「散歩=犬の運動」ではない…愛犬の健康寿命を延ばすために「えさやり」と「散歩」で知っておくべきこと
プレジデントオンライン / 2023年9月30日 10時15分
※本稿は、長谷川拓哉『愛犬の健康寿命がのびる本 うちの子がずっと元気に暮らす方法』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■9割の飼い主がペットフードを与えている
みなさんはワンちゃんに何を食べさせていますか?
犬にペットフードを与えている割合は飼い主全体の9割という統計もあります。
実際、ペットショップやホームセンターのペットフードのコーナーに行けば、年齢別、病気別、犬種別などさまざまな種類のペットフードが販売されています。
一般に、栄養バランスがとれたペットフードを与えているほうが、飼い主が手作りするよりも健康にいいように考えられます。
実際、最近は良質なペットフードもたくさんあり、どれを選んだらいいのか迷ってしまうほどです。
時間をかけずに簡単に食事の準備ができるペットフードは便利ですし、ペットフードを否定しているわけではありません。
■ペットフードは「食品」ではなく「雑貨」
でも、ペットフードはいわゆる「食品」ではなく、「雑貨」のカテゴリーに入っているということをご存じでしょうか。
もちろん、「雑貨」扱いだとしてもペットフードが粗悪なものばかりというわけではありませんが、人が口にする食品と同程度の規制を受けてはいないとされています。
なかには人間が口にするものには使わない毒性の強い添加物や、許容量を超えた添加物が使用されている場合もあります。
■ペットフードを与えると短命になる可能性
「犬と猫における長寿に関わる要因の疫学的解析」という東京農工大が発表した論文があります。
調査は長寿犬と長寿猫のグループと、5〜9歳で亡くなった犬猫のグループを対象に行われました。
その調査の「食事」の項目に注目してみると、「主にペットフード」を与えている割合は、長寿グループと若くして亡くなったグループでは大差がありませんでした。
しかし、長寿グループは「ペットフードのみ」の割合が低く、「手作り食」の割合が高かったのです。
この調査では、「ペットフードが犬の健康に悪いとは言い切れないが、手作り食のほうがよい」と結論づけています。
![ペットフードを食べる犬と猫](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/f/1200wm/img_3f14a9a0f545baa59d04b0a38caf8648266541.jpg)
■「高級ドッグフード」が健康にいいとは限らない
「高級ドッグフード」も飼い主さんの誤解が多いものの1つです。高価なドッグフードがよくて安価なものが悪い、というわけではないのが、ペットフードの難しいところです。
実際、高級ドッグフードを与えているのに、皮膚がボロボロになってしまった、下痢をしてしまったといって、クリニックに来る犬もいます。
フードを安価なものに変えたら元に戻ったという、嘘のような話です。
飼い主さんを責めているわけではありません。高級なフードを食べさせているのは、ペットの体を思う気持ちがあるからこそでしょう。
でもそれが犬の健康を害してしまうことがあるのです。
失うのは健康だけではありません。お金も失います。
飼い主がよかれと思って与えたり、なんとなく使ったりしているものによって、健康を害するだけでなく、お金もなくしていることを「ペット浪費」といいます。
何を隠そう、「ペット浪費」は飼い主さんへの警鐘ワードとして私のクリニック(ペットクリニックZero)が考えた言葉です。
そこには年々犬の診療費が上がっている現実があります。
今のままでは、犬の年齢とともに医療費はどんどん増えていくばかり。
「食」を見直すだけで、ペット浪費を抑えることができると私は確信しています。
■犬も腸内環境が大事
腸と免疫力が深くかかわっていることはご存じの人も多いでしょう。
腸には免疫細胞が多く存在しており、腸が健康なら免疫力が高いとか、健康寿命の鍵は腸内環境が握っているなどとよく聞きます。
これは人間だけの話ではなく、犬も同じです。
![食材に囲まれる犬](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/e/1200wm/img_ae2c467b6505654aa9c7672020f3d34c173632.jpg)
腸内環境を整えることで、病気にかかりにくくなるのです。
そのために大切なのは、やはり「食事」。高齢期に入る前からいろいろな食べ物を食べることが、健康長寿の秘訣(ひけつ)です。
また、前掲の論文において、「ドライフードのみ」「ドライフードと手作り食」「手作り食のみ」の3つの食事のとり方でどのケースが長寿だったかを比較しています。
長寿群では手作り食率が高く、「食事による手作り調理を与えた」ほうが、明らかに長寿だったという調査結果があります。
