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イヤホンを絡ませるマシーン発明…「世界を変える30歳未満の30人」選出のクリエイターが無駄づくりを始めた訳

プレジデントオンライン / 2023年9月29日 11時15分

なかなか大型な装置「イヤホンを絡ませるマシーン」の横で。 - 出典=『プレジデントFamily2023秋号』

例えば、「オンライン飲み会緊急脱出マシーン」。頭の中に浮かんだ不必要な物を何とか作り上げる「無駄づくり」をしている藤原麻里菜さんは、元吉本芸人。肩書はコンテンツクリエイター、文筆家で「株式会社無駄」の社長を務める。SNSのフォロワーは50万人超で、動画再生回数の累計は4000万回超を誇る。なぜ無駄づくりを始めたのか、どんな発想法なのか。「プレジデントFamily」編集部が取材した――。

※本稿は、『プレジデントFamily2023秋号』の一部を再編集したものです。

■「イヤホンを絡ませるマシーン」が人気

「これは『イヤホンを絡ませるマシーン』です。有線イヤホンを中に入れてボタンを押すと回転して、イヤホンがぐちゃぐちゃになります」

自社のプロダクトについて淡々と説明するのは、株式会社無駄の藤原麻里菜さんだ。そのほかにも、服の裾が引っかかりやすいドアノブや洗っていると周囲に水をまき散らすスプーンなど、日常生活にまるで役に立たないものを発明する「無駄づくり」と称する活動をつづけて10年になる。

物心ついた頃から粘土やレゴ、お絵かき、物語を書くなど創作することが好きだったという。

「末っ子でものすごく甘やかされて育ち、何かするたびに父と母から『すごい、天才だ!』と絶賛されていました。夢がコロコロ変わる子供でしたが、親は『どうせ飽きるでしょ』といった態度を見せることもなく、私が『パソコンでデザインをしてみたい』と言えばお古のパソコンをくれたり、『アコーディオンが弾きたい』と言えば中古で探してくれたり。すごくお金をかけられていたわけじゃないのですが、毎度工夫して用意してくれて。やりたいなら、とりあえず一度やってみれば? というスタンスでしたね」

■「好きなだけじゃダメなんだ」

ものづくりに明け暮れた子供時代を過ごした藤原さんだが、中学に上がってから挫折を味わうことになる。

「美術で良い成績がとれなくなって。私はこんなにも好きで楽しく描いているのに、学校教育ではキレイだったり正確だったりしないと評価されないんだ、と思いました。美術品の修復士になりたくて美術高校へ進んだのですが、そこのデッサンの授業で、自分ではうまく描けた! と思った絵の横を先生が見向きもせずに素通りして。『良い作品はこの三つだけ。ほかの人の絵は全部だめだ』と言われてから、何かつくろうとしても、うまく手を動かせなくなりました」

そこから3年ほど、藤原さんはものづくりから距離を置くことになる。打って変わって高校生活はジャズ部の活動にいそしんだという。

「趣味のひとつだった音楽系の部活動でもするかなと。吹奏楽部は体育会系で練習が辛そうだし、軽音楽部の人たちとは仲よくなれなそうだと思い、消去法で残った少人数のジャズ部を選んだら、同じような考えで入部してきた子が多くて(笑)。音楽の趣味も合い、居心地が良かったですね。私は演奏も下手でしたが、それを気にする人はいませんでした」

定期的に演奏会があるわけでもなく、評価されることのない環境で、ただ楽しく歌詞や曲をつくり演奏する活動に藤原さんの心は少しずつ癒えていったという。そんな藤原さんに転機が訪れたのは、高校3年生のとき。

「ジャズ部でちょっとふざけた歌詞の曲をつくったときにウケたのがうれしくて。そのとき、子供時代も親や友達が面白がってくれるのがうれしくて、いろいろなものを描いたり、つくったりしていたなと思い出しました。小さい頃から変わっていない『人から面白いと思われたい』というこの気持ちが自分の軸なのかもと思い、軽い気持ちで母に『芸人になろうかな』と言ったんです」

