なぜ関東人は「肉まん」で、関西人は「豚まん」なのか…「肉といえば牛肉」と答える関西人が90%近くに上るワケ
プレジデントオンライン / 2023年10月19日 9時15分
※本稿は、宇田川勝司『気になる日本地理』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■カレーライスや肉うどんにも関西では牛肉
「肉じゃが」といえば家庭料理の定番、あるマーケティング会社が実施した「お袋の味ランキング」でも味噌汁やカレーライスを抑えて堂々の第1位は肉じゃがだった。
ところで、この肉じゃが、関東より北の地方では豚肉を使うのが一般的だが、西日本では圧倒的に牛肉が多く、豚肉を使う家庭はあまりない。
「“肉”って言ったとき、何の肉を思い浮かべますか?」。NHK放送文化研究所がそんな調査を行ったところ、関東では牛肉と答えた人が50%、豚肉と答えた人は44%だったが、関西では牛肉と答えた人が89%と圧倒的だった。
関東で肉といえば、牛肉や豚肉、鶏肉など肉全般を指すが、関西の人々にとって、肉は牛肉を意味する。肉じゃがに限らず、カレーライスや肉うどんにも関西では牛肉を使い、関東のようにこれらの料理に豚肉を使うことはまずない。
なお、関東の「肉まん」は関西では「豚まん」と呼ぶ。なぜなら「肉」イコール「牛肉」の関西では、牛肉を使っていないのに「肉まん」と呼ぶわけにはいかないのだ。その逆に「牛丼」は、牛肉を使っているのであえて牛丼とは呼んだりはせず、関西では今でも「肉丼」と呼ぶ店がある。牛丼という名称はあの吉野家が使い始めたそうだ。
■かつては「西の牛、東の馬」だった
東西の肉の嗜好(しこう)の違いは、1世帯あたりの年間消費量を調べた総務省の調査からもわかる。名古屋付近を境に、豚肉は東高西低、関東から東北・北海道と北上するほどこの傾向は顕著だ。
一方、牛肉は西高東低、関西地方の1世帯あたりの消費量は東日本の2~3倍もある。
このような東西での嗜好の違いはいったい何が要因だろうか。
昔は「西の牛、東の馬」といわれ、西日本では、農耕や運搬に用いるために和牛が多く飼われていた。明治初期、開港地として発展してきた神戸に居留していたイギリス人たちが、その和牛に注目し、自分たちで解体して食べるようになり、やがて日本人のあいだにも牛肉を食べる習慣が広まった。
牛肉を日本の伝統的な調理法で食べる「すき焼き」が誕生し、やがて神戸牛と呼ばれるブランド牛肉が確立すると、西日本各地で食用としての和牛生産がさかんになり、松阪牛、近江牛などの多くの銘柄牛が誕生した。
東日本では、冷涼な気候が苦手の和牛はほとんど飼育されず、畜力として用いられたのは馬だった。しかし、肉量の少ない馬は食用に適さず、明治以降、水田が少ない関東の畑作地帯では、サツマイモや麦を飼料とし、堆肥も採れる豚の飼育が広く普及する。
豚肉は牛肉に比べて安価なため、明治末にはトンカツやポークカレーをメニューに取り入れた洋食屋が東京ではやり、豚肉の需要が次第に高まった。大正年間には養豚ブームが巻き起こり、以後、東京周辺の農村地帯は一大養豚地帯として発展する。
■東西の違いは「雑煮の餅」にも
新しい年を迎えると、多くの家庭では元日の朝に雑煮を食べる。この風習は全国各地に見られるが、雑煮の作り方は地方や家庭ごとに千差万別だ。関西は雑煮の味付けに白味噌を使う。白味噌は西京味噌とも呼ばれ、1200年の歴史を持つ京都の伝統の味だ。関東では、正月から味噌を付けるのは縁起が悪いと、すまし仕立てである。
山陰では小豆(あずき)汁の雑煮も見られる。小豆の赤色には邪気を払う力があり、縁起が良いのだという。全国的にはすまし仕立てが主流のようだが、かつおやいりこ、鶏ガラなどだしには地方により違いがある。
雑煮に入れる具材も多彩だ。新潟のいくら、三重のハマグリ、兵庫の焼き穴子、九州のブリなど地方ごとに特有の食材が使われている。どの地方でも雑煮の主役として欠かせないのは餅である。その餅も関東では四角い切り餅を焼いて使うのに対し、関西では丸餅を煮る。その中間の東海地方では、切り餅を使うが焼かずに煮る。
■関東の切り餅は古式を省略した姿
そもそもなぜ切り餅と丸餅があるのだろうか。本来、餅は丸形である。餅の丸い形は月や鏡と関係が深い。満月は望月(もちづき)とも呼ばれるが、真ん丸は欠けたところがなく円満に通じる。また、昔の鏡は円盤状の金属を磨いて作られていたが、降臨した神がそこに宿ると考えられていた。年神様を招魂するために、この丸い鏡を形取ったのが鏡餅である。
関東の切り餅は、このような古式を省略したものだ。ついた餅をちぎって一つずつ丸める丸餅よりも、板状に伸ばしたのし餅を包丁で四角く一気に切るほうが手っ取り早い。関東の武家社会は古式より合理性を重視したのだろう。