これはもっともな結果です。種類にもよりますが、ドライフードの多くには、とうもろこしなどの穀物が多く入っています。
こういった乾燥した穀物を腸に入れ続けるより、水分を多く含む肉や野菜などの手作り食をとったほうが、腸内環境にいいのは明らかです。
腸内環境がよくなれば、免疫にもいい影響を与え、健康寿命の延長にもつながると考えられるのです。
■散歩の目的は運動ではない
散歩=犬の運動ではない、といったら驚かれるでしょうか。
多くの飼い主さんは、犬の運動として、犬のストレス解消として、あるいは排泄させるために散歩を日課にしているかもしれません。
![犬の散歩をする男性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/5/1200wm/img_35c0160650764ef443ef6fff2b4c0788278553.jpg)
犬という動物は「何かしたい」という欲求のかたまりです。
人間と同じように、犬にも欲求階層があり、もっとも重要なのは「生命の安全」や「飲食」であることはいうまでもありません。
ただその階層の上位、つまり優先順位が低いものには、「運動」「探査活動」「なわばり活動」があります。
■「3つの欲求」を満たすことが散歩の役割
実はこの「運動」「探査活動」「なわばり活動」の3つの欲求を満たすことが散歩の役割だ、という説があります。
散歩に行くとあちこちのにおいを嗅ぎますが、これがもっともわかりやすい「探査活動」です。
そして「運動」とは、たんなる散歩ではなく、ボールを投げてそれを走って取りに行くなど、もっと大きな体の動きを指します。
都会ではなかなか難しい面もありますが、週末にドッグランに行くなど、あえて体を動かすことをさせてあげないと、犬の本当の欲求は満たせないのです。
■散歩は犬の腸内環境に好影響
もちろん散歩がまったく運動にならない、という意味ではありませんが、むしろ散歩とは飼い主さんとの絆を深める意味合いのほうが大きいと私は思っています。
散歩のメリットはそれだけではありません。
犬の腸内環境にも好影響を与え、健康寿命を延ばすことが期待できるのです。
犬ではないのですが、子豚の飼育方法と腸内細菌に関する、日本臨床免疫学会発表の論文があります。
子豚を飼育方法ごとに「外で自由に飼育している豚」「室内で飼育している豚」「個室に隔離して、抗生剤を毎日投与して飼育している豚」の3つに分け、腸内細菌の変化を調べました。
結果、外飼いの豚の腸内細菌が最もいい状態でした。腸内細菌の9割が健康にいい種類の細菌だったのです。
その次が室内飼いの豚、最後が抗生剤を与えた豚という順番でした。
これは豚での調査結果ですが、おそらく犬でも同じ結果が出ると思います。
かといって、ただちに犬を外飼いしなさいとまでは言いませんが、室内にずっといるより、適度に散歩に出て外の環境に触れたほうが、犬の腸内環境にとっては望ましいのです。
■適度な散歩で犬の免疫力がアップする
犬は散歩中、あちこちのにおいを嗅ぎます。草や土のにおいを嗅ぐと、微生物などが直接、鼻に入ってきます。
![長谷川拓哉『愛犬の健康寿命がのびる本 うちの子がずっと元気に暮らす方法』(青春出版社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/f/1200wm/img_bf7466cb01ca47353b081c85db3b47a5149826.jpg)
免疫は粘膜で産生されます。
鼻も腸も粘膜です。免疫細胞と腸には密接な関係があります。
鼻の粘膜から微生物やさまざまな菌が入ってくれば、腸内細菌もその影響を受けるのではないかと考えられます。
適度に散歩させることで、犬の腸内環境が良くなり、免疫力のアップにつながるのです。
散歩を犬の運動のためにしている、犬のストレス解消のためにしている。
それも間違いではありませんが、「外の環境にふれること」自体が、犬の健康寿命にとって意義があるのです。
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獣医師
北里大学獣医学科卒業後、埼玉・新潟の動物病院で11年勤務。手術件数年間800件以上の病院で高度医療にも携わるが、薬や手術が当たり前の西洋医学に疑問を感じ、東洋医学を研究。その後、新潟県でペットクリニックZero/ペットスキンケアサロンZeroをトリマーの妻と開業。食事療法や体のエネルギー改善を治療の柱とし、免疫力や自然治癒力を高めて動物たちを元気にすることを目指している。著書に『愛犬の健康寿命がのびる本 うちの子がずっと元気に暮らす方法』(青春出版社)。
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(獣医師 長谷川 拓哉)
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