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初めてのメールに「お世話になっております」と書いてはいけない…「失言」で信頼を失う人に共通すること

プレジデントオンライン / 2023年9月27日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tsingha25

会話やメールでの「失言」を避けるにはどうすればいいのか。コミュニケーションコンサルタントの吉原珠央さんは「自分が相手の立場だったらどう思うか。どのような言葉であれば敬意が伝わるか。そうしたことを考えれば、自然と失言は避けられる」という――。

※本稿は、吉原珠央『絶対に後悔しない会話のルール』(集英社新書)の一部を再編集したものです。

■失言する人に圧倒的に足りないのは「観察力」である 

「(東日本大震災に関して)まだ東北で、あっちのほうだから良かった」
「戦争をしないとどうしようもなくないですか」
「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」

こうした失言と言われる発言は、その一部を切り取ってみるだけでも、耳を疑うような内容ですが、これらはすべて日本の政治家が過去に公の場で話したとされる内容です(この中には政治の中枢で要職についていたような人たちもいます)。

誰が失言したかによっても、その影響力は変わり、そのことで特定の人たちが傷つき、憤慨し、不信感や不安を抱えたり、国益に関わる問題へ発展しかねないという危機感を、私たちは身をもって体験してきたのではないでしょうか。失言の問題については、「リスクマネジメントができていない」「品や教養がない」「常識がない」「うっかり者だから仕方がない」「想像力がなく社会勉強が足りない」など、さまざまな角度からの意見が世間で囁かれています。

たしかに、そうした意見も一理あるかもしれませんが、失言をした人たちに最も足りなかったのは観察力であると私は感じています。誰もが個人的な信念や、価値観を持つことは自由ですし、それらが個性や「その人らしさ」となります。そして、それらを言葉や態度に表す前に、状況や場面ごとに「自分らしさ」の何を引き出し、あるいは引っ込めたりするのか。その見せ方に配慮しながら社会生活を送っているともいえます。

■話し手の「意見を加工」する能力が問われている 

その際に重要なのが観察力です。自分らしさや、自分の意見の見せ方に配慮するためには、自分の立場をわきまえ、相手の反応の予測を前提として、どのように意見を加工するかの能力が問われるのです。こうした「見せ方」について具体的に考えてみましょう。

たとえば、あなたが母校の小学校から「子どもたちに『本を読むことの楽しさ』を伝えてほしい」と、全校児童の前で15分ほどの講演を頼まれたとしましょう。人前で話をすることに慣れているかいないかは関係なく、卒業生として、全校児童の前で15分ほど講演をすることになった場面を想像しながら考えてみましょう。さて、その講演を成功させるために観察力をフル稼働させるとして、あなたはどのような準備をしたらいいと思いますか?

マイクを使って話す人
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

講演の目的や目標を考えることはもちろんですが、講演の成功の鍵となるのは、講演を聞く相手と状況について観察(推察)し、想像力から得られる情報を活用することです。

●子どもたちの人数や属性
●子どもたちの読書環境と実態
●子どもたちの興味関心のレベル
●子どもたちの家庭環境
●教員たちの思惑
●子どもたちが家に帰ってから保護者に話す場面

このような情報から考えられることとして、仮に人数が少ない学校で講演するのであれば、肩を寄せ合って座る形式にしようと決めることができます。そして、そのような形式であれば児童たちとの距離が近いため、清潔感があって、動きやすいファッションを選ぼうといった準備ができます。

■「親に本を買ってもらいましょう」と聞くのはNG 

また、読書が習慣化されている学校の児童と、そうではない環境にいる児童では、読書の捉え方が違います。講演をする学校の児童がどのような環境にいるかを知っていれば、取り上げる本の難易度や、知名度、話題性などをどのように設定するかを調節できるでしょう。

同時に、現代の貧困家庭問題は、深刻かつデリケートに扱う配慮が求められますので、貧困家庭の児童がいるという情報があれば、「まずは次の土曜日に本屋さんへ行って、お父さんとお母さんに、本を買ってもらいましょう!」などとは発言すべきではないでしょう。

