマのヒット作と言えば、裕福で自立した女性たちのニューヨーク生活を描いた『セックス・アンド・ザ・シティ』(1998年放送開始)や、超セレブなティーンの日常を描く『ゴシップガール』(2007年放送開始)でしょう。どちらもゴージャスでファッショナブルな物語でした。

ところが、大学を卒業したばかりの20代女性たちを描いた『ガールズ』(2012年)からは華やかさが消え、ついに『ユーフォリア』では、わずかな希望すらも消滅しました。

上昇思考を持てない若者が、自分たちの報われない姿をエンターテインメントのコンテンツに投影せざるを得なくなっているのは、日本のみならず、アメリカ、そして世界中に共通して見られる現象かもしれません。

■「ぶりっ子」や「あざとい」が死語になった理由

日本では少し前まで、「あざとい」「あざとかわいい」という言葉が注目されていました。

あからさまに自分をかわいらしく見せようとしている人を指す言葉で、単なる「ぶりっ子」とは異なり、その正直さや努力が評価される意味で使われてきました。

「あざとい」「あざとかわいい」という言葉はアナウンサーの田中みな実氏が火付け役となり、一大トレンドになりました。

ところが、ここ1~2年で、僕の学生たちは「あざとかわいい」というワードを全く口にしなくなりました。田中アナをはじめとする多くのタレントが「あざとかわいい」を武器に芸能界で成功するのを目の当たりにして、結局「あざとかわいい」は強者による社会的地位を上げるためのツールであると認識し、共感できなくなっているのでしょう。

自分をよりかわいらしく見せることは他者を貶めることとイコールになり得ます。そのため「ぶりっ子」も「あざとかわいい」も周囲に敵を作りやすいのです。他者からの意見に敏感で、傷つくことを過度に恐れるZ世代に「あざとかわいい」が定着しなかったのは、これも理由のひとつだと考えられます。

だからこそ今、「あざとかわいい」から「不憫かわいい」へと、トレンド転換が起こっている――これが僕の見立てです。

■「不憫かわいい」がZ世代の作法になりつつある

Z世代は、「不憫かわいい」をただコンテンツとして消費しているのではありません。すでに若者たちは、これをコミュニケーションツールとして取り込み始めています。ある学生はこう話してくれました。

「僕は飲みの誘いを断られた時、一人で居酒屋に行って、一人で飲んでいる状況の写真をSNSにあげ、不憫かわいいブランディングをします。『こいつ断られて一人で飲んでるな』とかわいそうに思われたり、構ってほしいことが見え見えな“病みストーリー”だと捉えられたりするのは嫌ですが、不憫かわいいブランディングをすれば、SNSにあげても傷つかないでいられます」
「また、クリスマスに“クリぼっち”になったとしても、見る側の多くの人が不憫かわいいという認識を持っていれば、それに刺さるような投稿(あえて一人でクリスマスと逆張りの行動をしている)を出すことで、傷つかずに共感などを得られるので、そうしようかと考えています」

本稿で紹介したTikTokのトレンドを見ても、「不憫かわいい」というセルフプロデュースが共感を生み出すことを、すでに多くの若者が(たとえ無意識だとしても)理解し出していることは明らかです。

スマートフォン
写真=iStock.com/west
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/west

■周囲に敵を作らず、自分の心を傷つけない技術

ひたすら健気さを押し出すことによって、嫌われたり嫉妬されたりすることを回避しながら、自分が傷つくことなく、共感を得ることができる――若者たちの間には、不憫さを演出することで、コミュニケーションを円滑にしようとする傾向が見て取れます。

Z世代の「不憫かわいい」志向は、単なるトレンド転換ではなく、これからのコミュニケーション方法の地殻変動になる可能性があります。すでにZ世代ではこうした動きがはじまっています。僕のようなおじさんたちにも「不憫かわいい」が求められるようになる日は、そう遠くないかもしれません。

----------

原田 曜平(はらだ・ようへい)
マーケティングアナリスト、芝浦工業大学教授
1977年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを経て、現在はマーケティングアナリスト。2022年より芝浦工業大学教授に就任。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。主な著作に『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)、『パリピ経済 パーティーピープルが経済を動かす』(新潮新書)、『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)、『寡欲都市TOKYO』(角川新書)、『Z世代に学ぶ超バズテク図鑑』(PHP研究所)などがある。

----------

(マーケティングアナリスト、芝浦工業大学教授 原田 曜平 構成=奥地維也)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください