「今週できたこと」or「今週できなかったこと」…マッキンゼーが部下との1on1でみっちり聞くのはどっち?
プレジデントオンライン / 2023年9月30日 12時15分
※本稿は、北野唯我『キャリアを切り開く言葉71』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■マッキンゼーが部下との1on1で必ずする質問
外資系戦略コンサルティング企業であるマッキンゼーの友人に聞いた「強みの伸ばし方」に関する話があります。
僕の友人のチームは、面白い1on1をするらしいのです。これはチームによるとのことで、マッキンゼー全体で取り組んでいることではないのですが、僕はそれが「マッキンゼー流、強みの伸ばし方」とも呼べるものだと思ったものです。
その1on1とは、「ひたすら強みにフォーカスする1on1」です。頻度としては、1週間に30分ずつ。忙しいときは隔週でやっていたそうです。
そこでは、主に3つの話を上長とします。
まず話すことは、
①今週できたこと(うまくできたこと)。
次に聞くのは、
②次の週にやること(=できるようになること)。
最後は、
③上長へのフィードバックやヘルプが必要なこと。
その友人は最初、1on1でこれらのことを聞かれて困ったらしいです。特に難しかったのが①。なぜかというと、そもそも、入社当初は「①できたこと」がまともになかった、と思ったからです。
とくにマッキンゼーはビジネス戦闘力が高めな人が多いですから、新人や若手が「自分ができたことなんて何もない」と思うのも仕方ないのでしょう。
■「過去」ではなく「未来」にフォーカスする
ただ、そのように答えても、パートナー(上長)は決して首を縦に振りません。何度も「いや、何かあるから探して」と聞かれるらしいです。
フィードバックにもいろいろありますが、ダメな部分ではなく「何かしらあなたがやったことがあるはずだ」というポジティブな部分に目を向けよう、というものです。
「②次の週にやること」も全く同じ構造です。
普通なら「今週できなかったこと」を聞きそうになりますが、あえて「次の週にやることは?」と聞くそうです。
これもその目的は明白で、「過去」ではなく「未来」にフォーカスを当てることで、「成長」を加速させようとしているのだと思います。
■自己肯定感が自然と高くなる質問の流れ
そして最後は、③「上長へのフィードバック」や「ヘルプ」です。②→③の流れで聞かれるので、自然と、「来週○○をやるために、××をサポートしてほしい」という構造になります。実際、僕の友人も「これを2年ぐらい繰り返してもらったおかげで、自己肯定感が自然と高くなった」と言っていました。
僕は正直、この話を聞いたときに、反省しました。リーダーとして「ここまで徹底できているか?」「強みを伸ばす質問をできているか?」と考えたからです。
日常のルーティンやミーティング、1on1で、ここまで徹底して「強み」にフォーカスを当てているか? その人の「強み」を伸ばせているだろうか? そう考えたとき、思いっきりYesとは答えられませんでした。
皆さんはどうでしょうか。ぜひミーティングをするときには意識してみてください。もしかしたら自分自身に同様の質問をすることも有効かもしれません。
■ドラッカーが説く「経営者の大事な要素3点」
ある連休の間に読み直していた本があります。P・F・ドラッカーの『プロフェッショナルの条件』と『経営者の条件』です。
何度読んでもドラッカーはやはり本質的だなと思いますが、特に今回読み直して、昔は気づかなかったけれど今読むと「たしかに!」と思ったことが2つありました。
まず、ドラッカーがいう「成果」の話。
ドラッカーいわく、成果とは、以下の3つのことです。
①直接の成果
②価値への取り組み
③人材の育成
これらを簡単に説明すると、まず①直接の成果。これは売上や利益のことなのでわかりやすいですね。たくさん売る、生産性を上げる、ということです。
次は②価値への取り組み。これは競争優位を生み出す取り組みのことです。たとえば、技術リーダーシップとか、あるいは、ブランドを作るとかもそうでしょう。あるいは、企業によっては「安い商品を仕入れる」ということもこれに当たるでしょう。
つまり「勝てる理由」を作ることですね。
最後は③人材の育成。これは、そのまんまで、人を育てる、ということです。
この3つは、経営者からすると確かに「大事なTOP3要素そのまんま」だな、と思います。企業の部署でいえば、
①営業
②R&D
③HR/人事
といったものがイメージに近いでしょうか(マーケティングや生産管理がどこに分類されるかは会社によるでしょう)。
そして言い換えれば、この3つ以外の役割は優先度が低い、とも言えるかもしれません。「わかりやすい整理だな」とも思います。
■卓越した成果は強みを伸ばすことによってのみ生まれる
