より安い商品を選ぶ「コスパ最強」という人たちが日本を衰退させた…私が「自損型輸入」を問題視する理由
プレジデントオンライン / 2023年10月12日 10時15分
※本稿は、小島尚貴『脱コスパ病 さらば、自損型輸入』(育鵬社)の一部を再編集したものです。
■「安くてかわいい」で若者を掴んだシーイン
ファッションや流行に疎い私がシーインの存在を知ったのは、個人的に二十年、顧問を務めている福岡の大学生サークルFUNで毎週土曜に一緒に勉強している女子大生の話がきっかけです。シーインについて聞いてみると、「みんな知ってますよ」、「ティックトックやインスタでも頻繁に見ます」、「めちゃ安ですよね」、「GUやニトリよりも安くてかわいいと言って買う友達もいます」とのことでした。
その名の響きから、すぐに中国系だと分かるシーイン。公式サイトによれば、2008年に南京で創業され、ウェブサイトとアプリでの激安ファッション、生活雑貨、アクセサリーの販売で急成長し、売上は非公開ではあるもののZARA、H&M、ファーストリテイリングという巨大SPAの売上を上回る勢いとのことです。
シーインを扱ったサイトやブログで多く目に付くのは、「アプリのダウンロード数でアマゾンを超えた」、「アメリカでZ世代に大人気」という二つの話題で、流行に敏感な日本の若い女性を一瞬で説得するインパクトがあります。
■日本企業がまったく関与していないビジネス
このシーイン、昨年、期間限定で展開された大阪のポップアップストアには4000人が行列を作り、その後は原宿に常設店舗を開設し、日本のメディアを招いて大々的な宣伝を行ったそうです。
デザイン性、かわいらしさ、質感、流行との相性といった消費者目線での同社製品の価値は、中年男性の私には分かりませんが、貿易マンである私から見た同社の「アパレル・雑貨SPA」としての特徴は、「企画、デザイン、開発、縫製、検品、流通、広告、営業、販売、顧客フォローまで、一つも日本企業の関与なく完成させた」という点にあります。
同社が扱うカテゴリの製品はアパレルのみならず、ダイソー、ニトリ、ドン・キホーテ、ワークマンなどの製品とも一部重なり、また、今後もっと重ねていくのかもしれませんが、驚くべきはシーインに行列を作る消費者以外、「日本人の存在がない」ということで、日本企業は「用済み」になって捨てられてしまったという事実です。
■AI活用が「本土爆撃」を可能にした
戦争に例えると、これまでの自損型輸入は「敵地戦」だったとも言えます。すなわち、中国企業は中国本土から出ることなく、日本人業者が中国に赴いて低価格の武器をこしらえ、業者が完成品を日本市場に持ち込んで国産企業を攻撃してきました。ところが、シーインは中国企業が日本企業を介在させず、直接日本本土で事業を行い、アプリやウェブサイトで直接、日本人に販売しています。これは私たち日本人から見れば、「本土決戦」であり「本土爆撃」とでも呼ぶべき営業手法です。
なぜ、こうした経営が可能になったかといえば、中国が強みを持つAIをフルに活用しているからで、同社は一説には「新商品開発が世界一速いとされてきたZARAの4倍の数の新商品を、ZARAよりずっと短い期間に作る」と言われるほどの、超高速の商品開発力と市場投入スピードを武器としています。
しかも、これだけの規模とスピードでの企画、設計、開発、製造を可能にしつつ、世界中から膨大なトレンド情報を収集しながらも、女子大生に聞いたところ、洋服、バッグ、雑貨、アクセサリーの値段はしまむらやGUの価格を下回っており、試着や注文もアプリ内で完結し、国際配達も迅速で安価です。
■ユニクロやしまむらは「日本代表」?