どの家庭にも、子どもには両親がいて、土曜日であれば、書店に連れて行けるはずという思い込みを外すことができれば、親がいない家庭もあることに気づき、経済的に本を買えない環境下の子どもを傷つけたり、孤立させてしまうような可能性のある言葉を避けることができるのです。

さらには、中学受験をする児童の有無と、人数の比率(多いのか、少ないのか)、あるいは児童の保護者の職業が漁業や農業か、都心で働く人が多いのかなどによっても、子どもたちの将来に対する社会の見方は変わります。そうした状況に合わせて、どのように講演内容を落とし込んでいくのか、話の構成や表現の工夫が必要となります。

■目の前のことだけでなく「背景」にも目をむける 

観察すべきは、子どもたちだけではありません。講演を企画した先生も観察する必要があります。もし、先生方が熱心で普段から読書の指導に力を入れていたとしたら、同じ方向性のキーワードを織り込んで講演で話してみるのも効果的です。すると、あなたの講演と学校側の主張に一貫性が出てくるので、子どもたちに受け入れてもらいやすくなるでしょう。

逆に観察を怠り「自分が話したいこと」や「自分が知っていること」だけで、内容を構成するのは御法度です。「自分には関係がない話だな」「誰にでも当てはまる話だな」と聞き手の関心を遠ざけてしまうのみならず、話し手の観察が足りないことや、付け焼き刃の内容であることが、簡単に見破られてしまうのです。

そもそも、「母校で読書についての講演をする」というシチュエーション自体はとても稀かもしれません。しかし、自分の勤めている企業の研修や、ちょっとした地域の集まりなどで、自己紹介をしたり、人前で一言、話す機会や、友人の結婚式でのスピーチなどもあるでしょう。そうした場面においても、日常的な会話の場面でも相手を観察するときの着目点は同じです。

■「心地良い話」に正論は要らない

たとえば、以前、友人の結婚式で「今月は週末のたびに、結婚式のスピーチを頼まれてしまって……」と、前置きをしてから、新郎側のゲストとして呼ばれていた議員の男性が話し始めていました。

「週末のたびに」とは、それぞれの結婚式を軽く見ているうえに、まるで自分が大変な思いをしているとアピールしているかのようですし、「頼まれてしまって」とは、失礼なうえ、面倒そうな印象を与えてしまうため晴れやかな結婚式の場にはまったくふさわしくないメッセージです。そもそも、自分が毎週末、結婚式のスピーチを頼まれたという個人的な話は、会場にいた人たちにはなんら意味のない「どうでもいい情報」であることを観察できなかったことが問題なのです。

要するに、「話す」「伝える」という場面では、常に相手を主体に置いた内容を組み立てることが重要なのです。それをしない限り、相手が安心したり、満足したり、快く納得してくれるようなメッセージを生み出すことはできないといえます。逆に相手の置かれた状況や、相手が求めていることを観察した情報から、自分が相手のためにできることを探して言葉を分別できれば、失言することはまずありません。

発言の前には、相手に喜んでもらえる言葉も傷つける言葉も、同時に把握しておきたいものです。正論やあなたの意見は、決して間違いではないかもしれません。しかし、それらが相手にとって求められているのか、相手が心地好く思える話であるのか。それらを分別できる判断材料を、観察によって得られるかどうかが問題なのです。

聴衆の前でスピーチをする人
写真=iStock.com/Cecilie_Arcurs
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Cecilie_Arcurs

■非営利団体からの依頼メールにモヤモヤした理由

以前、私と同じく講師業をしている知人女性Iさんから、観察力について考えさせられるエピソードを聞いたことがありました。

内容をざっくりと説明すると、その女性Iさんは、10年以上の研修講師歴があり、一度、講師を担当すると、数々の企業からリピートで仕事を依頼されるほど評価され、多くの実績のある方です。そんなIさんに、ビジネススキルに関連する非営利団体の担当者を名乗る方から、通常の研修報酬の10分の1ほどの条件で、講演の依頼のメールが届きました。