さすがに怒られるかと思いきや、母はとても喜んだという。

「そのあと近所の人に『うちの娘が芸人になるみたいなの!』と自慢して回ってしまって(笑)。外堀を埋められる形で高校卒業後、吉本興業のお笑い学校(NSC)に入学しました」

基本的に「娘を全肯定」の藤原家だが、希望を通すときには、プレゼンを求められたという。このときも両親に言われた言葉が印象的だったそうだ。

「無駄づくり」公式サイトより
「無駄づくり」公式サイトより

■「ビジョンを話して」

「『やる前にビジョンを話して』と言われました。学費は自分で出しなさいという話だったので、時給いくらのところでアルバイトを週何回して、学費を貯めるためにこれぐらい働きますというプランを、親が納得するまでプレゼンさせられました」

『プレジデントFamily2023秋号』(プレジデント社)
『プレジデントFamily2023秋号』(プレジデント社)

無事学費を貯め、NSCを卒業し晴れて2013年に芸人デビュー。その活動の最中に始めたのが、今につながる「無駄づくり」だったという。

「吉本がYouTubeの企画を公募したときに『生活に無駄なものを作って配信したら面白いんじゃないか』と企画を出したら通って。不器用だからと挫折したものづくりを『これでまたできる』と思いました。無駄づくりという言葉もそのとき生まれたものです」

無駄づくりは思った通りにできなくても面白ければOK。失敗のないものづくりなので、気軽に自己表現しやすい点が魅力だという。

YouTubeは周囲からの反応も好評で、徐々に再生数が伸びていった。今では100万回を超える動画もあるほどだ。その後藤原さんは、より制限なく無駄づくりの活動を続けるために吉本興業を退社。22年2月に株式会社無駄を設立、アトリエ兼事務所を構えて今に至る。

YouTubeチャンネル「無駄づくり/MUDAzukuri」より
YouTubeチャンネル「無駄づくり/MUDAzukuri」より

■月に1度届くファンレター

今では映画への出演や、文芸誌『文學界』での連載(「余計なことで忙しい」)など、国内外問わず活動の幅を広げている藤原さん。SNSのフォロワーは30万人を超え、JCI JAPAN TOYP(青年版国民栄誉賞)2022などの有名な賞を数々受賞するほか、Forbes Japanが選ぶ世界を変える30歳未満の30人(30 UNDER30 2021)にも選出された。しかし藤原さんは、ここで自分にくぎを刺す。

「賞はうれしいですが、今もできるだけ“評価される・されない”といったことは気にしないようにしています。好きを好きでいつづけるための努力はしていますね」

そんな藤原さんのもとには、今も母から「連載を読んだ」「映画出演なんてすごい!」と、月に1回は褒めLINEが届くという。どれだけ活動の幅が広がろうと一番のファン(親)との関係性は変わらないようだ。

■今したいこと

2023年7月に「無駄づくりの学校」という新企画も始めた藤原さん。「無駄づくりという言葉のおかげで、私はすごく救われたので。下手でもつくっていい、才能がないことだってつづけていいと気づくことができました。今後は私だけでなく、いろんな人の制作の背を押す活動を広げていって、ものづくりを肯定しつづけていきたいです」

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藤原 麻里菜(ふじわら・まりな)
コンテンツクリエイター
株式会社無駄代表取締役。横浜出身。2013年から頭の中に浮かんだ不必要な物を何とかつくり上げる「無駄づくり」を主に活動。18年、国外での初個展に2万5000人以上の来場者を記録。「オンライン飲み会緊急脱出マシーン」が文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査委員会推薦作品に選出されるなど、数多くの賞を受賞。

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(コンテンツクリエイター 藤原 麻里菜 文=土居雅美 撮影=植田真紗美)

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