プール後に「小さな噴水」で目を洗ってはいけない…眼科医が「目を洗うな」と繰り返し警告する理由
プレジデントオンライン / 2023年9月26日 13時15分
※本稿は、平松類『眼科医が警告する視力を失わないために今すぐやめるべき39のこと』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■目を洗う習慣は、今すぐやめたほうがいい
かつて涙は「ただの水」だと思われていました。しかし現在では、脂質やタンパク質など複数の微量栄養素で構成されていることがわかっています。その複合的な成分が常に眼球を薄く覆い、守っているのです。
「目を習慣的に洗う」というのは、要するに、眼球を保護している涙を習慣的に洗い流してしまうということです。これだけで「何となくよくなさそうだ」と想像していただけるのではないでしょうか。
かつて目を洗うことが推奨されていた時代もありました。
例えば、プールに入った後です。プールの後に、二股の蛇口が上向きになっている水道で目を洗った記憶がある人もいらっしゃるでしょう。
当時はゴーグルを着用する習慣がなく、プールで目の感染症にかかることがありました。しかも、抗生剤入りの点眼薬が開発されるのはずっと後のことですから、当時は「感染症にかからないようにすること」が最善策でした。それが「プール後に目を洗う習慣」につながったのです。
■目を守る大切な「涙」を洗い流すことになる
ひと昔前まで、医学は感染症とケガとの闘いでした。眼科も例外ではなく、感染症は失明の大きな原因となっていました。おそらく60代以上の方なら、「トラホーム(トラコーマ)」と聞けば「恐ろしい目の病気」と思うはずです。
こうした状況のもとでは、感染症を防ぐために習慣的に目を洗うことにも一理あったわけです。現に昔の眼科医の主な処置は目を洗うことだったため、「目洗い医」とも呼ばれていたほどです。
しかしご存じのとおり、今ではプールでゴーグルを着用することが当たり前になっているなど、公衆衛生が発達しています。しかも万が一、何らかの理由で目の感染症になっても、たいていは抗生剤入りの点眼薬により数日で治癒します。
加えて、先ほども述べたように「涙はただの水ではなく、さまざまな物質で構成されている複雑な液体であること」も判明し、さらには、感染症よりも目の疲れやドライアイといった慢性症状のほうがはるかに深刻になっています。
そうなると、より重要なのは、眼球を保護し、目の健康に寄与する涙を量・質ともに良好に保つことになります。
感染症による失明のリスクが限りなく低下している今となっては、むしろ目を洗うことは、大事な涙を流してしまう「目によくない習慣」なのです。
■洗っていいのは「異物が入った時だけ」
世の中では「目を習慣的に洗うためのグッズ」が販売されていますが、目を洗う必要があるのは「目に異物が入ったときだけ」です。
まつ毛やホコリ、砂が目に入ったとき、あるいは花粉が多く飛散する季節は目がゴロゴロします。まず体の自然な反応として、まばたきで涙が流れますが、それでも異物感が残ったときだけ目を洗います。ごく弱い流水で優しく洗い流すか、手のひらにためた水のなかで、数回まばたきします。
目を洗う市販グッズを使ってもかまわないのですが、2点だけ注意してください。
1点めは「防腐剤フリーのもの」を使うこと。防腐剤は眼球を傷つける恐れがあります。防腐剤を使用している製品がほとんどかもしれませんが、成分表に「生理食塩水」とだけ記載されているものなら問題ありません。
2点めは、市販グッズのカップは使用するたびにしっかり洗浄すること。使った後のカップには、当然ながら目の雑菌が付着します。そのままにしておけば雑菌が繁殖したカップで、また目を洗うことになってしまいます。
いずれにせよ、習慣的に目を洗うのはNGです。あくまでも目を洗うのは「目に異物が入ったときだけ」と覚えておいてください。
■「目をこする」は危険行為である
目をこするのが「いいこと」だとは、もちろん誰も思っていないでしょう。しかし「どれくらいよくないことなのか」という点では、眼科専門医と一般の方とで認識のズレを感じることがあります。
目をこするくらい、大したことではないと思っている人もいるかもしれません。だとしたら大きな間違いです。目を頻繁にこすっていると、網膜剥離や白内障といった深刻な疾患のリスクは間違いなく高まります。
