これで中国人のマナーは劇的に変わった…「中国版食べログ」にあって「日本の食べログ」にないヤバイ機能
プレジデントオンライン / 2023年10月2日 15時15分
※本稿は、成嶋祐介『GAFAも学ぶ! 最先端のテック企業はいま何をしているのか』(東洋経済新報社)の一部を再編集・加筆したものです。
■「フードデリバリー大国」の中国で、市場をほぼ独占
中国の街中では、黒地に黄色のロゴのデリバリーバッグを背負った自転車やバイクをよく見かけます。一見、「ウーバーイーツ」のようにも見えますが、これは中国最大手のフードデリバリーサービス「メイトゥアン(美団)」の配達員です。
CNNIC(中国インターネット情報センター)の報道によると、中国国内におけるフードデリバリーの利用者は約4億7000万人(2021年6月末時点)と、全人口の実に3分の1にあたります。長引くコロナ禍と中国当局による「ゼロコロナ政策」の影響もあって、この数年で中国国内のフードデリバリー市場は大きく成長しています。そのような「フードデリバリー大国」の中国で、市場をほぼ独占しているのがこのメイトゥアンです。
メイトゥアンは、市場の67.3%と圧倒的なシェアを誇っています。もともと「グルーポン」のようなオンライン共同購入型クーポンを販売していたメイトゥアンと、「食べログ」のような口コミ型のグルメサイトを運営していた「大衆点評」が、2015年に合併して誕生しました。
ウーラマから遅れてフードデリバリー事業に参入したメイトゥアンは、信頼性の高い口コミが集まるグルメサイトと、短時間で配送するフードデリバリーの相乗効果によって、総合グルメプラットフォームとしての地位を確立。ウーラマを大きく引き離しました。
■テンセント、アリババに次ぐ「メイトゥアン」
近年では、「食の総合プラットフォーム」からホテル検索・予約サイト、自転車シェア事業、タクシー配車事業、生鮮食品のEコマースなど、事業領域をライフスタイル全般に拡大しています。
2018年9月には香港証券取引所に上場。2022年6月時点での時価総額は1496億ドルで、中国テック企業の中でテンセント、アリババグループに続く第3位。「BAT」の「三強」を脅かす存在と目されています。
日本の場合、「ウーバーイーツ」のようなデリバリーサービスで選べる店舗はそう多くありません。特に深夜帯などはぐっと選択肢が狭まります。
しかしメイトゥアンは、チェーン店のような大規模店舗だけでなく、個人で経営している店舗や、店舗がない飲食店(宅配専門店)も登録できるため、店舗数は膨大な数になります。そのうえ各店舗が会員向けに独自のサービスを提供したり、タイムサービスなどで思い切った割引を提示したりするため、選ぶ要素が多いのも特徴です。
日本では、ファミレス、牛丼、ファストフード、ピザなどの大手チェーン店が席巻しています。特に地方に行くと「食べログ」に上がってくる地元のパン、ラーメン店がほとんどですが、中国は店舗数が多いので、一品で攻めてくる多種多様な飲食店が掲載されています。
■メニューごとに割引され、お得に買い物ができる
メイトゥアンを利用するには会員登録が必要となります。日本の「食べログ」のように無料・有料会員の差別化はないものの、使った金額や頻度によって優待度合いが上がる仕組みになっています(クレジットカードや百貨店の会員カードに似ています)。
また検索要素が豊富です。日本の「食べログ」は、ジャンル、位置・距離、シチュエーション、金額、キーワードですが、メイトゥアンではさらに細分化されて、利用者のニーズに合わせた検索が可能です。
検索要素としては
・ジャンル
・位置・距離
・シチュエーション
・キーワード
・割引率 ※ここが日本と違う
・オンライン共同購入型クーポン(グルーポンみたいなもの)のフラッシュセール
・タイムセール
・飲食する場所――テイクアウトか店舗か
・商品券の先買い(前集金型ビジネス。4500円の券で5000円のコースが食べられる)
と多岐にわたります。店舗に行くのであれば、メイトゥアンの中でタクシーの手配や席の予約まで完結できる仕様になっています。
掲載店舗数も多く、店舗の中でも細かくメニューによって割引率などが分かれているため、利用者にも検索スキルが求められます。高齢者や、スマホ操作、検索スキルに長(た)けていない人に優しくないではないか、という声があるかもしれませんが、そういった方にはAIによるサジェスト機能や、プロモーションでレコメンドされる店舗があるため、そんなに悩まずともお店を選ぶことができるのです。
![](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/d/1200wm/img_4d1b8144a4599f965fc5e3dd09abf83166161.jpg)
■生活に必要なものはすべてそろう
「メイトゥアン」と「食べログ」のもう一つの違いは、検索できるサービスの幅広さにあります。メイトゥアンは飲食店だけでなく、宿泊施設、クリーニング、家の修理、カラオケ、電子書籍などおよそ生活に必要なものはすべて検索・調達できます。
