身長が高い人は年収が高く、既婚率が高く、幸福度が高い…世界中で確認される「身長による人生格差」の実態
プレジデントオンライン / 2023年9月26日 11時15分
■身長は人生にどのような影響を及ぼすのか
皆さんは3高という言葉をご存じでしょうか。3高は「高学歴」「高収入」「高身長」を意味しており、バブルの頃に望ましい結婚相手の条件として流行ったものです。
この3高は現代でも影響力があるのかという点について、前回の記事で取り上げましたが、意外にも「高身長」のインパクトが大きいことがわかっています。
そこで、今回の記事では「身長」の影響について、より深堀りしてみたいと思います。
実はこの身長ですが、結婚だけでなく、仕事や幸せといった人生のさまざまな側面に影響することがわかっています。そして、多くの学術研究の結果によれば、高身長の人ほど得をしているのです。
以下で身長が人生に及ぼす意外な影響について、詳しく説明していきたいと思います。
■アメリカよりアジアのほうが身長と所得の関係が強い
身長と仕事の成功に関して、数多くの学術研究の蓄積があります。
まず、所得との関係を見ると、身長が高い人ほど所得が高いことがわかっています。この傾向は国によって異なっており、欧米と比較してアジア地域ほど上昇幅が大きくなっています(*1)。具体的には、アメリカでは身長が10cm高くなると、所得が約4%伸びますが、アジア地域では所得が約9%伸びることがわかっています。
世界的に見て相対的に身長がやや低いアジア地域では、高身長の価値が高いと言えるでしょう。ちなみにこのような身長と賃金の比例関係は、「身長プレミアム」と呼ばれています。
この身長プレミアムですが、絶対的な身長の高さだけでなく、他の人と比べた際の相対的な身長の高さからも影響を受けることがわかっています。私たち人間はどうしても他の人と自分を比較してしまうため、周りの人よりも自分の身長が高いのか、それとも低いのかという点が影響してくるわけです。
ドイツの研究によれば、平均身長と比較して自分の身長が高い場合、男性の所得が約4%増加することがわかっています(*2)。また、平均身長と比較して自分の身長が低い場合、男性の所得が約3~6%低下していました。これらの結果が示すように、身長でも「他の人と比較して自分が上か下か」という点が影響してきます。
■経営層の男性ほど平均身長が高い
身長はCEOといった経営層に残れる比率とも関連することがわかっています。
1915年のアメリカの研究によれば、経営層の男性の身長は、平均身長よりも高いことがわかっています(*3)。同様の研究は2000年代にも行われましたが、やはり経営層の男性ほど平均身長が高くなっていました(*4)。さらに、同じ傾向はアメリカの大統領選でも確認されています(*5)。
これらの結果から、高身長な人ほど、社会や企業の中で指導的な地位につく傾向があると言えるでしょう。
■高身長な人ほど結婚しやすく、幸せになりやすい
続いて身長は、結婚や幸せとも関連することがわかっています。
イタリア、アメリカ、そして日本の研究によれば、身長が高い人ほど結婚している割合が高い傾向にあります(*6)。この結果は主に男性で確認されています。高身長男性ほど、モテて結婚できるというわけです。ちなみにイタリアの研究によれば、トレッポ・カルニコ地域の男性の場合、身長1cmの増加によって、婚姻率が約6.8%増加したと指摘されています。また、日本の場合、身長が1%増加した場合、婚姻確率が約0.7%増加していました。
身長は幸せとも関連しています。イタリアの研究によれば、高身長な人ほど幸福度(幸せを数値で測った値)が高い傾向にありました(*7)。また、結婚した男女について見ると、身長の高い夫を持つ妻ほど、幸福度が高くなっていました(*8)。これまで女性は高い身長の男性を好むと指摘されてきましたが、そのような男性と結婚できると、幸せをより実感できるというわけです。
■なぜ身長が高いと得をするのか
これまで見てきたように、身長が高いことにはさまざまな面でメリットがあります。なぜこのようなメリットがあるのでしょうか。実はこれにはいくつかの理由が指摘されています(*9)。
まず1つ目は、身長が良好な健康状態を反映している可能性です。身長は子どもの頃からの栄養状態や健康が反映される可能性があるため、高身長の人ほど健康面で問題がなく、学業や仕事に打ち込むことができると考えられます。この結果として、学歴が高くなり、所得も上昇するというわけです。発展途上国を中心に、この身長と健康の関係は、無視できないでしょう。
2つ目は、自尊心との関係です。心理学の研究によれば、身長が自尊心や社会的評価に影響を及ぼすことがわかっています。高い身長が自尊心の向上につながり、仕事の成功につながる可能性があるわけです。この結果として、所得や結婚割合が増加するようになると考えられます。
3つ目は、認知能力との関係です。認知能力とはIQ、学力、記憶力といったペーパーテストで測ることのできる能力です。これまでの研究の結果、身長の高い人ほど認知能力も高くなる傾向があるとわかっています。高身長の人の持つ相対的に高い認知能力が高い学歴や仕事の成功にもつながるというわけです。
■身長、顔の美しさが採用で有利になる
4つ目は、雇用主が好んで高身長の人を雇うといった可能性です。企業が人を雇う際、できれば優秀な人材を雇いたいと思うでしょう。ここでもし高身長の人ほど認知能力等が高いといったことがわかっている場合、高身長の人を好んで雇う可能性があります。企業の業績や行く末を考えて、雇用主は合理的な理由から高身長の人を雇うわけです。