なかには「買って損した」、「写真に騙された」、「商品説明の日本語がキモい」とクレームが集まる商品もあるそうですが、低価格の割に見栄えと機能性が高い商品も多く、そうした商品に対する日本人ユーザーの驚きがSNSで瞬時に拡散され、シーインの名を若者の間に急速に浸透させています。
面白いのは、同社の動向を報じる日本のアパレル、ファッション関係のネットメディアのうち、いくつかのサイトや業界の専門家が、ユニクロ、しまむら、ニトリを「ナショナルブランド」と呼び、「シーインの課題はブランド力と信用」、「価格は安くても品質、技術、デザインはユニクロに及ばない」、「日本人消費者の高い要求を満たせるかが今後のカギ」と評していることです。
私には、「ユニクロやニトリのどこがナショナルブランドなんだ」、「ユニクロやしまむらも昔は同じだっただろう」、「全て社名と顔だけ日本の自損型業者じゃないか」、「コスパ病感染者の要求のどこが高いんだ」としか言いようがありませんが、業者や御用インフルエンサーたちは、かつて自分たちが自損型輸入によって真のナショナルブランドを駆逐したように、今度は自分たちが亜流のシーインに追撃される段階を迎えて、勝手に「日本代表」を自任したくなったのかもしれません。
■シーインが勝っても、ユニクロが勝っても喜べない
日本人が現代中国を見る時は、どんなことを見聞きしても、最初は油断して見下します。前作で大きな反響を集めた熊本の「い草・畳表」の事例でも、国産農家と自治体は油断で大敗北を喫しました。同じパターンで、後に白物家電、パソコン、スマホもやられました。
自損型輸入の最古参業界の一つであるアパレルの分野で「日本人の完全排除」という究極の完成形を迎えた事態は、今後、どのような展開を見せるのでしょうか。今後、日本人の消費者が「これからは、コスパがユニクロ以上のシーインにしよう」と言ったら悲劇ですが、「シーインに対抗するため、ユニクロを応援しよう」と言ったら喜劇です。
そんななか、悲劇や喜劇ではなく、惨劇と呼ぶほかない未来が垣間見えてきそうな恐ろしい変化が、わが国が最大の強みとしてきた産業で発生しつつあります。
■日本に蔓延する「コスパ病」と「自損型輸入」
ここで一度、私の主張と提案をシンプルに整理してみます。
現在の日本では、国産企業が良い製品を適正価格で製造、販売しても、すぐに輸入業者が海外で安価な模倣品を作って安売りを始めるので、国産企業も値下げを迫られます。だから、いつまでたっても売価、売上、賃金が低く固定され続け、結果的に企業も個人も安物に頼って存続、生存を図るほかなくなるという悪循環が、30年近く、惰性的に続いています。
ところがわが国の消費者は、自分を限りなく貧乏に、そして不幸にしていく商品を「コスパ最強」と歓迎し、ユーチューブやSNSで連日、情報を拡散し、購入し続けています。そして、消費者が求める安さを実現するため、安さに屈した企業が続々と日本の貴重な財産である技術、設備、機械、ノウハウを海外に持ち込んで、日本市場でのシェア争いと価格競争に明け暮れ、業界と産地全体を経済的自殺の道連れに巻き込んできました。
私は、日本特有のこの病的な貿易構造と消費活動に警鐘を鳴らすため、前作を『コスパ病 貿易の現場から見えてきた「無視されてきた事実」』と名付け、そして、このように結果的に自国に損失を与え、日本の衰退につながる輸入を正確に認識し、理解するため、通常輸入、開発輸入とは区別して「自損型輸入」と名付けました。
■「外産地消」を「地産地消」にすれば日本が潤う
衣食住の品目を中心に、あらゆる分野に自損型輸入商品が氾濫する現代の日本経済は「外産地消」だと言えます。すなわち、「外国で生産したものを地元で消費する」という経済です。
日本人の消費者が支払ったお金が海外に消え去り、国内がどんどん貧しくなっていく悪い経済です。
それを「地産地消」にすれば、地元や国内で生産したモノに地元のお金が消費され、地元や日本のどこかの会社が潤います。私たちが目指すのは、まず、マイナス状態の経済を治療することです。
その先は「地産外消」、すなわち地産品のエリート商品を海外に輸出するのもよいでしょう。
みなさんの地元には、海外市場に歓迎される独自の品目がきっとあるはずですから、地場経済を地産地消で盛り上げたら、次はいくつかの品目の海外展開を図るのもよいかもしれません。輸出については、それこそ私の本業なので、輸入よりも多くの話題があり、何冊か本を書けるほどですが、それはまた別の機会にしましょう。
