1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

「このままいくとジャニーズ事務所は自然消滅する」経営のプロが想定する"10月2日以降に起きる3つのシナリオ"

プレジデントオンライン / 2023年9月27日 10時15分

記者会見に臨むジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子前社長(右から2人目)ら=2023年9月7日 - 写真=AFP/時事通信フォト

ジャニーズ事務所は9月12日、今後の会社経営について10月2日に報告すると発表した。これから、ジャニーズ事務所はどうなるのか。経営コンサルタントの鈴木貴博さんは「3つのシナリオが考えられる。1つ目はジャニーズ事務所の自然消滅、2つ目は再生ファンドによる買収、そして3つ目はジュリー氏が代表取締役として残る茨の道だ」という――。

■グローバル大企業が表明した「NO」

9月19日、ジャニーズ事務所は取締役会で何らかの重要な意思決定を行った模様です。その結果は10月2日に予定されている記者会見で発表されることになります。

ジャニーズ事務所を巡る社会の空気は日に日に厳しいものになっています。先日9月7日に4時間に亘る記者会見で故ジャニー喜多川氏の性加害を認め、被害者への謝罪と補償に向き合うと決め、再発防止体制を作ると表明したにもかかわらず、社会はそれでもまだジャニーズ事務所は許されざる存在だと捉えているようです。

性加害を知っていた業界関係者はこのまま静かにジャニーズ事務所には活動を停止してほしいところでしょう。この問題、多くの関係者が証言するようにメディアもスポンサー企業も知らなかったはずはないのです。第三者委員会が調査範囲を広げる前にジャニーズ事務所が消えたほうが助かります。

その空気に都合がよい存在が現れました。グローバルでビジネス展開をする大企業トップです。彼らはルールとしてチャイルドアビュース(児童虐待)に加担することができないことになっています。過去に自分たちの宣伝部がそのことを知っていたかどうかはさておき、今、知ってしまった以上、この先はこのままジャニーズ事務所と取引をすることはルール上できないとNOを表明したわけです。

■「ジャニーズと取引をすることは悪いこと」と認識された

ここで社会の空気が変わりました。ジャニーズと取引をすることは悪いことだという認識が社会全体に広まったのです。

すると当然のことですがルール上、グローバル企業ほど厳しくはない企業でもジャニーズを広告で起用する価値がなくなります。宣伝は企業や商品のイメージを上げるために行うものですから、とりあえず広告起用を控えようとスポンサーが考えるのは経済合理性として当然です。

さらに言えばスポンサーがNOならばメディアもこの秋以降の新番組にジャニーズのタレントをキャスティングする経済合理性がなくなります。こうして一気にジャニーズ需要が激減したというのがこの一カ月で起きたことです。

■取引を再開するためには何が必要か

取引を元通りにするためにはあと何が必要だとスポンサー企業は考えるでしょうか? 記者会見で事務所が表明した3つの約束に加えて、ジャニーズ事務所の名称を変えることと、創業者一族であるジュリー氏に経営から離れてもらうことが必要だという主張には一定の合理性があります。社会悪を引き起こした企業と取引を再開するには、関係した人が処分されること、被害が償われること、再発が防止されること、そして経営陣が新しい人たちと入れ替わることが求められるからです。

この論点に関して冒頭に述べたようにすでに何らかの意思決定が行われた様子です。ただ心配なのは現時点のジャニーズ事務所の経営陣はこういったことに関しては素人の集まりです。「もうこうする以外、選択肢はないですよ」という周囲の強いアドバイスから間違った意思決定をしているかもしれません。

これから起きる可能性があることを、3つのわかりやすいシナリオで解説してみたいと思います。

■シナリオ1:ジャニーズ事務所が自然消滅する未来

このままの延長線上で起きる可能性が一番高いのはこの未来です。大半のスポンサーが降り、それに押されメディア各局もジャニーズタレントを起用しなくなる。それが一時的な現象かと思い、大きな改革を決断できなかった場合です。結果、メディアで活動できない状況が長期化してしまったらどうなるでしょう。

所属する有力タレントたちは少しずつ独立するようになります。ひとり減り、ふたり減り、やがて誰もいなくなったとしたらどうでしょうか。ひょっとしたら被害者の救済にすら手がまわらないうちにジャニーズ事務所が消滅してしまったとしたら、いったい誰が得をするのでしょうか?