もう1つ、ドラッカーを改めて読んで、「本当にその通りだ!」と思ったのは、「強みを伸ばせ」という話です。
ドラッカーは「強みによってのみ人は卓越した成果を出せる」と言っています。これは僕も最近改めてそう思っていて、コミュニティのメンバーにストレングス・ファインダー(トム・ラス『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう』で紹介されているオンライン・アセスメント)を試してもらったことがあるのも、「強みによる成果」をどうやって生み出すかを考えるためでした。
![自信と力の概念](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/a/1200wm/img_ea76989cc1b71146dc4460bc5a95c15e401454.jpg)
人が卓越した成果を出す順番は、
1.原理原則を覚える
2.強みを伸ばしきる
3.弱みを丸める
であり、この3フェーズしかない、と思っています(『内定者への手紙 リードザセルフ!〈第4巻〉』参照)。
■「強み」を見つけるにはどうすればいいか
ただここで問題になるのは、一体「強みとは何か」ということです。
強みを活かす経営の素晴らしさは、「全員がハッピーになること」、この1点に尽きると思います。しかし実現する難しさもあります。その原因は、そもそも「強みとは何なのか?」がわからないこと。その強みを活かした「成果とは何か?」や、「強みを成果にどう繫げればいいのか?」がわからないことです。
しかしここで、本項冒頭に挙げたドラッカーの理論に戻ると、成果とは、「①直接の成果」「②価値への取り組み」「③人材の育成」ですから、強みを(成果に)活かす経営とは行き着くところ、各人の持っている性質(=ストレングス・ファインダー的要素)を、この上の3つに繫げる“組み合わせ”を見つけることなのかもしれないとわかります。
僕は何らかの成果を出すには「フォーメーション」がとても重要だと思っている(「フォーメーション理論」と呼んでいる)のですが、この考え方に近いですね。
ちなみに、ドラッカーに限らず、日本の歴史において名を遂げた名将はみな人事戦略に長けていました。
■歴史上の名将は皆人事戦略に長けていた
僕は「名将の人事戦略」を研究してみたことがあります。
徳川家康から、豊臣秀吉、織田信長、毛利元就、武田信玄、上杉謙信、黒田官兵衛に石田三成……。彼らはなぜ生き残り、戦果を挙げることができたのかということを、主に人事戦略の観点から考察したのです。
![北野唯我『キャリアを切り開く言葉71』(KADOKAWA)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/7/1200wm/img_8787146de672dcee95143e0e2e782d72207111.jpg)
そして結論として導いたのは、「歴史上、“弱小”から成り上がった将軍で、人事戦略に疎かった人物はほぼいない」というものです。正確にいうならば、年功序列的(=非実力主義)な人材登用でのし上がった人はほぼゼロ、という結論です。
たとえば、有名なものであれば、黒田官兵衛は「人を夏の火鉢、ひでりの雨傘みたいに使うのはダメ」というようなことを言っていたりします(夏の火鉢=暑いので不要、ひでりの雨傘=無駄)。
あるいは武田信玄も人事戦略に強かったとよく言われています。「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり」という言葉は有名ですよね。
日本以外でも、曹操も「唯才是挙」(才能をもってのみ人材登用せよ)という言葉を残しているのです。
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ワンキャリア取締役
兵庫県出身、神戸大学経営学部卒。就職氷河期に博報堂へ入社。ボストンコンサルティンググループを経て、2016年、ワンキャリアに参画。現在取締役として人事領域・戦略領域・広報クリエイティブ領域を統括。またテレビ番組や新聞、ビジネス誌などで「職業人生の設計」「組織戦略」の専門家としてコメントを寄せる。著書に『転職の思考法』『オープネス』(ダイヤモンド社)、『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版社)、『分断を生むエジソン』(講談社)、『これから市場価値が上がる人』(ポプラ新書)などがある。がある。
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(ワンキャリア取締役 北野 唯我)
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