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習近平が失脚しない限り、中国経済は破綻を免れない…中国の「不動産バブル崩壊」が示す地獄の未来

プレジデントオンライン / 2023年9月29日 10時15分

出典=IMF

中国経済はこれからどうなるのか。国際政治学者の舛添要一さんは「習近平は民間の自由な経済活動を阻害している。このままでは、一時的に危機は回避できても、最終的には中国経済の破綻は免れない」という――。

■反日キャンペーンでむしろ孤立する中国

最近、中国から多くの懸念材料が届いている。福島原発の処理水海洋放出については、中国は、日本の水産物の輸入を全面禁止するなど、理不尽とも言える反日キャンペーンを行い、かえって国際社会の反発を呼び、孤立している。

また、先に解任された秦剛外交部長(外務大臣)に続いて、李尚福国防部長(国防大臣)の動向も不明になっている。習近平政権内部で一体何が起こっているのか。

さらに、経済では不動産業界の不振が伝えられている。今やGDP世界第2位の経済大国であるだけに、中国の不振は世界経済にも大きな影響を及ぼす。

それがどれくらい深刻なのか、検討してみたい。

■中国のGDP成長率が激減している

これまで中国のGDPは年7〜8%程度上昇するのが普通であったが、その中国経済が今や深刻な不調に陥っている。IMFのデータで詳しく見てみよう。

鄧小平が1978年に改革開放路線を打ち出して以来、中国経済は急速に成長し、2010年にはGDPで日本を抜き世界第2位に躍り出た。

その2010年の中国の経済成長率は10.61%であった。

その後も、2015年までは7%以上の成長率が続いた。2016年が6.85%、2017年が6.95%、2018年が6.95%であり、依然として高水準であった。

2019年は5.95%であったが、年末に新型コロナウイルスが流行し始め、2020年は2.24%と急落した。2021年はその反動で8.45%となったが、2022年にはゼロコロナ政策で都市封鎖が行われ、2.99%に激減した。

■政府目標の達成は容易ではない

2023年の政府目標は「5%前後」である。7月17日の国家統計局発表によると、上半期(1〜6月)の実質GDP成長率は5.5%。政府目標を達成するには、下半期に4.5%の成長を遂げる必要があるが、それは容易ではない。

今年の4〜6月期の実質GDP成長率は、前期比年率で+3.2%である。プラスではあるが、1〜3月期は+9.1%だったので、春以降、中国のGDP成長率は大幅に低下しているのである

企業の景況感も悪化している。PMI(購買担当者景気指数)をみると、8月の非製造業は51.0と今年で最も低い水準だった。製造業に至っては49.7と50を割り、むしろ不況の方向に進んでいる。新規受注が思ったように伸びていない。

■中国人の「爆買い」はもう期待できない

中国経済の不振の原因の一つとして、個人消費が伸びていないことが挙げられる。

7月の名目小売り売上高は前年同月比で+2.5%であり、6月の+3.1%を下回っている。賃金上昇率がコロナ禍前の水準以下であり、これでは個人消費は伸びない。

また、6月の若年(16〜24歳)失業率は21.3%という高い数値であった。

国家統計局は、8月15日に発表する予定の7月の若年失業率の発表を、「測定方法を改善する必要があるため」という理由で取りやめた。若年失業率増加への当局の懸念を示している。

将来への不安から中国人がかつてのようにお金を使わなくなっているようである。団体旅行の解禁で中国人観光客が日本に戻ってきても、これまでのような「爆買い」は期待できないかもしれない。

中国人の「爆買い」はもう期待できない
写真=iStock.com/TkKurikawa
中国人の「爆買い」はもう期待できない(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/TkKurikawa

■不動産の不振が経済に波及する

中国の住宅販売も減少しているが、不動産価格が今後下がっていくという予想する人が多いからである。実際に、マンション価格は下落しており、それは不動産業界の不振と関連している。

