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なぜアマゾンはほかより安くて早いのか…世界一のECサイトが出店者に強いる超過酷な低価格競争

プレジデントオンライン / 2023年9月25日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AdrianHancu

なぜアマゾンは世界最大のECサイトになったのか。読売新聞記者の小林泰明さんは「最大の競争力は、ほかのサイトよりも商品が安く、かつ早く届くところだ。ただそのサービスは、出店者への苛烈な要求によって成り立っている」という――。(第1回)

※本稿は、小林泰明『国家は巨大ITに勝てるのか』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

■出店者が行っている過酷な低価格競争

数あるネット通販モールの中で、アマゾンの低価格競争は最も過酷と言われる。

日本のネット通販関係者によると、アマゾンの商品画面は、同じ商品を出す出店者の価格情報が1ページに集められ、縦長で一覧できる特徴がある。その際、表示される順番は、出店者の価格や配送の速さなどをアマゾンが評価して決め、最上位の評価を受けた出店者が利用者の「カートボックス」に表示される。

利用者は表示されたものをそのまま買いやすい。そのため、出店者はカートボックスの獲得を巡って激烈な競争を繰り広げる。出店者によると、この競争には「限界ぎりぎりまで値段を下げ、利益を落とさないと勝てない」ため、低価格に設定せざるを得ない。

米議会の調査によると、アマゾンは競合他社のサイトを定期的に調べ、アマゾンの価格が競合サイトより大幅に高い場合、出店者に値下げ圧力をかけているという。常に最低価格をつけられるような「自動価格設定ツール」の利用も勧めているといい、米出店者団体からは「アマゾンは出店者が設定する価格の上限と下限をコントロールし、最終的な価格決定権をもつ」との声も上がる。

■売上の30%以上を支払う

カートボックスを取るには低価格だけでも十分ではない。配送が遅いと上位に表示されないため、手数料を払い、アマゾンの物流サービスを利用する出店者が多い。

そうした条件をクリアしても、さらに難関が待ち受ける。出店者は商品によってはアマゾン本体とも競合する。巨大な購買力をもつアマゾンは商品を安く仕入れることができるため、「その商品を作っているメーカー以外、アマゾンに勝つのは無理」(出店者)という。

近年、アマゾンは検索結果などに表示する広告にも力を入れており、販売に関わる手数料や広告費を合わせると、売上の30%以上をアマゾンに支払う例もあるという。

「カートボックスを取るには、アマゾンに多くの手数料を払うなど、結局、出店者側が多くの費用を負担しなければならない仕組みになっている」
「出店者側は心の中ではアマゾンに依存せずに商売したいと思っているが、集客力が強く、速く配送できるので、アマゾンを選ばざるを得ない」

消費者にはうれしい低価格は、出店者たちが身を削って絞り出しているのだ。

■アマゾンから抜け出せない仕組み

アマゾンが急速に規模を拡大できたのは、消費者と出店者が同時並行で増えていくその仕組みにある。消費者が集まれば、集客を目当てにした出店者が増える。出店者が集まれば、品ぞろえが豊富になり、また消費者が集まる。こうして拡大したアマゾン帝国で問題になっているのが、出店者や商品を納入する取引先に対するアマゾンの「いじめ」だ。

座り込んで悩む女性
写真=iStock.com/Tinnakorn Jorruang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tinnakorn Jorruang

2022年秋、カリフォルニア州の司法当局は、競争法違反でアマゾンを提訴した。訴状には、出店者がアマゾンからどんな要求をされているかが赤裸々に記されている。

訴状によると、アマゾンは、競合他社の価格を監視し、他社が価格を下げればアマゾンも下げる、という価格戦略を採用。出店者に「自動価格変更サービス」を使うよう促し、アマゾン以外のネット通販サイトが提示する最低価格に常に一致するようにしているという。従わない出店者には、カートボックスから外すといったペナルティーが科される。カリフォルニア当局は、これが他の通販サイトが安い価格を提供することを妨げていると問題視した。

なぜ取引先はアマゾンの理不尽な要求に耐えているのか。別のネット通販事業者に乗り換えればよいではないか、と思う人もいるかもしれない。しかし、アマゾンへの依存度が高いがゆえに、出店者はそこから抜け出せなくなっている。

