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ジャニーズ事務所が広告主に支払う損害賠償額はいかほどか…弁護士が指摘する企業が被る大きすぎるダメージ

プレジデントオンライン / 2023年9月22日 10時15分

性加害問題で記者会見するジャニーズ事務所の東山紀之氏(左)と藤島ジュリー景子氏=2023年9月7日、東京都千代田区 - 写真=時事通信フォト

大手企業によるジャニーズ事務所所属タレントが出演するCMの見直しが相次いでいる。この先、事務所に損害賠償が発生する可能性はあるのか。芸能人の権利問題を多く扱うレイ法律事務所代表弁護士の佐藤大和さんは「ジャニーズ事務所に対する損害賠償義務が発生する可能性は十分にある。その金額は、企業の広告宣伝費を考えると、非常に莫大な金額になるおそれがある」という――。

■広告出演契約書にある「信用保持条項」

1 損害賠償が発生する可能性

まず、企業は、タレントを自社のCMに出演させる場合には、広告代理店やキャスティング会社を通じて、芸能事務所との間において、広告出演契約書を締結いたします(詳細は省きますが、このような重層下請のような構造自体も問題とされています)。この広告出演契約書とは、広告主である企業、あるいは広告主の販売する商品やサービスの価値を高めることを目的として締結するものとなります。

そして、一般的には、広告出演契約書では、信用保持条項として、広告主や商品のイメージを毀損(きそん)するようなタレント又は所属芸能事務所の行為等があった場合には、広告主側は、広告出演契約を解除することができ、かつ、芸能事務所側に対して、損害賠償請求ができる旨の条項を置いています。例えば、この条項が適用されるのは、タレントが、薬物や不倫など不祥事を起こした場合などとなります。

今回の企業(実際は広告代理店)とジャニーズ事務所との間の広告出演契約書の内容はわかりませんが、おそらく同じような条項が規定されているのではないかと推測することができます。そうすると、仮に、このような条項がある場合には、芸能事務所の代表者が所属タレントに対して性加害をしていたこと等が大きく報道された事実は、所属タレントが広告出演することで、広告主の企業のイメージを毀損することは明らかですので、広告主は広告出演契約を当然に解除することができ、それによって企業に損害が生じていれば、当該損害の賠償を求めることができると思われます。

■事務所に対して損害賠償が発生する可能性はある

ところで、仮に、このような信用保持条項がない場合であっても、所属事務所の代表者による所属タレントへの性加害等が大きく報道されたことは、広告主である企業やその商品の価値を高めるという広告出演契約の目的に反することは明らかですので、広告出演契約の解除や損害賠償請求は可能と思われます。

以上から、今回の件は、契約違反(債務不履行)として、ジャニーズ事務所に対して、損害賠償義務が発生する可能性は十分にあります。そして、その金額は、企業の広告宣伝費を考えますと、非常に莫大(ばくだい)な金額になるおそれがあります。なお、私の経験では、一つの広告出演契約だけでも、1億円を軽く超える可能性は十分にあります。

ただ、実際は、広告代理店やキャスティング会社なども、性加害について知っている度合等によっては、落ち度があるとして、損害を負担しなければならない可能性も十分にありますので、ジャニーズ事務所だけではなく、広告代理店やキャスティング会社の負担も大きいものといえます。

■所属タレントが被る不利益は非常に大きい

2 所属タレントが被る不利益

世論の中には、所属するジャニーズタレントには、責任がないとして、広告出演契約は解除されるべきではないとの論調も見受けられます。また、「ビジネスと人権」の問題からも、取引停止は、最終手段とされているから、安易に広告出演契約を解除するべきではないという意見もあります。

しかし、広告主である企業にとってみれば、代表者が未成年タレントへの性加害を行った芸能事務所との取引を継続することは、未成年者への性加害を容認することと受け取られ兼ねず、企業や商品のイメージを毀損することになります。その可能性がある以上、広告出演契約の目的から考えますと、広告出演契約を解除することはやむを得ず、取引を継続することは、経営判断としても困難だと思われます。

以上から、所属するジャニーズ事務所の各タレントは、各企業の広告に出演することができなくなる不利益を被ることになります。また、今後も各企業からのオファーは減ると思われますし、テレビメディア等に対する出演も減ることが予想され、その不利益は、非常に大きいといえます。

