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ChatGPTのある時代に歴史の年号の暗記は必要なのか…池上彰が説く「知識」と「教養」の絶対的な違い

プレジデントオンライン / 2023年10月2日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kenneth-cheung

質問を投げかければ即座に答えが返ってくるChatGPTなどの生成AIが注目を集めている。知識が瞬時に手に入る時代に、生成AIとはどう付き合うべきなのか。『池上彰のこれからの小学生に必要な教養』(主婦の友社)を上梓したジャーナリストの池上彰さんに聞いた――。

■ChatGPTは「私をあまり信用するな」と答える

α世代は生まれた時から身近にスマホやタブレットがあり、デジタルで情報にアクセスすることが当たり前になっています。AIの発達によって、情報をより容易に入手できるChatGPTなども登場しています。デジタル機能を使いこなすことは、これからの時代に必須のスキルでしょう。

私は複数の大学で教えていますが、同僚の先生から面白い話を聞きました。

ある授業で、ChatGPTを使った調べ物の課題を出したそうです。「○○についてChatGPTを使って答えを導き出せ」というもので、どんな質問をすればいいかは一切指導しませんでした。学生が自分で質問を考えてChatGPTで調べなさいね、ということです。するとどうでしょう。学生が提出してきた答えが全部違ったというのです。

ChatGPTを使えば確かに情報を得ることができます。しかし、いい情報・正しい情報を手に入れられるかどうかは、それを使う人間の質問力に関わってきます。的確な質問には的確な答えが示されるでしょうし、漠然とした質問には漠然としか答えてくれません。

先日、「私たちはAIとどう付き合ったらいいでしょうか?」とChatGPTに聞いてみたら、「AIにあまり頼らないことです」と出てきました。まるでジョークのような回答ですが、ChatGPTを信用しすぎると時には笑い話ではすまないことも起こります。

■ChatGPTはウソをついてまで答えようとする

今年の春、アメリカで争われたある裁判の話です。

弁護側が根拠にしたのは、ChatGPTが提示した過去の判例でした。ところが、そんな判例は存在しなかったのです。持ち出された判例は、ChatGPTが勝手にでっち上げたものでした。

ChatGPTはアメリカの会社が開発した生成AIで、英語の文献を相当に学習しています。そのアメリカでもこういうことが起きる。

日本語の文献データについては、ChatGPT(無料版)は今のところ2021年秋ごろまでのものしか学習していません。だから2022年や2023年のことを聞いても、実は答えられないのです。けれど、何か答えなくてはいけないのがChatGPTの使命なので、とんでもないウソ情報をまことしやかに伝えてしまう。自信たっぷりに間違えるのです。

ChatGPTで得た情報の精度を判断するのは人間です。「間違っているのではないか」「常識的に考えてあり得ない」などと疑える知識が必要ですし、正しい答えを導き出すために適切な質問ができることも求められます。知識や経験に裏付けされた疑問や、よりよい反応を得るためのコミュニケーション力、こうした能力を私は「教養」だと考えています。

では、ネットで何でも調べられる時代に教養を身に付けるためには、どうすればいいのでしょうか。

ChatGPTを使用する人
写真=iStock.com/bymuratdeniz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bymuratdeniz

■知識を応用、運用する力こそが教養

教養の土台となるのは知識です。だから学校の勉強はやはり大切なものなのです。

熟語の意味がわかる。歴史を知っている。計算ができる。物理や化学の法則を知っている――。知識は、さまざまな場面で「そういうことか!」という発見につながります。「これはおかしいぞ」と立ち止まって考えるきっかけになることもあるでしょう。

知識が土台になるのは大人だって同じです。私はNHKの記者になってまず、地方局で警察担当から仕事を始めました。警察官の言っていることを理解するには、刑法や刑事訴訟法の最低限の知識が必要だと痛感したものです。その後、死体の状況から殺人の手段を知るという司法解剖の基礎についても独自に勉強しました。

しかし、知識を得ただけでは教養とは言えません。知識の量ではどうしたってAIには太刀打ちできないわけで、知識の応用力や運用力こそが教養なのです。

刑事訴訟法を知っていても警官と雑談ができなければ、いい情報は得られない。この人ならこんなふうに反応するだろう、この人の立場では言えないこともあるだろうな、といった想像力や人間心理への理解がなければ、会話は続きません。

バラバラな知識をつなぎ合わせて使いこなすことで雑談ができ、いい情報にたどり着く可能性も高まります。目の前の人と会話ができないのでは、どれほど知識があっても教養があるとは言えないのです。

■ネットで何でも調べられる時代に歴史の年号暗記は必要か

教養は、一朝一夕に身に付くものではありません。α世代の子どもたちには知識を得るのと同時に、物事を深く広く考える姿勢を身に付けてもらいたいと思うのです。

池上彰『池上彰のこれからの小学生に必要な教養』(主婦の友社)
池上彰『池上彰のこれからの小学生に必要な教養』(主婦の友社)

たとえば歴史の勉強にしても、出来事が起きた年を暗記するのは単なる知識です。ネットで調べれば、すぐに得られる情報でもあります。

しかしその出来事が世の中をどう変えたのか、出来事の教訓を後世にどう生かすのかということは、年代を暗記しただけではわかりません。ひとつのテーマについて考えを深めていくことで、教養が少しずつ身に付くのです。

○○戦争が起きたのは××年という知識から踏み込んで、○○戦争が社会に与えた影響を調べてみる。「そもそも、なぜ○○戦争が起きたのか」と考えてみる。戦争というテーマを掘っていくと、「沖縄にたくさんアメリカ軍基地があるのはなぜだろう?」「テレビで言っている北方領土って何だ?」といろいろなことがつながり、知りたいことが増えてきます。それをまた調べてみる。

ネット情報だけでなく本も読む。詳しそうな人に話を聞いてみる。そういう一つひとつの体験が、教養につながっていきます。

■知識があるだけでは実社会では評価されない

学生時代はテストの点がよければそれなりのポジションが確保できます。しかし、たとえAI並みの知識があっても、人間としての懐の深さや魅力がなければ実社会では評価されにくいでしょう。

口先だけの薄っぺらな人間にならないこと。物事を掘り下げて考えること。さまざまな体験をし、時には人間関係のトラブルにも遭い、そこで感じたことを自らの糧にしていく。そのための手助けをしてやるのが大人世代の務めです。適切なアドバイスができる大人もまた、教養のある人だということになります。

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池上 彰(いけがみ・あきら)
ジャーナリスト
1950年長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHK入局。報道記者として事件、災害、教育問題を担当し、94年から「週刊こどもニュース」で活躍。2005年からフリーになり、テレビ出演や書籍執筆など幅広く活躍。現在、名城大学教授・東京工業大学特命教授など。計11大学で教える。『池上彰のやさしい経済学』『池上彰の18歳からの教養講座』『これが日本の正体! 池上彰への42の質問』『新聞は考える武器になる  池上流新聞の読み方』『池上彰のこれからの小学生に必要な教養』など著書多数。

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(ジャーナリスト 池上 彰)

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