「初回会員は無料」などの特典や割引を伝えるだけでなく、サービスやメニューの売上実績も記載されているため、どのくらい利用者・購買者がいるのかが一目瞭然です。中には、店内飲食の評価は低いのに、テイクアウトの実績数が飛び抜けて多い店舗があります。そういう場合は、テイクアウトの割引率が非常に高いことも多いです。
ライブの動画配信で商品を手に取り、性能を説明する店舗もあります。どれだけ美味しそうな写真を掲載しても、実際に店で注文したら肉の量が少なかった、彩りが悪かったという経験は、誰にでもあると思います。中国では、これに厳しい目が向けられているのです。動画配信はユーザーから信頼を獲得する重要なツールとして活用されています。
![メイトゥアンのアプリ画面](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/6/1200wm/img_26e192a2ebda80497218ce365e26a42b398685.jpg)
■好まざる客を排除…店がユーザーを評価する仕組み
メイトゥアンにある多くの店舗では、チャットで問合せすると10秒以内に返信があります。深夜であっても同様です。この迅速性も、利用者からの評価対象になっています。
飲食店ではこのほか、味はもちろん、店員の応対、サービス、店舗の清潔さなども対象になっています。当然、利用者は評価が高い店舗を選ぶため、熾烈(しれつ)な争いが行われます。その結果、優良な店舗・サービスだけが生き残ることができるのです。
ユーザーが店を評価するのはもちろんですが、メイトゥアンのグルメサイトでは店側もユーザーを評価しています(ユーザーの評価は非公開)。これが「食べログ」との大きな違いです。予約したのに来店しなかった、不正なキャンセルをした、2以下の低評価を複数回つけた、などの利用者を店側が拒否できる機能が設けられています。
評価の低いユーザーが検索してもヒットしないようにしたり、店が表示されても割引が一切つかなかったり、いつも「休業」の表示をすることもできます。そうすると低評価のユーザーは、その店に来店しなくなります。結果、「好まざる客」が排除され、その店にとっても大きなメリットがあるのです。
メイトゥアンのプラットフォーム上では、店舗も守られているのです。利用者が店舗を選ぶように、店舗も利用者を選べるようになっているのは公平なシステムと言えるでしょう。
![香港](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/f/1200wm/img_df0b423df8f03a53714ae9c0fd6e9ed4407989.jpg)
■細かく分けて、すきまを埋める「1キロ四方のセグメンテーション」
グルメサイトの域を超えて、ライフスタイル全般において「ほしいものをすぐ届ける」社会インフラを確立したメイトゥアン。そのビジネスモデルのポイントはいくつかありますが、特筆すべきは最小1キロメートル四方の細かいセグメンテーションにあります。
メイトゥアンの口コミサイトでの評価ランキングは、基本的に1~2キロメートル四方の範囲で常に並び替えが行われ、有名な店舗でなくても上位にランクインされるチャンスがあります。
このランキングシステムは、第1回記事で紹介したカラオケアプリの「チャンバ」にも通じます。しかし、中国は日本とは比較にならないほど飲食店の数が多く、2キロメートル四方でも2000軒超の店舗が出てきます。競合店がひしめく中で上位にランクインされるのは容易なことではありません。
そこでメイトゥアンは、飲食店の稼働率が下がる深夜や、定休日が多い曜日に営業している店舗のランキングが上位に表示される独自のアルゴリズムを構築しました。するとどうなるか。上位にランクインされたいがために、ライバル店の空白の時間を狙って深夜などにオープンする店舗が増えたのです。
■デジタルの力で需要と供給をマッチさせる
細かくセグメントされているため、小規模の店舗でも収益性の高い、効果的な広告を打つことができます。そのため稼働率の低くなる空白の時間に、ユーザーを誘導することも可能です。
たとえば、「22時から半額!」と付近のユーザーにプッシュ通知を送ります。「21時くらいに夕食を食べよう」と予定していたならば、「半額になるなら1時間待ってみよう」と思わず誘導されてしまいます。
こうした仕組みを活用し、あらゆる空白を埋めていくのです。しかも店に行かずとも短時間で自宅まで届けてくれる――。24時間すべての時間帯で需要と供給がうまくマッチングされ、「空白が埋まる」仕組みになっています。
■ビジネスパーソンに人気の前集金型クーポン
メイトゥアンの強力なアルゴリズムは、先々の「未来」の空白までも埋めようとします。「未来」とはどういうことでしょうか? ここで、スポットの取引ではなく、先々のサービスも含めてバルクで一括購入する「前集金型」のビジネスが台頭しているのです。