スライスされたピースが減っていき、しまいには見えなくなってしまいそうな男性のシルエット
写真=iStock.com/piranka
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/piranka

このシナリオはタレントにとってもファンにとっても被害者にとっても悪いシナリオです。そうならないためには次の2つのシナリオのように、経営陣が踏み込んだ判断をすることが求められるのではないでしょうか。

■シナリオ2:ジャニーズ事務所が再生処理される未来

「芸能事務所として生き残るためにはどうしたらいいか?」

今起きている問題についてこのように中心論点を設定すると、これからお話しするようなシナリオへと未来が進んでいく可能性があります。

芸能事務所として生き残るためには、社会にジャニーズ事務所が変わったことを認められる必要があります。そのためにはふたつの即効薬があります。事務所の名前を変更し、ジュリー氏が役員を退くことです。ところがこれをやってしまうと、ほとんどの人が予測していないおかしな形でのジャニーズ解体劇が始まってしまいます。

最初の引き金はジュリー氏の相続税問題から始まります。これはすでに報道されていることですが、ジャニー氏とメリー氏が亡くなった段階で本来は莫大な相続税が発生するはずでしたが、それを国の事業承継税制の特例措置申請でジュリー氏は免除されているというのが現在の状況です。

ジャニーズ事務所のような非公開会社の株価は専門的には同じ業種の他の上場企業の株価と比較することが一般的です。芸能事務所の場合は具体的には「エイベックス」と「アミューズ」と比較することになります。

■ジュリー氏の手元にお金はほとんど残らない

週刊文春(2023年9月28日号)では、専門家が算出した数字として納税額は860億円にのぼるとされています。この数字、ジャニーズ事務所は「違います」と回答しています。国税庁と話し合った具体額は860億円とは違う金額だという意味なのでしょう。ここでは860億円という数字を前提に話を続けます。

問題はジュリー氏が代表取締役を退くと事業承継税制の特例措置要件から外れて相続税額に金利を加えた巨額の納税義務が発生するのです。税金は払わないとどんどん金利が加わるうえに、自己破産もできません。そのためジュリー氏は株を手放さざるをえなくなります。

電卓の上に「TAX」の文字
写真=iStock.com/BrianAJackson
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BrianAJackson

相続税の最高税率55%から逆算して国税のジャニーズ事務所株の評価額は1600億円ぐらいでしょうか。しかし現在の窮地を考えるとそのままの価格では売れないでしょう。うまくいって1200億円ぐらいで売れたら御の字です。ちなみにその場合、元が1000万円の株の売却益ですから株式売買でも240億円の税金がかかります。納税額は単純合計の1100億円に加えて延滞分の金利も100億円を超えるはずです。手元にお金はほとんど残らない形でジュリー氏は表舞台から退場することとなります。

■再生ファンドが買い手となり、経営陣を一新

さて誰がジャニーズ事務所を1200億円で買えるのでしょうか? それだけの資金となると同業者による買収は無理です。考えられる一番わかりやすい買い手は再生ファンドです。

ジャニーズ事務所株を買って、古い経営陣の大半には出て行ってもらって、中身をクリーンにして新しい買い手を探します。東山氏は謝罪専任の代表取締役専務あたりに降格する形で残留するかもしれませんが、役員陣の大半は金融関係者と弁護士で占められるでしょう。

ここからは金勘定の話になります。実はジャニーズ事務所の場合、メディアやスポンサーからの契約がなくなっても、年間520億円といわれるファンクラブ会費で企業経営を続けることは可能です。タレントがつぎつぎと移籍するとこの状態は崩壊しますが、移籍しないようにマネジすれば金銭面では2年ぐらいの籠城は大丈夫でしょう。

弁護士が算出する被害者への補償額は類似犯罪からひとり300万円程度。この先、被害者が1000人くらいまで増える可能性がありますが、それでも一回きりの30億円を用意すれば補償は終わります。古いメンバーにこの仕事を頼み、2年以内に補償を終わらせることが重要です。

チャートを用いてチームで会議中
写真=iStock.com/SARINYAPINNGAM
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SARINYAPINNGAM

■企業20社くらいの出資を受けて新事務所でよみがえる

補償にめどがついた段階では、当然、新しく入ってきた経営者による社内の再発防止の仕組みづくりも完了していますから、いよいよ再生プラン発動です。具体的には主要メディアや大手スポンサー企業20社ぐらいから100億円ぐらいずつ出資させて新会社の株主になってもらいます。それらの会社からメディアや広告に詳しい社員に出向してもらい、新事務所の活動再開を本格的にスタートさせます。

ファンドはここで退出します。企業20社から100億円ずつ出資ということは、1200億円で買った会社が2000億円で売れることになりますから、800億円の大儲けです。

そして新事務所は不死鳥のようによみがえります。NHKと民放各社、年間数百億円の広告費を使うスポンサーが15社ほど株主になっていたとしたら、禊が終わったと主張することで所属タレントをつぎつぎと表舞台に復活させることは造作もありません。タレントには罪はないのです。

でも合計で2000億円出資した株主のメリットは何でしょうか? これは資本コストを考えると答えは簡単です。株主は出資した金額に対するリターンを求めます。資本コストを教科書通りに、たとえば12.5%で想定すれば、毎年新事務所は新しい株主に250億円ほどの配当を出すことが求められます。新事務所のタレントたちは活躍することで毎年莫大な利益を稼いで株主の期待に報いることになるわけです。

■当事者よりも関係者が潤うシナリオになる

以上がシナリオ2になります。これはわかりやすい問題解決シナリオです。創業者一族が退出し、補償も終わり、経営陣や株主は一新されて、元のような華やかな芸能事務所が存続するケースです。