企業の設備投資も拡大していない。対米関係の悪化などにより、輸出が伸びないのではないかという懸念があるからである。

また、政府によるインフラ投資も低迷している。その理由は不動産不況であり、地方政府による土地販売の収入が減って、投資の財源が減っている。

不動産業は中国のGDPの4分の1を占めているが、この業界の4〜6月期のGDPは、前年同期比マイナス1.2%である。

■「恒大集団」「碧桂園」に続き「融創中国」も経営危機

不動産大手「恒大集団(エバーグランデ)」は48兆円もの負債を抱えているが、8月18日、ニューヨークの裁判所にアメリカ連邦破産法15条の適用を申請し、世界に大きな衝撃を与えた。

6月末時点で、恒大集団の債務超過額は13兆円に膨らんでおり、販売のめどがつかない開発用不動産は22兆円にもなる。

「恒大集団」「碧桂園」に続き「融創中国」も経営危機
写真=iStock.com/wonry
「恒大集団」「碧桂園」に続き「融創中国」も経営危機(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/wonry

また、最大手の「碧桂園(カントリー・ガーデン)」は、8月30日、今年前半の最終利益が9800億円(489億人民元)の赤字に転落したことを発表した。

さらに、不動産大手の「融創中国(サナック)」も9月19日、ニューヨークで米連邦破産法の適用を申請した。同社は2021年と2022年に810億ドル(12兆円)の赤字を計上しており、負債総額は6月末時点で1兆元(約20兆円)にも上っている。

■「バブル崩壊時の日本」と同じ政策を取っている

今の中国不動産業の不振を見ていると、バブルが崩壊した30年前の日本を思い出してしまう。

不動産価格が高騰する状況に対し、1990年3月、大蔵省が金融機関に対して総量規制という行政指導を行った。その対策は、不動産向け融資の前年比伸び率を総貸出の前年比伸び率以下に抑えるという内容であった。

その結果、金融機関による「貸し渋り」「貸し剝がし」が生じ、資産デフレ、バブル崩壊へとつながっていった。

習近平政権は、30年前の日本と同じような政策を採用し、不動産会社の借り入れ規制を実行に移している。

「バブル崩壊時の日本」と同じ政策を取っている(中国の習近平主席。2023年9月18日、北京)
写真=XINHUA NEWS AGENCY/EPA/時事通信フォト
「バブル崩壊時の日本」と同じ政策を取っている(中国の習近平主席。2023年9月18日、北京) - 写真=XINHUA NEWS AGENCY/EPA/時事通信フォト

■習近平が設けた「3つのレッドライン」と「総量規制」

まず2020年夏には、「3つのレッドライン」を設置した。

具体的に、(1)総資産に対する負債の比率が70%以下、(2)自己資産に対する負債比率が100%以下、(3)短期負債を上回る現金を保有していること、という3つの規制を設けている。

次に、2021年1月には、銀行の住宅ローンや不動産企業への融資に「総量規制」を課した。

借金でマンションを作り続けるという不動産業界のこれまでのビジネスモデルが立ち行かなくなり、資金不足のために途中で建設工事を中断する事例が続出している。その結果、代金を払ったにもかかわらず、新築マンションを入手できなくなった多くの国民の不満が爆発している。

中国社会では、富める者とそうでない者との間の格差が拡大している。それは、万人が平等であるという共産主義社会が理想とするものではないため、この問題に対応するために、習近平は「共同富裕」をスローガンにした政策を展開している。

不動産業界への規制強化もそのためである。

■不動産業界の苦境は続く

中国も、日本と同じように低迷の30年、デフレの30年に突入するのであろうか。

日本の場合、バブルの崩壊は金融部門に大打撃を与え、不良債権処理に追われる金融機関の破綻が相次いだ。しかし、現在の中国では、大手国有銀行の自己資本比率は13〜20%と高く、また、不動産事業への貸し出しも全体の融資の6%である。これでは銀行はそう簡単には破綻しないだろう。