ミニチュアのテレビをつかもうとする手
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

■タレント側は契約の解除や損害賠償請求ができる

3 所属タレントが取ることができる方法

以上のように、所属タレントとしては、非常に大きな不利益を被ることになります。

しかし、今回の件は、所属するジャニーズ事務所のタレントには、責任はないと考えられます。そのため、所属するタレントとしては、ジャニーズ事務所との間のマネジメント契約を解除したり、所属するジャニーズ事務所に対して、今回の不祥事によってタレントが被った損害の賠償を請求したりすることができます。例えば、東京高等裁判所平成29年1月25日の判決では、所属するタレントが、不祥事を起こした芸能事務所側との間で、マネジメント契約の解除について争ったケースについて、タレントと所属するマネジメント事務所との間の信頼関係が破壊されているとして、マネジメント契約の解除を認めました。

他方で、今回の件では、ジャニーズ事務所に関する報道等を受け、一部の企業が、直接、タレントと広告出演契約を締結すると公表していますが、ジャニーズ事務所に残ると考えた所属タレントとしては、ジャニーズ事務所とのマネジメント契約を継続しつつ、一定の不利益を減らすことができる一つの選択肢になったかと思います。このようにジャニーズ事務所としては、ジャニーズ事務所に残ると考えた所属タレントの不利益や負担などを少しでも減らすための選択肢を積極的に用意するべきかと思います。

■文化庁がガイドラインを策定するべきだ

4 今後の課題

今回の件の背景には、様々な要因がありますが、タレントが、所属事務所に問題があると考えた場合において、①他の芸能事務所に移籍することが容易であり、②移籍先の芸能事務所に所属しても芸能界(特に、テレビメディア)で干されることなく、芸能活動することができていたのであれば、今回のような問題は、一定程度防ぐことができたと思われます。そういった意味では、今回のテレビメディアの罪は、性加害を助長したものであり、その責任は非常に大きなものであると考えています。

以上から、まず、第1の課題としては、政治と芸能業界の関係性を踏まえると、簡単ではないですが、タレントが自由に芸能事務所を移籍できるようにすることになります。そのためには、タレントと芸能事務所との間のマネジメント契約が公平な契約になるように、韓国のように、行政が先陣を切って、マネジメント契約書の雛型を示すべきでしょう。例えば、文化庁が、この機会に、マネジメント契約書に関する雛型を示し、またガイドラインも策定するべきです。文化庁は、この問題を避けることなく、しっかりと切り込むべきかと思います。

契約内容のチェック
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

■すべてのメディアが人権問題について考えてほしい

次に、第2の課題としては、テレビメディアと芸能事務所の関係を踏まえると、こちらも簡単ではないですが、タレントが移籍をしても、芸能界(特に、テレビメディア)で干されないようにする制度作りとなります。具体的には、テレビメディアは、今後、そのような芸能事務所に対する忖度(そんたく)は一切しない、と声明を出すべきです。

加えて、第3の課題としては、今回のジャニーズ事務所の性加害の報道は、私がこれまで受けた相談の経験からしますと、氷山の一角となります。そのため、芸能業界の人権意識を正常にするために、雑誌・出版メディアを含め、すべてのメディアや各企業としては、所属するタレントの人権を侵害するような芸能事務所とは付き合わないこと、出演を慎重に判断すること、などについて、しっかりと声明を出すべきです。

少し付言いたしますと、テレビメディアだけではなく、雑誌・出版メディアも同様となります。今回、各出版社は、自社の週刊誌を通じて、ジャニーズ事務所の問題やテレビメディアの問題について触れていますが、雑誌・出版メディア業界自らの人権問題については全く触れていません。この機会に、それぞれの業界において、人権デュー・ディリジェンスを意識し、ビジネスと人権問題について、改めて考えるべきでしょう。

■弁護士の人権意識も問われている

最後の課題は、私たち法曹界の課題となります。先般、国連人権理事会の専門家が「事業活動の関連で生じる幅広い人権問題に対する裁判官の認識が低い」と日本の裁判官を痛烈に批判しましたが、実際に、芸能人に関する裁判を担当していると、裁判官らの芸能人に対する偏見を感じることもあります。そのため、裁判官らの認識も改めていく必要があります。また、芸能業界に関わる弁護士は少なくありません。今回の問題は、芸能業界に関わる弁護士たちによる「芸能業界だから、このぐらいは許容される」といった人権意識の鈍麻もあったと思われます。ですので、私たち芸能業界に関わる弁護士の人権意識も問われているのだと思います。

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佐藤 大和(さとう・やまと)
レイ法律事務所代表弁護士
東京弁護士会所属。エンターテインメント法務・芸能人法務、スポーツ法務、クリエイター法務(YouTuber、VTuberの権利)、ライバー法務などを得意分野として、芸能業界の健全化、芸能人の権利保護のための活動にも取り組んでいる。芸能人の権利保護に資する裁判例なども多く獲得し、自由民主党「知的財産戦略調査会」における講師、文化庁「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた検討会議」の委員も務めた。

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(レイ法律事務所代表弁護士 佐藤 大和)

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