「20代女性、1人暮らし、IT企業の事務」という分類では売れなくなった…"性格分析"という最新マーケ手法
プレジデントオンライン / 2023年10月1日 12時15分
■マーケティング戦略に大きな変化が起きている
なぜいま、ビジネスシーンにおいて「性格診断」なのか。それには、多様化が進み、人々の行動様式が読みにくくなったことが背景としてあります。
マーケティングの歴史を振り返ってみると、そのことがよくわかります。
1970年代は、大量生産でモノを作れば売れる時代でした。冷蔵庫、テレビ、洗濯機が「三種の神器」とされ、誰も彼もがこぞって購入したものでした。
1980年代になると、顧客のターゲットを年代別にセグメント分けするようになりました。「F1層(20~34歳の女性)」「F2層(35~49歳の女性)」「F3層(50歳以上の女性)」といった分類は、マーケティングに関わったことがない方でも耳にしたことがあると思います。
■セグメントからペルソナへ
さらに1980年代には、糸井重里のキャッチコピー「おいしい生活」に代表されるように、「ライフスタイル」の提案をするマーケティングが登場し始めました。
その後、時代に合わせて「渋谷系」「アキバ系」など、「街」でターゲットをセグメントしたり、「新人類」「団塊ジュニア世代」「ゆとり世代」などと特定の「世代」でターゲットを分けるなど、セグメント化はどんどん進み、かつ細分化していきました。
こうして分類されたそれぞれの集団は、あくまで〈特徴を持った人たちのかたまり〉として考えられました。
2000年代になると、マーケティングにおけるターゲットがさらに細分化され、より「個」へと移ります。商品を開発したり販売したりするときに、「誰」に対して売るかを考えるようになったのです。
この「個」とは、いわゆる「ペルソナ」(マーケティング用語としては、サービス・商品の典型的なユーザー像のこと)ともいわれるものです。
たとえば、「30代独身男性、年収1000万円以上、MARCH出身」「40代子持ち女性、世帯年収500万円、地方在住」といった具合に、「年齢」「性別」「年収」「学歴」「職業」「家族構成」「居住地」など、ターゲットの「個」についてより細分化が求められるようになったのです。
■スマホの普及で急速に進化したマーケティング
そんな中、2008年に日本でiPhone3Gが発売され、2009年にはAndroidが登場したことで、急速にスマホが普及し始めました。2010年代になると、誰もが気軽にインターネットを利用できるようになりました。
インターネットとスマホ時代の到来により、企業側は自分たちの商品を売るターゲットがどういう人で、何を求めているのか、といった情報をより得やすくなりました。
また、検索エンジンのアルゴリズムに合わせてネット検索で上位に出るように工夫する「SEO対策」や、ユーザーが検索したキーワードに連動してテキストで表示される「リスティング広告」など、いわゆるGAFAM[Google、Amazon、Facebook(現・Meta)、Apple、Microsoft]が行っているようなネットを使用したマーケティングも行いやすくなりました。
具体的には、商品を買う人のセグメントや行動するセグメントをきっちりと分けてマーケティングをし、市場のパイをどんどん切り分けて細かく分析することができるようになったのです。
■ターゲットが細分化されすぎて効果低減
ところが2020年代に入ると、細分化が行きつくところまで行き、かえってマーケティングを行っても効果が出にくい状況が生まれてきました。
あまりにもターゲットを分割しすぎたために、もはや誰が対象なのかわからない、商品を売る企業側ですら「うちのメインユーザーは、どんな人か」が理解できない、という状態です。
前置きが長くなりましたが、この限界(行き詰まり)を突破する救世主といえるのが「性格診断」なのです。
■性格診断という新しい手法
マーケティング業界では「定性調査」とよばれる、1対1でのヒアリングや、グループインタビューを通して、個々の意識や行動を探る調査方法があります。これに対し、データを集計し分析する「定量調査」とよばれる調査方法もあります。
私は、このうち「定性調査」の結果こそ、数値化して「見える化」することが大切だと感じ、20年以上前から取り組んできました。
そして、この定性的なものを定量化するスイッチエンジンとして有効なのが性格診断でないかと考えました。
なぜなら「20代女性、都内1人暮らし、IT企業の事務、土日祝日休み」というセグメントにピンポイントで広告をリーチさせることができたとしても、流行りものにすぐ飛びつくタイプか、自分がいいと思えば値段が高くても買うタイプか、シンプルでシックなものを好むかなど、その人の「好み」や「性格」、さらには「価値観」に合っていなければ、リーチした先の「購入」には至らないからです。
■5000万回以上の診断データでわかったこと
そこで、心理学と統計学を組み合わせた「ディグラム診断」を2013年に開発。現在にいたるまで、延べ5000万回以上の診断データを取ってきました。
