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1億総貧困の日本を救うには「格差拡大」を進めるしかない? 経済学者・成田悠輔が「格差是正」に抱く違和感

プレジデントオンライン / 2023年9月17日 9時15分

経済学者の成田悠輔さん

■「日本経済再興」にはなにが必要なのか

プレジデントオンライン編集部では、9月26日に経済同友会・代表幹事の新浪剛史さんと経済学者・成田悠輔さんの公開対談を実施します。テーマは「日本経済再興」です。これはPRESIDENT創刊60周年記念フォーラム「未来創造フェスティバル」のプログラムのひとつで、参加費は無料です。

この記事では、特別対談の企画の経緯をお伝えします。ひとつのきっかけは、2022年10月、成田悠輔さんが、やはり経済同友会の代表幹事(当時)だった櫻田謙悟さんとビジネス映像メディア「PIVOT」で行った「日本再興ラストチャンス」という対談動画です。

櫻田さんは、経済同友会を通じて、日本再興に向けてさまざまな提言をされています。その前提は「今を逃すとものすごい勢いで衰退していくのでは」という強い危機感だといいます。やるべきことはもう何度も議論されてきたが、変わるのが嫌で実行できていない。それはなぜか。

対談では、「新卒・メンバーシップ型の就職スタイル」「硬直化した大学間の序列」といった戦後に作られた価値観やルールの耐用年数が過ぎていることを指摘されていました。実際に、経済同友会は「新卒の一括採用や終身雇用は見直すべき」という前提で、具体的な改革策を提起しています。

また、櫻田さんは、「経済大国を目指し続ける現状維持の発想ではなく、それ以外の価値観を新たに考えるべきではないか」として、「ハピネス」を指標にするべきではないかという提案がありました。

■「経済同友会の解散」と「重鎮経営者の引退」

一方、成田さんからは「経済同友会の解散」と「重鎮経営者の引退」という刺激的な提案がありました。成田さんは物理学者のマックス・プランクの「科学は葬式のたびに進歩する」という言葉を引きつつ、「この言葉は物理とか科学だけではなくて、社会や人間一般についてもいえるのではないか。そう考えれば、社会に大きな変化をもたらすには、これぐらいの冗談のような方法が有効なのではないでしょうか」と述べられました。

経済同友会は、日本経団連、日本商工会議所と並ぶ「経済3団体」のひとつです。そのトップである代表幹事は、言うまでもなく経済界を代表する人物です。その財界トップに対して、「解散と引退が必要ではないか」と提案するというのは、前代未聞です。

ただ、経済同友会は「企業経営者が個人の資格で参加している」という成り立ちもあり、経済3団体のなかではリベラルで自由な風土があります。櫻田さんは「『解散』というのは刺激的ですが、意図は大いに賛成します」としたうえで、「経済同友会を再出発させる一つの動きとして10代から70代までが参画する『未来選択会議』を発足させています」と応答されていました。

■なぜ「格差をもっと拡大しよう」と述べたのか

そして、この4月から新浪さんが経済同友会の代表幹事に就任しています。新浪さんは、櫻田さんの考えを受け継ぎ、成長と共助が両立する「共助資本主義」という概念を掲げられています。今の社会に必要とされる資本主義は、これまでの「勝つか負けるか」という種類のものではなく、多様なセクターが連携して共に助け合う形のものなのだ、というものです。

その前提にあるのは「資本主義の行き詰まりによって経済格差が広がっている」「それを是正しなければならない」という認識です。

経済同友会代表幹事の新浪剛史さん
経済同友会代表幹事の新浪剛史さん

これに対し、成田さんは「格差をもっと拡大しよう」と述べたことがあります(テレビ朝日「選挙ステーション2021」2021年10月31日放送)。経済指標をつぶさにみると、日本における格差の拡大は他の先進諸国より緩やか、またはほとんど起きていません。むしろ日本人が直面しているのは、格差ではなく、「貧困と成長の不在」という問題である。その解決のためには、「経済格差の是正」は有効ではない、というのです。

厚生労働白書によると、格差の指標である「ジニ係数」(再分配後)は、日本では1999年に0.3814、2021年に0.3813と、今世紀に入ってからほぼ横ばいです。トップ1%の富裕層が国民全体の所得に占める割合もほとんど変化していません(世界不平等データベースによる)。アメリカなどではどちらの格差指標も目に見えて上がっているのと対照的です。

■「一億総貧困社会みたいなものが起きている」

格差ではないとすれば、日本では何が起きているのか。総務省の家計調査データをみると、高所得者世帯、低所得者世帯ともに所得が下がっています。つまり昔に比べて、全体的にまずしくなっているのです。

成田さんは「貧困問題の原因は、富裕層が富をむしり取っているからではない」といいます。そうだとすれば、格差は広がっていくはずですが、さきほどみたように格差は拡大していない。貧困にあえぐ人が増えているのは、日本が貧しくなっているから。日本経済そのものが縮んでいるから、格差は広がらず、貧困問題が深刻になっている。

つまり、日本で起きているのは、貧困問題であって、格差の問題ではない。成田さんは「一億総貧困社会みたいなものが起きている」として、「もっと格差を作り出したたほうがいい」と提案されています。どういう意味でしょうか?

■「日本は30年間、新しい産業を作り出せていない」

格差は、新しい産業が勃興し、新しい富が作り出されたとき、その富の分配が歪んだときに生まれます。

たとえば、IT産業は過去30年の間に急拡大しました。GAFAMのように、アメリカでは起業家や投資家など一部に富が集中し、格差は拡大しています。

一方、日本は幸か不幸か、この30年間、新しい産業を作り出すということがほとんどできていません。新しい富が作り出されていないので、そもそも分配を間違いようもない。

こうした前提から、成田さんは「日本が直面しているのは格差ではなく、『貧困と成長の不在』。だとすれば、格差が広がるくらいまで、まずは日本の産業が力を取り戻すというのが先ではないか」と主張されています。

日本経済再興のために、どんな手を打つべきなのか。9月26日、東京国際フォーラムで新浪さんと成田さんの公開対談を行います。ぜひご注目ください。

(プレジデントオンライン編集部 星野 貴彦)

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