実は顔の美しさに関しても、身長と同じ傾向があることがわかっています。テキサス大学オースティン校のダニエル・ハマーメッシュ教授によれば、顔が美しい人ほど仕事で成果を出す傾向があります(*10)。雇用主もその高い生産性を好み、顔が美しい人を採用しやすくなるというわけです。
人の見た目にはその人の能力の一端が示されている可能性があるため、雇用主も見た目を1つの採用基準とすることがあると言えるでしょう。
見た目による採用にも、ある種の合理性があるわけです。
■世界中で観察される「高身長な人ほど得をする」
これまでの例で示してきたように、高身長の人ほどさまざまな面で得をしています。この傾向は世界中で観察されるため、人間にとって高い身長が価値あるものだと考えられるでしょう。
日本について見ると、2019年の厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によれば、30代男性の平均身長は171.5cmで、女性の平均身長は158.2cmでした。これらの平均身長以上の場合、なんらかのメリットを享受している可能性があります。ただ、この分野の研究例は少なく、その実態がわかっていないというのが現状です。今後、さらなる研究の進捗(しんちょく)が期待されます。
(*1)Thompson, K., Portrait, F., Schoonmade, L. (2023). The height premium: A systematic review and meta-analysis. Economics and Human Biology, 50, 101273.
(*2)Heineck, G. (2005).Up in the Skies? The Relationship between Body Height and Earnings in Germany. Labour, 19(3), 469-489
(*3)Gowin, E. B. (1915). The executive and his control of men: A study in personal efficiency. MacMillan Co.
(*4)Gladwell, M. (2005). Blink: The Power of Thinking Without Thinking. Little, Brown & Company, New York.
(*5)Persico, N., Postlewaite, A., Silverman, D. (2004). The Effect of Adolescent Experience on Labor Market Outcomes: The Case of Height. Journal of Political Economy, 112(5), 1019-1053.
(*6)イタリア:Manfredini, M., Breschi, M., Fornasin, A., Seghieri, C. (2013). Height, socioeconomic status and marriage in Italy around 1900. Economics & Human Biology, 11(4), 465-473.
アメリカ:Fu, H., Goldman, N. (1996). Incorporating health into models of marriage choice: demographic and sociological perspectives. Journal of Marriage and Family, 58(3), 740-758.
日本:Yamamura, E., Tsutsui, Y. (2017). Comparing the role of the height of men and women in the marriage market. Economics & Human Biology, 26, 42-50.
(*7)Carrieri, V., Paola, D. M. (2012). Height and subjective well-being in Italy. Economics & Human Biology, 10(3), 289-298.
(*8)Sohn, K. (2016). Does a taller husband make his wife happier? Personality and Individual Differences, 91, 14-21.
(*9)①Bittmann, F. (2020). The relationship between height and leadership: Evidence from across Europe. Economics & Human Biology, 36, 100829.
②Kim, T. H., Han, E. (2017). Height premium for job performance. Economics & Human Biology, 26, 13-20.
(*10)ダニエル・ハマーメッシュ(2015)『美貌格差』東洋経済新報社
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拓殖大学政経学部教授
1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。
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(拓殖大学政経学部教授 佐藤 一磨)
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