ちなみに、Iさんがその団体と関わるのは初めてであり、非営利団体ではあるものの講演会の参加者は数千円の参加費を払うという趣旨だったそうです。彼女が受け取ったメールにこんな一文がありました。

「今回の講演は、Iさんにとって、良い経験にもなるかと思います」

結局、Iさんのスケジュールが合わず、丁重に断ったそうですが、彼女はモヤモヤとした気持ちを私に話してくれました。その非営利団体が主催する講演会で参加者に参加費を請求していたり、その参加費の用途が不明確だったことも、すっきりとした気持ちになれなかった理由の一つだったと言います。なによりIさんがモヤモヤとした理由は、メールからあからさまに伝わる違和感でした。

パソコンでメールを確認する人
写真=iStock.com/Chattrawutt
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chattrawutt

■「上から目線で傲慢な人」と思われる

まず、初めて仕事を依頼するメールだというのに、団体の紹介や、なぜIさんを選んだのかさえ書かれておらず、「お世話になっております」(まだ『お世話』になっていないのに)から始まる、一般的な定型文からなる、わずか数行ほどの軽い文章で講演の依頼をしてきたことです。

初めての相手に対する依頼のメールでは、正確な情報で自分を名乗り、熱意と礼節をバランス良く文章や内容に組み込むことは、対人関係における基本です。そうした基本を省いたり、惜しむことは、準備が杜撰で、面倒がっていることが明らかで、相手から信用される可能性を低くしてしまうだけなのです。そして、その基本からかけ離れている内容として着目したいのは「Iさんにとって、良い経験にもなるかと思います」という文章です。

これでは、書き手が上から目線で、傲慢(ごうまん)な人だという印象を与えかねません。実際にどのような経験にしても、講師として自発的にいろいろなことを吸収したほうがいいでしょうし、ましてやIさんのような謙虚な方でしたら、会ったこともない相手から、わざわざ言われる必要もなく、常に積極的な姿勢で現場に臨むはずです。ちなみに「あなたにとって、これは良い経験になりますよ」と相手に伝えるのは、立場や年齢に関係なく、余計なお世話であるという認識も必要です。

また、たとえ受け手と信頼関係があったり、必要な情報を与えられる専門家であっても、「良い経験になるかもしれませんね」と表現を柔らかくしたほうが押し付けがましくない印象が残ります。

■自分への「問いかけ」が無礼な言い方を回避する 

今回のケースでは、互いに信頼関係がまったくない中で、あたかもIさんに「チャンスを与えてあげている」と受け取られてしまうような、上から目線の印象を与えてしまっていたことが残念でなりません。

吉原珠央『絶対に後悔しない会話のルール』(集英社新書)
吉原珠央『絶対に後悔しない会話のルール』(集英社新書)

もし「薄謝となってしまい、誠に恐縮ではございますが、ぜひとも、ご経験豊富なI先生に講演について検討していただけましたら幸いです。お忙しいところ、大変恐れ入りますが、ご返信をよろしく、お願いいたします」というような問い合わせ内容であれば、その後のやり取りは、確実に変わっていったはずです。

また、受講料の用途(会場運営費など)も明らかにできれば、なお説得力が上がります。誰かに何かお願いするときには、「自分が相手の立場だったらどう思うだろう」「相手に失礼ではないだろうか」「どのような言葉であれば敬意が伝わるだろう」などと、自分への問いかけができれば、違和感を感じさせる無礼だと思われるような一言を回避することができるのです。

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吉原 珠央(よしはら・たまお)
コミュニケーションコンサルタント
1976年生まれ。日本行動分析学会会員。ANA(全日本空輸株式会社)、証券会社、人材コンサルティング会社などを経てコミュニケーションを専門とするコンサルタントとして2002年にDC&ICを設立し、ビジネスパーソン向け研修、講演活動などを実施。著書に20万部ベストセラー『自分のことは話すな 仕事と人間関係を劇的によくする技術』『その言い方は「失礼」です!』(幻冬舎新書)、『絶対に後悔しない会話のルール』(集英社新書)など、多数。

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(コミュニケーションコンサルタント 吉原 珠央)

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