ただ収支をまとめてみると、ちょっとおかしな結果になります。

■ジュリー氏 ほぼ経済破たん
■被害者 1000人合計で30億円の金銭補償のみ
■所属タレント 株主のために巨額のお金を稼ぐことを強いられる

■ファンド 800億円の利益計上
■メディアとスポンサー 毎年250億円の配当
■国 相続税と株の売却だけで1100億円の税収

つまり当事者よりも、周囲の関係者が潤うというシナリオになるわけです。国もメディアもスポンサーも金融機関も、ジャニーズ事務所を叩けば叩くほどこの先儲かるシナリオにつながるというのでは、そこに大義はあるのか? という疑問がわいてきます。

秤のうえに積み上げたコイン
写真=iStock.com/sommart
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sommart

そこでもうひとつだけ念のために別のシナリオを確認してみましょう。

■シナリオ3 ジュリー氏が代表取締役で残る茨の道

シナリオ2では最初の論点設定を「芸能事務所として生き残るためにはどうしたらいいか?」と置いた結果、おかしな方向に物事が流れてしまいました。ここでは別の論点を設定してみましょう。

「所属タレントと被害者の方々、そしてファンにとってよりよい未来とは何だろうか?」

と問題を再設定してみましょう。シナリオ1のような消滅でも、シナリオ2のような国とメディアとスポンサーが潤う未来でもない、第3の別の未来が誕生する可能性はあるのでしょうか。

この未来を模索するために経営陣は次の決定をすると想定してみます。

1 ジャニーズ事務所の名称は変更し、故ジャニー喜多川氏からの訣別を表明する


2 ジュリー氏は代表取締役に留まるがあくまで事業承継税制を活用するだけの存在とする

この決定で国に払う1100億円のキャッシュが節約できます。しかしただ税金の支払いを逃れるのであれば世論はそれを許さないことでしょう。そこで取締役会メンバーはジュリー氏に対して、別の形での償いを強く求める必要があります。たとえばこのような条件です。

■資金が潤沢にあればさまざまな救済の形が可能になる

3 事務所は30億円ではなく1000億円を被害者救済資金として拠出することを表明する。その原資はジュリー氏の私財から捻出する


4 ジュリー氏は事業承継税制の期限の後に代表取締役から退き、5~10年ほどの時間をかけて株式を事務所の所属タレントを中心とした従業員グループに移管していく
5 事務所は実質的に株式会社からパートナーシップの経営体へと移行し、所属タレントたちが株式を持ち、所属タレントそれぞれの貢献に応じて利益が配分される経営形態へと移行する

前回の記事で書いたように被害者への償いは対話から始めるべきです。金ではないというのはわかりきった理屈です。しかし資金が潤沢にあればさまざまな形の救済が可能です。単純に被害者ひとりひとりに1億円を支払っても、税金で半分持っていかれるだけでしょう。その解決でいいという人もいるかもしれませんが、ひとり1億円で再スタートの手助けをする方法は他にたくさんのやり方が考えられます。

たとえば希望する被害者は再雇用する。そしてリスキリングに投資しプロデュースにお金を投じてタレントや俳優、歌手として再デビューさせていく未来も描けます。またTOKIOが福島でやっているように、さまざまな地域や場所でアンバサダーとして活動を始める未来も考えられます。お金では心の問題は解決しませんが、それでもお金は使い方によっては被害者の未来のオプションを広げるための一助にはなるものです。

音楽コンサートで熱狂する客席
写真=iStock.com/josepmarti
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/josepmarti

■「誰も得をしない方向」に日本社会の空気は流れやすい

ただこのシナリオの解決策についてはメディアとスポンサーが納得するかどうかという問題が壁となって立ちはだかるでしょう。

そこで日商の会頭が言うようにメディアやスポンサーが被害者なのか一部加担者なのかも第三者委員会を使って徹底的に調べたほうがいいといった意見も出てくるかもしれません。局のOBや宣伝部のOBにヒアリングをかけて、35年前に最初の告発があった以降、どれだけの規模でこの事実が知られていたのか。そして事実を知りながらどれだけの人たちが儲けを優先してきたのかはっきりさせないと、グローバル企業はルール上身動きがとれないと言い出すかもしれません。

とはいえ私はそこまで野暮なことをすることなく、巨額な賠償基金の提示と、ジュリー氏が5年後には経営の一線から身を引くという約束と、ジャニーズ事務所の名称をなくすという新たな3点セットで、グローバルスポンサーには矛を収めてほしいと願います。これ以上調べて、これ以上メディアやスポンサーから他にもいろいろな膿が出てきたら、ファンは誰も芸能界に魅力を感じなくなるかもしれませんから。

日本社会の空気というものは怪物で、誰も得をしない方向にわたしたちをついつい誘いがちです。今、ジャニーズ事務所を叩くのが楽しくて仕方のない人も多いのだとは思いますが、誰のための未来なのかという一点を間違うと、ただただジャニーズ事務所が消滅したり、解体処分されるという救いのない未来が訪れるかもしれません。10月2日の記者会見で、ジャニーズ事務所が取り返しのつかない意思決定を発表しなければいいと私は願っています。

----------

鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』など。

----------

(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください