"YouTubeを見せる"と"ゲームをさせる"は全然違う…全米トップ校校長「子どもの脳を活かすスマホの使い方」
プレジデントオンライン / 2023年10月14日 13時15分
※本稿は、星友啓『脳を活かすスマホ術 スタンフォード哲学博士が教える知的活用法』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
■ゲームは自分の手や目を動かし、画面の動きに反応する必要がある
さてここで、子どものスマホ使用にフォーカスしてみましょう。
子どものスマホ使用で最も人気があるものの一つが、YouTubeです。アメリカのピュー研究所のインターネットユーザーの調査では、0〜2歳の子どもで57%、3〜4歳で81%、5〜11歳で90%の子どもたちがYouTubeを使っているということです。
これはスマホのゲーム使用と並ぶ人気です。
スマホやタブレットを完全に取り上げることは現実的じゃない。だから、より良い影響が出るものを子どもにやってほしい。例えば、YouTubeとゲーム。どちらが子どもの脳に良いのでしょう?
そんな疑問を、私もちょくちょく耳にします。
私のお勧めは断然ゲーム。子どもにスマホやタブレットを使わせるならば、なるべくYouTubeでなく、ゲームをやらせるようにするのをお勧めしています。
ゲームは自分の手や目を動かし、考えて、画面の動きに反応しなくてはいけないので、よりエンゲージメントが高まります。
■いろいろなゲームをやらせたほうがいい
大人であれば、YouTube動画に集中して学びを深めることができるかもしれませんが、子どもは必要なスキルをこれからまだまだ学んでいく段階です。
もちろん、YouTubeも次から次に動画を選ぶことでエンゲージすることもできますが、やはり、ゲームのエンゲージ力にはかないません。
また、YouTube動画だと知識が入ってくるので、子どもの学びに良いという考えもできますが、ゲームでも知識が入ってくるのは本書で前述した通りです。
動画を見る場合はついつい受動的になりがちなので、よりエンゲージできるゲームも織り込みながら、子どものスマホライフのバランスを見つけるのが得策です。
さらに、一つのゲームをやり続けるだけではなくて、意識していろんなゲームをやらせてあげることで、反射神経や視覚の情報処理能力、クリエイティビティやコミュニケーション能力などを多面的にサポートできるのです。
■「遊び」vs.「ゲーム」はもう古い
子どものスマホゲームについては、まだまだ以下のような声もあります。
・手足を動かしてこそ、体というものを理解でき、友達と遊んでこそ、社会性を養うことができる。
・ゲームの中でバーチャルと向き合っていたところで、怒りや悲しみなどの感情をコントロールする力は身につかないだろう。
・スマホゲームをするくらいなら、外で元気に遊んでこい。もともと子どもにとってはそれが自然であり、心にも体にも良い。
これらは非常に的を射た指摘です。やはり、勉強の他にも、運動や人との対面のコミュニケーションなど、バランスの取れた生活が子どもだけでなく、大人にも必要です。
また、決められた工程をこなすのではなく、遊びの中で自由に発想したり、想像したりするのも大事な脳のトレーニングになります。
しかし、「遊びが大事だからゲームをやってはいけない」とか「遊びの方がゲームより優れている」ということにはなりません。
なぜなら、ゲームが対面の学習より効果を発揮することがあるように、スマホゲームも、遊びの持つ優れた効果を同等に発揮するからです。
■ゲーム内のコミュニケーションで学ぶことがある
例えば、マルチプレーヤーのオンラインゲームでは、他のプレーヤーとの「対話」が大事なゲーム機能の一部になっています。オンラインで友達と一緒にゲームができ、逆にそのやり取りが前提になっているゲームも多いのです。
私が子どもの頃でも、ファミコンで近所の友達と一緒にゲームしながらコントローラーを取り合って喧嘩したり、一緒にプレーして笑ったり、仲間とのやり取りやコミュニケーションの機会がふんだんにありました。
実際、ゲームをやる前よりも、ゲームをやったあとの方が友達が増えたという実感を持つ人が多く、コミュニケーション能力にも、間違いなく活かされているのです。
マルチオンラインゲームだけではなく、ロールプレイングゲームでも、実はいろいろなキャラクターが出てきて、それらのキャラクターとのストーリーの中に入っていかなくてはいけません。
しかも、そのキャラクターの気持ちを汲んでみたり、状況をうまく想像する力がないと、ゲームをその先に進められなくなったりします。バーチャルなキャラクターとの「対話」も、ゲームの重要な要素なのです。
つまり、そうしたゲーム内のコミュニケーションを通して、人の心理状況を素早くうまく理解して、言葉のやり取りができるようなトレーニングができているのです。
■「自分を抑制する力」もついてくる
また、「楽しいから、やり過ぎてしまう。でも、やめたい」「やめないと叱られる」といった、自分を抑制する力もついてくるということも研究でわかってきています。
心理学の研究が進み、子どもの感情や社会性の発達が明らかになるにつれて、認知、感情、社会性は、ゲームでも養えることが、科学的にも実証されてきています。
しかもこれは子どもだけではなく、大人についても同様です。ゲームをすることで、コミュニケーション力に自信がついたり、対人折衝能力が上がったりと、良い影響がいくつも報告されています。
つまり、ゲームは日常のコミュニケーションで養うべきスキルを養ってくれるのです。「ゲームは害悪」と断罪して無理に遠ざける必要は、いっさいないのです。
もちろん、こういう話をしたからといって、外遊びが重要でないわけではありません。スマホゲームも大事な能力を養うからといって、それだけやっていればいい、という話ではありません。逆に、「遊び」vs.「ゲーム」の図式で、遊びの方が良いからと、ゲームをゼロにする必要もありません。
ゲームでも、遊びと同じように培えるところは培えるし、外遊びで培えるところは外遊びで培えればいい。子どもにゲームをやらせること自体に、罪の意識を感じる必要はありません。大事なのはやはり、バランスなのです。
■長くやりすぎるのはよくない
前述のように、マルチプレーヤーのオンラインゲームでは、みんなでプレーして協力する力が身についたり、仲間とつながることで精神的なウェルビーイングがアップすることがわかってきています。
しかし、そうした効果を十分に発揮させるために、ゲームをプレーする時に注意するべきことがいくつかあります。
まず、「やっぱりか」というところですが、長くやり過ぎてはいけません。特に、マルチプレーヤーゲームはみんなとプレーしながらどんどん盛り上がってしまいがちですが、楽しみながらもほどほどにとどめておくことが大事です。そのためにはプレー時間を「2時間」などと最初に決めて、その時間が来たら「今日はここまで。また次ね」と「やめる習慣」を身につけることです。
■「勝つことが目的」になるとメンタル面にリスク
また、コンペティションのような競い合いに熱くなってしまうと、ウェルビーイングがダウンしてしまう傾向があります。その理由はより詳しく後述しますが、ここでは「内発的な欲求」と「外発的な欲求」の違いを押さえておきましょう。
ゲームをやること自体が楽しい、だからゲームがしたいというのは「内発的な欲求」。一方で、それとは別に、ゲーム自体に楽しみを見出すのではなく、ゲームをした結果として得られる勝ち負けや報酬などにやる気を感じるというのが「外発的な欲求」。前者と後者には、大きな違いがあります。
後者の欲求が大きくなると、ゲームをやること自体に満足するのではなく、相手に勝つためにやる、勝つという結果が満足をもたらすことになります。そうなると、ゲームをやっていても、勝てなければ満足できなくなるのです。
しかも怖いのは、内発的な欲求よりも、外発的な欲求の方が強いため、結果として、勝つということに走らされてしまう。これを長く続けていると、メンタル面でうつ病などのいろいろなリスクが生じることがわかっています。
競い合い、というところには、くれぐれも気をつける必要があります。
それよりもゲームの内容や他者との関わり、コミュニケーションの楽しみなどを意識すると、心のウェルビーイングを良好に保ちながら長くゲームを楽しんでいくことができます。
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スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長
哲学博士、EdTechコンサルタント。1977年東京生まれ。東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。その後渡米し、Texas A&M大学哲学修士、スタンフォード大学哲学博士を修了。同大学哲学部の講師として教鞭をとりながらオンラインハイスクールのスタートアップに参加。2016年より校長に就任。現職の傍ら、哲学、論理学、リーダーシップの講義活動や、米国、アジアにむけて教育及び教育関連テクノロジー(EdTech)のコンサルティングにも取り組む。全米や世界各地で教育に関する講演を多数行う。著書に『スタンフォード式生き抜く力』(ダイヤモンド社)がある。
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(スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長 星 友啓)
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