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「上手な説明をすれば売れる」は単なる妄想である…リクルート全国1位の営業が「説明の練習」をやめた理由

プレジデントオンライン / 2023年9月25日 10時15分

リクルート銀座8丁目ビル(リクルートホールディングスの登記上の本社)=2009年2月6日、東京都中央区 - 写真=時事通信フォト

売れる営業はどこが違うのか。元リクルート全国トップ営業の渡瀬謙さんは「上手な説明をすれば売れるというのは、単なる妄想にすぎない。一方通行の説明ではなく、相手と会話をしながら説明している状態を作ることが大切だ」という――。

※本稿は、渡瀬謙『静かな営業』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

■「上手なしゃべり」は必要ない

営業の代表的な練習方法として、ロールプレイ(以下ロープレ)というものがあります。社内で上司や先輩を相手に商談の模擬練習を行うものです。

私はこのロープレが大嫌いでした。記憶したセリフをそのまま話すことが苦手なので、どうしてもぎこちなくなってしまうのです。さらに、声が小さいとか、抑揚がないなどと指摘されて、余計に緊張してしまうありさま。ほめられたことは一度もありません。

それでも最後には全国トップになれたのですから、営業にとってロープレがうまいかどうかは関係ないことがよくわかります。

反対に、ロープレがものすごく上手な人もいました。アナウンサーがニュースを読むようにスラスラと商品説明の言葉が出てくる。上司からの評価は高いのですが、そんな人に限って売れないケースがよくありました。

「なんでおまえが売れないんだろう?」と上司も当人も首をかしげている。

でも、いまならその理由がわかります。

上手に話せる人ほど、「自分が上手にしゃべる」ことに意識が向いてしまって、お客さまへの意識が薄くなる傾向があるからです。

■目指すべきは「相手が聞いてくれる」説明

うまい説明をすれば相手は聞いてくれると思い込んでいる人は多いですが、実際は違います。どんなにしゃべりがうまくても、その内容に興味がなければ誰も聞いてはくれませんよね。

聞いてくれないけれど上手な説明と、聞いてくれるけれど下手な説明。営業として目指すべきは後者の「相手が聞いてくれる」説明です。上手な説明をすれば売れるというのは、単なる妄想にすぎません。

とくにしゃべりが苦手な私のようなタイプが上手にしゃべろうと努力すると、かえって売れなくなります。私が売れるようになったのは、説明の練習をやめたからです。

そこには明確な理由があります。

それは、説明の練習をすればするほど、練習通りにしゃべりたくなるものだから。

せっかく頑張って覚えたセリフなので、最後まで全部言いたくなります。でも、それでは、聞いているお客さまが、途中で「それってどういう意味?」「そこをもう少し詳しく聞きたい」「そこはもう知ってるよ」などと思っていたとしても、口を挟む余地がありません。それが問題なのです。

■いかに相手にしゃべってもらうかがコツ

そこで、私が心がけたのは「会話型説明」です。

自分の話が長くなったなと感じたら、次のように投げかけます。

「ここまで大丈夫ですか?」
「ここまでで質問はありませんか?」
「どこかわからない点はありませんか?」

すると相手は、「大丈夫です」とか「ちょっと質問があります」などと答えてくれます。つまり相手にしゃべってもらうことで、一方通行の説明ではなく会話をしながら説明している状態を作るのです。

私は講演などで大勢の人を相手に話すときにも、同じことをしています。

こうすることで、聞き手は自分に寄り添って話してくれていると思いますし、こちらとしても話しやすい状態を作れます。

そうすると、ぎこちない説明でも十分に相手に伝わるのです。

私は相手の気持ちを気にしすぎるタイプなので、ちゃんと聞いてくれているかがとても気になります。多くの「内向型」の人も同じではないでしょうか。営業ではむしろ、それが強みとなるのです。

握手をする2人のビジネスマン
写真=iStock.com/Robert Daly
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Robert Daly

■話そうとすればするほど空回りした

私は子供の頃から「静かな子」「おとなしい子」でした。学校に行ってから帰ってくるまで、誰ともしゃべらない日もよくあることでした。それが苦痛でもなかったので、ことさらに人と話そうとも思いませんでした。

ただ、社会人になるとそうもいかなくなります。

仲間に誘われて飲みに行っても、会話に入っていけません。黙っていると気をつかわれて話しかけられたりもしますが、適当な返しもできずにすぐに会話が途切れます。つまらないヤツだと思われていたことでしょう。

何か言おうとは思うのですが、どんな言葉にするべきかなどと考えてしまい、結局、言葉が出ないまま終わってしまうことが多いのです。

ポンポンとテンポのいい会話で場を盛り上げている人を見ると、どういう脳の構造をしているのかと驚くばかりでした。

なんとか話題をひねり出そうと、本で覚えた面白いネタを突然話し出して、相手をキョトンとさせたことが何度もあります。いま思い返しても痛々しいヤツだったと思います。

■「話す代わりにツールを見せる」という方法

それでも営業職に就けば自然とトークがうまくなると思っていましたが、それは甘い考えでした。同僚ともうまく会話できない人間に、お客さまとの会話が続くわけがありません。

家に帰ってお風呂で一人で会話の練習をしたり、こっそり会話教室に通ったこともあります。

それでも上達する兆しは一切なし。

そこで私は、上手にしゃべる練習をあきらめました。

上手にしゃべるより、別の方法を選んだほうがいいという考えに至ったのです。

営業の仕事とは、お客さまに商品の良さを伝えて買ってもらうことです。「話す」というのはその「伝える」ための手段。

では、「話す」とは別の方法で、「伝える」ことはできないか。

そこで、「話す代わりにツールを見せる」という方法を取ることにしたのです。

例えば、以下のようなことです。

「便利です」→使い方の例をイラストでわかりやすく見せる
「丈夫です」→耐久テストのデータを見せる
「安いです」→他社との比較、業界内での比較表を見せる
「安心です」→サポートやアフターフォローが充実している資料を見せる