アマゾンの要求に応じる背景について、ある出店者は次のように語ったという。

「私たちは他に行くところがなく、アマゾンはそれを知っている。アマゾンから出店を停止されて売上の90%を失えば、ビジネスは成り立たなくなる。私たちはアマゾンから抜け出せない」

■「最低マージン契約」

アマゾンの圧倒的な支配力を示す出店者の声もある。

「出店者は交渉力をまったく持っていない。すべてが『無条件に受け入れるか、やめるのか』。交渉力はすべてアマゾンにある」

出店者は報復を恐れ、不満の声さえ上げられないのだという。

「(問題があることを公に言えば)アマゾンは商品検索でその出店者の商品を見つかりにくくしよう、と言うかもしれない」
「私たちは(アマゾンの競合他社に)勝ってほしい。彼らはいじめっ子じゃないから」
。そこまで言う出店者もいる。

当局は、アマゾンが納入業者と「最低マージン契約」を結んでいることも問題視した。アマゾンの利益が契約で定められた「最低マージン」を下回った場合、納入業者がその分を補填するのだという。つまり、納入業者がアマゾンの利益を確保する義務を負うことになる。

家電製品を納入する業者は「ある商品でより安い価格を見つけた場合、アマゾンはその価格に合わせて自らの価格を下げる。次に、アマゾンの利益率を維持するために穴埋めを求められる」という。この業者は「補償金は払いたくないが、要求を拒否した場合のリスクが大きすぎるため、アマゾンの要求に従わざるを得ない」と証言したという。

■アマゾン側の反論

こうしたアマゾンの要求が、ほかの小売業者に対して価格を下げようとする納入業者を減らし、価格の高止まりを招いていると当局はみている。カリフォルニア州司法長官は「アマゾンの市場支配が続き、アマゾンは出店者らにますます手に負えない要求をするようになっている」と厳しく非難した。

アマゾンはカリフォルニア当局の提訴に対し、声明で強く反発した。「司法長官は、小売業界を根本的に誤解し、アマゾンの取引慣行を誤解している。アマゾンは低価格を含め、お客様に最高のショッピング体験を提供することを目指している。もし司法長官が勝訴すれば、アマゾンはより高い、競争力のない価格を顧客に提示することを余儀なくされるだろう。それは消費者と出店者を傷つけるだけだ」

あなたはどちらの言い分が正しいと思うだろうか。安く買えるのなら、出店者や納入業者が苦しんでもやむを得ないのか――この問題はそんな問いを私たち消費者に投げかけている気がする。

■我々は奴隷みたいなもの

日本の出店者も苦しんでいる状況は同じだ。ある出店者はこう言い切った。

小林泰明『国家は巨大ITに勝てるのか』(新潮新書)
小林泰明『国家は巨大ITに勝てるのか』(新潮新書)

「アマゾンは表向き『出店者のため』とか言うが、実際は向こうが親分、出店者は奴隷みたいなもの」

一通り話を聞いた後、この出店者が最後に語った言葉が、強く胸に響いた。

「安ければ確かに嬉しいし、返品でも何でも受けてくれるアマゾンは消費者にとっては素晴らしいかもしれない。でも、アマゾンが出店者をいじめればいじめるほど、出店者に関わる人たちも追い込まれていく。家族、親戚、身内の繋がりなどで、出店者と関係のある消費者もいるだろう。アマゾンの便利さは回り回って自分の首を絞めることになるのではないか」

私たち消費者はアマゾンで商品を安く買い、速く配送してもらい、その恩恵を受ける。しかし、便利なサービスの裏ではアマゾンの苛烈な要求に取引先が苦しんでいる。

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小林 泰明(こばやし・やすあき)
読売新聞経済部 記者
1977(昭和52)年生まれ。エネルギー専門紙記者を経て、2005年、読売新聞社入社。15年~16年、米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)客員研究員。19年からニューヨーク特派員、22年に帰国。東京本社経済部所属。著書に『死刑のための殺人』等。

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(読売新聞経済部 記者 小林 泰明)

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