たとえば、「管理栄養士が監修した栄養バランスのよい弁当をオフィスまで届けます」というサービスをうたっている飲食店があるとします。その飲食店は、メイトゥアンのアプリを通じて「1カ月分の前金を支払ってくれたら、1食800円のところ600円でご提供します」とプッシュ通知で呼びかけます。この前集金型のクーポンが、都心に出勤するビジネスパーソンに人気となっています。
■個人情報を提供する代わりに“お得”が手に入る
あらゆる空白を需要と供給で次々に満たしていくメイトゥアン――。そのマッチングを可能にしているのが、スマートフォンのアプリを通じて収集されたユーザーデータであることはいうまでもありません。
メイトゥアンでは決済システムも自前で保有しているので、個々のユーザーごとに「誰が、いつ、どの時間帯に、どの飲食店を利用したか」というユーザーの消費行動を細かいレベルまで把握することができます。同じ飲食店でも、店内で食事をした情報と、デリバリー注文した情報がバラバラでなく、ユーザーIDを軸に常に同期されています。
こうした取引に関するデータだけでなく、メイトゥアンでは、自転車やバイクで配送する際の路線データまで収集しています。そのデータも日々AIで解析され、「ラストワンマイル」を常に最適化し、配送ルートの精度を磨き上げています。
メイトゥアンは、豊富なユーザーデータを武器に「ほしいものが気軽に見つかり、お得なクーポンで購入でき、短時間で自宅まで届く」という体験価値を生み出すプラットフォームを確立しました。2018年にはスーパー・コンビニ向け配送サービス「美団閃購」、2021年には医療・ヘルスケアサービス「百寿健康」を立ち上げるなど、サービス領域を飲食から生鮮食品、美容、医薬品へと順調に拡大しています。
領域が広がるほど多くのユーザーデータが蓄積され、さらに詳細なユーザーのペルソナを把握できる――メイトゥアンの歩みもまた、世界のプラットフォーマーの勝ち筋そのものといえます。
■「中国はサービスが悪い」はもう過去のこと
メイトゥアンを利用すればお得に飲食できますが、それは利用者のデータがプラットフォームに取得されていることでもあります。24時間365日、プラットフォームに監視されているといっても過言ではありません。
![成嶋祐介『GAFAも学ぶ! 最先端のテック企業はいま何をしているのか』(東洋経済新報社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/0/1200wm/img_400a94523392e6d27fc899906946932d406864.jpg)
一方で、利用者はその時の気分や費用感に合った商品、サービスを膨大な店舗の中から自分で選び、見つけ出す喜びを体験することができます。あまりアプリを活用していない人、クーポンの割引率だけ見ている利用者にはプッシュ通知が届き、アプリに選ばされるのです。
利用者の中には、初めて買う人は1個無料、半額などの「初めてサービス」だけを渡り歩く人もいます。そんな中でも、美味しかった、安く買えたなどの成功体験からお気に入りの店舗ができます。過当競争を強いられる店舗側にとっても、少しでも多くの顧客を獲得できるメリットがあるのです。
「中国はサービスが悪い」というイメージを持っている人がまだいるかもしれません。しかしそれはすでに過去のものになりつつあります。態度が悪い配達者、接客が悪い店舗は、アプリを通じて低評価がつけられ、淘汰(とうた)されます。その結果、サービスの質は全体的に向上しています。
いまではホテルでも出前が取ることができ、高級ホテルの前には出前専用のロッカーがあるほどです。こうしたサービスはコロナ禍で一気に加速しました。日本だと持ち込みNGの概念がありますが、そんなことはもう利用者のニーズの前に消し去られているのです。
メイトゥアンのサービスを見ていると人口が多く、エネルギッシュな中国の今が感じられます。
![ホテル前に設置された出前受け取り用ボックス](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/7/1200wm/img_67ba14a5cae760750745c8cbd5594b59398352.jpg)
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深セン市越境EC協会日本支部代表理事
世界の最先端企業1800社とのネットワークを持つ中国テックビジネスのスペシャリスト。中央大学、茨城大学講師などを歴任。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。株式会社成島代表取締役。2019年から深セン市政府公認の深セン市越境EC協会日本支部の代表理事を務める。全世界の中小企業をつなげることを目指し、情報テクノロジー、通販分野にて日本と中国の橋渡しを行い、世界規模のグローバルECの開発に向けて活動をしている。
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(深セン市越境EC協会日本支部代表理事 成嶋 祐介)
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