■まず「経済効果が低い商品」を避けよう
最後はおまけで「外産外消」です。つまり、「外国で製造したものを外国で売る」というビジネスで、これはやらなくてもいいですが、考えてみるだけでも面白いビジネスです。例えば、佐賀県の優れた灌漑(かんがい)技術を乾燥で苦しむウズベキスタンに移転し、そこで灌漑製品を作って、同様に乾燥や水不足に苦しむ周辺国に輸出する、というビジネスです。
地方の中小企業には、こうした形で世界に貢献できる優れた技術がたくさんあります。いずれはこういう可能性も考えながら、まずは地産地消による経済活性化を目指しましょう。
私は健康食品の専属ランナーを務めているくらい、中年にしてはランニングが速いので、よくダイエットや運動習慣の作り方に関する質問を受けます。その際は、「太ることをやめる」、「運動できる体を作る」、「運動習慣を身に付ける」、「数値目標を立てて練習メニューを作る」と段階を分け、「まずはマイナスをゼロにすること」から始めるように呼び掛けています。焦って一度に欲張ってしまうと、けがをしたり余計な苦痛を味わったりして、逆効果を招くこともあるからです。
買い物もこれと同じで、自分のふるさとに確実な経済効果をもたらしたければ、「まずマイナスの買い物をやめる、減らす」という行動が確実で効果的です。
■PB商品を買っても地域にお金は落ちない
例えば、ニトリで1000円のござを買うとしたら、その消費金額の約40パーセントはニトリの店舗、残りの製造原価や諸経費は中国、ベトナム、インドネシアの現地法人に支払われるので、店舗の人件費と家賃を除いて地域への経済効果はほんのわずかです。
ドン・キホーテ、無印良品、カインズ等で購入する安物のPB(プライベート・ブランド)商品も同じく地域への経済効果という意味ではほぼゼロに近いのです。彼らの「国産もあるぞ」という言い訳も、かなり安く買い叩いて低価格を実現させているだけなので、重視する必要はありません。
また、イオンなどの大手スーパーで加工食品、衣料品、生活雑貨を買う時も、海外でしか生産できない品目を除き、日本でも作れる商品と同じ品目が海外産で調達されているなら、それを買う行為も約半分のお金を海外送金しているのと同じです。
■原産地、加工地、製造国をチェックする手間を
消費者向けに販売されている物品は原産地表示が義務付けられていますから、主婦の方々は日頃の買い物で「ひと手間」を産地確認に当て、①原料の原産地、②完成品の加工地、③工業製品なら製造国に注目し、主原料や加工地が海外の場合は、カゴに入れる前に確かめて「買わない」「減らす」という選択をしていけば、それだけ地産品、国産品に支出する割合が増えていきます。
実際に生鮮、食品、衣料品、雑貨、家具、日用品、消耗品の原産地を確かめていくと、いかに多くの品目が「日本製でないか」を知って、驚くかもしれません。まずは、消費の最前線で「ふるさと経済防衛軍」となる主婦の方々が産地表示に敏感になることが、地域活性化においては最も威力があります。
「地元に対する経済効果がゼロか、低い買い物を避けて、少しずつ自分に近いところにお金が落ちる買い物を増やしていく」。これだけで、地方経済をドカンと押し上げる効果があります。
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貿易アドバイザー
1975年福岡県出身。1995年西南学院大学経済学部中退。マレーシアの貿易会社、経済誌記者を経て2001年に独立。セルビアの貿易会社、マレーシアの中堅ゼネコン、佐賀の建設会社、香港の投資ファンドの役員を歴任。2011年から輸出・国際技術移転事業を手掛け、2014年にJ-Tech Transfer and Trading(輸出・国際技術移転)を設立。九州の自治体や商工会議所、JETROにて貿易アドバイザー、輸出セミナー講師、展示会アドバイザーを歴任。著書に『コスパ病 貿易の現場から見えてきた「無視されてきた事実」』『日本の未来は畳が拓く』(Amazon)、『脱コスパ病 さらば、自損型輸入』(育鵬社)がある。
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(貿易アドバイザー 小島 尚貴)
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