ちなみに、「サトウの切り餅」のCMで知られるパック餅販売の最大手のサトウ食品には「サトウのまる餅」という商品もあり、関西のスーパーでは両方が販売されている。ただ、店頭に並ぶ地元の中小食品メーカーが製造したパック餅はすべて丸餅だそうだ。
■なぜ香川県は「週6うどん」なのか
「うどん県」を名乗る香川県の県民が食べるうどんの量は、県が実施した調査によると男性が年間310玉、女性は149玉、全国平均の年間26玉とは格段の差がある。
男性は1週間に約6杯、女性でも約3杯の割合でうどんを食べていることになる。香川県では昔から田植えを終えた後や法事の際には必ずうどんが振る舞われ、年越しもそばではなくうどんを食べるという。サラリーマンは、朝は出勤前にモーニングうどん、昼のランチはワンコインでおつりがくるセルフうどん、夜、飲んだ後には締めのうどん、うどんは県民のソウルフードなのだ。
かつて讃岐と呼ばれた香川県のうどんは「讃岐うどん」として全国に知られている。その起源には諸説あるが、今のように細長い麵状のうどんが生まれたのは江戸時代中期である。雨が少なく干ばつの多い讃岐地方では、米の生産は安定しなかったが、水を多く必要としない小麦の栽培には適しており、小麦は米の代用品として欠かすことのできない食材だった。
■「讃岐うどん」を名乗る6つの条件
さらに、讃岐地方は塩作りがさかんだったこと、いりこ(イワシの煮干し)の産地であったこと、対岸の小豆島(しょうどしま)では古くから醬油(しょうゆ)の製造がさかんだったことなどうどん出汁(だし)の素材が揃っていたことも讃岐うどんを生みだした大きな要因だ。
なお、「讃岐うどん」には次のような基準が定められている。
②手打ち、または手打ち風であること
③加水量が小麦粉重量に対して40%以上
④加塩量が小麦粉重量に対して3%以上
⑤熟成時間が2時間以上
⑥15分以内でゆであがるもの
「讃岐うどん」と表示して製造販売するためにはこれらの基準を満たさねばならない。ただし、②~⑥の条件を守り、「本場」「名産」「名物」「特産」と表示しなければ、香川県内に限らず、全国どこで製造しても「讃岐うどん」と名乗ることができる。
ちなみに、原料の小麦粉だが、現在はそのほとんどはオーストラリア産である。
■満州帰りの兵士が広めた「宇都宮餃子」
宇都宮市内には餃子専門店や中華料理店など餃子を扱う店が200軒以上あるそうだ。宇都宮餃子は、戦時中、満州(中国北東部)に駐屯していた宇都宮の陸軍第14師団の兵士たちが、現地でよく食べていた餃子の製法を持ち帰り、その後、家庭で作ったり、餃子店を開いたりするようになったのが始まりとされる。
やがて、ファミレスが登場して外食文化が広まると、市内には副食に餃子を添えたランチや定食をメニューに加えた店が増え、餃子は宇都宮市民のソウルフードとして定着した。
一世帯あたりの餃子購入額でも、宇都宮は2010年までは15年間連続で全国1位を誇った。ただ、2011年に、「浜松餃子」の街として知られる静岡県浜松市が1位となり、その後、宇都宮と浜松は激しい首位争いを続けるが、2019年にはご当地グルメの祭典として知られる『B-1グランプリ』において、津市(三重県)の「津ぎょうざ」が優勝、一世帯あたりの餃子購入額は、2021年からは宮崎市が連続して日本一になるなど、近年、宇都宮以外にも地域色豊かな餃子が増えている。
■戦後の食糧難から生まれた「富士宮やきそば」
富士宮やきそばの起源は終戦直後まで遡る。市内の製麵業者が、戦後の食糧不足の時代に、市民の手頃な食べものとして、腰の強い蒸し麵に地元産のキャベツやいりこなどの食材を使った焼きそばを考案したのが始まりだという。
その後、地元の人たちが、お好み焼き屋や駄菓子屋で気軽に食べていたが、富士宮の町おこしを模索していたグループが、富士宮には多くの焼きそば店があり、焼きそば消費量が全国のトップクラスであることに気付き、2000(平成12)年に「富士宮やきそば学会」を発足させた。
大きな転機となったのは、2006年から始まった食の祭典『B-1グランプリ』である。富士宮やきそばは、第1回大会で見事グランプリに輝き、翌年の第2回大会も連覇すると大ブレークする。今では全国のB級ご当地グルメの代表格であることは周知の通りである。
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地理教育コンサルタント
1950年大阪府岸和田市生まれ。関西大学文学部史学科(地理学)卒業。中学・高校教師を経て、現在は地理教育コンサルタントとして、シニア大学やライフカレッジの講師、テレビ番組の監修、執筆活動などを行っている。
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(地理教育コンサルタント 宇田川 勝司)
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