すると、たとえば一般的に日本人に人気の国内旅行先といえば「沖縄」「北海道」「京都」がトップ3を占めます。ところがこれを性格別に分析してみると、まったく違うランキングになるのです。つまり、性格というフィルターを加えることで、結論は大きく変わりうることがわかってきたのです。
「ディグラム診断」はこれまで、各企業とタッグを組んで、さまざまなマーティングのプロジェクトを行ってきました。
たとえば、大塚製薬の自分に合った夜活を見つける「夜活診断(※1)」や、文部科学省の留学を見える化する「ポテンシャル発掘診断(※2)」(文部科学省「トビタテ!留学JAPAN」)などなど。すでにサービスが終了しているプロジェクトも含めれば、みなさんもすでにどこかで「ディグラム診断」を利用したことがあるかもしれません。
※1 https://www.otsuka.co.jp/soy/yorukatsu/shindan/index.html
※2 https://tobitate-mext.jasso.go.jp/potential/
■「性格」で提供する商品・サービスは変わる
たとえば、はやりのAIチャットボットであるChatGPTに「おなかが空いた」と言っただけでは、「おなか空きましたね」で終わりです。「東京駅近辺でランチがとれるところを知りたい」と言っても、お店が多すぎて絞り切ることができません。
ところが、「ここのところずっと忙しくて、今日も半徹。いま、やっとミーティングが終わったんだけれど、昼ごはんには何を食べればいいかな。東京駅周辺で、元気が出るものが何かないか?」となれば、「『うなぎ』はどうでしょうか?」と出てくるかもしれません。
さらに、このChatGPTが私の性格までしっかり把握していたらどうでしょう。性格を加味して判断し、「木原さんは思い切りのよさ、豪快さを好む性格だ。平均的な2500円の価格帯より、高価格帯の4000円のうな重を好むのでは……?」などと判断し、提案することができるかもしれません。
また、旅行先を選ぶ際には、「(豪快で経営者的性格の木原誠太郎が)とても疲れている。心と体を癒やすために秋を感じたい。そのためにおすすめの旅行先を10個出して」というような指示を出し、AIがこちらの希望に即した提案をしてくれるようになるのではないでしょうか。
■性格診断はいまや「ビジネスの一丁目一番地」
「自分が望んでいる答え」にたどり着く、つまり、企業側から見ると「自社商品やサービスを売り込むのに最適なターゲット」へアプローチするには、良い質問、良い指示を出す必要があり、それには「性格診断」が鍵を握る、といえるのです。
5W1Hの「WHO」、つまり「誰に」売るかということは、マーケティングの基本。どんなビジネスにも当てはまることだといえます。そして、自社商品を売るために、相手が「誰か」「どういう人か」を知るために有効なツールが性格診断だ、ということです。
そう考えれば、性格診断はいまや「ビジネスの一丁目一番地」ともいって差し支えないでしょう。
これまでのマーケティングの歴史を振り返ってみても、今後ビジネスを展開していくうえで、顧客の性格診断・性格分析を行うことは完全に「ビジネスパーソンの必修科目」になるとみています。
■ライバルとの差別化のために「性格」を使おう
私が開発した「ディグラム診断」は、20個の簡単な質問に答えるだけで、その人がどんな性格かがわかるという性格診断ツールです。
先に2つの事例を紹介しましたが、現在、私の元には、この「ディグラム診断」を自社のマーケティングに活用したいと、大企業や官公庁などから次々と声が掛かっています。ビジネスの第一線における「性格診断」の需要の高まりを、ひしひしと感じています。
日本のみならず、世界の市場でビジネスをリードするためには、ライバルとはっきり差別化できる商品を開発し、そのうえで「誰が買うか」「どんな人に向けた商品なのか」を明確化することが必要です。“解像度”を他社よりも上げて、ターゲットニーズに即した展開をつくることが大事であり、そのために「性格診断」はとても有効な手段になるのです。
拙著『新ディグラム性格診断 9タイプが解き明かすあなたの真実』では、テーマを人間関係にしぼり、自分の性格のタイプがわかるだけでなく、相手との関係性と相手のタイプに応じて、どう接すればいいかを解説しています。ぜひ、実際のビジネスシーンにも役立ててほしいと願っています。
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ディグラム・ラボ代表
1979年生まれ、京都府出身。電通やミクシィでマーケティングを担当し、さまざまな企業のマーケティングコンサルティングにたずさわる。2013年、ディグラム・ラボ株式会社を設立。「心理学×統計学」で人間の本音を分析し、カウンセリングするプログラム「ディグラム診断」の研究を進めながら、同時に事業展開。著書多数。「あなたはどれに当てはまる? スター★性格診断SHOW」(TBS系)、「性格ミエル研究所」(フジテレビ系)などテレビ出演も多数。
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(ディグラム・ラボ代表 木原 誠太郎)
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