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これに気がついて私はストレスと無縁になった…ストレスを溜め込む人とそうでない人の脳科学的な違い

プレジデントオンライン / 2023年9月22日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chinnapong

ストレスを発散するにはどうすればいいのか。脳科学者の茂木健一郎さんは「自分がコントロールできることについてはベストを尽くし、コントロールできないことについては潔く諦めるのがいい」という――。(第3回)

※本稿は、茂木健一郎『運動脳の鍛え方』(リベラル社)の一部を再編集したものです。

■定期的に走っている人はストレスレベルが低い

手軽なストレス解消法といえば何でしょうか。お酒を飲んだり、自分の趣味に没頭したり、ぐっすり眠ったり……。さらには、温泉にでも行ってゆっくり体を癒すことを思い浮かべる人もいるかもしれません。確かに、ストレス解消に効果的であるとされる食べ物も多くありますし、気の合う仲間との食事は楽しく、温泉旅行などでもストレス発散できそうですね。

また、最近ではストレス解消法として注目されている「マインドフルネス」というものもあります。マインドフルネスの瞑想(めいそう)をすることで、ストレスでダメージを受けた海馬を活性化させて、認知症の予防にもなるという研究結果も発表されているそうです。

自分に合ったストレス解消法を取り入れて海馬をダメージから守り、認知症を予防するのもいいですが、このような一過性のもので一時的に乗り切るのではなく、脳科学の観点から特におすすめしたいのが、これまで述べてきた運動であり、私が実践している早朝ランニングを習慣化するということです。

ある研究データによると、定期的に走っている人はストレスレベルが低く、認知症の発症率も低いそうです。もちろん、それだけではありません。ランニングは、ウォーキング以上に身体の新陳代謝を活発にします。必要な物質を取り入れ、古くなった物質を外に排出する。新陳代謝が活発であればあるほど脳のモビリティは高まり、メンタルも強くなるのです。

■ランニングするなら朝がいい

ただ、ランニングにはこうした身体的なメリット以上に、精神的なアプローチでもかなりの効果があることがわかっています。それは、無心になれるということです。

たとえば、ランニングをしているとき、皆さんは何を考えながら走るでしょうか。走り始めこそ、仕事の案件などを考えてしまうことがあっても、ある一定時間が経過すると、だんだんと無心になっていることに気づくはずです。無心でランニングをすることで脳の中の情報が整理されます。これは、先に述べたデフォルト・モード・ネットワークの働きですね。頭がすっきり爽快な気分になることでストレスを軽減するのです。

さらにいえば、朝の時間というのも、一つのポイントになってきます。朝日を存分に浴びながら走ることで、幸福を感じるセロトニンが出やすくなります。また、走ることで快感を得られるため、脳内報酬系の神経伝達物質であるドーパミンも放出されます。

つまり、朝の時間にランニングをするという極めてシンプルな行為が、セロトニンやドーパミンといった脳内物質を多く生み出すのです。特にドーパミンは、ストレス耐性があるため、ストレスが多い環境にも強くなれるのです。

■ストレス解消に最適な「旅ラン」

このような意味において、朝の時間のランニングは脳のバランスを取り、記憶や思考を整理し、精神のメンテナンスもおこなってくれる。まさに理想の運動といえるわけです。

私自身の経験からも、早朝ランニングが脳のモビリティを高め、脳のメンテナンスにとって不可欠なものになっています。朝の時間に走っているからこそ、忙しい毎日をストレスなく全力で乗り越えていくことができていると実感しているのです。

「早朝のランニングはちょっと……」そんな方のために私が推奨しているとっておきのストレス撃退法を教えましょう。それは、旅先で走る「旅ラン」です。

旅ランとは「旅×ランニング」を略したもので、その名の通り旅行先や出張先でランニングを楽しむことを意味しています。意外にもこの旅ランはストレス解消に大いに役立つのです。

なぜなら、旅ランではいつもと違う景色や自然、観光名所などを楽しみながら走ることができ、日頃のストレスから解放されやすい環境だといえるからです。走るのは苦手だけど、旅行は好きという方も多いと思いますが、観光名所を訪問するにしても、クルマや公共交通機関だけでは“点”でしか印象に残りませんが、自分の足で走ってみれば、その土地の魅力を“線”でつなぐことができます。

走る女性
写真=iStock.com/Young777
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Young777

■セレンディピティに出会える

私は仕事で出張することが多いのですが、行った先では必ず走るようにしています。これまでに走ったコースは、カナダのバンクーバーや、私が旅ランのベストコースだと断言しているケンブリッジ大学の近くにあるグランチェスター・メドーなど、国内外200カ所を超えました。

見知らぬ地を走る旅ランには魅力がいっぱい。その一つは、何といっても先にも紹介した「セレンディピティ」に出会えることです。それは人だったり、お店だったり、動物だったり、風景だったり、その土地の文化だったりとさまざま。そういう中に、意外な発見や学びがあったりするのが旅ランなのです。

