なぜビッグモーターは「現金一括払い」を嫌がったのか…「利益至上主義」の会社が経営に行き詰まる根本原因
プレジデントオンライン / 2023年9月21日 10時15分
■なぜビッグモーターはローンを強引に組ませたのか
――ビッグモーターでは、現金での購入を希望しても、強引にローンを組ませるケースも多いと報じられています。
【磯﨑拓紀社長[以下、磯﨑(拓)]】高額な金利を設定して、10年にわたる長期のローンを組ませるという話ですね。これは以前から業界内で話題になっていました。
ローンで物を買ったことのない若い人など、「月々の支払いはわずか○○円ですよ」と月払いの金額の安さだけを強調されて、金利を確認せずに契約してしまうこともあるようです。
――ビッグモーターが長期のローンを無理強いする理由とは?
【磯﨑(拓)】ローン会社からのキックバックがあるからです。金利が高く、返済期間も長ければ、キックバックはかなりの額になります。場合によっては、車の販売利益よりも多くなることもあるでしょう。
――金利の高い低いはあるにしても、自動車販売店にとってローンのキックバックは欠かせない収入源ということでしょうか。
![磯﨑孝『成長の原動力は会社を儲からないようにする』(プレジデント社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/5/1200wm/img_65e887bfd6b89d52607e55d97eddec44214752.jpg)
【磯﨑(拓)】確かに高めの金利を設定して儲けようという販売店は、ビッグモーターに限らず以前から多くありました。
しかし、金利で稼がなければ事業が立ち行かないかというと、そんなことはありません。現に当社では会長の時代に「金利では儲けない」という経営方針を打ち出し、現在も変わらずこの方針を守っています。
【磯﨑孝会長[以下、磯﨑(孝)]】金利だけではありません。当社では、購入した車のメンテナンスにかかる工賃も従来の料金の半額にしたんです。
■会社が儲からない方針をだした理由
――それはいつ頃のことでしょうか。
【磯﨑(孝)】創業して12年目、1984年でした。この年に、三本柱からなる新しい経営方針を定めました。それが「金利では儲けない」「工賃を半額にする」、そしてもう一つ「事故車は売らない」です。この3つを「会社を儲からないようにする」新方針としたのです。
できるだけ金利を下げればお客様が車を購入しやすくなりますし、修理代金を半額にすれば購入後のお客様の負担が減ります。さらに後々トラブルのもとになる事故車の疑いのある車は決して仕入れないという方針も、今後は徹底していこうということです。いずれも実行に移すには、当社の利益を削らなくてはなりません。
■「全社員が反対」だからうまくいく
――まさに「利益至上主義」といわれるビッグモーターの営業方針とは、真逆を行くような考え方ですね。しかし、「会社を儲からないようにする」方針で経営は成り立つものなのでしょうか。
【磯﨑(孝)】一般的には業績悪化を招くと思いますよね。社内でも会社が立ち行かなくなるのではと心配した社員たちから、「そんな方針はバカげています」「間違いなく倒産します」と大反対の声が湧き起こりました。
特に「工賃半額」はリスクが高すぎるということで拒否反応が強く、賛成する者は誰一人いませんでした。
![カーリフト](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/3/1200wm/img_037de80b7f38e60523c797cbd922218c672814.jpg)
――この経営方針を打ち出した理由とは?
