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「中年太りの原因は加齢による代謝の低下」はウソ…「基礎代謝は20〜50代の間は落ちない」という衝撃の事実

プレジデントオンライン / 2023年9月26日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Doucefleur

「太っちゃった」「お腹が出てきたな」。肥満は忌み嫌われているが、肥満に関しては誤解も多い。岡山大学医学部の中尾篤典教授は「例えば、年を取ると代謝が下がり中年太りになりやすい、というのは間違いです。20〜50代は代謝率が安定し、低下することなく横ばいで60代になると1年ごとに0.7%ほど低下することがわかっています」という――。

※本稿は、中尾篤典・毛内拡(著)、ナゾロジー(協力)『ウソみたいな人体の話を大学の先生に解説してもらいました。』(秀和システム)の一部を再編集したものです。

■年をとっても代謝は落ちない‼

本稿は私たち現代人にとっての永遠のテーマともいえる老化とダイエットにまつわる内臓の話です。「内臓年齢」や「内臓脂肪」などの言葉が示すように内臓と老化・ダイエットの関係はもはや常識といってもよいでしょう。

しかし、その常識、どこまで最新の知識にアップデートできていますでしょうか?

「中年以降は太りやすくなる」という言葉を聞いたことがあると思います。ぽっこり出たお腹に象徴される中年太りの原因は、年を重ねることによる代謝の低下だと言われてきました。しかし、これまで代謝率が年齢ごとにどう増減するかというのは、実はほとんどわかっていませんでした。

アメリカ合衆国のデューク大学らが調査したところ、驚くことに、代謝率は20代〜50代の間は落ちないことが判明しました。

これまで私たちがしていた「中年になると代謝が下がるから太っても仕方ない」という言い訳はもう通じなくなります。

総エネルギー消費量は、基礎代謝量と食事誘発性体熱産生(食事後に静かにしていても勝手に上がる代謝量)、および身体活動によるエネルギー消費量に分けられます。我々が中年以降に落ちると思っていた「代謝」というのはこのうちの「基礎代謝量」で、つまり、何もしなくても身体が勝手に消費するエネルギー量と考えて差し支えありません。それは生きるために必要な最低カロリーのことを表します。

食事誘発性体熱産生は、食後に食べ物を消化・吸収・運搬する際に熱が発生し、それによりエネルギーが消費されることをいいますが、私たちが摂取するエネルギーの6~10%が食べ物を消化するために使われています。

また、身体活動による消費は、文字通り歩行や運動、仕事や姿勢を保持することで、筋肉を使う身体活動による消費が含まれます。

それでは、これらの代謝率は、年齢とともにどう変動するのでしょうか?

■人の基礎代謝率は年齢とともにどう変わるのか?

デューク大の研究チームは、29カ国を対象に、生後8日〜95歳までの人、計6421名の膨大なデータを収集、分析しました。各人の1日の総エネルギー消費量を測定するため、対象者に「二重標識水(Doubly-Labelled water、DLW)法」を用いています。DLW法は、自然界にたくさん存在する水素と酸素とは少しだけ形の違う水素と酸素から作った二重標識水を飲んでもらい、それがどれだけ早く尿や呼気から排出されるかを調べることで、身体が消費する1日のエネルギー量(=代謝率)を測定する方法です。これにより、生きるために必要なエネルギー量だけでなく、1日に消費されたすべてのエネルギー量が算出できます。

結果、人の代謝率は乳幼児期にピークを迎え、20代までに約3%低下することが判明しました。10代は成長期にあたりますが、思春期の体重あたりの1日の必要カロリーの増加はなく、「代謝の急上昇」は見られませんでした。成長期でモリモリ食べて代謝もどんどんするような世間一般のイメージは、基礎代謝においては見られなかったのです。

夕暮れ時の草原にいる1歳の男の子
写真=iStock.com/Doucefleur
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Doucefleur

代謝率が最も大きく変化するのは、生後1年の間であり、1歳児は、大人に比べると体格比で約50%も多くエネルギーを消費していました。そして、20代〜50代の間は、代謝率が最も安定し、低下することなく横ばいになっていたのです。

また、他の要因を考慮しても、男性と女性の代謝率の変化には、実質的な違いがありませんでした。つまり、中年太りは、代謝の低下が原因ではないと考えられます。

では、代謝率はいつから低下するのでしょうか? データ分析の結果、代謝率が明確に下がり始めるのは60歳を過ぎてからでした。60代に達すると、人の代謝は1年ごとに0.7%ほど低下するとのことです。それでも低下率はわずかなもので、大きな急落はありません。

しかし、90代に入ると、1日に必要なエネルギー量は、中年層に比べて平均26%少なくなっていました。これは、筋肉量が少なくなるだけでなく、細胞の働きが鈍くなるためです。もちろん、元気に自立して自宅生活をしている高齢者と、寝たきりの施設入居者との差は大きく、個人差があることは明確であることも付け加えておきます。

「基礎代謝は年齢を重ねても意外と低下しない」という残酷な事実が、諦めずジムや食事制限で体型を維持するモチベーションになればいいと思います。

■お酒に強い人は糖尿病になりやすい!