そうしたセレンディピティに出会うため、私が旅ランをやるときは事前に地図を眺めて「どこを走ろうか」と綿密に計画するのではなく、ある程度のルートを決めて走ってみて、「予定とは違うけれど、こっちのほうが景色がいいからこっちを走ろう」などと、気ままにコースを変更してしまいます。

すると、たまに小路に迷い込んでしまうようなこともありました。そんなときには、慌てずにそのあたりを探索してみると、ガイドブックやネットにも載っていないような素敵なレストランが見つかったりして、食事をしてみると大当たりなんてこともありました。

■脳科学的な効用

こうしたセレンディピティは、車や自転車などの乗り物で移動するだけではなかなか出会うことができないものです。なぜなら、つい見落としてしまいがちなその土地の魅力を、ランニングという速度だからこそ拾い上げることができるからです。

このように、決まったルートもなければ、自由気ままで堅苦しいルールもないのが旅ランの魅力であり、10人いれば10通りの旅ランがそこにあります。

もちろん、脳科学的な観点からも、旅ランは脳のモビリティを高めてくれますし、ストレス解消という観点からもおすすめです。また旅ランは、景色の変わらないルームランナーやトレーニング的なランニングとは異なり、楽しく走ることができるので、疲労感が少なく、身体的なストレスを感じづらくなるというメリットもあります。

さらに、朝の時間帯に旅ランをすれば一石二鳥。先に述べたとおり、太陽の光を浴びることでセロトニンが出やすくなりますし、走ることで快感を得られるためドーパミンも放出されるからです。旅を楽しみながら走る旅ラン、ぜひ実践してみてはいかがでしょうか。

■私が陥ったストレスの悪循環

実をいえば、ストレスについては私にも苦い経験があります。

30歳くらいまでは人間関係を構築することが苦手でした。そのせいで知らず知らずのうちにストレスを溜め込んでしまっていたのです。あるとき、健康診断でお医者さんに心臓の音がおかしいといわれたことがありました。ところが精密検査を受けると、特に異常はありません。

お医者さんが首をひねって、「君、ストレスを溜めやすい性格なんじゃないの?」といったことをいまでも覚えています。そもそも、人間関係とは大抵思うようにはいかないもの。そんなときに、自分が本来コントロールできないことまでコントロールしようとすると、どうしてもストレスが溜まってしまいます。

自分が直接どうこうできないことなのだから、諦めればいいのに、なかなかそれができない……。結果として、さらにストレスを溜め込むという悪循環に陥ってしまっていたのです。

残業
写真=iStock.com/shironosov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shironosov

そこで私は、次のようにマインドチェンジすることにしたのです。

「自分で努力すれば何とかコントロールできることと、どう頑張ってもコントロールできないことを仕分けする。前者についてはベストを尽くす。後者については潔く諦めればいい」

■自分でコントロールできないことは諦める

これは、恋愛で考えると腹落ちするかもしれません。たとえば、あなたが好きになった女性がいたとします。でも、その人もあなたを好きになって相思相愛になるとは限らないわけです。

女性に好かれようとベストを尽くすことはできますが、相手が自分を好きになるかはコントロールできない。好きになってくれればラッキーだし、なってくれなければ仕方がないと諦めるしかない。そう考えれば、かなり気持ちが楽になるはずです。

私は、こうしたマインドチェンジをしてからは、人間関係に限らず、どのようなことでも気持ちが楽になりました。脳科学の観点からみても、自分ができることとできないこととの仕分けがはっきりしていれば、脳のモビリティを高めやすくなるのです。

■ストレスをためる人とためない人の違い

これは、脳の主体性に関わっているのですが、言い換えるならば、「脳はこのようなことをすると、このような効果がある」というフィードバックで自分の主体性を捉えています。このような考えのもと、自分がコントロールできないところまで主体性を伸ばしてしまうと思い通りに物事が運ばないので、それがストレスの原因になっていることが多いのです。

茂木健一郎『運動脳の鍛え方』(リベラル社)
茂木健一郎『運動脳の鍛え方』(リベラル社)

私の周囲の人たちを観察してみても、ストレスを溜めている人は、自分でコントロールできることと、できないこととの仕分けに失敗している人が多いと感じます。

たとえば、ビジネスの場面においても自分が取引しているクライアントに対して、いくら素晴らしい提案をしても、取引先の人の言動やジャッジはコントロールできません。それをいくらコントロールしようとしても、それはストレスになってしまうだけなのです。

自分がコントロールできることについてはベストを尽くし、コントロールできないことについては潔く諦める。このような仕分けさえできていれば、ストレスは大幅に軽減できるというのが、私が考える脳科学的ストレス撃退法なのです。

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茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。クオリア(感覚の持つ質感)を研究テーマとする。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞を受賞。近著に『脳のコンディションの整え方』(ぱる出版)など。

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(脳科学者 茂木 健一郎)

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