■私のカバンが常にパンパンだった理由

つまり、言いたいことに関する資料やデータなどのツールを準備しておき、必要に応じて見せるのです。こちらが話すのは、「その点につきましては、こちらをご覧ください」というひと言のみ。

ツールに頼る説明は、何もない中でしゃべるよりも圧倒的にラクでしたし、何よりも言いたいことが正確に伝わりました。客観的なデータなので、お客さまの納得感も強まります。

私の営業カバンは大量の資料でいつもパンパンでしたが、この道具は私の言葉を補ってくれる強力な武器となりました。

すると、それを見た同僚たちが、同じものを使って成果を出し始めました。便利なものは誰が使っても便利なのですね。

しゃべることが苦手なら、別の手段で伝える工夫をすればOKです。

カバンから書類を取り出すビジネスマン
写真=iStock.com/YurolaitsAlbert
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/YurolaitsAlbert

■断るのは後ろめたいけど行きたくない

私は高校生のときに少しだけバスケットボール部に入っていたことがあります。

練習はハードで、終わるといつも水をがぶ飲みして気持ち悪くなっていました。先輩たちはそのあとラーメンを食べに行くのですが、私は誘われるたびに「気持ち悪くて食べられません」と断っていました。何度か断ると「おまえは付き合いが悪いな」と言われました。

そもそも部活が終わったあとまで人に気をつかいたくないというのが本音でした。さっさと帰って一人になりたかったのです。

社会人になってから、仕事帰りに先輩たちから飲みに誘われました。こちらは高校と違ってずっと付き合っていく人たちです。なので2回に1回くらいは行きました。もっとも、先輩たちは私のことを「付き合いの悪いヤツ」と思っていたことでしょう。

さて、営業の世界ではいまだに、「付き合いの良さこそが営業にとって重要なことだ」という考え方がはびこっているようです。

しかし、これはもはや幻想です。

どこの会社もコスト意識や透明性が求められているいま、「付き合いがあるから」というだけで仕事が発注されることはかなり減っています。

■付き合いは悪いけど仕事はきちんとやる人

営業がお客さまを接待するという慣習も、度を超えると収賄になるので消えつつあります。会社の方針として接待や届け物は受けつけないというところもあります。

また、近年ではムリに付き合わせるのはハラスメントになりますし、コロナの影響もあって上司が部下を飲みに連れ回すことも減ったようです。

私としては好ましい環境になってきたと思っています。

大事なのは、付き合いが悪いことを自覚して、それでも成果を出すことを考えること。他の人が休日にゴルフに行ったりして親睦を深めているのなら、自分はどうすべきか。同じことをやろうとしても効果は期待できません。

ゴルフ場の芝の上のゴルフボール
写真=iStock.com/Somchai Sookkasem
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Somchai Sookkasem

私の作戦は、「付き合いは悪いけど仕事はきちんとやる人」という印象を与えること。

以前、私が営業を教えていた人に、とっても内気な男性がいました。

当初、彼は「明るい営業のフリ」を頑張ってしていたのですが、根がそうではないためにすぐにバレてしまい、売れずに悩んでいました。昔の私とまったく同じです。

■本来の仕事で評価されることだけを考える

彼は内気すぎて、人の目を見て話すことも苦手でした。そこで私は彼に「おとなしい性格のままで営業に行きなさい。お客さまの目を見ないで下を向いて話しなさい」と指導しました。

最初のうちは彼も「いくらなんでもそれは……」と抵抗感を持っていましたが、私が何度も言うので、仕方なくやり始めました。

すると、お客さまからの紹介が増え始めて、最後はトップ営業になりました。

渡瀬謙『静かな営業』(PHP研究所)
渡瀬謙『静かな営業』(PHP研究所)

彼は内気ですから、当然、プライベートでのお客さまとの付き合いもありませんでした。それでも、どんどん紹介が舞い込むようになったのです。

彼が紹介されるときのお客さまの言葉がこれです。

「彼はおとなしいし営業らしくないんだけど、仕事は真面目でいつもこちらを気づかってくれるから信頼できる」

そう、彼はプライベートの付き合いなどはまったくしない代わりに、誰よりもお客さまの立場に立って、できる限りの気づかいをすることに集中していたのです。

そして、お客さまが困っていたらすぐに駆けつけ、相談に乗っていたのです。その意味ではまさに「付き合いのいい人」だったのです。

付き合いが悪いことに後ろめたさを感じる必要はありません。堂々と仕事だけに集中すればいいのです。

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渡瀬 謙(わたせ・けん)
ピクトワークス代表
1962年、神奈川県生まれ。小さい頃から極度の人見知りで、小中高校生時代もクラスで一番無口な性格。明治大学卒業後、精密機器メーカーに入社。その後、リクルートに転職。社内でも異色な無口な営業スタイルで入社10カ月目で営業達成率全国トップになる。94年に有限会社ピクトワークスを設立。広告などのクリエイティブ全般に携わる。その後、事業を営業マン教育の分野にシフト。著書に『“内向型”のための「営業の教科書」』(大和出版)、『トップセールスが絶対言わない営業の言葉』『トップセールスが絶対やらない営業の行動習慣』(以上、日本実業出版社)、『「しゃべらない営業」の技術』(PHPビジネス新書)などがある。

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(ピクトワークス代表 渡瀬 謙)

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