眼球はとてももろいものですが、しっかりと頭蓋骨の硬い骨に囲まれています。そのため、例えば「転ぶ」とか「ボールが顔に当たる」といった外部の衝撃からは、意外とちゃんと守られるようになっています。
そのなかで眼球にピンポイントでダメージを与える可能性があるトップ1こそ、実は「目をこする」という自分自身の行動なのです。
例えば、顔を洗うとき、まぶたのあたりはゴシゴシ洗わないようにしましょう。せっけんの油分が汚れを吸着することで汚れが落ちるので、そもそも強くこする必要はないわけです。まぶたのあたりだけではなく、顔全体をゴシゴシ洗わないと覚えておいてもいいかもしれません。泡でふんわり包み込むようにして洗えばOKです。
■顔を洗う時の注意点
もちろん汚れをしっかり落とすことは、目の健康にとっても重要です。
特にしっかりとお化粧をされる方は要注意です。洗顔するときは目を閉じると思いますが、強く目を閉じたまま洗顔を終えると、目のキワにファンデーションやアイメークの成分が残ってしまうことがあります。
すると化粧品の油分を栄養分として「デモデックス」などのまつ毛ダニが繁殖し、目のキワに炎症を起こした結果、かゆみが出たり、まつ毛が短くなったりすることがわかっているのです。
メークを落とすときは、まず通常のメーク落としで洗顔し、さらに綿棒などで目のキワを優しく拭うようにして、ファンデーションやアイメークをしっかりと落としましょう。目の周り専用のアイシャンプーを使うのもおすすめです。
日ごろしっかりとメークをしている患者さんの中には、アイラインの成分が目の中に入ってしまっているケースも一定数見られます。自覚がないだけで、要は異物が目の充血やかゆみを起こしているわけです。
また、まつ毛の内側の目のキワには「マイボーム腺」という涙の分泌腺があります。そこにアイラインを引いてしまうと分泌腺がふさがれてしまい、涙の分泌が悪くなるため、ドライアイや充血を招きます。
■目を「温める」べきか、「冷やす」べきか…
目がかゆいときは目薬を差すか、冷たいタオルなどで目の周りを冷やします。
目薬を使うのなら、市販薬より、眼科処方のアレルギー用(かゆみ止め入り)目薬のほうがいいでしょう。市販の目薬にもアレルギー用をうたっているものがありますが、やはり成分的には処方薬より弱めです。
目を冷やしていいのかと思った人もいるかもしれませんが、これはケース・バイ・ケースです。血流を促進したいときは目を温め、抑制したいときは目を冷やします。
眼精疲労(目の疲れからくる全身症状)やドライアイなどの慢性症状は、血流を促進することで緩和する可能性が高いため、目を温めます。
一方、目のかゆみは何らかの炎症が起こっているというサインですから、血流を一時的に抑制して炎症反応を止めるために、冷やしたほうがいいのです。
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眼科医 医学博士
愛知県田原市生まれ。二本松眼科病院副院長。「あさイチ」、「ジョブチューン」、「バイキング」、「林修の今でしょ! 講座」、「主治医が見つかる診療所」、「生島ヒロシのおはよう一直線」、「読売新聞」、「日本経済新聞」、「毎日新聞」、「週刊文春」、「週刊現代」、「文藝春秋」、「女性セブン」などでコメント・出演・執筆等を行う。Yahoo!ニュースの眼科医としては唯一の公式コメンテーター。YouTubeチャンネル「眼科医平松類」は20万人以上の登録者数で、最新情報を発信中。著書は『1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる! ガボール・アイ』『老人の取扱説明書』『認知症の取扱説明書』(SBクリエイティブ)、『老眼のウソ』『その白内障手術、待った!』(時事通信出版局)、『自分でできる!人生が変わる緑内障の新常識』(ライフサイエンス出版)など多数。
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(眼科医 医学博士 平松 類)
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