さて、肥満に関わる誤解をもうひとつ解いておきましょう。糖尿病についてのお話です。

糖尿病と聞くと、お腹が出た肥満の人、不摂生な人がなる病気というイメージがありますが、これは誤解です。例えば、日本人を含む東アジア人は肥満でなくても糖尿病になりやすいことが知られています。さらに最近、お酒に強い人が持つアルコールをどんどん分解できるALDH2(2型アルデヒド脱水素酵素)遺伝子が、男性の2型糖尿病の疾患感受性遺伝子であることがわかりました。これはつまり、アルコールに強い男性は、本質的に糖尿病になりやすいことを意味しています。

糖尿病は大きく1型と2型に分けられます。1型糖尿病は、膵臓(すいぞう)から出る血糖(血液の中のブドウ糖)の値を一定に保つ働きをするホルモン、インスリンが出なくなってしまいます。その結果、高血糖状態が続き、血管がぼろぼろになり色々な臓器が傷んできます。なので1型糖尿病の患者さんは、血糖値を一定に保つインスリン注射が必須になります。

インスリンの注射を打っている人
写真=iStock.com/Caíque de Abreu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Caíque de Abreu

一方で、2型糖尿病は、インスリンは分泌されているものの、働きが悪くて血糖値が下がらない場合(インスリン抵抗性)や、分泌そのものが減っている場合(インスリン分泌障害)があります。遺伝的な要因に運動不足や食べすぎなどの生活習慣が加わって発症すると考えられています。はっきりとした原因はまだわかっていませんが、糖尿病患者の95%以上が2型といわれていて、中高年に多く発症します。

インスリン抵抗性の原因のひとつとして肥満があります。

しかし、日本人のインスリンを分泌する能力は欧米人に比べて低く、そのためたとえ太っていなかったとしても糖尿病になってしまうことがあります。実際に日本を含む東アジアの国々では、2型糖尿病患者であっても肥満の程度はそれほどではありません。平均体格指数(body mass index; BMI)は25kg/m2未満であることが多く、東アジア人の遺伝的素因が関係していると考えられてきました。

近年、東アジア人4万3540人のゲノムワイド関連研究が行われ、アルコールへの耐性(強さ)を規定する遺伝子型として知られているALDH2遺伝子多型が、男性の2型糖尿病の疾患感受性遺伝子であることが新たにわかりました。

つまり、先ほど述べたようにお酒に強い人ほど糖尿病になりやすいということです。さらに、正常体重の日本人男性約100名を対象にした調査によると、ALDH2遺伝子多型を持った人は、飲酒量が多くなることで肝臓のインスリンの効きが悪くなり、空腹時血糖値が高くなる可能性が示されました。

この空腹時血糖値が高いと動脈硬化を引き起こす可能性があり、2型糖尿病になりやすくなります。

「適量の飲酒は糖尿病の発症を抑制する」との報告もありますが、「適量」というのは難しく、お酒をたくさん飲むことでアルコール性膵炎を繰り返すと、インスリンを分泌する膵臓の細胞が破壊され、糖尿病を発症します。

■糖尿病リスクは、ビール、ワイン、蒸留酒で関連性なし

中尾篤典・毛内拡(著)、ナゾロジー(協力)『ウソみたいな人体の話を大学の先生に解説してもらいました。』(秀和システム)
中尾篤典・毛内拡(著)、ナゾロジー(協力)『ウソみたいな人体の話を大学の先生に解説してもらいました。』(秀和システム)

また、アルコール性肝硬変ではインスリン抵抗性が増加し、血糖値が上がります。ちなみに、アルコールの種類による糖尿病のリスクは、ビール、ワイン、蒸留酒の三者では特に関連性はないことがわかっています。

ワインはポリフェノールを含む健康飲料であるとか、焼酎は血糖値が上がらないとか、都市伝説もありますが、一緒に食べるおつまみや食事にも影響されますし、いずれにしても飲みすぎはよろしくないようです。

このように、糖尿病の発症のしやすさは遺伝因子や環境因子に影響を受けますが、特にアルコールに注目すると、アルコール摂取量の適切な管理が糖尿病予防に重要なこと、またアルコールに強い人ほど糖尿病になりやすいことがわかったのです。

出典
① Pontzer H, et al. Daily energy expenditure through the human life course. Science. 2021; 373(6556): 808-812.
② Spracklen CN, et al. Identification of type 2 diabetes loci in 433,540 East Asian individuals. Nature. 2020;582(7811):240-245.
③Takeno K, et al. ALDH2 rs671 Is Associated With Elevated FPG, Reduced Glucose Clearance and Hepatic Insulin Resistance in Japanese Men. J Clin Endocrinol Metab. 2021; 106(9): e3573-e3581.
④ D Sluik, et al. Alcoholic beverage preference and diabetes incidence across Europe: the Consortium on Health and Ageing Network of Cohorts in Europe and the United States (CHANCES) project. Eur J Clin Nutr. 2017; 71(5): 659-668.

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中尾 篤典(なかお・あつのり)
医師、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科救命救急・災害医学講座教授
1967年京都府生まれ。岡山大学医学部卒業。ピッツバーグ大学移植外科(客員研究員)、兵庫医科大学教授などを経て、2016年より現職。著書に『こんなにも面白い医学の世界 からだのトリビア教えます』『こんなにも面白い医学の世界 からだのトリビア教えますPart2』(共に羊土社)がある。

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毛内 拡(もうない・ひろむ)
脳神経科学者、お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系助教
1984年、北海道函館市生まれ。2008年、東京薬科大学生命科学部卒業、2013年、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、理化学研究所脳科学総合研究センター研究員などを経て2018年より現職。同大にて生体組織機能学研究室を主宰。専門は、神経生理学、生物物理学。著書に、第37回講談社科学出版賞受賞作『脳を司る「脳」』(講談社)、『面白くて眠れなくなる脳科学』(PHP 研究所)、『脳研究者の脳の中』(ワニブックス)などがある。

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(医師、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科救命救急・災害医学講座教授 中尾 篤典、脳神経科学者、お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系助教 毛内 拡)

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