【磯﨑(孝)】当社は現在、スズキの正規ディーラーとして軽自動車を中心に新車、中古車を幅広く販売していますが、84年当時はスバルのサブディーラーになって3年目で、新車よりも圧倒的に中古車の扱いが多く、経営的にもまだまだ発展途上という段階でした。
生き残りを図り、さらなる飛躍を遂げるには、思い切った手を打つ必要があると感じていました。そこで思いついたのが「会社を儲からないようにする」という経営方針でした。
この方針の根底にあるのは「お客さまをどうしたら喜ばせることができるか」ということです。当社が創業の頃から掲げている理念「顧客の創造」を実践したものであるともいえ、お客さまに多くを還元してこそ支持を得られるはずだという思いがありました。
――社員全員が反対、という状況で方針が揺らぐことはなかったのですか。
【磯﨑(孝)】むしろ、これだけ反対されるのだから逆にうまくいくだろう、と確信できたのです。全員が反対ということは、同業他社も同じく反対の立場を取るはずだ――。つまり、この経営方針に他社は追随してこないだろうということです。他社にできないことができれば、そこは当社の独擅場となります。
■5年で売上が倍になった
【磯﨑(孝)】それに、私としては思いつきだけでこの方針を決めたわけではありません。大損害になると反対が強かった工賃半額については、業者間の下請けでは一般客向けの工賃の半額程度で請け負うことが多かったので、危惧するほどのダメージにはならないと踏んでいました。要は販売を含めトータルで利益を確保できれば問題ないという判断でした。
「儲けは後からついてくる」――そう確信してこの方針を5カ年計画で実行に移すこととしました。
――その結果はどうだったのでしょうか。
【磯﨑(孝)】社員たちには「売りやすい軽自動車に的を絞って数字を上げていこう。最初は収支トントンでもいい」と告げ、営業活動に注力していきました。
思惑通り売上は順調に伸びていきましたが、利幅が薄くなったことで、苦しい状況がしばらくの間、続きました。5年間のうち2期は赤字決算となりましたが、赤字幅はそれほどでもなく、5年目の1989年には2億5000万円だった年間売上額を倍の5億円まで伸ばすことができたのです。
■顧客軽視の会社が辿る末路
――現在もこの方針を貫いているのですか。
【磯﨑(孝)】その後、当社はスバルのサブディーラーからスズキの正規ディーラーへと立ち位置が変わりましたが、「会社を儲からないようにする」という方針は一部形を変えつつ現在に至るまで堅持しています。
おかげさまで会社の業績もおおむね右肩上がりで順調に推移し、今日に至っています。昨年度は全国のスズキ副代理店3700店中、17位の販売台数を達成することができました。
――ビッグモーターとは正反対の方針を掲げても、会社は成長できるということですね。
【磯﨑(拓)】ビッグモーターのような顧客軽視のスタンスでは、将来にわたって業績を伸ばし続けていけるとは到底思えません。目先の売上、目先の利益を血眼になって追い求めることで一時的に業績を上げることができても、阿漕な商売を続けていればいずれ顧客は離れていきます。
やはりお客さまに喜んでいただくという姿勢が何より大切で、その結果としてお客さまとの絆が深まり、繰り返し当社をご利用いただける顧客を増やすことにつながるのだと思います。
■顧客の利益を第一にしたからできること
EV時代が目前に迫り、自動車販売業は今後、厳しい環境にさらされる可能性が高くなりました。しかし、顧客さえしっかりとつかんでいれば、事業の新しい選択肢も見えてきます。
例えば当社は昨年、新たに生命保険事業に参入したのですが、長年にわたり築き上げてきたお客さまとの関係性がベースとなって、順調な滑り出しを見せています。
20年後、30年後には経営環境が激変し、当社の中心事業は現在とは大きく変わっている可能性もあります。
しかし、今後どのような事業に注力するにしても、お客さまの利益を第一に据えるというスタンスは変わりません。理念として掲げてきた「顧客の創造」も揺らぐことはないと考えています。
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磯﨑自動車工業 会長
昭和22(1947)年11月25日、茨城県那珂郡(現・ひたちなか市)平磯町に生まれる。昭和47年10月、磯﨑自動車工業を創業。昭和49年9月、中古車販売業に進出。昭和50年4月、茨城県中古自動車販売協会(JU茨城)加盟。平成9(1997)年3月、指定自動車整備事業に指定され、民間車検工場の事業を開始。平成14(2002)年2月、スズキと正規ディーラー契約を結び、スズキアリーナひたちなか東店の業務を開始。平成29(2017)年11月、社長を退任し代表取締役会長に就任。茨城県中古自動車販売協会会長、茨城県中古自動車販売商工組合理事長、日本中古自動車販売商工組合 全国流通委員長、ひたちなか商工会議所副会頭などを歴任。令和5(2023)年、春の叙勲で旭日双光章受章。
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(磯﨑自動車工業 会長 磯﨑 孝)
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