不動産開発業者の債務は、銀行からの借り入れよりも、建設会社などへの未払い金である。この点でも、日本のバブル崩壊と違う。

習近平が考えているのは、不動産開発企業を倒産させずに、マンション購入者に確実に物件を引き渡すことである。

ただ、「3つのレッドライン」という規制をこのまま続けていけば、不動産業界の苦境は続くであろう。

土地の販売収入を原資にしてインフラの整備を行ってきた
写真=iStock.com/Zhonghui Bao
土地の販売収入を原資にしてインフラの整備を行ってきた(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Zhonghui Bao

■累積債務2000兆円にも上る「融資平台」問題

中国の場合、大きな問題は地方財政である。先述したように、地方政府は不動産開発業者に土地(その使用権)を販売し、その収入を原資にしてインフラの整備を行ってきた。

しかし、不動産不況で予期した収益を得ることができず、債務が膨らんだ。累積債務は100兆元(2000兆円)にも上る。

中央政府は地方政府の債券発行を規制したが、地方政府は抜け道として「融資平台(資金調達プラットフォーム)」という投資会社を設立し、資金調達を続けた。「融資平台」は全国で1万社を超える。

■独裁国家ゆえ「荒療治」が可能

日本のバブルの時には、住宅ローン専門のノンバンクである住宅金融専門会社(住専)が、バブル期に甘い審査基準で不動産融資を拡大していた。だがバブル崩壊とともに、6兆5000億円もの不良債権が積み上がってしまった。この処理に、政府は、約6500億円もの公的資金を投入したのである。

舛添要一『プーチンの復讐と第三次世界大戦序曲』(集英社インターナショナル)
舛添要一『プーチンの復讐と第三次世界大戦序曲』(集英社インターナショナル)

住専は、銀行などの金融機関が出資母体であるが、融資平台は地方政府が返済を肩代わりする。その点では、地方政府の債務と同じである。最終的には、中央政府の財政出動で救済できる。習近平政権は、財政赤字を拡大させても、この問題を解決せざるをえないだろう。

中国では、経済が順調であれば、共産党は独裁を維持できる。そのためには、習近平政権は、あらゆる手段を講じるであろう。今の経済不振を解消するには、2、3年の時間が必要だろうし、かなりの荒療治も行わねばならない。

しかし、日本と違って、独裁国家だからこそ、それは可能である。習近平政権が米中関係を決定的に悪化させないような外交努力を展開しているのは、今の経済不振を打開するためでもある。

■一時的に危機は回避できても、破綻は免れない

以上の考察から、荒療治が必要であるにしろ、中国経済が今すぐ崩壊することはないと判断する。

習近平の父親は鄧小平から不当な冷遇を受けている。習近平自身もそうした鄧小平への怨念もあって、毛沢東路線に回帰していると思われるが、それによって習近平が民間の自由な経済活動を阻害しているのは問題だ。

この方針はいつまで続くのか。一時的に危機は回避できても、最終的には今の習近平路線のままでは、中国経済の破綻は免れないであろう。習近平が倒れるか、中国が崩壊するかの分水嶺(れい)が数年後にやって来る。

スターリン、プーチンの伝記に続き、いま私は毛沢東伝を執筆しているが、それが完成する頃には習近平は過去の人になっているかもしれない。

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舛添 要一(ますぞえ・よういち)
国際政治学者、前東京都知事
1948年、福岡県生まれ。71年、東京大学法学部政治学科卒業。パリ、ジュネーブ、ミュンヘンでヨーロッパ外交史を研究。東京大学教養学部政治学助教授を経て政界へ。2001年参議院議員(自民党)に初当選後、厚生労働大臣(安倍内閣、福田内閣、麻生内閣)、都知事を歴任。『ヒトラーの正体』『ムッソリーニの正体』『スターリンの正体』(すべて小学館新書)、『都知事失格』(小学館)など著書多数。

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(国際政治学者、前東京都知事 舛添 要一)

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